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坂東玉三郎特別舞踏公演感想文(2021.8.24) [演劇]

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 坂東玉三郎「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」の岩長姫(実はヤマタノオロチ)

 先日、久しぶりに南座で玉三郎の舞踏公演を観ました。「鶴亀(つるかめ)」と「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」でした。

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     坂東玉三郎 女帝

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     女帝と鶴と亀

 「鶴亀」は、能の「鶴亀」の詞章をそのまま長唄に移した舞踏です。歌舞伎の中では祝儀物の代表作です。私は長唄を習っておりますので、耳慣れた曲でしたが、舞台は初めて見ました。

 女帝(玉三郎)にお目にかかれること喜び、万民が喜びの声をあげる中、金銀の砂が敷き詰められた宮中の庭に、鶴(中村歌之助)と亀(中村福之助)が現れる。そして女帝は、鶴と亀に吉例の舞を舞うように命ずる。
 女帝も、唐の玄宗皇帝が夢にみた、月にある月宮殿で天人が舞うという舞を舞い始める。更に、国土安穏・五穀豊穣を願って、めでたく舞い納めた女帝は、廷臣や従者を伴って、長生殿へと戻るのであった。能楽も演奏され、格調高く典雅な舞踏です。

 久しぶりに玉三郎丈の舞台を観ることができ、嬉しく思いました。相変わらずきれいです。ただ、この舞踏は女帝役の踊りはあまり動きがなく上品に、ゆっくりと動くだけだったので、玉三郎さんの踊りを観に来た者としては、ちょっと物足りなかったです。

 次の「日本振袖始」は、近松門左衛門による神代物の作品。私は文楽で観ましたが、歌舞伎は初めてでした。

 出雲の国では、簸(ひ)の川に住みついた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)(玉三郎)に毎年人身御供をさしだしていた。今年は美しい稲田姫(河合雪之丞)が選ばれた。夜も更けたころ、姿を現したのは、大蛇の化身である岩長姫(玉三郎)。彼女は醜く生まれたが、綺麗な女性を人身御供にしていく。(舞台上の玉三郎は美しい。最初の公演チラシ写真参考)女が女の姫を食べるという実に退廃的な作風であるが、これはまあ、神話やおとぎ話のようなものである。

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ヤマタノオロチに変身した岩長姫

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ヤマタノオロチの八つの頭を表現するために、玉三郎さんと分身の役者がそろっているところだが、これは写真なので、交代の役者が入っているため9名になっている。

 ヤマタノオロチの踊りは、オロチが8頭の身体を持っているので、それを表すために玉三郎さんと他の7人の役者が連なって踊るので、迫力があった。

 岩長姫はお供えの好物の酒を飲んで酩酊し、ついに稲田姫をも飲み込む。実は、この酒は、素戔嗚尊(スサノオノミコト)(中村橋之助)が用意した毒酒だった。
 スサノオノミコトは、大蛇に奪われた十握の宝剣と稲田姫を、取り戻すために策を練ったのだ。そしてスサノオと大蛇の一騎打ちが繰り広げられるのであった。

 オロチは、文楽では大蛇の人形だったが、歌舞伎では玉三郎丈と、中村福之助、歌之助、その他の役者で大蛇の分身を演じていた。揃いの衣装、顔の隈取も同じだった。なかなか面白い演出だなと思いました。けれど、顔が隈取で怖いオロチになっているので、玉三郎丈の美しい顔が拝めず、これも残念だった。踊りは申し分なしだったが。幕が引けてから、カーテンコールが二度あった。

 今、玉三郎さんは若手歌舞伎俳優に芸を伝えることに一生懸命取り組んでいる。今回も、芝翫の息子の橋之助、福之助、歌之助と共演した。これまでも、海老蔵、菊之助、壱太郎(かずたろう)などたくさんの若手を指導してきた。
 「芸は自分の肉体が滅んだ時にきえてしまう」ということを自覚して、歌舞伎界のために、年齢と闘いながら、生きている役者なのである。これからも、玉三郎丈を応援していくつもりです。

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        坂東玉三郎丈


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芝翫の三兄弟[(橋之助、福之助、歌之助)順不同]

 
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坂東玉三郎初春特別舞踏公演 [演劇]

 大阪松竹座での坂東玉三郎の舞踏公演です。チケットを取るのが少し遅れたら、3等B席しか取れませんでした。でも観られるだけでも嬉しいので、オペラグラスを片手に松竹座へ。劇場は満席状態でした。

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 大阪松竹座の正面玄関です。ミナミの道頓堀にあります。


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 坂東玉三郎の手になる書です。きちんとしたきれいな字ですね。玉三郎の性格が表れているようです。


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 ↑の書を凧にしたものが、ロビーに飾られていました。


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 獅子舞の獅子がロビーを巡って、人々の頭を噛んでくれます。私も噛んでもらいました。そうすると今年良いことがあるようですよ。

 中村七之助が共演です。最初は「村松風二人汐汲(むらまつかぜににんしおくみ)」です。ストーリーは、須磨の浦に流された在原行平が、かの地で契りを交わしたという海女の姉妹・松風と村雨。行平が残した烏帽子と狩衣を身にまといながら、二人は行平を偲んで踊ります。謡曲『松風』を素材にした歌舞伎舞踊『汐汲』。今回は踊り手を二人にした華やかな趣向で、玉三郎と七之助の美の競演です。

 二番目は「操り三番叟(あやつりさんばそう)」です。ストーリーは、翁と千歳が現れ、厳かに舞い始めます。翁と千歳が舞い納めてその場を去ると、後見が箱から糸操りの三番叟の人形を運び出し、糸を操ると三番叟が動き出します。三番叟は五穀豊穣を祈り、舞い納めるのでした。三番叟物のなかでも、人気が高くユーモア溢れる一幕を猿弥の三番叟、笑三郎の千歳、月乃助の翁、薪車の後見という配役です。


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 三番目は「二人藤娘(ににんふじむすめ)」です。松の大木のもとに、塗笠をかぶり藤の枝を手にした愛らしい娘姿の藤の精が現れ、男心のつれなさを名所近江八景によそえて踊ります。そして娘の恋を艶やかに踊り、松を好きな男にみたてて差しつ差されつ盃を交わすうち、ほろ酔いの姿を見せます。続いて気分を変えるように賑やかな手踊りとなりますが、やがて日も暮れ、いつしかその姿を消すのでした。
 華やかで可憐な舞踊。今回は踊り手を玉三郎と七之助の二人にした新たな趣向でみせてくれます。

 最後は、「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」お染久松の情話を江戸に移し、美しい女方の目まぐるしい早替りと、土手のお六で悪婆と呼ばれる南北独自の女方芸を見せるのが趣向です。『道行』では、常磐津舞踊の形を取りながら、次々に早替りで見せ、登場人物の運命を綴っていきます。最後にお六が出て華やかな所作立てとなります。今回は土手のお六に玉三郎。お光、お染、久松の三役を七之助が早替りで演じます。ここでようやく七之助がセリフをしゃべり、歌舞伎という感じがしました。

 とても美しく初春にふさわしい公演でした。でも美しいだけのものって、玉三郎さんの魅力を半分くらいしか表現していないと思い、物足りなさが残りました。美しい姿は確かにすばらしいのですが、玉三郎さんには激しい気性の役や踊り以外の芸を見せる役や、人間でない者の役なども結構似合うと思います。そういう役の踊りも、松竹さんが今回プログラムに取り入れてくださったら、もっとメリハリが利いて充実したのにと思いました。もちろん、舞踏公演なのでなかなか難しいのだろうとは思いますが。


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 例えば「京鹿子娘道成寺」の美しい白拍子花子が実は、清姫の化身で最後は蛇体となって道成寺の鐘のてっぺんに登り衣装は蛇を表わす白の鱗っぽいものに引き抜かれ、髪も乱れた姿で幕となります。この幕切れは迫力があってとてもおもしろいです。


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 また阿古屋は典型的な傾城の扮装と、豪華な打掛とまないた帯がすばらしく、玉三郎さんが舞台上で実際に琴、三味線、胡弓を演奏します。とてもいい演奏です。芝居だけでも大変なのに演奏までこなすのは、凄まじい努力だと思います。


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 泉鏡花の世界。「夜叉が池」は映画にもなりました。玉三郎さんは夜叉が池に住む龍神・白雪姫と村娘百合の二役。村人が迷信を信じて、雨乞いのために百合をいけにえにしようとして、反対に龍神に洪水を起こされ滅ぼされるという人間の愚かさを描いたお話。「高野聖」は旅の僧が行脚のため飛騨の山越えをしたとき、妖女に出会いあやうく馬にされそうになるお話。(ポスターの僧は海老蔵)

 今月号の婦人公論表紙は玉三郎さんです。毎年1月はそうなんで、この号は必ず買います。その中にインタビューがありました。それによると、玉三郎さんの今一番思っていらっしゃることは、後輩への芸の継承だそうです。だから歌舞伎の色々な若手と組んで教えていらっしゃいますよね。あの美しさを保つために、アスリートと同じくらいの体力を維持しているそうです。女形の衣装やかつらはすごく重い物ですから。
 実のお兄さんがプロのダイバーなので、休みのときは一緒に南の海へ行かれるそうですよ。それほど鍛えていらっしゃる玉三郎さんでも、やはり身体のあちこちが動かなくなったり、痛くなったりされるとのこと。身体を気遣いながら、いつまでもあの美しくすばらしい舞台を続けてほしいものです。今年は歌舞伎や他の舞台でどんな玉三郎さんが観られるか、とても楽しみです。


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ミュージカル「レ・ミゼラブル」 [演劇]

 新しくなったフェスティバルホールでミュージカル「レ・ミゼラブル」を観た。舞台セットが斬新ですばらしかった。後ろのスクリーンに風景が映し出され、それが場面ごとに変わって映画的だった。


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ストーリー:19世紀のフランス。1本のパンを盗んだ罪で投獄され、19年間を監獄の中で生きたジャン・バルジャン。仮出獄した彼は再び盗みを働いてしまうが、司教の優しさに触れ、心を入れ替えると決意する。過去を捨て、マドレーヌと名前も変えながらも正しくあろうと自らを律して生きていくバルジャン。やがて市長にまで上り詰めるが、法に忠誠を誓うジャベール警部に自らの正体を見破られ逃亡を余儀なくされる。その一方で、薄幸の女性ファンテーヌから託された彼女の娘コゼットに深い愛情を注ぎ、美しい女性へと育てていくバルジャンだったが…。

 キャストは激戦のオーディションを勝ち抜いたフレッシュなメンバーで、日替わりでダブルあるいはトリプルキャストだった。私が観た9月8日はジャン・バルジャンが吉原光夫さん、ジャベールが福井晶一さんだった。この二人は特に声量があって、高音の響きもよく迫力があった。エポニーヌの昆夏美さんも上手いと思った。ファンテーヌは知念里奈さんだった。彼女だけ声の出し方が他の俳優さんとは違っていたような感じがした。他の人はオペラ歌手的な、お腹から声が出ているという風だったが、知念さんはのどで声を出しているような気がした。といっても、私は専門家ではないのでよくわからないのだが。その他、マダム・テナルディエに森公美子さんが扮していて、コミカルで楽しかった。これは映画では、ヘレナボナム・カーターが演じていた役である。

 舞台装置も大道具をすばやく出し入れし、うまい場面転換を図っていた。それと背景にスクリーンが貼られていて、そこに場面ごとの風景が映し出されてとても美しかった。まるで映画のような感じだった。
 冒頭ジャン・バルジャンが罪人として船の中で奴隷のように船をこぐシーンは、スクリーンに帆船のマストが映し出され、その前でジャン・バルジャンと囚人たちが櫓をもって船を漕ぐので、とても臨場感があった。そして後半のジャベールが自責の念にかられて橋から身投げする場面は、後ろのスクリーンが川の渦を巻く濁流に変わって、ジャベールが空中でもがくようなポーズをするのが、まるで川へ落ちて行くかのように見えて、うまく表現していると感心した。

 俳優さんたちの動きがすばやく、ダンスもよくそろっていた。コーラスも主旋律のメロディーの部分を歌う人と、 コーラスパートがよく響きあい、歌に深みがでて、気持ちよく聴くことができた。

 やはり「レ・ミゼラブル」はなんといっても曲そのものがいい。名曲ぞろいである。最後の「民衆の歌」は映画と同じバリケードの前で出演者全員の大合唱だった。感激して思わず涙がこぼれそうになった。生の舞台の迫力と熱さを堪能することができた。

 新しいフェスティバルホールは、とても豪華でいい劇場に生まれ変わっていた。座席も観やすくなっていてよかったと思う。建物は「中之島フェスティバルタワー」という名称で、朝日新聞社と同じ建物で、向かって右がフェスティバルホール、左が朝日新聞社と朝日カルチャーセンターなどである。2階にはレストラン・アラスカをはじめとする有名店が軒を連ねている。地下にもカジュアルレストランが充実してる。例えば、イギリスのビールが飲めるパブなどがある。また37階にはレストラン「ラ・フェットひらまつ」が入っている。ここは東京の有名店なのだそうだが、先日友人がランチにいったところ、お肉が小さかったので不満だったとのこと。たぶん量より質の高級店なのだろう。

 ところでミュージカルのほうは残念ながらフェスティバルホールのチケットは全てsold-outなのだそうだ。またの機会にぜひ。

演出:ローレンス・コナー/ジェームス・パウエル
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東京見物(2)2013.7 [演劇]

 東京へ来て2日目、いよいよ待望の歌舞伎座での杮茸落昼の部「加賀見山再岩藤(骨寄せの岩藤)」鑑賞です。


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 新しい歌舞伎座に到着してまだ開場までに1時間あったので、早速地下の売場を見に行きました。ここはお土産コーナーとお弁当売場とカフェがあって、大勢の人でにぎわっていました。私は「まい泉」のお弁当を買いました。これは小さいヒレかつサンドに海苔巻、稲荷寿司等がちまちまと入っていて、お得感いっぱいのお弁当でした。

 それから歌舞伎座5階のお庭を見に行きました。歌舞伎座の屋根の上につくられた庭園ですが、石灯籠などがあるだけでなんということはなし。建物の中には「歌舞伎座ギャラリー」がありました。入場料500円で歌舞伎のチケットを持っている人は400円です。でも歌舞伎を観る人はタダにしてもよさそうですけれど。
 展示は衣装や小道具類で面白かったです。特に色々な効果音を出せる道具をさわれるところが良かったと思います。例えば、波の音を作り出す長方形の細長い篭に小豆が入れてあるお道具など。これを左右にゆっくり斜めにすると、小豆が篭の底を移動して、ほんとうに波のような音が聞こえます。

 そうこうしているうちにようやくお芝居が始まりました。お席は1階の花道の外側です。チケットをとるのが遅れたので、こんな上等なお席しか取れませんでした。清水の舞台から飛び降りるつもりでエイヤッとwebで買いました。

 出し物は「加賀見山再岩藤(骨寄せの岩藤)」で、夏にふさわしい怪談です。それを若手の役者たちが演じるので花形歌舞伎といいます。染五郎、松緑、菊之助、愛之助、壱太郎などが出演していました。

 加賀百万石のお家騒動を題材とした『鏡山旧錦絵』では、召使いのお初が主人の中老尾上を自害へと追いやった局岩藤を討ち、その功により二代目尾上に取り立てられます。この作品はその後日譚で、野晒しにされていた岩藤の骨が寄せ集まって岩藤の亡霊が現れ、再び恨みを晴らそうとすることから、〝骨寄せの岩藤(こつよせのいわふじ)〟と通称されています。岩藤の満開の桜の中での舞台上の宙乗りや、草履打ち、鳥井又助の切腹など、怪談物としての見せ場と生世話の味とを巧みに絡ませた黙阿弥らしい趣向に富んだ作品です。
 おもしろいのは、土手に打ち捨てられた岩藤のバラバラになった骨が仕掛けでだんだんと寄って、骸骨になる場面。そして岩藤の亡霊が満開の桜の花の中を宙乗りでふわふわと移動するところ。これは話の筋とは関係なく、歌舞伎の美しいところを観客に見せ、喜ばせようという趣向です。この場面があるからこそ、ちょっとおどろおどろしい話も口直しで面白く観れるというものです。

 菊之助は結婚して私生活が充実しているのでしょう、輝くように美しかったです。松緑はすごくやせて顔まで変わってしまったような気がしました。前はぽっちゃりしていてあまり歌舞伎役者っぽくないお顔でしたが。ダイエットしたのでしょうか。でもやせ過ぎて、立役の時はちょっと軽い感じにも見えたかもしれません。染五郎はこの中では一番上なので、なんとなく貫禄がでてきたように思いました。女形の中でも壱太郎の美しさが目を惹きました。これから注目していこうと思う役者の1人です。それから片岡愛之助もがんばっていました。彼は片岡仁左衛門のお兄さんである片岡秀太郎の養子です。本当のご両親はしろうとさんです。彼のように、歌舞伎の家系以外からもどんどんこういう人が出てきてほしいものです。そういえば坂東玉三郎も元は一般家庭の子供だったんです。それが幼少期に病気で足がほんの少しマヒしたので、ご両親が踊りを習わせたところ、すごい才能があるのがわかって、森田勘彌の養子となったのです。当代最高の女形だと思います。

 **夜の部「東海道四谷怪談」をご覧になったTaekoさんの記事はこちらです。

 とにかく歌舞伎のほうは色々おもしろい趣向があって、大満足でした。おみやげもたくさん買いました。

 さて、今回は東京ブックマークという旅行プラン(JTB)を使いました。これだと、宿泊と新幹線料金込で安いのです。しかし難は行きが早くて帰りが遅いことです。そしてこの日も帰りの新幹線が夜の8時ジャストでした。歌舞伎が終わってもかなり時間があったので、以前から行きたかった「三菱一号館美術館」へ行きました。
 
 ここは赤煉瓦造りの美術館で、たいへんすばらしい建物でした。今は「浮世絵Floating World」という展覧会を催しています。非常に多くの作品があり、とても見応えのある展覧会でした。3期に分けて展示をしています。現在の作品展は以下の通りです。
 「浮世絵においてはじめ背景でしかなかった風景表現は、天保年間(1830-44)に葛飾北斎の《冨嶽三十六景》や歌川広重《東海道五拾参次之内》といったシリーズの作品によって、浮世絵の主要なジャンルとして確立されます。この背景には、名所図会によって各地の風物が紹介され、19世紀初頭には十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』がヒットするなどして旅や行楽に対する関心が高まっていたことがありました。 また透視図法による遠近描写や、ぼかしを使った摺りの技法が進歩するなど浮世絵の技術革新も見逃すことができません。 これらによって四季折々の風情をともなった名所と風俗が描き出されることになります。」(Webサイトより)


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 8/11(日)まではかの有名な北斎の「凱風快晴」(赤富士)と「神奈川沖浪裏」が観られます。その後13(火)から展示替えです。すばらしい浮世絵の数々をお楽しみください。


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美術館のカフェ

 約1時間半ほどかけて展覧会を観た後、この美術館のカフェに行きました。ここもレトロな雰囲気がなんともいえないほど素敵なカフェでした。ここで夕食にアボカドとマグロのサラダ、生ビール、有頭海老のスパゲティアメリケーヌソースをゆっくり楽しみました。


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 楽しかった東京見物も終わり、東京駅からのぞみで帰路につきました。また秋にでも別の友達に会いに東京へ行こうと思っています。



 

 
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歌舞伎「團菊祭」(夜の部) 大阪松竹座 (2010.5月) [演劇]

團菊祭(夜の部) 大阪松竹座5月大歌舞伎

 大阪道頓堀松竹座
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 今年は歌舞伎座建て替えのため、恒例の「團菊祭」は、5月に大阪松竹座で行われていました。先日歌舞伎仲間の友人から声がかかって、一等席が安く手に入ったので行かないかとのこと。もちろん、二つ返事でご一緒させていただきました。いつもは3階席などでみる事が多いのですが、やっぱり一等席はいいですね。最高です。

 最初の出し物は「十種香」です。「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」は全五段の義太夫狂言で、「十種香」はその中の四段目にあたります。
 武田信玄の嫡男・勝頼は、足利将軍暗殺の真犯人を探し出すことができず、許嫁である長尾謙信の息女・八重垣姫(時蔵)と一度も顔を合わせることのないまま切腹。八重垣姫が十種の香を焚いて勝頼の菩提を弔っていると、勝頼と瓜二つの花作りの簑作が現れます。驚いた八重垣姫は腰元の濡衣(菊之助)に恋の仲立ちを頼みますが、実はこの男こそ本物の勝頼(錦之助)で、切腹した勝頼は、身代わりとなった濡衣の夫だったのです。八重垣姫が勝頼への思いを滔々と語るところへ、館の主・長尾謙信(團蔵)が現れ、簑作へ出発を促します。すでに簑作の正体を覚っていた謙信は、勝頼を亡き者にしようと追手を差し向けるのでした。
 全五段の義太夫狂言『本朝廿四孝』の四段目に当たる「十種香」は、錦絵のような華麗な美が堪能できる名作。深窓の姫君である八重垣姫は歌舞伎の"三姫"の一つに数えられる華やかな大役です。

 八重垣姫は時蔵でしたが、やはりちょっと年をとったかなという感じでした。腰元濡衣の菊之助がとてもきれいでした。ストーリーの展開が遅く、セリフが長いので眠かったです。


 次は、「京人形(きょうにんぎょう)」という舞踊劇です。
 廓で見初めた美しい傾城に生き写しの京人形(菊之助)を彫り上げた名匠・左甚五郎(三津五郎)が、それを相手に酒宴の真似事を始めるところ、不思議なことに人形がひとりでに動き出します。女の魂と言われる鏡を人形の懐に入れると、しとやかな女らしい動きに、鏡が懐から落ちると、人形は元の荒々しい動きに戻ります。

 京人形の菊之助の美しさに見惚れました。今が旬の役者ですね。京人形は懐に鏡を入れているのですが、それがちょっとした拍子に滑り落ちてしまいます。そうすると女形の踊りから立役の踊りに変わります。その一瞬の変化がおもしろかったです。とにかく美しいの一言です。
 三津五郎扮する左甚五郎も素敵でした。菊之助との踊りもよかったし、最後に大工姿の捕手たちを相手に、三津五郎が大工道具を使って、立廻りを見せるのですが、それが楽しく、三津五郎の踊りの上手さを堪能できました。


 最後は河竹黙阿弥の代表作、「髪結新三(かみゆいしんざ)」です。
 材木屋白子屋では、一人娘お熊(梅枝)の縁談がまとまり、結納の品が取り交わされますが、お熊は手代の忠七(時蔵)と恋仲であるため、縁談を了承しません。それを聞いていた小悪党の髪結新三(菊五郎)は、忠七にお熊との駆け落ちをそそのかした上、途中で忠七を蹴倒してお熊を監禁し、身代金をせしめようと企みます。騙されたことに気づき面目なさに大川に身投げをしようとする忠七を、通りかかった侠客の弥太五郎源七(團十郎)が助けます。
源七は白子屋からの依頼で、新三(菊五郎)と下剃勝奴(菊之助)が住む長屋を訪れ、お熊を取り戻そうとしますが、逆に新三にやり込められてしまいます。次に家主の長兵衛(三津五郎)が乗り出し、老猾な掛け合いでお熊を救い出しますが...。
 
 菊五郎と菊之助親子の競演で、音羽屋の家の芸を楽しみました。二人とも立役です。菊之助は女形から一変して、ヤクザな若者を立役で演じます。それもまた男前でかっこよかったです。この親子は女形と立役の両方を演じることが出来る役者です。あまりたくさんはいませんが、貴重な存在だと思います。
 髪結新三はほんとうの悪党です。それを侠客の源七親分が説得にいきますが、喧嘩になって源七は腹を立てて帰ってしまいます。ここは團菊の二人芝居です。やはり二人とも貫禄がありますね。
 そのあとで現れるのが家主の長兵衛で、三津五郎が扮しています。新三と長兵衛の掛け合いがとてもおもしろく、長丁場をまったく飽きさせることなく演じきります。すばらしい芝居でした。
 小道具に初鰹の刺身が出てきたり、ほととぎすの鳴き声がしたり、季節感あふれる舞台でした。江戸の庶民の生活を垣間見ることができ、セリフも威勢がよく、江戸歌舞伎の粋を存分に味わうことが出来ました。

 團菊祭を関西で見るのは初めてでしたが、江戸歌舞伎と上方歌舞伎の違いを感じました。菊五郎、團十郎の大御所の芝居はもちろんのこと、時蔵、三津五郎というベテランの上手さ、そしてなによりも菊之助の美しさを堪能でき、楽しい一夜でした。

 次回の松竹座は7月大歌舞伎です。↓は、7月大歌舞伎恒例の「船乗り込み」です。大阪の淀屋橋から道頓堀まで、出演者が船に乗り込んで、水路を行きます。橋の上から見ていたら、役者さんたちが手を振ってくれます。今年も楽しみです。

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NINAGAWA 十二夜 [演劇]

 久しぶりに松竹座で観てきました。主役の菊之助の早変わり(一人二役のため)、歌舞伎と現代劇を織り交ぜたような舞台装置、共演者が豪華だったことなど、とても楽しめた舞台でした。

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 双子の兄妹・斯波主膳之助(しばしゅぜんのすけ)と琵琶姫(びわひめ)(菊之助の早変わりで二役)は、嵐のために遭難。琵琶姫は獅子丸(ししまる)と名乗り、大篠左大臣(おおしののさだいじん)(錦之助)に小姓として奉公する。

 琵琶姫が奉公した左大臣は織笛姫(おりぶえひめ)(時蔵)という公家の姫君に惚れている。織笛姫に相手にされない左大臣は、獅子丸(琵琶姫)に恋の使いを命じるが、獅子丸を女と知らぬ織笛姫は獅子丸に一目惚れ。しかし、(琵琶姫)は左大臣に密かな恋心を抱いていた。

 一方、洞院鐘道(とういんかねみち)(左團次)は、姪の織笛姫と安藤英竹(あんどうえいちく)(かん雀)を添わせようと画策。織笛姫の居候同然の身の上である洞院を、目の敵にしているのは織笛姫のもとで働いている丸尾坊太夫(まるおぼうたゆう)(菊五郎)。坊太夫は、主人の織笛姫を慕っていた。これを知った洞院や安藤は、腰元の麻阿(まあ)(亀治郎)や捨助(すてすけ)(菊五郎)を仲間に引き入れ、織笛姫が書いたようにみせかけた偽の恋文使って、坊太夫の恋心を弄ぶ。そうとは知らぬ坊太夫は、すっかり洞院たちの企みに乗せられてしまう。

 そんな中、九死に一生を得て、左大臣の屋敷へと向かう琵琶姫の兄、主膳之助は織笛姫と出会う。主膳之助を獅子丸と思い込む織笛姫が、その思いを打ち明けるところに、左大臣や獅子丸が現れて…。さて、互いにもつれた恋の行方は……。


 蜷川さんの演出なので、もっと現代的な舞台になっているのかと思ったのですが、歌舞伎の様式美を崩すことなく現代的な要素も取り入れていました。特に、客席がうつるように、何場面かは舞台のバックが鏡のようなものになっているのがおもしろかったです。このお蔭で、3階席で観ていた私も、役者さんが花道から出て歩いてくる様子を見ることができました。

 幕開けに、満開の枝垂桜の大木の下に、クラシックな洋装の子供が3人現れ、チェンバロの演奏に合わせてイギリスの昔っぽい歌を歌うところが、本来の歌舞伎にはなく、シェイクスピアを髣髴とさせる、蜷川さんならではの演出でした。

 役者は、菊之助をはじめ、菊五郎、時蔵、段四郎、左團次、亀治郎、かん雀などすばらしいメンバーでした。菊之助は今を盛りの美しさに加え、役者としての実力も伴ってきたように思います。またワキで出演した亀治郎も女形で、気の強い腰元の役で、コミカルさを存分に演じていて、舞台を盛り上げていました。

 観終わって、歌舞伎の様式美のすばらしさを再認識しました。波の絵を描いた布を、人間が動かして静かな海や荒れ狂う海を表現する有様。早変りの演出。衣裳はあんなにたくさんの色を使っているのに、それがまったくけんかしないで華やかさを演出している様子。大道具、小道具のおもしろさ。花道での観客と近距離での芝居、独特の化粧や台詞回しなど。どれをとっても一朝一夕には創れないものです。これこそ伝統の力なのかもしれません。これからも歌舞伎を楽しみ、そして守っていきたいものです。

 「NINAGAWA 十二夜」は今年の春、シェイクスピアの本場ロンドンでの公演で、スタンディングオベーションをあびたとのこと。それもうなずけます。いいものはやはり誰が観てもいいのだと思います。もしお時間があればぜひ、ご覧になってください。

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吉例顔見世興行 2008.12  [演劇]

 今年も、恒例の京都南座での顔見世興行に行ってきた。今年は、玉三郎、仁左衛門、吉右衛門、海老蔵という最高の役者が揃って、すばらしい舞台だった。

第一 正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)

出演:片岡愛之助、 片岡孝太郎

 父の敵を討とうと血気にはやる曽我五郎時致が、鎧をひっさげ駆け出すところ、女ながらも力自慢の舞鶴が鎧の草摺を掴み引き止めます。勇ましい両者の“引き事”が見ものの舞踊劇です。曽我五郎に愛之助、舞鶴に孝太郎という花形の二人で華やかに幕を開けます。

 片岡家の義理の兄弟の競演である。愛之助は、片岡秀太郎の養子、孝太郎は仁左衛門の長男である。愛之助は見た目が仁左衛門の若かりしころを髣髴とさせる。セリフも、仁左衛門から手ほどきを受けているので、よく似ている。孝太郎は踊りがしっかりしているので、見ていて安心感がある。衣裳や舞台装置が豪華で、顔見世にふさわしい幕開けである。


第二 八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)

出演:片岡我当、 片岡愛之助、 片岡進之介、 片岡秀太郎

 主君小田春永の嫡孫・春若の代理として上使と会うため、佐藤正清は北畠春雄の館を訪れました。その帰り、嫁の雛衣を伴う船上で、正清は寛いだ様子を見せますが、実は北畠の館で跡目争いの計略により、毒酒を飲んでいたのでした。平然を保つ正清の元に、北畠の使者が迫ります--。十三世仁左衛門ゆかりの名舞台を、我當の佐藤正清、秀太郎の雛衣という配役。

 これは、舞台に大きな船がすえつけられ、その船上での芝居である。それだけでおもしろく、後半に回り舞台で船が回転するので、違った角度からも楽しめて、飽きない芝居だった。


第三 藤娘(ふじむすめ)

出演: 坂田藤十郎

 松の古木に絡みついた藤の花の間から、藤の枝を手にした美しい藤の精が現れます。近江八景に事を寄せ、恋する娘の気持ちを踊りに託します。女方舞踊の代表作の一つで、藤十郎の藤の精は、襲名後初めての上演となります。

 この踊りは、色々な役者で見ているが、それぞれに個性がちがって楽しめる。最初は真っ暗で何も見えないところから幕が開き、きの音(ね)とともに舞台がパッと明るくなる。そこは藤の花が舞台一面に天井からさがっていて、すばらしく美しい。その中央に太い松の古木がある。そこから藤十郎扮する藤の精が藤の一枝を肩にかついで出てくる。そして踊りが始まるのだが、途中3度くらい、ぶっかえり(衣裳が瞬時に変わる早替り)があって楽しめる。藤十郎はもう70歳を越えているはずだが、娘のかわいらしさを表現するのが天才的にうまいと思う。美しくて楽しい舞踊である。

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 お祝いの立て札。ロビーに置かれている。お祝いを贈った人の名前が書かれている。だいたいが、祇園のきれいどころの名前である。

第四 梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)

出演:中村吉衛門、 歌六、 芝雀、 亀鶴、 歌昇、 我当

 鶴ヶ岡八幡宮に参詣に訪れた大庭三郎と弟の俣野五郎のもとに、六郎太夫と娘の梢が重宝の刀を売りにやってきます。刀の目利きを頼まれた梶原平三景時(吉右衛門)は“名刀”と鑑定したのですが…。
 梶原の「目利き」、名刀の試し斬りをする「二つ胴」、そして石の手水鉢を真っ二つに斬る「石切り」と見所の多い作品です。
 吉右衛門が当たり役の梶原平三を演じ、大庭三郎に我當、六郎太夫に歌六、娘梢に芝雀、俣野五郎に歌昇、飛脚谷山宗助に錦之助が揃う華やかな舞台。
 
 やはり吉右衛門はかっこいいしうまい役者である。この話も面白い見せ場が色々あって、気楽に楽しめる。名刀の試し切りをするのに、二人の人間を重ね合わせて、胴を切るシーンがあるのだが、上の人は罪人という設定で舞台では人形を使う。そして、下は六郎太夫という罪もない人間なので、梶原は下の人を切らないように、上の人間だけを切るということになっている。人形が真っ二つになるが、血も出ないしまったく残酷性はない。悪人達はその名刀を「なまくらだ。」とあざ笑いながら去っていく。残された六郎太夫が「この刀は名刀なのに」とくやしがる。それを見た梶原が、大きな石でできた手水鉢をその刀でエイヤッとばかり切ると、石の手水鉢は真っ二つに切れるのだった。こういう小道具が大活躍するおもしろい芝居である。

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 これも玉三郎のお祝いの立て札。

第五 ぢいさんばあさん

出演:片岡仁左衛門、 坂東玉三郎、 市川海老蔵、 翫雀、 愛之助、 孝太郎

 おしどり夫婦と評判の美濃部伊織と妻・るんは、伊織が上京の役目を仰せつかり1年間離ればなれになります。その京でふとしたはずみから人を斬った伊織はお預けの身となってします。それから37年の歳月が流れ、ついに再会の日を迎えます--。
 美濃部伊織に仁左衛門、るんに玉三郎という息のあった二人に、宮重久右衛門を翫雀、久弥妻きくに孝太郎、下嶋甚右衛門に海老蔵、宮重久弥に愛之助と清新な顔ぶれが揃い、夫婦の愛を情感豊かに描きます。

 待ってました!仁左衛門と玉三郎の登場である。この二人がすわっているだけで、匂うような色気が漂ってくる。そこだけが舞台上でもパッと明るいのだ。しかもこの二人にからむ悪人が、今をときめく市川海老蔵である。なんと豪華な配役だろう。海老蔵も悪役に徹していて、かっこよかった。
 これは夫婦の情愛を描いたお芝居なので、37年の月日が流れて伊織(仁左衛門)とるん(玉三郎)が再会して、しみじみ語り合うところで胸がジーンとなった。客席からもすすり泣く声があちこちから聞こえていた。二人の芝居の確かさ、うまさを堪能できる、感動作である。

 今年も顔見世を見ることができてよかった。歌舞伎ってどうしてこんなにおもしろいのだろう。もっと若い人が歌舞伎に足を運んでくれたらといつも思う。海老蔵に続く、若手スターの登場が待たれるところである。来年も年明けから松竹座で歌舞伎を楽しもうと思っている。

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霧太郎天狗酒醼(きりたろうてんぐのさかもり) [演劇]


京都南座3階席から、舞台を望む。

 先日、京都南座の花形歌舞伎(若手の役者が出演する歌舞伎)に行って来た。お題は「霧太郎天狗酒森醼(きりたろうてんぐのさかもり)」である。

 時は鎌倉。---天狗の妖術を使い天下を揺るがす大盗賊・霧太郎(橋之助)。彼は天下を手中に納めようと画策、源氏の宝である白旗と名刀鬼切丸を奪う。
 一方、幕府の重臣・北条義時(勘太郎)は鬼切丸を霧太郎に奪われた罪により死罪になるところ、一命を助けられて刀の行方を捜す。
 義時の恋人、大磯の遊女・櫻木(七之助)と、薬売りの喜之平(愛之助)は、義時のために奔走するが、霧太郎の妖術によって、櫻木は源義経の娘・千代姫、喜之平は霧太郎の家来・厩屋喜三太であることが判明し、義理と人情のしがらみで苦悶する。2人を利用して大望成就を遂げようとする霧太郎であったが……。(パンフレットより)

 ところで、上の写真は開演前の舞台をとったものだが、今回は珍しく、舞台の上に文楽人形のような人形が並べてあって、役者が2人でてきて、人形を使ってあらすじを説明してくれた。こういうのは、今まで見たことがなかったが、わかりやすくて親切な感じがした。

 今回の公演は花形歌舞伎なので、役者のほとんどが若い人ばかりだった。だから、見た感じがとても美しかった。私たちは3階の3等席だったのだが、後半に宙乗りがあった。宙乗りは、3階席の一角に役者がひっこむ場所をつくっているので、橋之助と七之助を間近で見ることが出来た。丈夫そうなワイヤーロープでつっているとはいうものの、かなり怖いのではないかと思った。しかも、観客に向かって空中で演じて体を動かすのである。役者も大変だ。

 一緒に行った友達の言うには、最近の若手は石鹸の匂いがするみたいに、つるんとしてきれいだが、何か面白みに欠けるというのだ。勘太郎、七之助の父、勘三郎は若いときはもっとおもしろかったし、菊五郎(寺島しのぶの父)も若いが一味違う何かがあったと言っていた。

 今の若い人は優等生なのだろうか。確かに昔の役者はたくさんの女性と付き合うことによって、人生勉強してきたところがあるのかもしれない。「かぶく」という言葉が、「世間一般の人とは違う、奇抜な風体をしたり生き方をすること」という意味だから、それを地でいっていたといえるだろう。今の人も結構芸能界をにぎわしているものの、なんでも公にされるので、窮屈さは否めないのかもしれない。

 役者にとって「味」とはなんなのだろう。年齢を経ても味のない人はいる。ただ単に年を取るだけではだめなようだ。自分は役者なんだということをもっと強く認識して、臆することなく様々な新しいことにチャレンジすることが、その役者のエネルギーを高めるし、魅力にもつながるのではないだろうか。

 花形歌舞伎の役者さんたちも、変に縮こまらずに、これからも色々な役にチャレンジしてもっともっと「かぶいて」世間を騒がせてほしいものだ。




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染模様恩愛御書(そめもようちゅうぎのごしゅいん) [演劇]

 久しぶりに大阪松竹座で、歌舞伎を見た。この作品は、「蔦模様血染御書(つたもようちぞめのごしゅいん)という外題で、明治22年11月市村座で初演されたものだそうだ。当時は本火を使った演出で大評判となったが、衆道(男色)という主題や、見せ場である大火事の演出の問題により、長らく上演が途絶えていた。それを若手俳優による花形歌舞伎として再演したのだ。

 主演は市川染五郎、相手役は片岡愛之助で、いずれも見目麗しい実力派の2人が演じたので、なかなか見ごたえがあっておもしろかった。しかも脇をかためるのが、市川猿之助一座の猿弥、春猿、段治郎、薪車であるから、おもしろくないわけがない。やっぱり猿之助一座の人は鍛えられているので、芸が確かだという感じがした。主演の2人を大いに盛り上げてくれたと思う。

 ストーリーは、歌舞伎には珍しく男色を扱ったお話だった。今までこういうテーマの歌舞伎は見たことがなかった。
 大川友右衛門(おおかわともえもん)(染五郎)という武士が、浅草観音参詣のときに、美しい若衆姿の印南数馬(いんなみかずま)(愛之助)を見染める。数馬が細川家の小姓と知った友右衛門は、武士の位を捨て、細川邸に奉公することになった。ある日、友右衛門は数馬の寝室に忍び、2人は衆道の契りを結ぶ。数馬から横山図書(猿弥)という父の敵があることを知らされ、友右衛門は、敵討ちの助太刀をする約束をかわす。ところが、かねてから数馬に心を寄せる腰元のあざみ(春猿)がこの2人の一部始終を見ており、細川侯(段治郎)の知る所となる。
 おとがめを受けるのかと思いきや、細川侯は数馬の父の敵を討ちたいという孝心の篤さに感銘を受け、友右衛門は逆に士分に取り立てられ、数馬の助太刀をするように激励される。
 そして、2人して無事敵を討ったのもつかの間、細川邸が火事になる。このままでは、細川家の家宝である、将軍より拝領した御朱印が灰になるのも時間の問題。ここに馳せ参じた友右衛門は、ご恩に報いるのはこの時をおいてないと火中に飛び込むが・・・。

 この歌舞伎の舞台装置は、非常にシンプルで、うまくできていた。いつもの歌舞伎の絢爛豪華さはなかったが、後ろに花(菖蒲)をつったり、ロールスクリーンで背景を変えたり、回り舞台を活用して、速い展開で劇を見せるのに成功していたと思う。
 この花が一見すると桜のようにも見えたのだが、よく見ると花菖蒲だった。私の考えでは、これは菖蒲園を上から俯瞰したような構図なのではないかと思う。

 友右衛門と数馬のラブシーンは、ロールスクリーンの裏側から光をあてて、シルエットで見せる演出だった。これは歌舞伎にはない演出だった。歌舞伎では濡れ場をこれほどはっきり見せることはまずない。しかもここで流れた音楽が、歌謡曲のような歌だったので、ちょっと違和感を感じた。しかし染五郎と愛之助という美しい二人が演じたので、何とか許せたのだった。

 敵討ちは、そんなに重要な部分ではなく、そのあとの細川邸の火事場が大変おもしろい歌舞伎独特の演出だった。客席にも白い煙がもうもうと噴出し、しかもうっすらと煙たい匂いまでした。染五郎の火事で焼かれてボロボロになった衣裳そのものに、電飾が仕込んであったのか、内側から赤い光が見えて、服に火が燃え移っている様子がよく表現されていた。また火の粉は赤く光る紙を細かく切ったものを、上から降らせて、よく感じが出ていた。また、舞台上で上から材木がドサッ、ドサッと落ちてきたり、かなりリアルな演出で楽しめた。

 ストーリーの流れを講談師のような人が語ったり、歌謡曲のような音楽を使ったり、今子供番組で流行っている「歌舞伎体操」(染五郎が踊っているそうだ)も飛び出したり、いつもの歌舞伎とはちょっと違ったが、なかなか楽しい演劇だった。

 今回は芸裏という席で、これは舞台に向かって、花道の左側になる一等席だった。私たちはめったに一等席でみることはないのだが、やはり役者を近くで見るのはいいものだとおもった。たまにはこんな贅沢もいいかもしれない。

 若手中心で肩のこらない花形歌舞伎をぜひ皆様もお楽しみください。


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坂東玉三郎7月歌舞伎座公演 [演劇]

 先日、歌舞伎座の坂東玉三郎公演7月大歌舞伎を見に行った。大雨であったが、歌舞伎座は大入り満員だった。玉三郎の人気の程がうかがえる。

 昼の部1幕目は、「夜叉が池(やしゃがいけ)」である。幕が開くとそこは越前国三国岳の麓で、以前は寺であったところを住居にしている里の美女百合(春猿)が登場する。そこへ旅人の文学士山沢(右近)が訪ねてくる。彼は3年前消息を絶った親友萩原晃(段治郎)を捜しにやってきたのだが、それが偶然にも百合の夫であることを知り驚く。

 晃は、この山奥にある夜叉が池を訪ねた折、鐘楼守の老人から、日に3度鐘をつかなければ、夜叉が池に住む龍神が洪水を起こし、里は水没してしまうという言い伝えを聞いた。その話を聞いた直後に、この老人が亡くなった為、晃はこの里にとどまり、美しい里の娘百合と結婚し、ここに住むことになったのだった。

 ここまでは、ほとんど現代劇のような感じで劇が進行する。あまり歌舞伎としてのおもしろさがなく、かなり地味な舞台となっている。春猿は百合の役では、美しくおとなしい上品な妻を演じていた。だがこの役はこの人の持ち味にはあっていなかったように思う。春猿は、実際はシャキシャキした人なので、百合をうまく演じていたものの、ちょっとハマっていなかったような気がした。

 このあと、龍神の家来が登場するところから、本来の荒唐無稽な歌舞伎の世界が展開し、がぜんおもしろくなっていく。

 夜叉が池の龍神は、白雪姫(春猿の二役)という美しい姫君であったが、いとしい恋人のもとへ飛んで行きたいという強い願望をもっていた。しかし一度姫が動くと、里は大洪水となり、たくさんの人々や獣たちを犠牲にすることになる。姥や家来達はこぞってそれを押しとどめるのであった。白雪姫はとりわけ百合のことが好きで、「お百合さんを犠牲にできないわ。」といって、はやる心を落ち着かせるのだった。恋人への恋心を抑えかねる激しい気性の白雪姫は、春猿によく似合っていた。

 しかし、心無い里の役人や長老たちが、近年にない日照りに業を煮やし、百合を龍神の生贄に供えて、雨乞いをしようとする。夫晃や友人山沢と、役人達が差し向けたヤクザ者の争いを見て、百合は「私が死にます!」と言って、胸をかき切って自決するのだった。それを見て夫の晃も後を追って死んでしまう。

 そのことを知った龍神白雪姫は、おろかな役人や長老に怒りを覚え、大洪水を行き起こすのだった。この場面は、水が押し寄せるのに、水を描いた布が使われ歌舞伎らしい演出となっていた。

 白雪姫は、今や誰に気兼ねすることもなく、いとしい恋人のもとへと飛び去っていくのだった。

 

 第2幕は「海神別荘」である。これは、玉三郎と海老蔵の顔合わせて、素晴らしい舞台だった。特に舞台装置が非常にアーティスティックで美しく、白の大理石の円柱に、金色の貝殻が張り付いているようなのが舞台中央と左右に立っていた。その中央の太い柱が二つに割れて、海老蔵が登場するのだ。また、玉三郎と海老蔵が座る椅子も変わった形をしていた。赤珊瑚と黒珊瑚でできた椅子ということだった。

 衣裳は玉三郎のは白の衣裳だったが、全体がきらきらと輝いて夢のような感じだった。海老蔵の衣裳は黒でスパンコールがいっぱいで大変豪華だった。(美川憲一も真っ青?!)
 それからお女中衆の衣裳は、着物を変形させたもので、袖が三角に広がっていたり、すそもドレスのように広がっていた。
 また、美女の化身の白蛇の大道具も登場。これはかなりの長さがあって、とってもきれいだった。

 そして舞台の袖には本物のハープが置いてあり、ハープ奏者が場面ごとに合わせて演奏するのだが、その音楽は海の底をイメージさせ、うっとりするような音色だった。

 深海にある御殿で、公子(海老蔵)は陸からの美女(玉三郎)を待っていた。美女は公子に深く愛されていて、妻となって海底で一緒に暮らすことになっていた。

 美女はこの様子を陸の父親に報告したいと申し出る。しかし海神別荘に来てしまった美女は、もはや人間には白い大蛇のすがたにしか見えないのだ。だが、美女は一目父親に会いたいという思いを捨てきれず、陸に戻る。けれどもそこでは案の定、大蛇の姿の自分に父や人間は銃を向ける。美女はその態度に傷つき海底の公子の元に戻る。そして自分を大蛇の姿に変えてしまった公子を責めたてる。公子は、美女の父親は妾の女と楽に暮らすために、公子と取引して、財宝を手にしその代わりに美女を海に沈めることも厭わなかったという事実を話して聞かせ、いつまでも父を忘れようとしない美女に逆に腹を立てる。そして、剣を抜いて美女を刺し殺そうとするが・・・。

 玉三郎は歌舞伎の女形そのもので、海老蔵の曲がったことが大嫌いで男らしい公子に寄り添うようにまことに女らしかった。海老蔵とはかなりの年齢差があるはずなのだが、そのことは少しも感じさせなかった。昔は、海老蔵の父親の団十郎と組んで、「海老玉コンビ」ということで活躍していたのだから、その息子と同じように組んで芝居ができると言うことは、すごいことだ。やはり玉三郎は天才である。歌舞伎の女形になるために生まれてきた人なのだ。前にテレビで玉三郎のインタビューを聞いたことがあるのだが、彼は陸上競技のアスリートと同じくらいの体力があるのだそうだ。そうでなければ、花魁の衣裳のように、何十キロもある衣裳を身につけて芝居ができるはずがない。次はまた、正統派歌舞伎の玉三郎を見たいものだと思っている。

 
 この日は都合で日帰りで大阪に帰らなければならなかったが、遅い時間の新幹線にしたので、芝居がはねた後も充分時間があった。それで、前にソネブロの TaekoLovesParisさんに教えていただいた三越のJohannに行って、お茶した。ここは女性一人でも気兼ねなく入れてよかった。

 それから、お気に入りの「ブリヂストン美術館」にも行った。雨が降っていたので、三越前からタクシーを利用したのだが、運転手の人は美術館の場所を知らなかった。これにはびっくり。旅行案内を見せて場所を説明した。

 美術館は「夏の常設展」だった。ピエール・ボナールの「ヴェルノン付近の風景」は、木立と花の間から川が見え、その向こうに低い山が見えていてさわやかな絵だった。ピート・モンドリアンの「砂丘」という作品は、カラフルな色彩の絵で額が真っ白なのが、いかにも夏らしい感じがした。他にもたくさんいい絵があった。

 このあとプランタンに行った。ここでは7階で猫の手作り小物展をやっていたので、可愛い猫の箸置を購入した。それから、晩御飯も食べて帰ろうと思って、前出のTaekoさんお薦めの2軒目のお店にいった。これは、同じプランタンの7階にある「ヴェトナム・アリス」というヴェトナム料理のお店だった。ここではフォーと生春巻きのセットなどを注文。最後にベトナムコーヒーも味わった。店の雰囲気もよく、お値段も手ごろでいいお店だった。

 日帰りだったが盛りだくさんで充実した旅行になった。来月は友人に歌舞伎座の納涼歌舞伎に誘われている。いまどうしようか考えているところである。


 


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