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放浪記(成瀬巳喜男) [日本&アジア映画]

監督:成瀬巳喜男   出演:高峰秀子、田中絹代、宝田明、加東大介、小林桂樹、草笛光子 1962年 日本

 林芙美子の自伝的小説、「放浪記」の映画化。
 貧困にあえぎ、色々な職を転々としていた芙美子(高峰秀子)は、給料がいいということで、カフェの女給になる。そこで文士仲間と知り合い、詩を同人雑誌に投稿するように勧められる。けれども、まともな原稿料ももらえず、貧乏な暮らしは相変わらずだ。彼女は人のいい同じ下宿の男(加東大介)からお金を借りて生活の足しにする。

 そうしているうちに、文士仲間の菊池(宝田明)と一つ屋根の下に暮らすことになる。だが、お互い原稿はなかなか売れない。菊池は小説家としての道が開けず、しかも肺病で、性格がゆがんでいる。芙美子は菊池の原稿を出版社に持ち込んで、売り込もうと必死になるが、出版社では取り合ってくれなかった。
 菊池は、芙美子のそんな努力にもかえって腹を立て、芙美子に乱暴をはたらいた。そして、とうとう芙美子は菊池と別れることになるのだった。

 しかし芙美子は書くことを怠らなかった。毎晩ろうそくの火のもとで、たゆまず原稿を書き続けた。そしてその努力が実って、とうとう「放浪記」で世間に認められ、その出版祝パーティーが開かれることとなる。

 会場には作家仲間がたくさん出席するが、嫉妬からか、芙美子の作品を陰でけなす作家連中も大勢いた。
 宴半ば、もう会場には来ないだろうと思っていた芙美子の元亭主、菊池がお祝いを言いにやってくる。
 彼は、他の作家連中が、芙美子の小説が自分の貧乏な生活を売り物にし、ごみ溜のごみをとりだしてぶちまけたような小説と酷評していることを明らかにし、しかし自分はその中にまぎれもない真実を見出したと、芙美子の小説を絶賛する。そして、これからはお互いに、いい作品を書くことを競い合おうと結びの言葉を述べるのだった。

 この場面は胸のすくようなすがすがしい感じがした。だめな亭主だった男が、元妻の最も大事なイベントに駆けつけ、温かい友情を示したのだ。菊池も本当はいい人物だったのだと、観客を納得させるうまい演出だった。

 そうして芙美子は、「放浪記」の成功に甘んじず、次々に作品を発表し大作家となる。ここは場面が暗転しただけで、ただのうすっぺらい女性が、大作家の風格を身に付け大邸宅に住む女性に変わっていた。
 芙美子は、今はやさしい画家の夫を持ち、昔困ったときに助けてくれた人を家に招待し、母親を呼び寄せ一緒に暮らす生活を、執念で勝ち取ったのであった。

 この作品では、高峰秀子の演技がすばらしかったと思う。貧乏で不愛想で生きるのが下手な女性、林芙美子を大変うまく表現していた。
 脇を固める俳優陣も、芸達者ばかりだった。林芙美子の母親役を演じているのが、田中絹代とは知らなかった。なんと品があって、いい感じの人だろうと思ってみていたのだが、この人が伝説の女優、田中絹代と知って、感激した。

 この映画は、俳優達の演技のうまさ、白黒の映像美、ストーリーのおもしろさを兼ね備えていて、成瀬巳喜男の作品中でも出色のできばえだと思った。


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