トラ吉の食欲

　トラ吉は私が飼っている猫だ。阪神大震災の年にやってきた。今年でたぶん、12才だと思う。というのも、トラ吉は私がマンションのドアをあけると、外にちょこんとすわっていて、「にゃー」といいながら、うちの中へ入ってきたからだ。だから、本当の年がわからない。そのときは、大人でも子供でもなく、首に薄汚れたリボンを巻いていた。トラ吉は人にも慣れていたので、きっと迷ってきたのだろうと思った。

　始めは飼うつもりはなく、2,3日したら外へ出そうと思っていた。しかしその年は寒い日が続き、追い出すのがかわいそうで家に置いてやった。それに、元の飼い主の人が捜しているかもしれないと思って、貼紙をしたりした。だが、一ヶ月近く経っても、誰からも何も言ってこなかった。

　家族と相談の結果、飼うことにした。躾がきちんとされていて、猫の砂でトイレをしていたからだ。トラ吉は寂しがり屋のようで、猫のベッドを違う部屋につくっても、そこで寝ずに皆が居るリビングにやってきて、私のひざで寝ていることが多かった。

　だが、そのうちトラ吉がすごい暴れん坊だということがわかった。カーテンによじ登ったり、障子やふすまで爪とぎをして、バリバリに破いたり、家中を走り回っていた。向こうの部屋から全速力で走ってきて、まだ買ってからそんなに日の経っていないソファーの背もたれの部分を、ちょうどボブスレーのように斜めに走って、傷だらけにしたりした。

　もちろん、私も家族の者も怒ったのだが、そのときだけ静かにしていて、少し経つとまた走り回っていた。私達は完全にお手上げ状態だった。

　まだ大人になりきっていなかったので、遊ぶのが大好きだった。キティーちゃんの小さい布の人形にゴム紐のついたものが大のお気に入りだった。それを掛けておくと前足でポンポンもてあそんでいた。まるで、ボクシングをしているようだなと思ったことがある。
　箱に入るのも好きだった。ダンボール箱に窓のような穴を開けて、トラ吉が中に入ったら、外から猫じゃらしを窓のところで揺らすと、鋭いつめをたてて遊んでいた。この遊びはとても気に入っていたらしく、よくいっしょに遊んでやった。

　私がある資格を取るのに、部屋にこもって長時間勉強していたときは、いつもそばにいたり、私のひざの上で寝ていた。もうすっかり大人になっていて、結構重たかったが、一人で勉強していると孤独なので、ずいぶん慰められた。お蔭で試験に合格することができた。

　トラ吉が一度だけ隣に逃げたことがあった。私がうっかりベランダのドアをあけていて、知らない間に逃げ出したのだ。真夜中の事だったから、外に探しに行くのは危ないと家族に止められた。
　30分ほどして、隣のベランダをのぞくと、向こうのほうからトラ吉がひょこひょこ帰ってきた。そして、そこのベランダに座り込んだまま、じっと外を見ているのだ。
　私はトラ吉の名前を呼んだり（真夜中だったので小声で）、キャットフードを差し入れたり、猫じゃらしを見せたりしたが、トラ吉はまったく無視して長いことベランダにすわっていた。そして、ようやくのろのろと隣とうちの境目まできて、こちらをうかがっていた。私は猫じゃらしを見せた。するとトラ吉が前足でじゃれたので、ぐいっと引っつかんでようやく捕まえたのだった。
　なぜトラ吉は、わたしのことを無視したのだろうか。その理由はよくわからないが、トラ吉も自由がほしかったのかもしれない。

　色々なことがあったが、トラ吉がいるだけで心が和んだ。けれども、去年トラ吉は腎臓病であることがわかった。食べ物をよくもどすので、血液検査をしてもらったところ、腎機能が低下していると言われた。腎臓で老廃物を処理しきれなくて、それが胃にたまって、気分が悪くなるのだそうだ。体重が5キロあったのだが、4.1キロに減ってしまった。
　今は一週間に一度は病院に行って、点滴をしてもらっている。背中の皮と筋肉の間にかなりの量の点滴をする。たくさんおしっこをださせて、腎臓にたまった老廃物を排出するのだ。トラ吉はよく我慢していると思う。

　トラ吉は、食べ物をもどしても10分ぐらいしたら、にゃーにゃー鳴きだして、すぐまた食べたがる。だが2時間ほどあけてからしか、次の食べ物をやることはできない。

　トラ吉はよく食べる。もどしてもまた食べる。一生懸命食べて生きようとしているのだと思う。猫にとって生きることが仕事なのだ。私も色々なことで落ち込むことが多いが、トラ吉を見習って、前向きに生きていかないといけないと思っている。

コメント 19

こんにちは。トラ吉くんは自らココさんちにやってきた猫ちゃんなんですね。
腎臓病とは大変・・・。ペットを飼うのは可愛いだけでは務まりませんよね。

うちのエドは今まさに遊び盛りで飛び跳ねています。
壁がキズだらけで、一昨日ついに防護ネット？みたいな物を貼ってみました。
もちろんソファーはぼろぼろです。（新品なのに）＾・＾；
飼うと決めてから覚悟はしていたんですけど皆さんはどうなさっているのか聴きたいです。
by キキ (2007-03-21 09:08) 

キキさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
不思議です。なぜ猫の好きな人がいる家がわかったんでしょう。
これこそ縁というものかもしれません。
ペットは生き物なので、人間と同じように病気もすれば自分の意思で
動き回ります。でも人間にも我慢の限界があるので、そこを
気をつけないとね。
猫の嫌いなスプレーというのも市販しているので、それをいらない布
などに沁みこませて、ソファーに置いてみたらいかがでしょう。
猫もここはだめなんだということがわかるでしょう。
by coco030705 (2007-03-21 11:26) 

「生きるために食べる」
これは人間を含めたすべての動物の基本ですよね。
だから食べようとする間は大丈夫！
しっかり治して元気になってくれるといいですね。
by ken (2007-03-21 14:54) 

kenさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
「食べる」というのは大事なことですね。
私は少し太り気味なので、カロリーの高いものは
避けようと思うんですが、つい食べちゃいます。
胃腸の調子が悪くなったとき、このまま食べられなくなったら
どうしようと不安になりました。だから、好きなものをなるべく
たくさん食べたいですね。（ダイエットにはなりませんが・・・笑）
トラ吉への温かいお言葉ありがとうございます☆
by coco030705 (2007-03-21 15:21) 

こんにちわ。
とら吉とはそういう出会いだったんですね。素敵ですね、これからもとら吉との時間を大切にかわいがってあげてくださいね。うちも子供がある程度大きくなったら動物家族でも増やしたいです。
by (2007-03-21 17:27) 

DSilberling さんへ
nice! ありがとうございます♪


Sparkyさんへ
ありがとうございます♪　トラ吉となるべく一緒にすごして
やろうと思っています。
くるみちゃんが大きくなったら、ぜひペットを飼ってあげてくださいね。
by coco030705 (2007-03-21 21:03) 

ども。
ワタシは実家の頃にちょびという猫を飼っていました。家の裏山の中で見つけたのですが、この子も元・飼い猫だったらしくリボンに鈴を付けていました。尻尾の先の方がｉの字のように二段階になっていたので、前の飼い主に尻尾を切られそうになって逃げ出したのかな、と想像していました。ちょびは小1から飼い始めて大学2年まで生き、ワタシが友人宅に泊まりに行っている時に亡くなって、夏だった為に早々に母に埋葬されてしまったので、ワタシは亡くなった姿を見ずじまいでした。それがちょっと心残り。もう20年前の出来事です。
実はワタシも小2の時に腎臓病と診断され、入退院を繰り返していた時がありました。結局体質という結論になり、未だに血尿は多少あるものの、常人と変わらぬ生活を送っています。
という事で（前置きながっ！）ダブルでひと事と思えません。トラ吉もcocoさんも苦しいだろうけど、頑張ってください。
でもペットは99％は自分より先に死んでいってしまうという事も忘れずに。トラ吉があと何年生きるかは神のみぞ知るですが、悔いが残らないように共同生活を一生懸命にエンジョイしてくださいね。
by tomoart (2007-03-21 21:23) 

tomoartさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
前に飼っていらした「ちょびちゃん」も、トラ吉とよく似た境遇ですね。
トラ吉もあまりにわんぱくなので、捨てられたような気がしています。
でも、猫好きの家を自分で見つけてやってきたところが、賢いでしょう。
tomoartさんもお体をくれぐれもお大事になさってください。
by coco030705 (2007-03-21 22:15) 

震災の年にやってきた！トラ吉君との運命的な出会いですね。
普段、ココさんの映画の記事を読んでいる時とは少しだけ違った印象をもちました。やはり、トラ吉君への愛情がにじみ出ているからでしょうか。でも、トラ吉くんが一度家を出てまた帰ってきたところの話は、ココさんらしい視点というか、とても客観的でおもしろいなと思いました。本当に猫って、何を考えているんだろうと思う瞬間が多いですね。
腎臓病を患っていることがとても気の毒です。通院もさぞ大変なことでしょう。それでも、当のトラ吉君は病気を憂えることなどなく、精一杯生きているのですね。人間も決して忘れてはいけないことだと思います。
by 鯉三 (2007-03-22 00:31) 

鯉三さん
nice&コメントありがとうございます♪
私の文章について、色々書いていただき嬉しく思います。
自分の文が他の人にはどう受け取られているのか、気になっていました。
かなり客観的な感じなのでしょうか。よく「無駄のない文章」だといわれるん
ですが、反対にあまり感情がでないのが欠点なのかもしれません。

トラ吉（猫）は、病気のことをいろいろ悩むこともないんですよね。本当に
自然に従って生きているのだなと思います。この生き方はすばらしいですね。
いや、こういう言い方も猫にとっては無用なのでしょう。ただ淡々と生物としての
生を全うするために生きている。私たちも悩みがあるときは、猫の生き方を思い出すといいと思います。
by coco030705 (2007-03-22 02:23) 

鯉三さんのおｓｓｙるように運命的出会いですね。
ブログにアイコンデビューしたというのに病気とは。。。
でも、一生懸命、生きることが、生き物の使命なんですね。
Cocoさんは、いつも大切なことに気付かせてくださいます。
おだいじにね。
by TaekoLovesParis (2007-03-23 18:28) 

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
温かいお言葉嬉しく思います。
トラ吉は今のところ、まずまず元気にしております。
猫は言葉をもたない生き物ですが、猫を抱いているだけで
そのあたたかさと共に、お互い心がじかに通じ合う気がします。
人間でも、しぐさ、動作、目線などで相手の本当の気持ちが
わかることがありますものね。
by coco030705 (2007-03-23 20:24) 

こんばんは。
動物と話が出来たらなあと思うことがありますけれど
cocoさんとトラ吉くんは、会話をしなくても心が通じ合っているのかなあと
今回のブログを読んで思ってしまいました。
トラ吉くんもcocoさんとめぐり合えて本当に良かったですね☆
by non_0101 (2007-03-26 01:26) 

nonさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
優しいお言葉嬉しく思います。
やはり犬猫は大昔から人間と暮らしてきた動物だけに、
かなり賢いし、人間の気持ちを察するところがありますね。
トラ吉は、自分の名前と「ごはん」と「ブラシ（時々体にブラッシング
してやります。）」は完全に理解しています。
それに１２年もいっしょにいると、心と心で通じ合うところは
ほんとうにたくさんありますよ。だから、「言葉」ってなんだろうと
考えますね。話せるからといって、必ず通じ合うものでもないですものね。
by coco030705 (2007-03-26 11:26) 

人も同じですよね。一生懸命食べて生きて行く。
cocoさんの思いやトラ吉くんの生き方に色々考えさせられます。
言葉が分からなくても、どこかで繋がっているんです。

子供の頃、巣から落ちたすずめの雛を育てたことを思い出しました。
飛ぶことは出来なかったけど、最後まで一生懸命生きてくれたことにとても勇気づけられました。ずーっとその時の巣箱を捨てられなくて辛かった時期もあったけど、一緒に居てくれた時の楽しさや、思い出は今も残っています。
by (2007-03-29 01:00) 

Soraさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
最近よく、言葉ってなんだろうと考えます。
朝日新聞のコマーシャルで、「言葉は希望、言葉は～」というのが
ありますが、言葉は色々なものになりえるんだなあと思います。

すずめの子の思い出は大切な宝物ですね。Soraさんのやさしさは、
きっとすずめの子もわかってくれていたことでしょう。
by coco030705 (2007-03-29 07:44) 

私も実家で猫を飼っていたのでとても共感できます。うちのこにもいろんな事を教わって一緒に生活してきました。今はもう居ないけど、道端でとても似た猫を見るとじーんとしてしまいます。なんだか会いに来てくれたような気がしてしまうのです、cocoさんの優しさは、きっとトラ吉くんに伝わっていますよ☆
by (2007-04-04 10:20) 

sakikopさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
sakikopさんも猫好きの方だったんですね。うれしいです。（＾＾）
トラ吉はわりと元気にしています。温かいお言葉ありがとうございます☆
by coco030705 (2007-04-04 10:43) 

plotさんへ
nice!　ありがとうございます♪
by coco030705 (2007-04-22 09:31)