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ブロークン・フラワーズ [外国映画]


(春の空気を胸いっぱいに吸うトラ吉)


監督:ジム・ジャームッシュ   出演:ビル・マーレイ、 シャロン・ストーン、 ジェリー・ライト、 
ジェシカ・ラング、 ティルダ・スウィントン、 ジュリー・デルピー、 フランセス・コンロイetc.
2005年   アメリカ    スクリーン

 ビル・マーレイは本当に不思議な雰囲気をもった俳優だ。天然の俳優とでもいうのだろうか。彼の独特の「間」は、あれは演技ではなく持って生まれたものなのだろう。

 ドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)はさえない中年の男で、一緒に暮らしていた恋人(ジュリー・
デルピー)に出て行ってしまわれた。ある日、彼のもとに一通のピンクの手紙が届いた。便せんもピンクで中には、「あなたと別れて20年経ちました。息子は19歳になりました。あなたの子です。」と書かれていた。差出人は無記名だった。お隣の黒人ウィンストン(ジェリー・ライト)の手はずで、ドンはピンクの手紙の手がかりを求めて旅に出ることにした。彼は当時付き合っていた恋人たちを順々に訪ねていく。

 この映画は5人のベテラン女優が、ドンの恋人役として登場する。それぞれに色々な環境、様々な職業を持っている。そして脇役として、若い女優が3人ほど出てくるが、とても可愛い人ばかりだった。この中ではシャロン・ストーンがやはり華があった。さすがに主役をはった女優だと思った。他の女優もそれぞれに、おもしろく描かれていた。

 ジェシカ・ラングは、動物とコミュニケーションができる、アニマル・コミュニケーターとして登場。上品な感じで素敵だ。彼女は、動物(犬、猫からイグアナまで)と会話して動物がしてほしいことを、飼い主に伝えるのが仕事だ。ここに彼女の飼い猫が出てくるのだが、この猫が最高に可愛い子なのだ。こんなに可愛い猫はなかなかいない。やはり映画に出演する猫は違うなと思った。

 ティルダ・スウィントンは、ヒッピーのような女の役で、同じくピッピーのような男2人が、お隣に住んでいる。彼女は、もじゃもじゃのロングの黒髪で、目には太いアイラインをぐるりと入れているので、パッと見には誰だかわからなかった。色々に変化する女優だなと思った。

 この作品では、「ピンクカラー」が鍵になっている。彼女達の周りに、必ずピンクカラーのものが存在する。たとえば、胸にピンクのリボンをつけていたり、ピンクのタイプライターが家の近所に捨てられていたり、ピンクの絵が家に飾られていたり、そして、ドンがかつての恋人に持っていく花束がピンクの花のアレンジメントだったりする。

 だから、彼はかつての恋人一人ひとりに会うごとに、ピンクカラーのものを見つけて、この女が自分との間に子供をもうけた人ではないかと思う。けれどもそれはドンの思い違いで、シャロン・ストーン以外は、女性達は彼に決して愛想よくはない。ドンは彼女達にすげなくされたり、隣の男に殴られて怪我をしたりする。

 ドンは結局、自分の息子を見つけられずに、自分の町に帰ってくる。すると、ちょうどはたちくらいの青年が家の周りをうろうろしている。ドンが彼に話しかけてみると、その男の子のもっていたかばんにピンクのリボン(?)がついていたのだ。
 ドンはサンドイッチを彼におごり、ついに「おまえは俺の息子じゃないのか」と問いただす。すると青年は「変な奴だな!」といって走って逃げていってしまうのだ。あとには、ドン・ジョンストンが1人たたずんでいるのだった。

 私はこの映画は、イメージ的にユーモラスな作品なのかと思い込んでいた。しかしそうでもなくて、かつてはたくさん恋人がいた男の、みじめな行く末を描いたつくりになっていた。自業自得とはいえ、ドンがかわいそうに思えた。たぶん、ビル・マーレイの持ち味自体が、よくユーモラスな雰囲気と評されるので、そういう風に思い込んでいたのかもしれない。しかし、スタイリッシュな映像とは裏腹に、かなりシビアな筋だったのではないだろうか。そして女性というものは、昔の恋人にはほとんど興味を示さないものなのだということが、よく描かれていたと思う。

 この映画の冒頭は、スッキリした映像とともに、けだるいようないい歌が流れていた。そして、最後のエンディングロールのところにも、同じ歌が流れ、さすがにセンス抜群のジム・ジャームッシュだなと思わせられた。この映画は音楽が特によかった。ぜひCDを買いたいと思っている。

 ジム・ジャームッシュの世界はやはり独特だ。それを評価したカンヌ映画祭はすばらしいと思う。この作品は、カンヌ映画祭審査員特別グランプリを受賞している。ミニシアター系のいい作品が評価されて嬉しいと思う。様々な映画賞があってこそ、バランスがよくなるというものだ。






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コメント 33

jazzy

こんにちは。
ご覧になりましたね。
おもしろかったでしょう。
TBに関しては、なんかもう変なのばっか来るのでもうやめちゃいました・笑。ブログを大々的に広げてゆくつもりが無いんです。

会ったことのない息子に会いに行くという「ブロークン・フラワーズ」と似たような内容の映画をヴェンダースが撮ってますよね。「アメリカ、家族のいる風景」というやつ。それを見て、ヴェンダースとジャームッシュの違いを味わおうと思っていたんですが、京都シネマではもう上映終わっちゃいました・涙。
またいずれ見ることにします。

S・ストーン、おっしゃるとおり、いいですね。よくなってきてます。明らかに昔より今のほうがいい。

お墓の横でB・マーレイが座り込んでいるシーン、あれがいわゆるひとつの決定的なショットですね。ぼく的には。

ではでは。
by jazzy (2006-05-11 12:22) 

coco030705

jazzyさんへ
nice&コメントありがとうございました。
決定的なショット、ですね。いつもjazzyさんがおっしゃっていること
ですね。私的にはなんだろうなぁ・・・。たくさんあって、どれが一番とは
いえないなぁ。私の好きな場面は、お墓に行く前に、ドンがお花を買いに行きますよね。そこの女の子に、傷の手当をしてもらうところです。女の子がかわいくてやさしかったので、ほっとしました。また、ジャームッシュの映画を見たくなりますね。
by coco030705 (2006-05-11 13:46) 

猫ちゃんの写真もステキだけど、coco030705さんの解説と感想が
なんかグッときます(^-^)>
by (2006-05-11 16:14) 

coco030705

Soraさんへ
nice&コメントありがとうございました♪
いつも、いい事を書いていただき、大変嬉しく思っております。
Soraさんは体調のほうはもうよろしいんですか?
お身体を大切にご活躍くださいね。
by coco030705 (2006-05-11 19:07) 

TaekoLovesParis

Cocoさん、こんばんは
ジム・ジャームッシュ+ビル・マーレイだから、Cocoさんは必ずご覧になると
思っていました。私も広告のちらしを読んで軽快な、クスッという種類の笑いがちりばめられた作品かと思っていたら、、お~~~
<女性というものは、昔の恋人にはほとんど興味を示さないものなのだということが、よく描かれていたと思う。>
→生きていく智恵ですよね。過去の人にこだわっていたら自分が不幸ですものね。でも歌舞伎の世界は違う。女の人がドライじゃない。いつまでも待って
いてくれる。情に厚い。脚本家にとっての理想の女の人なんでしょうね。
by TaekoLovesParis (2006-05-11 21:47) 

KANAchanMaMa

これも、面白そうな作品ですね~!(^^♪
シャロン・ストーンと ジェシカ・ラングと ティルダ・スウィントンが 立て続けに
出てくるのか~!それだけで、そそられ(!)ますネ~!(^^♪
自分の生き様を 突きつけられる…という 結末は、人事(ひとごと)としては
観られない 年齢に なってしまいました。自分も いい年になって しまいました
から…ねぇ…。(~_~;) ぜひ 観たい作品デス。
ところで。表情豊かな 『トラ吉』君は、貴女のウチの猫ちゃん☆ですか?!
by KANAchanMaMa (2006-05-11 21:52) 

coco030705

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
Taekoさんに読まれてましたね。(^^)  前から見ようと思っていて、
レディスディに見ました。
私もけっこう軽めの映画と思い込んでましたが、ビル・マーレイが
かわいそうな感じがしました。(同情)
歌舞伎の女性は辛抱強いですね。江戸時代の封建社会の女性像だから
でしょうか。男の人はがまんしてくれる女性が好きなんでしょうね。


KANAchanMaMaさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
そうなんですよ、ウチの猫なんです。今も私のひざにのっています。
(とっても甘えた!もう11歳なのにね。)
映画は、女優さんが、ベテランの人も若い人も、とってもよかったです。
ジャームッシュって男なのに、ここまで主人公をいじめなくてもなぁ・・・、
なんて思ってしまいました。(笑)
by coco030705 (2006-05-11 22:13) 

(=゚ω゚)ノこんばんは
トラ吉くん、元気そうで(^^)いい表情してますね〜
映画見てないので最近コメントできなくて・・・(^^ゞははは
by (2006-05-11 23:07) 

coco030705

WIZARDさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
この頃はお忙しいんでしょう?マイペースでやってくださいね。
トラ吉、おもしろいでしょう!とってもリラックスしております。
by coco030705 (2006-05-12 00:08) 

KANAchanMaMa

今日、「ブロークン・フラワーズ」 観てきました!(*^^)v 貴女の解説に 惹かれたのが きっかけで…。ブログ記事に書いたら、TBさせて下さいマセ。
でも、最近 すっかり、記事の更新が 億劫に なってしまっておりまして。。。
ジェシカ・ラングが、すっかり老けてしまっていたのに、ショックを 受けてしまい
ました~。(~_~;)ゞ 最近の出演作を あまり 観ていなかったせいかなぁ…。
シャロン・ストーンも、しばらく 彼女だと 分からずに 見てました。彼女って、
顔の感じを よく変えますもの ネ。そんな感想を 持ちつつ おりまする。(^^ゞ
自分のブログ記事、ホントに書けるかなぁ…。(ーー;) 
by KANAchanMaMa (2006-05-12 18:07) 

coco030705

KANAchanMaMaさんへ
今日見てこられましたか。(^^) レビューを楽しみにしております☆
by coco030705 (2006-05-13 00:25) 

masumi

ココさん、nice&コメントありがとうございました。ハチャメチャなビル・マーレイが好きなワタシとしては、今回のジム・ジャームッシュ作品のビルは寡黙過ぎちゃって・・・。ココさんの丁寧なコメント読んでなるほど~と納得。前半まではなかなか面白かったんだけど、後半ちょっと脳がフリーズ状態だったもので・・・。(眠気と戦ってたってことです、エヘッ★)
by masumi (2006-05-13 00:28) 

coco030705

masumiさんへ
こちらこそ、nice&コメントありがとうございます♪
そうですね、ビルは今回は「間」が多すぎ!でしたね。
私の友達も最後のほう寝ちゃって、「結局息子はどうなったの?」
なんて聞かれました。(^^)
masumiさんのブログって、すごくおしゃれですね。またのぞかせて
いただきますね☆
by coco030705 (2006-05-13 00:39) 

イバン族

トラ吉くんの悩殺ポーズ、タマらんです
ビルMは確か前作「…シガレット」でも変な役やってましたっけ
ジャームッシュ作品は、変なので好きです
思い出してクスクスみたいな世界が
ライズに行って見てきま~す
by イバン族 (2006-05-13 13:32) 

KANAchanMaMa

「ブロークン・フラワーズ」の感想記事、「楽天」で展開している BLOG記事に
しました!そちらで TBさせていただきました。よろしく お願いします!m(__)m
by KANAchanMaMa (2006-05-13 18:04) 

coco030705

イバン族さんへ
トラ吉の「悩殺ポーズ」をほめていただき、ありがとうございます。(^^)
ジム・ジャームッシュの世界って、ほんと変ですね。でも好きです。
レビュー楽しみにしてま~す☆(nice! ありがとうございました。)
by coco030705 (2006-05-13 20:15) 

こんにちは~。
ビルマーレーのフレッドペリーのジャージがいつも変わるのが可笑しくて・・・。
ピンクのアクセントとあのボンボコいうい音楽。
やはり、この独特さは監督のセンスなんでしょねー。
by (2006-05-14 09:00) 

coco030705

bikさんへ
さすが、おしゃれな科学者さん!よくごらんになってます。
私はジャージが変わっていたのに気付きませんでした。
でも、あのジャージ、妙に似合ってましたよね。やっぱりビルも
お洒落な人なんでしょうね。
それから、あの音楽はたまりませんね。日本的な音階のような
ものも混じってたりして・・・。
ジム・ジャームッシュはやはりすごい!
by coco030705 (2006-05-14 10:17) 

gillman

トラ吉くんの深呼吸、いいなぁ
ストレンジャー・ザン・パラダイスはよかったなぁ
ミストリー・トレインはどう?
by gillman (2006-05-14 18:10) 

coco030705

gillmanさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
トラ吉、おもしろいでしょう。自分をあまり猫とおもってないんじゃないかと
思います。
「ミステリートレイン」は未見なんです。ジム・ジャームッシュ作品は、
「デッド・マン(J.Depp)」「コーヒー&シガレッツ」そして、「ブロークン・
フラワーズ」だけしか見てません。この中では、「コーヒー&シガレッツ」
がおすすめですヨ☆
by coco030705 (2006-05-14 19:01) 

non_0101

こんばんは。トラ吉、いいですね~。
猫も人間も幸せそうなのが一番です!
ところで、この映画はシビアなストーリーなのですね。
う~ん、この映画に飲まれないようなパワーが出てきたら挑戦してみたいです!
by non_0101 (2006-05-15 23:39) 

coco030705

nonさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
トラ吉、けっこうかわいいでしょ(^^)甘えたなんですよぉ。
この「ブロークン・フラワーズ」ですが、くすっと笑える人もいるみたいです。
私はあまり笑えませんでした。友達もそういってました。でも人それぞれですからね。ジム・ジャームッシュの世界がお好きなら、ご覧になって見られてはいかがでしょうか。
by coco030705 (2006-05-16 00:02) 

鯉三

トラ吉くんの恍惚の表情、こちらにも伝染しそうです(笑)。
ジャームッシュの新作ですね。台湾では2月に上映されていたのですが、あっという間に打ち切られてしまいました。Lost in Translationは人気があったのですが。DVDで見るしかないかな。シャーロン・ストーン、女優として(あるいは人間として)とても成長したと思います。いや、尊敬しています。
by 鯉三 (2006-05-16 01:35) 

coco030705

鯉三さんへ
nice&コメントありがとうございます♪
トラ吉、春を満喫しております。(もう初夏かな?)
ジャームッシュの映画、すぐ終わって残念でしたね。私は、「Lost in Translation」以来、ビル・マーレイがお気に入りになってしまいました。
あのなんともいえない、ボーヨーとした感じが好きです。
シャロン・ストーン、がんばってますね。一流女優も、うかうかしていては
生き残れないので、新しいことを色々模索しているのだと思います。
by coco030705 (2006-05-16 09:03) 

トミュウ

こんばんは!
> 女性というものは、昔の恋人にはほとんど興味を示さないものなのだ
・・・おっしゃる通りです!
TBさせて頂きますね。
トラ吉くんラブリーです。あごのところをホワホワしたい・・・!
by トミュウ (2006-05-17 00:14) 

coco030705

トミュウさんへ
nice&TB&コメントありがとうございます♪
女の人は、男と別れたら、あとも見ないで前へ進んでいくと、
よくいわれますよね。自分を振り返ってもそうだなあと思います。
逆に男の人は、けっこう未練をひきずりますよね。(^^)
トラ吉、あごをホワホワしてあげたら、首がどんどんのびちゃいます。
むな毛も、すごーく気持ちいいんですよぉ~☆
by coco030705 (2006-05-17 08:26) 

ココさんへ

TB、コメント、ありがとうございます。

「スッキリした映像とともに、けだるいようないい歌」、ほんと
そんな感じでしたね。
なんか、はっきりと、言葉ではいえないけど、
妙に魅力的で、心にひっかかりつづける1本って感じですね。
by ココさんへ (2006-05-20 01:47) 

coco030705

パラリンさんへ
TB&コメントありがとうございます。
とうとうブロークン・フラワーズのサントラCDを買ってしまいました!
映画の場面を思い浮かべながら、楽しく聞いています。まんぞく、まんぞく。(笑)
by coco030705 (2006-05-20 18:41) 

coco030705

トキナさんへ
nice! ありがとうございます。
by coco030705 (2006-05-20 21:13) 

クリス

この作品、けっこう後味が続きますよね~。「えーココで終わり???」って(苦笑)感じな所がジャームッシュっぽいったらぽいけど。ドンの過去の女性達に一貫性がなくて、それこそ「来るモノ拒まず、去るモノ追わず」の彼の信条を現してたような気がしましたー。
by クリス (2006-05-21 08:55) 

coco030705

蟻銀さんへ
nice&コメントありがとうごさいます♪
お元気そうで何より。ほんまですね~。ドンはどういう風に生きていくのか、
かわいそうで、気になります。過去にモテた男という設定になってるけど、
イマイチそこがわからなかった。(^^)
でも実際にも、「なんでこんな男がもてるのか!」ということは、間々あるので、そういうことなんかなぁ~、ってヘンに納得してました。(笑)
by coco030705 (2006-05-21 11:15) 

ken

女性の目線がよく分かりました。
なるほどそういう目もあるのですね。
過去を引きずるのは女じゃなく男、これは事実のようです(笑)。
by ken (2006-06-02 18:15) 

coco030705

kenさんへ
コメントありがとうございます♪
男の人のほうが繊細ってことかもしれませんね。
女性は出産するので、たくましいのかも!だから、
ウジウジしていられないのでしょうね。(^^)
by coco030705 (2006-06-02 18:44) 

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