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エンジェル [外国映画]

 エンジェル……。なんて美しい響きだろう。これは主人公の名前である。この名前から想像するに、どんな夢物語が展開するか、と思っていた。しかし監督はフランソワ・オゾンである。ただのロマンチックムービーになるはずがないのである。

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 1900年代初頭のイギリスの下町で、食料品店を営む母親と暮らすエンジェル(ロモーラ・ガライ)は、空想力豊かな少女だったが、性格は鼻つまみものだった。彼女は近所の豪邸「パラダイス」を見に行っては想像力をふくらませ、それを物語として綴っていた。エンジェルの才能が、ある出版社の社長に認められ、彼女は16才にして作家デビューを果たし、作品はベストセラーとなる。
 エンジェルが少女のころから憧れていた豪邸「パラダイス」がちょうど売りに出されていた。富と名声を手に入れた彼女は、豪邸をも手に入れ、セレブリティーの生活が始まるのである。そこでのパーティーで彼女はネヴィンソン姉弟に出会う。姉のノラはエンジェルの信奉者で、自ら彼女の秘書を買って出る。弟のエスメは画家で、エンジェルは一目で彼に惹かれるのだが……。

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 エンジェルとエスメ

 エンジェルの小説にかける情熱はすごいと思った。作家というのはこういうものなんだろうと想像した。寝る間も惜しんで書く。書き続ける。それは書きたいという、自分の中からあふれ出る欲望に身を浸すことだ。それこそが才能である。
 そして、彼女は自分の夢を実現する。あこがれの豪邸に住み、自分の好みの屋敷を創りあげるのだ。しかも彼女は恋をする。相手はエスメ(マイケル・ファスベンダー)というハンサムだが売れない画家で、女たらしの男である。だがエンジェルは、自分の欲しいものを手に入れないと気が済まない。そこでエスメに自分の肖像画を描かせて、彼の気持ちを自分のほうに向け、借金も肩代わりするから結婚しようと迫るのだ。エスメは彼女の情熱に負けて、結婚する。

 すごい女である。小説を書くことへの情熱を持ち続け、それがお金になり成功する。しかも美しい女性である。何もかも手に入れて、幸せなはずなのに彼女は寂しい。まるで少女がそのまま大人になったような人。彼女には他の人の気持がわからないのである。
 そののち戦争が始まって、エスメは志願して戦争に行ってしまう。そして彼は戦争で片足を失い、車椅子の生活となるのである。その後大きな悲劇がエンジェルを襲う。時を同じくして、エンジェルの小説はだんだんと見向きもされなくなる。結局彼女の小説はハーレクインロマンのようなものだったのだろうか。

エンジェル2.jpg

 エンジェルを見出した出版社社長夫人、ハーマイオニー・ギルブライトをオゾン映画の常連、シャーロット・ランプリングが演じている。彼女がエンジェルについて言う言葉が、的を得ていてしかも辛らつだった。――エンジェルはすごい女性だと思う。筆一本で何もかも手に入れたのだから。でも私はエンジェルの小説は一度もおもしろいと思ったことはないわ。―― 美しく凛としたシャーロットがいうと、納得してしまうのだが。

 エンジェル・デヴェレルの生き方はどうだったんだろう。最高の幸せも味わい、最大の不幸をも味わった。利己主義で嫌な性格だが、やっぱりこういう生活は私はちょっとあこがれる。でも一番好きな人の心はお金では買えなかった。そこがかわいそうである。

 この映画は、教訓物ではないので筋書きそのものを楽しめばいいのだろうと思う。エンジェルの着る豪華な衣裳や豪邸での生活は垂涎の的である。それもとっても楽しめる。また彼女の飼っている犬や猫たちのかわいいこと。そういうのも好きだった。フランソワ・オゾン監督の映画は女性がよく描かれていて、一味違ったおもしろい作品が多いと改めて思ったのである。

監督:フランソワ・オゾン   出演:ロモーラ・ガライ、 シャーロット・ランプリング、 サム・ニール、 ルーシー・ラッセル、
マイケル・ファスベンダー
2007年 イギリス/ベルギー/フランス    DVD鑑賞

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TaekoLovesParis

あまり有名にならなかったけど、映画館で見て、とっても気に入った作品でした。だから、Cocoさんがとりあげてくださってうれしいです。
英国のお城のような館、すばらしいインテリア。うっとりしますよね。
シャーロット・ランプリングが、貧しい育ちでものを知らないエンジェルの小説の細部を批判してぴしっと締める役どころ、ぴったりですね。「シャンパンを開けるのに栓抜きで、という場面があるけれど、ワインと違ってシャンパンに栓抜きはいらないのに、、そんなことも知らないのね」、これを受けてご主人が「そんなことはどうでもいいんだよ」と軽くいなす。ランプリングの嫌そうな顔。印象に残っています。
あと、小さいとき、お城の門にかじりついて中を見ていたこと、そしてそのお屋敷のお嬢様と後に再会し、、、劇的ですね。情熱的で行動的な「動」のエンジェルに対し、育ちの良さで何があってもびくともしない「静」のお嬢様とランプリング。エスメは「動」と「静」をあわせもつ人。人物配置がいいから、見ていて飽きませんね。ん~~でも、エスメの抽象画は好きになれなかったです。
by TaekoLovesParis (2008-12-03 23:48) 

non_0101

こんばんは。
この作品、観ようかどうしようかと悩んでいるうちに見逃してしまいました(^^ゞ
何でも手に入れられるようで、でも愛だけは買えない…というストーリーを
男性ではなくて女性で描いたところがすごいですね。
いつかちょっと元気があるような時に挑戦してみたいなあと思ってます☆
by non_0101 (2008-12-03 23:52) 

coco030705

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
さすがTaekoさん、シャンパンの話を覚えていらっしゃるのがすごいです。
ランプリングがかっこよかったです。いつまでも美しい人ですね。
衣裳が、単なる時代物というのでなく、非常にセンスがいいと思いました。
私もエスメの肖像画は、違和感がありました。あの屋敷にあってなかったのも
あるでしょうね。それにしても、オゾン映画のおもしろさを堪能できた作品でした。

by coco030705 (2008-12-04 00:40) 

coco030705

nonさんへ
こんばんは☆ お元気ですか?
そうですね。男性版のこういうストーリーはよくある話ですが、
女性を主人公にした物語はそれだけでおもしろいですね。
でも女性も男性も、人の心をつかむのは真心だけなんですね。
人間は男性も女性も同じなんですよ。
by coco030705 (2008-12-04 00:46) 

てくてく

こんばんは~^^
オゾン監督は女性をいきいきと描きますね。
いい所も、嫌な所も^^
ココさんが仰るオゾン映画の常連・ランプリングも素敵でした。
他の作品も観てみたいです。
注目する監督さんや役者さんがいっぱいで、
これだから映画は止められませんね(笑)
by てくてく (2008-12-04 01:41) 

coco030705

てくてくさんへ
nice&コメント&TB ありがとうございます♪

オゾン監督の手法はいつも一味ちがいますね。
てくてくさんもお書きになっていましたが、
ランプリングはほんとうに、かっこよくて素敵ですよね。
あこがれの女優さんです。
次々と新しい役者や監督が登場するので、観客も
忙しいですね。(^^)
by coco030705 (2008-12-04 02:38) 

Sora

ココさんの記事を読んだだけでまた映画を見たような感覚になりました(^^)
また一つ見たい映画が増えました。
by Sora (2008-12-05 01:59) 

coco030705

Soraさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
お元気ですか?大阪も徐々に寒くなってきています。
バナーをまたSoraさんのに変えました。やっぱり個性的で素敵ですね。
勝手に使わせていただいてます。<m(_)m>

記事をほめていただきありがとうございます♪
機会があったらぜひ、ご覧ください。
by coco030705 (2008-12-05 02:38) 

Sora

元気です(^^)
久しぶりに旅行に行っていました。
行き先はまだ秘密にしておきますね。写真と一緒に紹介していこうと思っています。

バナーはいつでも使ってください。使ってもらえて本当に嬉しいです。

by Sora (2008-12-05 14:40) 

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