ブータン 山の教室 [日本&アジア映画]
ブータンは、国王夫妻が来日されているご様子を、TVで観て知った国である。
王国の、ヒマラヤ山脈標高4800メートルにある実在の村ルナナを舞台に、都会から来た若い教師と村の子どもたちの交流を描いたブータン映画です。出演の村人と子どもたちは、ほとんどが地元の人たちです。こんなに爽やかな気持ちにさせてくれる映画があったでしょうか。ぜひ、多くの人に見ていただきたい作品です。
主演のかわいい女の子、ぺム・ザムちゃん(ルナナ村の住人でしろうと)とヒマラヤ山脈
ウゲン(シェラップ・ドルジ)は若い教師。彼はオーストラリアへ行くことが決まっていた。ミュージシャンになるのが夢だ。しかしある日、上司から呼び出され、ブータンで最も僻地にあるルナナ村の学校へ赴任するよう言い渡される。ウゲンは全くやる気がなかったが、あと1年間は教職を続けなくてはいけないので、仕方なく村の青年のミチュン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)に案内されて、登山のような険しい山道を登って、1週間以上かけて、ようやく村にたどり着いた。そこには勉強したいという子どもたちが、新しい先生の到着を心待ちにしていた。
最初ウゲンは、電気も紙もない土地での生活に戸惑い、現代的な暮らしから完全に切り離されたことを痛感する。持参したスマホも使えず、学校には黒板もなく、あるのは前任の教師がおいていったボロの教科書と、ちびた鉛筆だけだった。
やっと授業を始めることにしたウゲン。しかし子供たちはノートがないので、ウゲンは自分の小屋に寒さ除けとして貼ってあった紙をはずして、生徒たちにノートとして配る。子供たちは大喜びで、熱心に先生の言葉を、与えられた紙に書くのだった。
村長はそんなウゲンを歓迎し、先生として敬う。そしてお酒をすすめて、この村では最高の料理をふるまってくれる。ウゲンをこの村まで案内してくれた青年ミチュンは、村にあるものを駆使して黒板を手作りしてくれるのだった。
ミチュン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)とウゲン(シェラップ・ドルジ)
最初はここでの生活は自分には無理だ、帰りたいと村長に訴えるようなウゲンだったが、明るく純粋な子供たちの笑顔にだんだんと彼も、子供たちに勉強を教えることの喜びを感じるようになる。
そしてこのルナナの人々になくてはならないのが、ヤクという動物だ。ヤクは長い体毛を持つウシ科の動物で、標高の高い寒冷地でしか生きられない。高地牧畜民(ハイランダー)にとって、ヤクはとても大切な動物で、家族であり財産でもある。人々は、ヤクの乳でチーズを作り、正月のようなハレの日には肉を食べ、その毛でテントを織り、その糞は乾燥させて、ストーブなどの着火剤として用いる。なにしろ、紙のない所なので。
そしてもう一人の重要な登場人物が、セデュ(ケルドン・ハモ・グルン)という女性。彼女が美しい声で歌う「ヤクにささげる歌」は、ルナナの谷と山々に、響き渡るのだった。
ウゲンもセデュのこの歌が気に入り、彼女と言葉を交わすようになる。セデュはウゲンに大事なヤクを1頭くれて、ウゲンはその面倒を見て、乾燥したヤクの糞で火をつけることができた。二人の心は次第に近づいていくが、くしくもウゲンの教師としての1年が終わろうとしていた。
ウゲンは、セデュに一緒にオーストラリアへ行かないかと誘うが、彼女は「私の生きていくところはここしかない」といって、ウゲンの申し出を断る。ウゲンは村長やミチュン、そして学校で教えた生徒たちに見送られ、村を去る。
数か月後、ウゲンはオーストラリアのパブで、ギター片手に騒がしい客たちの前で英語のポピュラーソングを歌っていた。各テーブルごとにお酒を飲みながら座って談笑している客たちは、まったくウゲンのほうを向いていなかった。がっかりして演奏の手を止めたその時、ウゲンの心に響いてきたのは、あの「ヤクにささげる歌」なのだった。
本当に物質的には何もない村。だがそこには、山の精霊を敬い、また子供たちに教育を授けてくれる教師を敬う村人たちがいた。そしてブータンの大自然と純粋な子供たちの笑顔があり、ヤクを慈しみその恩恵を理解し暮らす人々がいる。
今のコロナ禍で疲れ果てた私たちの心にしみいる映画だと思う。「ヤクにささげる歌」を歌うセデュを演じたケルドン・ハモ・グルンは、ブータンのカレッジの学生で音楽家。多くの歌をプロデュースしている人だそうだ。彼女の歌声を聴いたら、きっと心が澄み渡っていくような気持になるだろう。
今、私は色々なものに囲まれて暮らしていて、それなのにまだ新しいもの便利なものが欲しくなる。この映画のルナナ村には何もない。けれども人々は山の精霊を敬い、年上の人を尊敬する。そんな人間の、最も基本的な心の美しさと欲のなさに気持ちがホッとした。都会に暮らす人間にはないものを、ルナナ村の住民は持っていて、彼らの暮らしを豊かなものにしているのかもしれないと思った。
ブータン出身のパオ・チョニン・ドルジ監督は、本作が初メガホンとなる。この作品は、世界中たくさんの映画祭で上映され、様々な賞を受賞している。
「ブータン山の教室」予告編
原題:Lunana: A Yak in the Classroom 監督:パオ・チョニン・ドルジ 出演:ぺム・ザムちゃん、 シェラップ・ドルジ、 ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ、 ケルドン・ハモ・グルン、 ルナナ村の住人の方々
2019年製作 ブータン
王国の、ヒマラヤ山脈標高4800メートルにある実在の村ルナナを舞台に、都会から来た若い教師と村の子どもたちの交流を描いたブータン映画です。出演の村人と子どもたちは、ほとんどが地元の人たちです。こんなに爽やかな気持ちにさせてくれる映画があったでしょうか。ぜひ、多くの人に見ていただきたい作品です。
主演のかわいい女の子、ぺム・ザムちゃん(ルナナ村の住人でしろうと)とヒマラヤ山脈
ウゲン(シェラップ・ドルジ)は若い教師。彼はオーストラリアへ行くことが決まっていた。ミュージシャンになるのが夢だ。しかしある日、上司から呼び出され、ブータンで最も僻地にあるルナナ村の学校へ赴任するよう言い渡される。ウゲンは全くやる気がなかったが、あと1年間は教職を続けなくてはいけないので、仕方なく村の青年のミチュン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)に案内されて、登山のような険しい山道を登って、1週間以上かけて、ようやく村にたどり着いた。そこには勉強したいという子どもたちが、新しい先生の到着を心待ちにしていた。
最初ウゲンは、電気も紙もない土地での生活に戸惑い、現代的な暮らしから完全に切り離されたことを痛感する。持参したスマホも使えず、学校には黒板もなく、あるのは前任の教師がおいていったボロの教科書と、ちびた鉛筆だけだった。
やっと授業を始めることにしたウゲン。しかし子供たちはノートがないので、ウゲンは自分の小屋に寒さ除けとして貼ってあった紙をはずして、生徒たちにノートとして配る。子供たちは大喜びで、熱心に先生の言葉を、与えられた紙に書くのだった。
村長はそんなウゲンを歓迎し、先生として敬う。そしてお酒をすすめて、この村では最高の料理をふるまってくれる。ウゲンをこの村まで案内してくれた青年ミチュンは、村にあるものを駆使して黒板を手作りしてくれるのだった。
ミチュン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)とウゲン(シェラップ・ドルジ)
最初はここでの生活は自分には無理だ、帰りたいと村長に訴えるようなウゲンだったが、明るく純粋な子供たちの笑顔にだんだんと彼も、子供たちに勉強を教えることの喜びを感じるようになる。
そしてこのルナナの人々になくてはならないのが、ヤクという動物だ。ヤクは長い体毛を持つウシ科の動物で、標高の高い寒冷地でしか生きられない。高地牧畜民(ハイランダー)にとって、ヤクはとても大切な動物で、家族であり財産でもある。人々は、ヤクの乳でチーズを作り、正月のようなハレの日には肉を食べ、その毛でテントを織り、その糞は乾燥させて、ストーブなどの着火剤として用いる。なにしろ、紙のない所なので。
そしてもう一人の重要な登場人物が、セデュ(ケルドン・ハモ・グルン)という女性。彼女が美しい声で歌う「ヤクにささげる歌」は、ルナナの谷と山々に、響き渡るのだった。
ウゲンもセデュのこの歌が気に入り、彼女と言葉を交わすようになる。セデュはウゲンに大事なヤクを1頭くれて、ウゲンはその面倒を見て、乾燥したヤクの糞で火をつけることができた。二人の心は次第に近づいていくが、くしくもウゲンの教師としての1年が終わろうとしていた。
ウゲンは、セデュに一緒にオーストラリアへ行かないかと誘うが、彼女は「私の生きていくところはここしかない」といって、ウゲンの申し出を断る。ウゲンは村長やミチュン、そして学校で教えた生徒たちに見送られ、村を去る。
数か月後、ウゲンはオーストラリアのパブで、ギター片手に騒がしい客たちの前で英語のポピュラーソングを歌っていた。各テーブルごとにお酒を飲みながら座って談笑している客たちは、まったくウゲンのほうを向いていなかった。がっかりして演奏の手を止めたその時、ウゲンの心に響いてきたのは、あの「ヤクにささげる歌」なのだった。
本当に物質的には何もない村。だがそこには、山の精霊を敬い、また子供たちに教育を授けてくれる教師を敬う村人たちがいた。そしてブータンの大自然と純粋な子供たちの笑顔があり、ヤクを慈しみその恩恵を理解し暮らす人々がいる。
今のコロナ禍で疲れ果てた私たちの心にしみいる映画だと思う。「ヤクにささげる歌」を歌うセデュを演じたケルドン・ハモ・グルンは、ブータンのカレッジの学生で音楽家。多くの歌をプロデュースしている人だそうだ。彼女の歌声を聴いたら、きっと心が澄み渡っていくような気持になるだろう。
今、私は色々なものに囲まれて暮らしていて、それなのにまだ新しいもの便利なものが欲しくなる。この映画のルナナ村には何もない。けれども人々は山の精霊を敬い、年上の人を尊敬する。そんな人間の、最も基本的な心の美しさと欲のなさに気持ちがホッとした。都会に暮らす人間にはないものを、ルナナ村の住民は持っていて、彼らの暮らしを豊かなものにしているのかもしれないと思った。
ブータン出身のパオ・チョニン・ドルジ監督は、本作が初メガホンとなる。この作品は、世界中たくさんの映画祭で上映され、様々な賞を受賞している。
「ブータン山の教室」予告編
原題:Lunana: A Yak in the Classroom 監督:パオ・チョニン・ドルジ 出演:ぺム・ザムちゃん、 シェラップ・ドルジ、 ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ、 ケルドン・ハモ・グルン、 ルナナ村の住人の方々
2019年製作 ブータン