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メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 [外国映画]


(梅田ガーデンシネマや、シネリーブル梅田がある、梅田スカイビルの鯉幟)


監督:トミー・リー・ジョーンズ   主演:トミー・リー・ジョーンズ、 バリー・ペッパー、 
ドアイト・ヨアカム、  ジャヌアリー・ジョーンズ
2006年  アメリカ/フランス    スクリーン

 この映画は、トミー・リー・ジョーンズが主演と監督を兼ねて、2005年度カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞に輝いた作品だ。

 この映画の題名は、とても変わっている。最初は「メルキアデス」が「アルキメデス」に思えてしかたがなかった。しかも「3度の埋葬」とは、一体どういう意味なのか。題名からして、興味をそそられる映画だった。

 最初の場面のテキサスの田舎町は、いかにもチープな感じで、掘っ立て小屋のような安普請の家が並び、人々は退屈しきっていた。
 マイク(バリー・ペッパー)は若い妻とともに、この町にやってきた国境警備隊の隊員だった。彼は妻に対してなんのやさしさも示さないような、どうしようもない男であった。彼の仕事は、不法入国のメキシコ人を検挙することだった。
 ある日マイクは誤って、メキシコ人カウボーイ、メルキアデス・エストラーダを射殺してしまう。そして、荒地に死体を埋めるのだった。

 ピート(トミー・リー・ジョーンズ)はメルキアデスの友人で、純朴な彼を心から愛していた。そして彼は、浮気相手のカフェの女から、メルキアデスが国境警備隊員のマイクに殺されたことを知らされた。
 「もし俺が死んだら、故郷ヒメネスに埋めてくれ」とメルキアデスが語っていたことを思い出したピートは、マイクを暴力で従わせ、彼にメルキアデスの死体をお墓から掘り出させた。そして、無理矢理マイクをメルキアデスの死体とともに、メキシコヘの旅に同行させるのだった。

 この映画の前半部分はかなり暴力的で、これからこの映画はどんな展開になってしまうのだろうとビクビクしてしまった。

 しかし、ピートとマイクとメルキアデスの死体の、奇妙な旅が進んでいくにつれて、物語は段々と人間味を増してくる。

 マイクは何度も逃亡しようとするが、靴を取り上げられ、手錠をはめられているので、それは不可能だった。しかも、彼は逃亡を試みたときに、岩陰で毒蛇に足をかまれてしまう。
 ピートは、マイクをメキシコ人の女性のところへ連れて行って、蛇の毒を抜く手術をしてもらった。その女性は、マイクが不法侵入で捕まえて、殴って鼻の骨を折った人物だった。皮肉なものだ。しかし、彼女は治療をほどこしたのち、動けないマイクに熱いコーヒーをぶっかけて、うらみをはらすのだ。この場面はちょっとユーモラスだった。

 2人は、こうしてメキシコ人のやさしさや親切にふれながら、旅を続けた。そして、とうとうメルキアデスのふるさとにたどり着いたのだが、しかし、・・・。

 この映画の主題は、「人を信じること」ということだと思う。人はなかなか他人の言葉をストレートに信じることができない。一体相手は本当の事をいっているのだろうか、また、本心からそのことを言っているのだろうかとつい、疑ってしまう。それは、裏切られて傷つきたくないからだ。
 人は、「他人との約束」をなかなか実行することができない。確かに、仕事上の約束、付き合い上の約束は守る。そうしないと、自分が不利になったり、不評を買ったりするからだ。しかし、このピートとメルキアデスの約束のように、もう死んでしまった人との約束はなかなか守れるものではない。約束を守らなくても誰も非難する人はいないからだ。

 そして、「人を殺してはいけない」ということ。これは理屈ではない。こうだからという理由付けで、説明できるものではない。「人を殺すことは悪いことだ。悪いものは悪いんだ。」ということだ。それをピートは身をもって、マイクにわからせるために、彼を拉致して旅に同行させたのだ。そんな面倒なことをせずに、マイクをその場で殺してしまうこともできたはずだ。しかし、ピートは国境警備隊の追跡という危険を冒してまでも、マイクを生かし続けるのだ。そして、心からの謝罪を、メルキアデスにさせるのである。

 この間「国家の品格」(藤原正彦著)という本を読んだとき、「人を殺してはいけないということは、論理では説明できない。駄目なものは駄目なのだ。」ということが書かれていた。この世には論理で説明できないことがたくさんあるということを、色々書いてあった。論理でなにもかも説明しようとするから、おかしくなるというようなことだ。これは今、ベストセラーになっているので、ぜひお読みになったらおもしろいと思う。

 話がそれたが、この映画を見終わったあと、ピートとマイクの関係はがんこ親父と息子の関係のように見えた。不良の息子に力ずくで、してはいけないことと、しなければならないことを教える父親。そういう風に思えば、最初の、ピートのマイクに対する暴力的な振る舞いも納得できるような気がする。

 チープで人々の心がかさついているアメリカから、貧しくとも緑美しい風景があり、人々の温かさが感じられるメキシコへの旅。これは、人間性の回復のドラマでもあったのだ。トミー・リー・ジョーンズの渾身の演技とともに、心に残る作品となった。


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しの

TB&コメントありがとうございました。
まずタイトルがインパクトありますよね。でも内容も素晴らしく、トミー・リー・ジョーンズのすごさを改めて感じました。
>人間性の回復ドラマ。
まさにそんな映画だったのと思います。
by しの (2006-05-04 23:03) 

イバン族

テキサスからメキシコの国境を超えると
いきなり業が深くなったような気がします
あ、行ったことはないですが…
中南米の精神世界は、清濁併せ呑みつつも、神聖が残っていたりする
トミー・リー…ってそんな正解が好きな人なんでしょうか
「国家の品格」は、最近大企業の経営者の間ではやっているらしい
それが現実の経済行為にヤクだっているのかは定かではありませんが…
理屈どおりには行かないよ、という時の心の支えは必要ですよね
メキシコには、理屈を超えた惹かれる何かがあります
by イバン族 (2006-05-05 00:28) 

coco030705

しのさんへ
こちらこそ、TB&コメントありがとうございます♪
今まであまり意識していなかったのですが、トミー・リー・ジョーンズは
素晴らしい俳優ですね。彼の作品をまた見てみたいと思います。


イバン族さんへ
nice&コメントありがとうございます♪
メキシコは、イバン族さんがおっしゃっているように、
何か心を癒してくれるものがあると思います。
メキシコ料理でも食べに行こうかな。(^^)


おのこうさんへ
nice! ありがとうございます♪


MANAMIさんへ
TBありがとうございました♪
by coco030705 (2006-05-05 00:45) 

パラリン

TB&コメントありがとうございます。
ピートとマイクの旅についての、ココさんの文章を読みながら、
いろんなシーンが鮮やかによみがえってきました。
本当にいい映画でしたね。
ピートとマイク、最高でした。
深くて味わいがあって、何度でもかみしめたい気がします。
by パラリン (2006-05-05 13:02) 

coco030705

パラリンさんへ
こちらこそ、TB&コメントありがとうございました。
期待せずに見た映画が、良かったときは本当に嬉しいものです。
この映画もそんな一本でした。
今後ともよろしくお願いいたします。
by coco030705 (2006-05-05 18:26) 

KANAchanMaMa

トミー・リー・ジョーンズ…最近 CMで、コミカルな演技 全開してますが、
本来の渋い魅力に 魅せられたいですネ。
by KANAchanMaMa (2006-05-06 03:36) 

coco030705

KANAchanMaMaさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
そうですね、トミー・リー・ジョーンズはCMでは
エイリアンの役ですよね。おもしろいです。
また監督作品を創るかもしれません。楽しみです。
by coco030705 (2006-05-06 08:02) 

マダムクニコ

>ピートとマイクの関係はがんこ親父と息子の関係のように見えた。

そういえば・・・。
復讐のはずが、人間関係を深めていくと、親子のように変わっていくのですね。
この2人の間も「信」が介在していますね。
by マダムクニコ (2006-05-06 15:04) 

映画は見たことがないのだけれど、coco030705さんの記事を読んでいると映画を見たような錯覚に落ちました。
人を信じることや、人に何かを教えるということ、色々考えてしまいますね。
映画からいろんな事を感じたり読み取るcoco030705さんって凄いなって改めて思ってしまいました(^-^*)
by (2006-05-06 16:58) 

coco030705

マダムクニコさんへ
TB&コメントありがとうございます♪
マダムクニコさんのレビューは、詳細に渡る解説がすばらしかったです。(いつものことながら)
また、お部屋にお邪魔させていただきます。


Soraさんへ
nice&コメントありがとうございました♪
お褒めに預かり、恐縮しています。
いつも私の拙い記事を読んでいただいて、感謝です。(^^)
私もSoraさんのブログと写真を楽しみにしております。
これからもよろしくお願いします☆
by coco030705 (2006-05-06 17:55) 

HWK

「大人は判ってくれない」にコメントありがとうございました。
映画三昧ですね。また遊びにきます。
by HWK (2006-05-07 12:35) 

coco030705

えんちゃんさんへ
よかったら、またいらしてくださいね。
by coco030705 (2006-05-07 17:23) 

TaekoLovesParis

Cocoさん、こんにちは
「国家の品格」いま読みたい本なんですよ。そしてトミー・リー・ジョーンズが監督も兼任ですか。アルキメデスみたいな名前って覚えときます。
見る日のために。
ビルに鯉のぼり、楽しいですね!タイムリーな写真。
by TaekoLovesParis (2006-05-07 21:01) 

coco030705

Taekoさんへ
「リバティーン」にnice! ありがとうございました♪
この映画「メルキアデス・・・」は、思っていたよりいい映画でした。
写真もお褒めいただいて、嬉しく存じます☆
by coco030705 (2006-05-07 21:14) 

Naka

この作品は私も気になっていたのですが、
関東では公開終了してしまいました(泣)。
ココさんの記事を拝読してますます興味が高まりました。
DVDになったら絶対観たいと思います(^^
by Naka (2006-05-08 00:20) 

coco030705

Nakaさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
ゴールデンウィークは、ご旅行などされて、充実していた
みたいですね。(^^)
この映画は、題名だけ見たら、内容が見当もつかないですね。
でも、結構いい映画なので、お薦めです。Nakaさんのレビューを
楽しみにしております。
by coco030705 (2006-05-08 01:40) 

KANAchanMaMa

今頃 何なんですが…この記事で、100記事 達成されてたんですネ!
スゴ~イ! \(^o^)/ 不断の努力と才能の賜物です!
今後も 楽しみにしておりますよん。Your Column☆(^_-)-☆
by KANAchanMaMa (2006-05-09 19:16) 

coco030705

KANAchanMaMaさんへ
ありがとうございます(^^) いつもnice&コメントをいただいて、
嬉しく思っております。
これも、KANAchanMaMaさんをはじめ、わたしの拙いブログを
ご訪問くださる皆様のおかげです。
私は他の方たちのブログがすごいといつも感心しています。
これからも、よろしくお付き合いくださいませ。
by coco030705 (2006-05-09 22:05) 

non_0101

こんばんは。この映画はなんとなく見逃してしまいました。
死体と一緒に旅をするという設定に腰が引けて…
でも、やっぱり良さそうな映画でしたね!
機会があったら、ぜひ挑戦してみたいです。
by non_0101 (2006-05-15 23:25) 

coco030705

nonさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
私はレディス・デーに「プロデューサーズ」をみるつもりが、券がとれなくて、
友達がこれにしようというので、期待せずに見たら、おもしろかったという
いきさつがありました。
死体は、人形ですが、とってもよくできていて、ちょっときもちわるいかも(^^)
DVDになったら、見てみてくださいまし。
by coco030705 (2006-05-15 23:56) 

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