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ネコを探して [外国映画]

 日本のローカル線の駅長でおなじみの猫「たま」がでてくるというので、観にいった。かわいい猫たちの楽しい映画かと思っていたら、かなり社会派の映画だったのが予想外だった。


たま.jpg
 駅長「たま」

 最初はアニメーションで、女性が2匹の猫を飼っていてその猫たちが鏡を通り抜けて、過去の世界へ行ってしまう。それを女性が追いかけていくことから始まって、それからドキュメンタリーとして、日本やイギリスやドイツの猫の過去と現在の様子を映像で追っていく。過去や現代の映像とアニメーションが入り混じり、おもしろいつくりになっている作品だ。監督はフランスの女性ドキュメンタリー作家ミリアム・トネロットである。
 
 日本では水俣湾で起きた、チッソ水俣工場の水銀廃液垂れ流し事件を、猫を軸に詳しく追っていく。それを語るのは、水俣病で後遺症が残ったある男性である。
 ここでは、チッソが水銀を含んだ廃液を海へ垂れ流し、その周りで大量の魚が死に、しかも海の魚も水銀を体内に含有していたので、まずはそれを食べたたくさんの猫が身体をけいれんさせ、海へ飛び込んだそうだ。そしてのちのち人間にも同じような症状が起こってくる。
 このチッソの起こした公害は当初、隠蔽され真実はまったく明らかにされなかった。そしてこの土地に住むたくさんの猫たちが会社によって捕らえられ、解剖されしかも汚染の事実はないと訴えられた。猫好きにとっては胸をえぐられるような残酷な事件である。猫は人間の利益追求の犠牲となった。

 イギリスではかつて汽車を運行するための電気系統を操作する小屋に、猫が飼われていた。それは、その電気系統の電線をかじるネズミなどを猫がつかまえて、汽車を事故から守ってくれたからなのだ。イギリスの鉄道が国鉄であったころは、その猫の行為を立派な仕事として認め、猫のえさ代が国鉄から支給されていたそうだ。しかし国鉄の民営化に伴い、そういうこともなくなり、事故はかなり起こっているようだ。ここでも利益を求める人間の考え方が、猫をそのすばらしい仕事から排除したのだった。

 ドイツでは飼い猫を心配するあまり、首輪に“キャットカム”という小型カメラを装着し、ネコの、家の外での日常を撮影した人がいる。しかし、そこに映っているのは危ないこと、例えば走る車の前を横切る映像など、心配を余計に増やすような映像ばかりだった。

 日本はペット大国である。猫に衣装を着せてかわいがっているつもりの人、猫カフェで毎日違うお客になでられ抱っこされる猫。そのかわいさが人間を癒しているのだが、果たして猫は幸せなのだろうか。
 人間は飽きたら猫を捨てる。そしてそれが保険所の檻に入れられ、職員が猫をダンボールにポンポンといれ、処分するのである。人間のエゴの犠牲になる猫が描かれる。

 日本のローカル線を救った猫もいる。名前は「たま」で、そこの駅長である。野良猫だったのが、その駅に住みつき、駅長もいなかった無人駅で今は大人気の猫となり、お客の送迎で忙しい毎日を送っている。そこではたまのグッズも売られているそうだ。

 アメリカの認知症専門の老人ホームで、患者の天国への旅立ちを知らせる不思議な猫が話題となった。TVや本でも紹介された“おくりねこ”オスカーである。この子は普段、患者の部屋に長時間立ち寄ることはないのだそうだが、患者が旅立つとき、その人のベッドにあがり、何時間かそこにとどまるのだそうだ。猫の神秘的なところが紹介されている。

 日本の港町で暮らす猫たち。漁師やその家族と交流があり、魚をもらって幸せそうである。また東京の公園で暮らすホームレスの人たちに飼われている捨て猫たちも幸せそうだった。

 映像はアニメーションの美しさと実写映像が入り混じり、面白いものとなっている。社会的な角度から、猫という動物と人間社会との関わりを描き、猫を通して人間がいかにエゴイスティックな生き物であるかを知らしめた、優れた作品である。

原題:LA VOIE DU CHAT/THE CAT WAY
監督:ミリアム・トネロット        アニメーション監督:ジェローム・ジュヴェレ
2009年 フランス             シネマート心斎橋

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コメント 22

tomoart

面白くて興味深そうな作品ですね。猫を題材にした映画も幾つかありますが、犬程にはメジャーじゃないですよね。残念だけど・・・演技させるには犬の方がちゃんと動いてくれそうではあります。

猫の幸せ、というかペットの幸せって何だろうと、時々考えます。かわいがられて食事や寝る場所の心配をする事なく、天寿を全うする事なのか。それとも動物としての欲求の通り、子供をつくり未来へと自らの血脈を繋いでいく事なのか。もし後者だとしたら、多分ほとんどのペットは不幸せという事になってしまうのですが・・・・。

今度、奥さんと「きな子」を観に行く予定ですw
by tomoart (2010-08-13 04:01) 

aranjues

興味深い映画ですが、名古屋では上映されなさそうですね。
日本では決して作られそうにない内容で是非観てみたいと思います。
by aranjues (2010-08-13 10:22) 

coco030705

tomoartさんへ
こんばんは。nice! &コメントありがとうございます♪

ペットの幸せも人間が考えるものですよね。猫にとって本能のままに生きるのは
人間からみれば怖いこともたくさんあります。怪我とか病気とか飢えとか。それよりも猫の好きな人が飼って、安全に育てたほうが幸せにちがいないと、考えるんですよね。ほんとのところは、猫にきいてみないとわからないと思います。(^^)
by coco030705 (2010-08-13 21:32) 

coco030705

aranjuesさんへ
こんばんは。nice! &コメントありがとうございます♪

これは予想外にいい映画でした。映像はアニメーションと実写が交互に効果的に使われていて、アーティスティックな感じもあります。社会派の視点で撮っていますが、決して暗かったり、かたかったりしていません。どちらかというと観やすいつくりになっています。
aranjuesさんのおっしゃるとおり、日本ではつくられないでしょうね。外国の監督だからできたことだなと思います。ぜひご覧になってください。
by coco030705 (2010-08-13 21:37) 

coco030705

tasuchanさんへ
こんばんは。いつもnice! ありがとうございます♪


xml_xslさんへ
こんばんは。いつもnice! ありがとうございます♪

by coco030705 (2010-08-13 21:52) 

TaekoLovesParis

各国のペットを切り口に社会現象を比較して、おもしろい視点のドキュメンタリーですね。なるほど~フランスの女性監督なんですね。
駅長「たま」が、評判になったので、福島のローカル温泉駅にもあやかったのが
いるって、きいたことがあります。でも、一番上の「たま」写真のかわいさには負けるな。
by TaekoLovesParis (2010-08-13 23:48) 

coco030705

Taekoさんへ
こんばんは。nice! &コメントありがとうございます♪

ほんとうにおもしろかったです。この作品もフランスの女性監督なんですね。
「あの夏の子供たち」も仏の女性監督ですよね。やはりフランスは文化の国で、
女性が活躍しやすいのでしょうか。すばらしいですね。
by coco030705 (2010-08-14 00:43) 

hash

巷に溢れる動物映画とは、一味違う作品のようですね。
>エゴイスティックな生き物
猫に限らず、生物、更には自然にもっと敬意を払わねばなりませんね。
by hash (2010-08-15 00:23) 

丹下段平

ユニークな視点のドキュメンタリーですね。
機会があるか分りませんが、観てみたいですね。
by 丹下段平 (2010-08-15 02:38) 

coco030705

hashさんへ
こんにちは。nice! &コメントありがとうございます♪

これは鋭い視線で描かれたすぐれたドキュメンタリーだと思います。
しかもアニメがアーティスティックで、ともすれば暗くなりがちのドキュメンタリーを
見やすいものにしています。もし猫がお嫌いじゃなかったら、ご覧になっていただきたい作品です。
生物や自然への畏敬の念を忘れたら、それは人間に跳ね返ってくるんですよね。
by coco030705 (2010-08-15 10:40) 

coco030705

丹下段平さんへ
こんにちは。nice! &コメントありがとうございます♪

猫の映画というと、猫にゃんにゃんでかわいいだけというものが多いのですが、これは見ごたえのある作品です。
ただのドキュメンタリーではなく、アニメが作品をアーティスティックなものに
しています。機会がありましたら、ぜひご覧ください。

by coco030705 (2010-08-15 10:44) 

non_0101

こんにちは。
かなり社会派の作品なのですね~
でも面白そうですね。
公開されている映画館がちょっと行き難いところなのですけど、
機会があったらチャレンジしてみたいです☆
by non_0101 (2010-08-15 15:38) 

coco030705

nonさんへ
こんばんは☆nice! &コメントありがとうございます♪

アニメがおしゃれな感じできれいなんですよ。それがあるお蔭で、
実写の厳しい現実が、かなり観やすくなっています。
人間という生き物を見なおしてみることができると思います。
お時間がありましたら、ぜひご覧になっていただきたいものです。
by coco030705 (2010-08-15 21:13) 

Naka

こんばんは。
cocoさんのレビューを読んで、すごく観たくなりました。
新たな視点から社会や人間について深く考えられそうな作品ですね。
我が家の猫たちとの関わりも、
改めて見つめ直してみようと思っています。

by Naka (2010-08-20 23:28) 

coco030705

Soraさんへ
こんにちは。nice! ありがとうございます♪

by coco030705 (2010-08-21 15:18) 

coco030705

Nakaさんへ
こんにちは。nice! &コメントありがとうございます♪

Nakaさんも猫を飼っていらっしゃるんですよね。アイコンの猫ちゃんですね。
猫好きの方、ぜひ観ていただきたい作品です。
猫について、人間について、色々考えさせられます。日本ではなかなか創りがたい作品だと思います。
by coco030705 (2010-08-21 15:22) 

gillman

ぼくは猫が出てくる映画では「ハリーとトント」が一番好きです。
by gillman (2010-08-24 09:39) 

coco030705

gillmanさんへ
こんにちは。nice! &コメントありがとうございます♪

「ハリーとトント」は古い映画ですが、心温まる作品ですね。
この作品は社会派だけに、猫好きにはかなりつらい状況が多く語られます。
人間は猫に対して、あやまらなければいけないと思いました。
by coco030705 (2010-08-24 18:25) 

鯉三

シネマート心斎橋で見てきました。
時に人間社会への視線が辛らつ過ぎるように思えることもありましたが、監督のメッセージはよく伝わりました。
アニメーションがよかったですね。映画が終わった後、わたしも「クロ」と一緒に旅に出ていたような気がしました。
by 鯉三 (2010-08-25 23:34) 

coco030705

鯉三さんへ
nice&コメントありがとうございます♪

行ってこられましたか。暑い中、お疲れ様でした。
アメリカ村は若者が多くてごちゃごちゃしていて、よけいに暑さを感じますね。
アニメがとってもお洒落でした。猫を描いた映画としては、異色の作品でした。
by coco030705 (2010-08-26 18:46) 

non_0101

こんばんは。
ようやく観て書きました~
本当に社会派ドキュメンタリーでしたね。
軽やかなアニメとは対象的に考えさせられる映像が多くて勉強になりました。
同じ一緒に暮らしていくのでも、
ただ可愛がるのと猫の存在を尊重して寄り添っていくのでは
やっぱり違うよねとか実感させられました☆
by non_0101 (2010-09-20 21:33) 

coco030705

nonさんへ
さすがnonさんですね。幅広い作品をご覧になって、すごいなと思います。
コメントありがとうございます。

内容が濃くておもしろかったでしょう。アニメは日本のと違って、
結構優雅な雰囲気を感じました。
猫や犬をはじめ色々な動物たちのすばらしさを、人間はわかっていない
のではないかと思います。もっと動物たちを大切にしなくてはいけないと
思いました。
by coco030705 (2010-09-21 13:41) 

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