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あのこは貴族 (劇場版新作) [日本&アジア映画]

 結婚というものに対する27歳の箱入り娘、華子(門脇麦)の焦りが、うまく描かれていました。どんなに家柄や職業がよくても、人間的にいい相手とは限らないのです。岨手由貴子(そでゆきこ)監督は、これまでにかなりの受賞歴がある実力派で、面白い作品を創ったと思います。


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   左: 美紀こと水原希子 & 右: 華子こと門脇麦

 山内マリコの同名小説を原作に、同じ東京という都会に暮らしながら、全く異なる生き方をする2人の女性の物語。

 華子は結婚こそ人生の目的であり、幸福をもたらすものだと信じて疑わない。だが、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。けれども、華子は周りの勧めにより、お見合いを繰り返すのだった。


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(映画の中で華子がお見合いの時着ていた、古典柄の着物。私の好みです。)

 華子には、自分というものがない。いつも親や兄弟がすすめる服を着て、真珠のネックレスも親からの贈り物だ。家族も、お見合い疲れしてきた華子の気持ちをかんがみ、家の整形外科を継ぐ医者ではなく、違う職業でもよいとのことで相手を探してくれる。そして次のお見合いで、華子が出会った人は、青木幸一郎(高良健吾)というハンサムで話も上手い弁護士だった。幸一郎の家は、松濤の広大な庭付のお屋敷で、代々政治家を輩出している家だった。華子は初めて気に入った人に出会い、二人はめでたくゴールイン。


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       華子(門脇麦) と 幸一郎(高良健吾)

 ほんとは、ゴールインの前に、幸一郎にある女性の存在があるのがわかる。華子の友人のヴァイオリニスト逸子(石橋静河)が、彼女が演奏を披露したパーティのコンサートで知り合った時岡美紀(水原希子)だった。美紀は、幸一郎と慶應義塾大学の同期だったが、彼女は地方出身者でアルバイトを掛け持ちでしても学費が続かず、2年足らずで大学を中退していた。


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          時岡美紀こと水原希子

 美紀はアルバイトでバーやラウンジで働いていた時、お客として訪れた幸一郎とつきあうようになった。しかし美紀は、25歳のとき水商売から足を洗うことにする。「この世界では容色の衰えとともに、失うものが大きすぎる」からだ。そこで、ラウンジの客として来ていたITベンチャーCEOに頼んでその会社の社員として採用され、昼間の世界に舞い戻ることができたのだ。


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           幸一郎と美紀

 幸一郎と美紀は、恋愛関係だったがマンネリ化していた。幸一郎は美紀とは最初から結婚する気がなく、華子と婚約してもそれを美紀に知らせることもしなかった。そして美紀との関係を断ち切ろうともしないのだった。

 しかし、華子の友人の逸子は、ヴァイオリン演奏をしたパーティーでの、幸一郎と美紀の親し気な様子から、ピンときた。そして逸子は美紀にLINE交換しようと持ちかけた。彼女は美紀と華子を結婚式の前に合わせる算段だった。

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  華子(門脇麦)とヴァイオリニストの逸子(石橋静河)

 逸子がそういうセッティングをしたのは、美紀が華子と会っても、バトルにはならないと踏んだからだった。それから華子が到着して、美紀は華子と逸子に、幸一郎とは潔く縁を切ることを告げた。


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       時岡美紀(水原希子)& 平田理央(山下リオ)

 美紀は地方の高校と慶應義塾大学の同級生、平田理央から起業するので一緒にやってくれないかと、相談をうける。そして快諾するのだった。

 華子は結婚したものの、夫の幸一郎は仕事に専念し、大切な記念日も忘れている。華子が問いただしても、反応がうすい。帰宅後は疲れているのか、うたた寝ばかり。実家に帰って家族に相談するが、今は我慢のしどころといわれるだけ。ありあまる一人の時間を高層マンションの部屋で過ごすうち、華子は暗く憂鬱な気分になり、このままでは精神的にまいってしまうと思い、この結婚には向いていなかったのだと悟る。

 半年後、華子は離婚届を幸一郎に突きつけ、離婚するのだった。ようやく華子は自我に目覚める。

 華子は家を出て、ヴァイオリニストの逸子の家に居候し、逸子のマネージャー業を始めることにする。

 家というものにしばられ、ひかれたレールの上を歩いていく運命の幸一郎。素敵な女性二人を逃してしまったことは、まことに残念で不幸なことだと思う。でも幸一郎はそのことを感じていないのかもしれないが。

 反対に自分に正直に生きることを選んだ華子と、くされ縁を断ち切って、新しい道を友達と協力し合いながら進んでいく美紀は、二人とも爽やかだった。

 グレイド(階級)は違うが女性二人は、自己肯定の道を選び、これからはいい人生が広がっていくという期待感を感じながら、晴れやかな気持ちで劇場を後にした。

原題:山内マリコ作「あのこは貴族」 監督:岨手由貴子(そでゆきこ)  出演:門脇麦、 
水原希子、 高良健吾、 石橋静河、 山下リオ、 高橋ひとみetc.

2021年 日本        



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