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小説「ナラタージュ」 [本・雑誌]

 「ナラタージュ」。この聞きなれない言葉はなんなのか。これは、映画などで主人公が回想の形で、過去の出来事を物語ること、だそうだ。そして、小説の冒頭部分が最後に理解できるようになっている。

 著者は島本理生(しまもと りお)、立教大学文学部在学中の新鋭だ。若いながら、今までに色々な賞を受けていて、第130回芥川賞候補ともなった作家だ。

 この小説の設定は高校の演劇部で、登場人物は大学生、高校生、そして高校の教師だ。私とはずいぶんかけ離れたところにいる人たちばかりなので、こんな小説がおもしろいのだろうか、と思って読み始めた。

 はじめは青春物の恋愛小説かと思っていたのだが、そうではなく青春という言葉にふさわしい明るさや無邪気さはなかった。ここに書かれているのは、まぎれもない恋愛なのだ。

 文章の言葉がなかなかきれいだと思った。主人公は大学2年生の工藤泉だ。彼女は高校のとき演劇部に所属していて、そこの顧問だった葉山先生を好きになる。そして彼も泉のことを好きになる。

 しかし、葉山先生には隠された過去があった。それが泉への素直な気持ちに歯止めをかけていたのだった。泉は一度は先生をあきらめ、同い年の男の子、小野君とつきあうが、葉山先生への気持ちを捨てきれず、小野君とは別れてしまう。

 葉山先生は、泉が人間関係で悩んでいたとき、誰よりも親身になって泉をささえ、体育の教師にいわれのないイヤミを言われているときも、飛んできてくれた。そうやって、泉を守ってくれると同時に、彼もまた泉に甘える。過去の出来事に悩んでいるとき、自分が病気で倒れたとき、いつも泉に頼るのだった。この二人は年は離れていても、対等な関係なのだと思った。
 
 けれども、泉と葉山先生は、お互いが心から好きなのに、一緒になれない運命にある。

 こうして、この恋愛はもどかしさを感じさせながらも、ついに別れの場面でクライマックスを迎えるのだ。

 恋愛とは人を幸せにするものなのか、それとも不幸にするものなのか。色々な恋愛が巷に溢れているが、成就(結婚)しない恋愛も数多くあると思う。それが、自分にとってよかったのか悪かったのか、それを決めるのは自分の心であり、お互いがどれだけ真剣だったかということなのか。
 でも相手の本当の気持ちを知るのは、むしろ恋愛関係が終わって時間が経ってからかもしれない。そのとき、その恋愛は人生の中で輝く1ページとなれるような気がする。

 「きっと、子供だったから愛とは違うとかじゃなくて、子供だったから、愛してるってことに気付かなかったんだよ」 by 島本理生


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コメント 9

ココさん
こんにちは。なるほど、青春モノではない無邪気だけじゃない恋愛モノですね。わかる気がします。
愛という言葉にしないと(愛だと気付かないと)、愛してると認識できないのはやっぱり悲しいですね(実際そうだとは思うのですが)。
ところでこの一つ前の記事で別の本についてかかれてませんでした…?気のせい?
by (2005-10-08 09:49) 

coco030705

springsnowさんへ
こんにちは。コメントありがとうございます。
本についての感想は、今回が初めてなんですよ。
この本の葉山先生のように、相手を大切に思っていると、
なかなか行動に移せないのでしょうね。男女というのは、
本当に難しいものだと思います。男女の友情というのは、
やはり成立しないのでしょうか。
by coco030705 (2005-10-08 16:35) 

コメントへのコメントですいませんm(_ _)m
“友情”の定義にもよりそうですね。
ただ男女2人でご飯を食べにいくだけのことも含むのなら、単に慣れの問題の気もしますし(僕はできませんが)、
気を使わずなんでもざっくばらんに話せる状態だとしたら、それは本当に恋人同士でもできるのかな、って気もしますし…。
男女の友情とはどんなものか考えてみると、ひょっとしたら何か見えるかもしれませんね。
by (2005-10-08 22:50) 

coco030705

springsnowさんへ
同級生とか、サークルやクラブの仲間とかは、友達といえるのかな?
でもこういう人たちも、何かの拍子に恋愛関係におちいってしまうことが、
なきにしもあらずですよね。
別れた恋人とか夫婦は、ある意味で友達になれるかもしれませんね。
いずれにしろ、男女の友情は常に恋愛への移行を秘めたもののような、
気がします。
by coco030705 (2005-10-09 08:04) 

めいさん

はじめまして!
わたしも「ナラタージュ」読んでたのでTBさせていただきました。
最後にcoco030705さんが引用された言葉、わたしもぐっときた言葉だったので…
by めいさん (2005-10-10 00:11) 

coco030705

めいさんへ
はじめまして。
コメント&TBありがとうございます。私のコメントは、めいさんのお部屋に
付けさせていただきました。よろしくおねがいします。
by coco030705 (2005-10-10 08:28) 

カオリ

はじめまして!
「ナラタージュ」、いいですよね。こんなにワタシの気持ちを射抜いてしまった作品は久しぶりでした。あまりに感動(ってコトバは陳腐ですが)してしまい、感想もUPできずにいます。
by カオリ (2005-10-10 19:45) 

coco030705

カオリさんへ
はじめまして。コメントありがとうございます。
この小説は、設定は平凡なのに内容はすごく深くて、感動しますね。
感動しすぎると言葉にならないというのも、よくわかります。
またカオリさんのお部屋へ寄らせていただきます。
(プロフのワンちゃんのお写真、かわいいですね☆)
by coco030705 (2005-10-10 22:06) 

coco030705

うりくまさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

この記事は、ブログを始めて半年後に書いた記事です。我ながら、一生懸命書いていたのだなと思いました。思い出させてくださって、ありがとうございます。
by coco030705 (2022-03-21 19:22) 

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