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マッチ・ポイント [ウディ・アレン]

監督・脚本:ウディ・アレン  出演:ジョナサン・リース・メイヤーズ、
スカーレット・ヨハンソン、マシュー・グード、ブライアン・コックス、ペネロピー・ウィルソン、
エミリー・モーティマー
2005年 イギリス    スクリーン

 ウディ・アレンはニューヨーク・セントラルパーク南側の超一流ホテル「The Plaza」に、スニーカーで足を踏み入れることが出来る唯一の有名人だというのを何かの雑誌で読んだ記憶がある。それほど、ニューヨークでは知らないものがないほどの人である。「マッチ・ポイント」は、そのアレンが、今回初めてロンドンに舞台を移し撮影した37本目の作品である。

 マッチ・ポイントはいうまでもなく、テニス用語である。「ボールがネットの上に当たってはずんでツイてるときは向こう側に落ちて、勝つ。ツイてないときはこっち側に落ちて、負ける。勝敗は運が決め、人生はコントロールできない。」というのが、この映画の主題である。

 ジョナサン・リース・メイヤーズ扮するクリスは、野心家の元プロテニス・プレイヤーで、上流階級の人々が集うテニス・クラブで、コーチとしての職を得る。そこで大金持ちのトム(マシュー・グード)と知り合い、とんとん拍子に仲良くなり、トムの妹のクリス(エミリー・モーティマー)に一目惚れされる。それから、トムの父親にも気に入られ、クリスと結婚することになる。

 このイギリスの上流階級の暮らしが素晴らしい。家族でオペラハウスに通い、イングリッシュガーデンが美しい邸宅に住み、そこではお茶会やパーティが開かれ、外国旅行の相談がなされている。
 上流階級の人々の暮らしぶりが結構丁寧に描かれ、マシュー・グード(トム)、ブライアン・
コックス(トムの父)、ペネロピー・ウィルソン(トムの母)、エミリー・モーティマー(トムの妹)という中堅とベテランの役者がそれぞれの役をはまり役で演じている。4人とも上流階級の人々らしいおおらかな人の良さ、上品さを備え、人を疑うことを知らない感じがよく出ていた。(母親だけが少し用心深く皮肉屋である。)
 なかでも、マシュー・グードが本当に適役だったと思う。清潔感のあるハンサムで、明るく、クイーンズイングリッシュがノーブルな感じをだしていた。
 余談だが、トムとクリスがテニスをするシーンでは、テニスウェアはフレッド・ペリーとラコステだった。一昔前日本でも流行ったが、イギリスの上流階級では今もこのブランドのウェアなのだろうか。

 はじめはこの映画、ほんとうにウディ・アレンの映画なのかしらと不思議な感じがした。最初のキャストの紹介で、黒字に白抜きの文字がロールしていくときには、いつものジャズじゃなくてオペラが流れていたし、いつものコメディーのドタバタした感じがなくて、とっても上品な雰囲気だったので。

 しかし、トムの婚約者であるノラ(スカーレット・ヨハンソン)が登場するあたりから、だんだんとストーリーはあらぬ方向に走り始める。クリスはノラに惹かれ、2人は関係を持ってしまう。そしてのっぴきならぬ関係に陥った2人は・・・。さすがウディ・アレン、予想もつかぬ展開が待っているのだ。

 主演のジョナサン・リース・メイヤーズは、上流階級に入り込む男の野心家ぶり、浮気をしている男の緊張感、大きな罪を犯した男の焦燥感、疲れといったものを巧みに表現していた。いい持ち味をもっている、うまい役者だと思った。

 スカーレット・ヨハンソンは美しく官能的だった。とてもシンプルな衣裳なのに、彼女の若さと美しさがかえってきわだっていた。「ロスト・イン・トランスレーション」のときは、透明感のある女の子という感じだったが、この映画では感情をむき出しにする激しい演技を好演していたと思う。次回のウディ・アレンの新作「Scoop」にも出演し、ウディと共演するのだそうだ。大変楽しみである。

 ロケの場所はロンドンの有名な劇場、美術館、レストランなど、お洒落な感じだった。全編に流れる音楽はオペラである。ヴィバルディやロッシーニなどのオペラのスタンダードナンバーだ。これが意外と映像とマッチしているのだ。摩訶不思議である。

 クリスは金持ちのトムと知り合うことによって、トムの妹と結婚し、いい仕事を手に入れ、グレードアップした生活を手中に収めた。これは幸運といえるだろう。しかし、ノラと知り合い彼女に夢中になるという運命が待ち構えていたのだ。ここからクリスの運命はどんどん変化していく。果たしてノラと知り合えたことは幸運だったのだろうか。だがノラのような魅力的な女性を避けて通ることはできなかったに違いない。まさに「人生はコントロールできない」のだ。そして最後は、どうしようもない状態に追い込まれ、精神的に追いつめられる。すべてが終わった後、家庭的には妻が妊娠し幸運が訪れる。しかし、果たしてこれは本当の幸せなのだろうか。最後のクリスの表情に、これからの彼の人生が浮き彫りにされているように思えた。決して教訓的でなく、主題にのっとって映画を締めくくったのがウディ・アレンのうまさであり、センスの良さなのだと思う。
 
 ウディ・アレンは現在70歳である。そして毎年1本の新作を撮り続けている。しかも今回は新天地ロンドンで、イギリス人の新スタッフとの仕事でおもしろい映画を創りあげた。彼のこの活力は一体どこから沸いてくるのだろうか。ウディ・アレン自身は、監督、脚本家、コメディアン、戯曲家、作家、クラリネット奏者という多才ぶりで、しかもダイアン・キートン、ミア・ファローといった有名女優との同棲あるいは結婚を経験している。今はかなり年の離れた中国人女性と結婚している。
 「人生、自分の好きなことをして生きろ、恋愛もたくさんしたらいいよ。」とウディ・アレンが言っているような気がした。


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鯉三

この映画、前評判のよさから是非見てみたい作品です。
cocoさんもおっしゃっているように、スカーレット・ヨハンソンがこれまでとは違う演技をしているというのが楽しみなところです。「ロスト・イン・トランスレーション」の彼女も好きでした。ウディ・アレンはいつまでも枯れませんね。もう70歳!信じられません。
by 鯉三 (2006-09-08 20:09) 

naonao

こんばんは。はじめまして。
マッチポイント私も観ました。
とても丁寧によくまとめていらっしゃるので感心しました。
結末について、納得できないという人もかなりいますが、私はこの終わり方がとても良いなあと思いました。まさにcoco030705 さんが言うウッディアレンのうまさとセンスの良さなのかもしれませんね。
by naonao (2006-09-08 20:16) 

coco030705

鯉三さんへ
ごぶさたです。nice&コメントありがとうございました♪
スカーレット・ヨハンソン、きれいでしたよ。しかもセクシーな感じです。
この撮影のときは若干19歳だったんですって。おとなっぽかったなあ。
鯉三さんがおっしゃるように、本当にウディ・アレンは枯れませんね。
うらやましい人です。この映画、ぜひご覧になってみてください。


naonaoさんへ
はじめまして。nice&コメントありがとうございます♪
お褒めに預かり、嬉しく思います。
この映画の結末は、意表をついていて、ストーリーをおもしろく
していましたよね。私も納得しました。
これからも宜しくお願いいたします。
by coco030705 (2006-09-08 21:17) 

TaekoLovesParis

Cocoさん、こんばんは。
この映画、ボストンのホテルの映画ビデオにあったので、予告を見たら、
かなりおもしろうそう。サスペンス、結末はいかに、、と言われ、ウッディ・アレンの早口が頭をかすめ(本人出てないのに)、英語がききとれなかったら困るから、と、Silberlingさんおすすめのジョージ・クルーニー主演のオイルマネー映画「シリアナ」を選んでしまいました。
Cocoさんのこれを読んで、予告では伝わらないことがたくさんあるな~って
思いました。私の好きそうなタイプの映画なので、見に行かなくちゃ。

<テニスウェアはフレッド・ペリーとラコステ>
→ラコステは往年のフランス人テニスプレイヤー。パリのシャンゼリゼに大きなお店があって人気です。
by TaekoLovesParis (2006-09-08 22:18) 

coco030705

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
今、Taekoさんちに行ってきたところなんですよ。お互いリンクしてましたね。
「シリアナ」は私もSilberlingさんの記事を読んで、見たいと思っていたところです。
このウディ・アレンの「マッチ・ポイント」は久々に当たったみたいで、大阪の
梅田ガーデンシネマは満杯でした。東京は恵比寿ですよネ。
ラコステはパリでは今も健在なんですね。日本人はナイキなんか着てるみたい
だけど。情報ありがとうございました。ではでは・・・。
by coco030705 (2006-09-08 22:27) 

non_0101

こんばんは。私も観てきました~
私はここまでハードなサスペンスだと思っていなくて
事件がかなりショックだったので、ブログがなかなか書けませんでした(T_T)
ようやく書いたのでTBさせてください。
(でも、結局、簡単にしか書けなかったです~)

> さすがウディ・アレン、予想もつかぬ展開が待っているのだ。
本当に、やられた~とちょっと思ってしまいました(^^ゞ
この次の作品は“サスペンス・コメディ”らしいので
どんな笑いをみせてくれるかも楽しみです。
by non_0101 (2006-09-08 23:19) 

coco030705

nonさんへ
nice&TB&コメントありがとうございます♪
今までのウディ・アレンの映画にしては、コメディ色が薄かったのは
確かですね。映画の最後のほうで、キッチンにノラとおばあちゃんが
登場するところは怖くもなんともなくて、かえってちょっとおかしかったんですけど。いかにもって感じがね。(笑)
今度の「スクープ」は、ウディ本人がでてるので、まちがいなく
コメディですよ。(^^)
by coco030705 (2006-09-08 23:58) 

hotaka

こんにちは。TBありがとうございました。
こちらからもTBさせていただきますね。

アレンの新作「scoop」も見てきました。
舞台は引き続きロンドンですが、いつものコメディに戻ってます。
アレン本人は、なんとマジシャン役で出てます。
いかにも胡散臭いマジシャンですよね(笑)

「scoop」のレビューも書いてますので、よろしければお読みください。
http://rif-raf.seesaa.net/article/22868248.html
by hotaka (2006-09-10 07:45) 

coco030705

hotakaさんへ
TB&コメントありがとうございました。
「Scoop」、またまたいつものコメディになってますか!(笑)
日本では来年の公開かしら。でも「マッチ・ポイント」が評判よかったから
もっと公開を早めてほしいなあと思っています。
by coco030705 (2006-09-10 08:54) 

マダムクニコ

>さすがウディ・アレン、予想もつかぬ展開が待っているのだ

仕事の関係で、二度ビデオ鑑賞しましたが、ますます面白く感じるばかり。
底流にさまざまな薀蓄があるので、厚みがありますね。
そこにあっと驚くひねりが加わり・・・・・・。
ただただ、うなるだけです。
コメントに感謝!
by マダムクニコ (2006-09-10 21:01) 

coco030705

マダム・クニコさんへ
TB&コメントありがとうございます♪
もう2度もご覧になったのですか。やっぱり何度見ても
おもしろいんですね。私もビデオがでたらぜひもう一度見てみたいです。
今度はマダム・クニコさんがおっしゃっていた「伏線」に気を配りながら・・・。
またレビューを楽しみにしております。
by coco030705 (2006-09-10 21:33) 

クリス

こんにちは!
cocoさんのレビューを読んで、この結末はクリスにとってラッキーだったのか、実はアンラッキーだったのかどっちともとれやしないかと思い始めました。ウッディの仕掛けの奥深さには、脱帽ですね。古典やオペラをうまく使って、イギリスの上流階級らしい重厚感も漂うし、クリス自身の身の振り方の演出も粋すぎて、最近のウッディ作品の中ではピカ一って気がします。
又観たいな~。
by クリス (2006-09-11 17:01) 

coco030705

蟻銀さんへ
こんにちは。nice&TB&コメントありがとうございました♪
>ウッディの仕掛けの奥深さには、脱帽ですね。
いや、ほんとですね。色々な伏線がしかけられていて、
ウディの教養の深さもわかりました。
クリスは人間的には根っからの悪人ではないと思うんです。
重罪を犯しておいて平気な顔をしている人物には描かれてなかった
ですよね。彼にとって、生活面ではラッキーな結末だったかもしれませんが、
人生ということを考えると、そうではないと思います。生活と人生は違う、という
ことをウディ・アレンはいいたかったのかもしれませんね。しかしそれを、振りかざして描いていないところが、素晴らしいと思います。またイギリスにいきたいです~~~!!
by coco030705 (2006-09-11 18:39) 

chiba-mani

ココさんコメントありがとうございました
普通のアメリカ映画に飽きたスレた映画ファン(笑)には堪らないウディアレンの新作はニッチもサッチもどうにもブルドッグな男の話しでした
あの主人公をバカと笑える自分の生活に感謝してます
by chiba-mani (2006-09-12 19:40) 

TaekoLovesParis

Cocoさん、恵比寿で見てきました。はらはらどきどきのサスペンスで
ウッディ・アレンぽくない、と思ったのですが、最後で、納得でした。
やっぱりウッディ・アレンでした。Cocoさんのおっしゃるように、冒頭に説明
されるテニス用語のマッチポイントが主題になっているのですね。
今、もう一度、Cocoさんの解説を読んでみると、ポイントをおさえていてお上手。読みながら、そうだった、そうだった、とうなずいてしまいました。
最後まで流れていた曲、ビゼーの「真珠とりの歌」が耳に残っています。
ドニゼッティの「愛の妙薬」の曲も使われていたし、オペラ曲が多かったですね。
by TaekoLovesParis (2006-09-12 21:55) 

gillman

アメリカ映画を見続けて、たまにヨーロッパ映画をみるとしみじみとしますよね。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどなど、どの国の映画も独特のテイストを持っていますよね。とくにイギリスを舞台にした映画は空気感がちがますね。
僕はアレック・ギネスが大好きで、大昔ピカデリーの劇場で彼の演劇を見ました。台詞はよく理解できなかったけれど、声の質や動きにとても感動しました。
by gillman (2006-09-13 12:42) 

coco030705

gillmanさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
ヨーロッパ映画は独特のよさがありますね。
雰囲気が素晴らしいと思います。やはり伝統があるからでしょうか。
生の舞台も映画とはちがったよさがあると思います。観客と演者が
同じ空間と時間を共有するからでしょうか。いろんな楽しみ方がありますね。
by coco030705 (2006-09-13 13:36) 

coco030705

千葉のマニーさんへ
コメント&TBありがとうございました。
ほんとにほんとに、実際にこんなことになったら、
えらいことですね。(^^)
by coco030705 (2006-09-13 14:28) 

coco030705

Taekoさんへ
再びコメントありがとうございます♪
オペラがたくさん使われていたので、その点で
Taekoさん楽しまれたのじゃないかと思いました。
皮肉屋のウディ・アレンらしい作品でしたね。
次回作「Scoop」(スカーレット・ヨハンソンと共演)が楽しみです。
またオペラを使うのでしょうか。
by coco030705 (2006-09-13 14:33) 

トミュウ

こんばんは。
オペラっていうところで、今までと何かが違う、という感じがしましたね。
やっぱりイギリスってクラシカルな雰囲気なんですかね。風景ともよく合っていたように思います。
スカーレット・ヨハンソンはじめ、出演俳優達は皆魅力的でした。
TBさせて頂きますね〜。
by トミュウ (2006-09-14 00:40) 

coco030705

トミュウさんへ
おはようございます。
nice&TB&コメントありがとうございました♪
そうですね、風景とオペラが違和感なかったですね。
やっぱり伝統なんでしょうか。
出演者のキャスティングがすばらしかったです。ツボにはまってましたね。
by coco030705 (2006-09-14 08:36) 

cocoさん、nice&TBありがとうございました。
マッチポイントときくと、勝敗をイメージしやすいんですが
今回のテーマは「人生はコントロールできない」というのがテーマなんですよね。
 「人生、自分の好きなことをして生きろ」
コントロールできなくても人生という長く大きなゲームの中で翻弄される自分を楽しんでみてもいいんじゃないの?それがつまり人生を生きるってことなのかもしれないですよね。
by (2006-09-15 01:10) 

coco030705

ezomomongaさんへ
こちらこそ、nice&コメントありがとうございました。
>コントロールできなくても人生という長く大きなゲームの中で翻弄される自分 を楽しんでみてもいいんじゃないの?
そうですね、その人生の波にどのように乗って楽しむか。とくに辛いことがやってきたとき、いかに乗り切っていくかが人生における個人的な宿題かもしれませんね。
by coco030705 (2006-09-15 15:26) 

りんこう

こんばんは!
今、「世界中がアイ・ラブ・ユー」のサントラを聴いているのですが、
これと「マッチポイント」が同じ監督の作品だとは…。
世の中にこんなに大勢の人間がひしめきあっていたら、
人生なんてコントロールできなくて当たり前なんですね。
by りんこう (2006-10-12 19:40) 

coco030705

りんこうさんへ
こんばんは。nice&コメントありがとうございます♪
「世界中がアイ・ラブ・ユー」もおもしろいですね。
そうですね。すごい数の人間が地球上には住んでいるんですものね。
ほんの一握りの人間同士でも、お互いすごく影響しあいますもの。
自分では、人生が思い通りに動かせないのも当たり前ですね。
by coco030705 (2006-10-12 21:21) 

kimion20002000

TBありがとう。
やっぱり、9.11以降、ユダヤ人のニューヨークでの鉄砲玉のような諧謔や、スタンダードナンバーにのせての上質なアレン風御伽話は、成立しにくくなってきているのかな、と考えても見ました。
by kimion20002000 (2007-02-19 02:44) 

coco030705

kimionさんへ
こちらこそ、TBありがとうございました。
ウディ・アレンは新作にもスカーレット・ヨハンソンを起用しています。スカーレットは、次回作ではウディとの共演です。楽しみですね。
by coco030705 (2007-02-19 10:30) 

タウム

TBさせていただきました。

何よりも、スカーレット・ヨハンソンがとても魅力的で印象に残りました。
by タウム (2007-10-30 20:12) 

coco030705

タウムさんへ
TBありがとうございました。
by coco030705 (2007-10-31 23:16) 

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