黄金のアデーレ 名画の帰還

　ヘレン・ミレンの美しさと毅然としたカッコよさがとても目立っていた。やはりヘレン・ミレンは只者ではないと思った。女優として、数々の名作に出演している人だが、どれをとっても彼女が出演しているだけで間違いなく面白い作品になってしまう気がする。優れた演技派女優だと思う。





　クリムトは大好きな画家である。しかしその有名な絵画にこんな重大な秘密があったとは知らなかった。これが実話であるというのが驚きだ。やはり事実は小説よりも奇なり、である。　





　マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、ロサンゼルスに住むお洒落なブティックの店主で、1人楽しく暮らしていた。ある日、姉のルイーゼが亡くなり、彼女が故郷のオーストリア政府にナチスに没収された絵画の返還を求めようとしていたことを知る。
　マリアは姉の遺志を継ぐと決め、友人の息子で弁護士のランディ・シェーンベルク（ライアン・レイノルズ）に相談する。問題の絵画はオーストリアのベルベデーレ美術館が所蔵するクリムトの名画で、モデルになったマリアの伯母アデーレが遺言で寄贈したとされている。このモデルとなった女性を演じる女優さん（アンチュ・トラウェ）がこの絵画にそっくりの美しい人だった。絵のアデーレが首に飾っている豪華なネックレスも見事に再現されていた。



　幼いマリアが伯母のアデーレにネックレスをつけるシーン

　マリアはユダヤ人で、ナチスに家族や屋敷や財産を奪われ愛しい人たちを殺された国に二度と戻る気はなかった。けれども伯母の面影を胸に、過去をたどって絵画を取り戻すことを決意する。ウィーンでかつての実家の前に佇み、アーティストや音楽家、作家たちが出入りした日々をマリアは回想する。この場面はマリアが裕福な上流社会で育ったことを描き出すシーンで、インテリアや小道具、大道具も見事だった。

　実家の前にたたずむマリアとランディに、地元ジャーナリストのフベルトゥス・チェルニン（ダニエル・ブリュール）が協力したいと声をかけてきた。オーストリア政府は「黄金のアデーレ」を決して手放さないと彼はいう。
　マリアは美術館で絵画との再会を果たし、ユダヤ人がナチスの軍隊に次々と捕えられ監視下に置かれ、近隣への外出さえ制限されたことを思い出す。このシーンも回想として描かれ、ナチスの横暴さがよくわかるように、しかも残虐な場面は控えめで描かれているので、観やすかったと思う。けれどもマリア夫妻がアメリカへ亡命するシーンはとてもスリリングで見応えがあった。



　クリムトがアデーレを描くシーン

　フベルトゥスの力添えで、美術館の資料室からアデーレの遺言書が見つかり、その絵画の所有権は実は伯父にあり、マリアと姉に全財産を残すという伯父の遺言だけが法的な効力を持っていたことを突き止める。
　審問会の日、政府は返還を拒否。そして文化大臣はこの国で裁判を起こすなら180万ドルという法外な預託金が必要だと言い放つのだった。
　いったんロスに戻った二人。そして9か月後ランディは、アメリカで訴訟を起こせる条件を見つけ出す。過去は忘れようとしていたマリアも、ランディが弁護士事務所を辞めてまでこの戦いに全てを懸けようとしていると知り心を決める。やがて、82歳の女性と新米弁護士がオーストリア政府を訴えるという前代未聞の裁判がはじまるのだった。この裁判のシーンはとても面白く興味深かった。





　一枚の有名な絵画の、ただ単なる絵画返還訴訟の話ではなく、ナチスによるユダヤ人虐待という史実を描き、また訴訟がどうなるのかという興味深い物語を、俳優たちの演技力で非常に面白く描いた作品である。そしてその訴訟に勝ったとしても、マリアが病床の父と看護する母を残してアメリカへ亡命したということが、マリアの心に消えない傷を残していたのだった。この場面が戦争というものの残酷さを思い知らせてくれた。
　マリアに返還された「黄金のアデーレ」は今ニューヨークのノイエ・ギャラリーに展示されているのだそうだ。エンドクレジットに本物のマリアと弁護士ランディの写真が登場する。1人の人間の深い思いが、万難を排して正当な持主のもとに「オーストリアのモナリザ」と呼ばれる秘宝を呼び戻したのだと思う。これは最高にすばらしい映画だった。

原題：WOMAN IN GOLD　　監督：サイモン・カーティス　　出演：ヘレン・ミレン、　
ライアン・レイノルズ、　ダニエル・ブリュール、　ケイティ・ホームズ、　ダチアナ・マズラー
マックス・アイアンズ
2015年　イギリス／アメリカ

コメント 25

　よく戦争映画で、これは、反戦映画なのかどうかと
思います。
　日本人　外国人と　単純に　言うけれど
親切で教養ある人　何か　偏った見方をする人も
どこの国でも　いますね。
　市民同士の草の根の交流　海外に　友達が
たくさんいる。双方の理解につながりと　思います。
年末　良き映画を紹介してもらい。
嬉しいです。＾＾
by iruka (2015-12-30 07:57) 

ネオ・アッキーさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
佳いお年をお迎えくださいませ。
by coco030705 (2015-12-30 08:22) 

cocoさん
今年一年お世話になりました。
来年が　黄金の年　で有りますよう
お祈りします。
by 匁 (2015-12-30 08:39) 

おはよございます。
良い作品でしたね。ヘレン・ミレンが気難しい役を素敵に演じてくれましたね。
芸術作品が題材だけどどちらかというと戦争映画なんだろうと思う、戦争の残した心の傷までも描いてくれていた作品で、まとめ方も印象に残りましたね。。
良いお年を！
by コザック (2015-12-30 09:46) 

irukaさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

これはある名画を巡った訴訟の物語で、それを描くことによって、必然的に戦争の残酷さを描いています。しかもストーリーもサスペンスフルであり、裁判の場面はドキドキ感あり、芸術性もあるというとてもよくできた映画だと思います。ヘレン・ミレンをはじめとして、上手い俳優を取りそろえて佳い作品になりました。監督のサイモン・カーティスの力も大きいでしょう。ぜひご覧くださいませ。
今年も拙ブログをご覧いただき、コミュニケーションもできて楽しかったです。有難うございました。来年もよろしくお願い致します。佳いお年を！
ココより
by coco030705 (2015-12-30 10:06) 

匁さんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

今年も匁さんのブログでいい絵をたくさん観せていただき、有難うございました、楽しかったです。来年もよろしくお願い致します。
匁さんにとりまして、来年もGOLDなお年となりますようお祈りいたします。佳いお正月をお過ごしくださいませ。
ココより

by coco030705 (2015-12-30 10:13) 

コザックさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

今年最後の映画がこれになりました。とても素晴らしい作品で絵も美しく、ロケもよく、大道具、小道具、衣装、それになによりも俳優陣とストーリーがすばらしく、面白くて感動的でしたね。戦争についても考えさせられました。映画記事のラストにふさわしい、優れた作品に出会えてうれしかったです。

今年もコザックさんのブログで楽しませていただき、有難うございました。
映画と美術と、その他諸々たくさん教えていただき楽しかったです☆
コミュニケーションも盛り上がって面白かったですよ。来年もよろしくお願い致します。佳いお年をお迎えくださいませ。（SWは来年の初記事に！）
ココより

by coco030705 (2015-12-30 10:25) 

AKIさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
今年も拙ブログへお越しいただきありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。

uminokajinさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
今年も拙ブログへお越しいただきありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。

sugoimonoさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
今年も拙ブログへお越しいただきありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。

by coco030705 (2015-12-30 19:09) 

こんにちは。
クリムトは有名だし、日本でも展覧会で目にする機会があったからとても興味をそそられました。名前は知ってても実は知らないことばかりですね～。
今年も楽しい記事ありがとうございました。来年も楽しみにしています。
良いお年をお過ごしくださいね。
by ＥＲＵＮ (2015-12-31 07:58) 

あ、これ絶対見たいです。
一年間素敵な記事をありがとうございました。良いお年をお迎えください。
by gillman (2015-12-31 14:51) 

こんばんは。
素晴らしい映画でしたね～
物語も俳優陣の演技も見応えがありました。
今年は色々な映画に出会いましたけど、中でも心に残る1本になりました(^^)

今年もたくさんお世話になりました。
よいお年をお迎え下さいませ☆
by non_0101 (2015-12-31 22:25) 

こんばんは、、
2016年も映画楽しみです、よろしくお願いします。
ナイスなニャンコに出会えるょう、祈ってます。＾＾
by アルファルハ (2015-12-31 23:27) 

ERUNさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

これは色々な意味でおもしろい映画でした。ぜひご覧くださいませ。
SWや007におされて終わりそうになっていますよ。よかったらお早いうちに。クリムトの名画もすごくきれいです。

今年も拙ブログにお越しいただき、ERUNさんとコミュニケーションもできて楽しかったです。有難うございました。来年もよろしくお願い致します。佳いお年を！
ココより


by coco030705 (2016-01-01 22:12) 

月夜のうずのしゅげさんへ

こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
今年も拙ブログへお越しいただきありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。


by coco030705 (2016-01-01 23:22) 

gillmanさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

いつもgillmanさんのすばらしいブログで楽しませていただいて有難うございました。これからも色々な記事を楽しみにしております。特に猫ちゃんたちの記事は大好きです。これからもよろしくお願い致します。
佳いお年をお迎えくださいませ。
by coco030705 (2016-01-01 23:28) 

nonさんへ
こんばんは。nice!&コメント&TBありがとうございます♪

いつもたくさんの映画をご覧になってすごいことだと思っています。これからもnonさんのブログを楽しみにしております。よろしくお願い致します。佳いお年をお迎えくださいませ。

by coco030705 (2016-01-01 23:35) 

アルファルハさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

いつも美しい写真やイラストを見せていただき、嬉しく思っています。これからもよろしくお願い致します。かわいい猫に出会いたいものです。
佳いお年をお迎えくださいませ。
by coco030705 (2016-01-01 23:41) 

mayuさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
今年も拙ブログへお越しいただきありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。



by coco030705 (2016-01-01 23:43) 

nyonyoさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
今年も拙ブログへお越しいただきありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。

by coco030705 (2016-01-01 23:44) 

いつも頻繁に伺うわけではないのですが～
大の大のお気に入り（表現が変？）の、ブログです。
大好きです。
今年もよろしくお願いいたします。
by prin4795 (2016-01-01 23:48) 

prinさんへ
新年おめでとうございます。nice!&コメントありがとうございます♪
わぁ～、嬉しいです。♡　こんなにおっしゃってくださるの、prinさん
だけですよ。今年も宜しくお願い致します。
ココより
by coco030705 (2016-01-02 00:44) 

Inatimyさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2016-01-03 12:09) 

こんにちは。
ヘレン・ミレンも素敵でしたが若い頃を演じた女優さんもお綺麗でした。
背景を知ると絵にまた違う輝きが見えてきますね。
by キキ (2016-01-07 00:36) 

キキさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

上手い俳優さんがたくさん出演していて、面白かったですね。あのマリアの若いことを演じたのは、タチアナ・マズラニーというカナダ人の女優さんみたいですよ。演技力のある若手女優という感じですね。
あの本物の「黄金のアデーレ」を観てみたいと思いました。ニューヨークまで行かないといけませんね。（＾＾）

by coco030705 (2016-01-07 22:02) 

Taekoさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2018-09-20 21:13)