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ポトフ美食家と料理人 [外国映画]

 トラン・アン・ユン監督の作品です。「青いパパイヤの香り」「夏至」などの作品があり、私は好きです。
 この映画は、料理への情熱で結ばれた美食家と料理人の、愛と人生を描き、2023年・第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した映画です。最後に予告編を貼りました。よかったらご覧ください。

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 19世紀末、フランスの片田舎のシャトーに住む美食家ドダン・ブファンは、「食」を追求し芸術にまで高めた。そして彼が閃いたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)の評判はヨーロッパ各国に広まっていた。彼らは20年以上も一緒に料理を作り、美食を探求している。彼がレシピを読み、彼女が実践する。ふたりでアイディアを出し合い、ときには一緒に料理をし、親しい美食家仲間を招き食事会をする。

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          ドダンとウージェニーがつくった料理

 ある日、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、ただ豪華なだけの退屈な料理にうんざりする。食の真髄を示すべく、最もシンプルな料理・ポトフで、返礼として皇太子をもてなすことを決めるドダンだった。


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  ユーラシア皇太子の食事会。(食事そのものの写真はありませんでした)

 ドダンは、長年の料理家としてのパートナー、ウージェニーに結婚を申し込み、二人は料理仲間に囲まれて、幸せな結婚式を挙げる。


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 ガーデンウェディングですが、豪華とかいうのではなくナチュラルで緑が美しく、仲間と美味しい料理とワインに囲まれて、笑いの絶えないすばらしい式でした。

 そんな二人の新婚生活が始まったばかりのとき、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンはすべて自分の手でつくる渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようとするが、ドダンの願いもむなしく、ウージェニーは帰らぬ人となったのである。

 ドダンは、しばらくの間、食べ物もろくに喉を通らなかった。友人たちが色々美味しいものを持って来てくれるのだが、それも食べられなかった。

 しかしドダンは、ユーラシア皇太子をポトフでもてなすために究極のポトフを作らなければならないことは、忘れていなかった。

 そこで、ドダンは、ウージェニーに変わる女性の天才料理人を探すべく、さまざまな女性の料理人を自宅に呼んで料理をさせる。しかし、誰一人として、ドダンの味覚を刺激してくれる女性料理人はいなかった。
 
 けれどもドダンは台所で仕事をさせている下働きの少女(後ろ姿の少女)が、料理の味にとても敏感なのを見抜いていた。

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 そして、ついにある日、ドダンの美食家の友人が、天才料理人と思われる人の料理を持って、ドダンのもとにやって来た。
 その料理を一口試食したドダンは、下働きの少女を連れて、新しい天才料理人に会いに行くのだった。この少女を第2の天才料理人に育てるために。

 この作品は、ミシュラン3つ星シェフのピエール・ガニェールが料理監修を手がけ、シェフ役で劇中にも登場しています。
 フランス料理というのは、種類も量も料理にも多くのワインを用いるし、食べるときもこの料理にはあのワインという風に、ワインとのマリアージュ(マッチング)をとても大切にしている料理なのだということを、改めて気付かされた。

 ところで、ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)が料理をする場面があるのだが、大きな銅鍋に玉ねぎや人参やじゃがいもなど、ゴロゴロと入っていて、それを炒めるのがいかにも料理人という感じだったが、彼女の細い腕でさぞ大変だったろうと思う。
 ドダン(ブノア・マジメル)も料理をつくるのだが、素人とは思えない手さばきだった。俳優は、その役によって、色々なことをこなさないといけないのが、本当にすごいことだと改めて思う。

 監督のトライ・アン・ユンはベトナム人で、13歳の時にフランスに渡ったそうだ。とても知的で、繊細な映画を創る人で、人の心の機微を表現するのに長けていると思う。

 本作品はとても楽しい映画で、これをみたら映画のあとは、きっと美味しいものを食べ、いいワインを飲みに行きたいという気持ちになると思う。ポトフを自分で作りたくなるかもしれない。






原題:La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)
日本語タイトル:ポトフ美食家と料理人
監督:トライ・アン・ユン    脚本:トライ・アン・ユン
製作:オリビエ・デルボス    出演:ジュリエット・ビノシュ、 ブノア・マジメル、
エマニュエル・サランジュ、 パトリック・ダマンサオ、 ガラテア・べルージュetc.
2023年製作/136分/G/フランス
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ナポレオン [外国映画]

 ナポレオンがどういう人物かは、あまり知らなくて、ルーブル美術館の戴冠式の絵が印象に残っているくらいです。

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    ナポレオン(ホアキン・フェニックス)

 「グラディエーター」の巨匠リドリー・スコット監督が「ジョーカー」のホアキン・フェニックスを主演に迎え、フランスの英雄ナポレオン・ボナパルトの人物像を新解釈で描いた歴史スペクタクル。

 加筆というか、映画com,からの情報です。ナポレオンは、やはり戦いに長けていた人だったようです。
 将校の父を持ち一時は軍人を目指したこともあるのが、リドリー・スコット監督だそうで、8本目の史実戦記となる本作では、フィルモグラフィー最多となる6つの大規模な戦場シーンを詰め込んでいます。
 開巻の局地戦から、ワーテルローの戦いに至るまで、俯瞰からクローズアップ、砲戦から白兵戦まで、リアルなゴア描写も含め当時の戦争を可能な限り視覚的に再現しています。
 その中に、人間的なナポレオンの姿も取り入れたということでしょうね。

 18世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若き軍人ナポレオン(ホアキン・フェニックス)は目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。ナポレオン は夫を亡くした女性ジョゼフィーヌ(バネッサ・カービー)と恋に落ち結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持ち、いつしか夫婦関係は奇妙に曲がった方向に行く。


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 とはいうものの、このマリーアントワネットの時代には、夫以外に愛人を持つのが普通だったように思っていましたが。夫以外の男性といかにすばらしい恋愛するかというのが、特に貴族階級の風潮だったのではなかったかしら。

 ナポレオンは「英雄」として快進撃を続け、クーデターを成功させて第一統領に就任、そしてついにフランス帝国の皇帝にまで上り詰める。


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 戴冠式の様子

 政治家・軍人のトップに立ったナポレオンと、皇后となり優雅な生活を送るジョゼフィーヌだったが、2人の心は満たされないままだった。やがてナポレオンは戦争にのめり込み、凄惨な侵略と征服を繰り返すようになる。


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 戦闘のシーンはすごくリアルで迫力があった。ロシアに攻め込んだとき、湖の氷が割れ、傷ついた兵士たちが水中に投げ出され、もがき苦しみ、水が赤く染まるという水中を撮影したシーンがあった。こういう場面はあまり見たことがなかったのだが、残酷な場面だなと思いました。

 この作品は戦闘シーンが多いのだが、それが作品に迫力をもたらし、ナポレオンの残虐さをよく伝えていると思う。

 ナポレオンは、終生ジョセフィーヌに手紙を書き続ける。彼女からも返信が来る。彼らはやはりお互いを心の支えとして、必要としていたと思う。しかし、ジョセフィーヌはジフテリアで自分の屋敷で一人で亡くなり、ナポレオンは、セントヘレナ島(岩だらけの島)へ島流しになって、そこで息絶える。もちろん、死ぬまで彼女に手紙を書き続けるのだ。
 ナポレオンは、ジョセフィーヌといるとき、そして手紙を書くとき、子供っぽさが見えた。彼の人間性が垣間見える場面だった。でも彼は、自分の本当に大事なものに最後まで気がつかなかったのだろうか。

 戦闘の場面は他の誰も創りえなかった、リドリー・スコットならではの優れた描写なのだと思いました。私自身が戦闘というものをあまり理解できないし、好きではないので、ナポレオンの人間性についての感想になってしまっていますが、ナポレオンと「戦い」は切っても切れないものだったようですね。

 映画の最後に、ナポレオンが指揮した戦闘での死傷者は300万人にのぼると書いてあった。

原題:Napoleon  邦題:ナポレオン
監督:リドリー・スコット   
脚本:デビッド・スカルパ
出演:ホアキン・フェニックス、 バネッサ・カービー、 ポール・バラス.
タハール・ラヒム、マーク・ボナー、 ルパート・エベレット、
ユーセフ・カーコア
撮影:ダリウス・ウォルスキー

2023年製作/158分/PG12/アメリカ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
劇場公開日:2023年12月1日
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ロスト・キング 500年越しの運命 [外国映画]

 こんばんは。ご無沙汰しております。もう年末で、今年も残り少なくなりました。皆様お変わりなくお元気で、ブログを運営されているのをいつも楽しく拝見しておりました。
 この記事からまた、ブログを続けていこうと思います。何卒よろしくお願い申し上げます。ココより


 さて、この映画「ロスト・キング」は「事実は小説より奇なり」という言葉がぴったりの作品で実話です。静かにヒットしていました。私はサリー・ホーキンスのファンなので、楽しかったです。


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 映画「クィーン」の名匠スティーブン・フリアーズが創った作品。「シェイプ・オブ・ウォーター」のサリー・ホーキンスが主演です。500年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の、遺骨発見の立役者となった女性フィリッパ・ラングレーの実話をもとにした作品です。


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(リチャード三世のことが、頭から離れず、仕事中も公園で空想に耽っているフィリッパ)


 フィリッパ(サリー・ホーキンス)は職場で、自分の持病が、ME(筋痛性脳脊髄炎)で、上司から理不尽な評価を受けるが、別居中の夫から生活費のため仕事を続けるように言われてしまう。夫婦は別居中ではあるが、子育ては分担し、よい関係を保っていた。


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 夫ジョン(スティーヴ・クーガン)とフィリッパ(サリー・ホーキンス)


 ある日、息子の付き添いでシェイクスピア劇「リチャード三世」を鑑賞したフィリッパは、悪名高きリチャード3世も、実際は自分と同じように不当に扱われてきたのではないかと疑問を抱き、歴史研究にのめり込む。そして、フィリッパはリチャード三世の幻影をよく見るようになる。
 映画では、舞台でリチャード三世を演じた俳優ハリー・ロイドがリチャード三世の幻影も演じている。


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      リチャード三世とフィリッパ


 フィリッパは、リチャード三世に関する書物を読破し、シェイクスピアの戯曲の影響で、彼が悪名高き国王になったことを知る。そして「リチャード三世協会」に入会する。


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リチャード三世(ハリー・ロイド)

 「リチャード三世協会」なるものがあるのが、英国の面白い所。英国人は歴史好き、王室好きなんでしょうね。この協会員達は、すごい情熱をもって、リチャード三世の遺骨を発見しようと、全力を挙げて日夜努力している。それが興味深い。王室というものに対する、揺るぎない愛をもっているのが、特にイギリス人ではないだろうか。そして、彼らは集まっては、真剣に議論し、パブでお酒を飲む。なんと楽しい会だろう。

 それにしても、名もない女性フィリッパが男性中心の社会の中で声をあげ、500年もの長きにわたって誰もなしえなかった、リチャード三世の遺骨発見という偉業を、めげることなく成し遂げたというのは、あり得ないようなすごいことだと思った。

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     リチャード三世とフィリッパ

 フィリッパは亡骸が、レスター(街の名前)のグレイフライヤーズ教会の敷地内に眠っているとの説があることに注目。そして、開発区画に取り残された駐車場に足を踏み入れたとたん、フィリッパは、強烈な感覚に襲われる。そして、ふと地面をみるとそこには、「R」文字が!駐車場の係員に、”R”の意味を問うと、係員は「Reserved(専用駐車場)」と答える。

 少しがっかりするフィリッパだったが、市議会の支援を調達するため、レスター市議会に乗り込んで①様々な歴史的調査の結果もあるし、自分の直感で駐車場がリチャード三世の永眠の地であると、強く感じていること。 ②ある博士のDNA調査を用いて、発見物とリチャード三世の存命の子孫のクロスマッチ試験を行い、身元確認ができ得ること」を説明。もちろん、反対意見もあったが、結局資金は調達できることになった。

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 発掘の第一段階では、何も発見されず、資金も取り下げられ、フィリッパは肩を落とすが、クラウドファンディングを立ち上げ、世界中の「リチャード三世協会」の会員に呼びかけたところ、発掘調査に十分な資金が集まり、しかも500通もの応援メッセージが寄せられた。

 2012年8月25日、”R“のマークの場所から再発掘が行われるや否や、人骨の一部が現れる。フィリッパは直感で「リチャード三世に違いない」と確信。そしてフィリッパは「もっと奥を掘って!」と皆に言う。そして、ついに遺骨一式を発掘したのだった。

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 こうしてDNA鑑定でも、この遺骨がリチャード三世のものと正式に認められた。

 2015年3月26日、プランタジネット家の最後の王であるリチャード三世(1452~1485)が、あらゆる敬意と尊厳と名誉をもって、レスター大聖堂にて再埋葬された。同大聖堂の前には、弔意を示すために数千人が集まった。
 エリザベス女王は手書きのメッセージを送り、「再埋葬は英国だけでなく国際的にも大きな意味を持つイベントだ」とし「遺骨の発見は、英国の歴史において重要な考古学的発見」と述べたとのこと。
 同2015年にフィリッパ・ラングレーさんは、リチャード三世の遺骨発掘と特定における貢献に対し、エリザベス二世により、大英帝国勲章第5位(MBE)を授与された。

 この映画についての評論として「これは究極の押し活といっても過言ではない」と書かれていて、なるほど、まさにその通りだと思いました。
 「押せる!」と思えるきっかけは、人それぞれ。フィリッパさんはリチャード三世に出会って「押しの名誉回復」のために奔走しまくります。その人生の時間はとても充実したものだったと想像できます。私の「押し」はなんなのか、今からでもそれを探し出したいものです。

ロスト・キング500年越しの運命 予告編




2022年製作/108分/G/イギリス
原題:The Lost King
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
劇場公開日:2023年9月22日
監督:スティーブン・フリアーズ
製作:スティーブ・クーガン クリスティーン・ランガン ダン・ウィンチ
製作総指揮:キャメロン・マクラッケン ジェニー・ボーガーズ ローズ・ガーネット アンドレア・スカルソ ジェフ・ポープ フィリッパ・ラングレー

出演:フィリッパ・ラングレー:サリー・ホーキンス  ジョン・ラングレー:スティーブ・クーガン
リチャード3世/役者ピート:ハリー・ロイドetc.

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インディー・ジョーンズ [外国映画]

 ハリソン・フォード演じる考古学者インディ・ジョーンズの冒険を描く「インディ・ジョーンズ」シ
リーズの第5作を観てきました。


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 前作から15年ぶりの新作となり、過去4作でメガホンをとったスティーブン・スピルバーグはジョージ・ルーカスとともに製作総指揮を務め、「LOGAN ローガン」「フォードvsフェラーリ」のジェームズ・マンゴールドが監督です。


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 ハリソン・フォードは御年80歳だそうです。どこまでがCGかはわからないのですが、ハリソン、かなりの活躍ぶりでした。びっくりです。

 考古学者で冒険家のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)の前にヘレナ(フィービー・ウオーラー=ブリッジ)とgaいう女性が現れ、インディが若き日に発見した伝説の秘宝「運命のダイヤル」の話を持ち掛ける。


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ハリソン・フォード&フィービー・ウオーラー=ブリッジ

 ハリソン・フォードの相棒を務めるフィービー・ウオーラー=ブリッジは、かなりの美人でアクションも大丈夫な女優さんです。相当すごい場面が多かったのですが、上手く演じていたと思います。

 ところで、「運命のダイアル」という機器を手に入れるため、インディは、因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)と争奪戦を繰り広げるのである。


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 マッツ・ミケルセン(元ナチスの科学者フォラー)です。こんな優し気な写真しかなくて。
素敵ですよね、マッツ・ミケルセン。007での敵役もすごく怖かったけど、今回も見るからに怖いですよ。デンマーク人だそうです。

 スペインの名優アントニオ・バンデラスも出演していたらしいのですが、わからなかったです。見つけられなくて、残念!

 さて「運命のダイヤル」とは何でしょう。それは、映画を観てのお楽しみにとっておきましょうね。

 巨匠ジョン・ウィリアムズが、シリーズおなじみのテーマ曲と音楽を担当。

 アクションあり、秘密ありで結構楽しませてくれます。俳優もそろっていて、娯楽作ですが、出演の俳優たちが、自分の役を必死で演じているという、彼らのエネルギーが伝わってきました。



原題:Indiana Jones and the Dial of Destiny  監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ハリソン・フォード、 アントニオ・バンデラス、 フィービー・ウォーラー=ブリッジ、
マッツ・ミケルセンetc.
2023年製作/154分/G/アメリカ
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パリタクシー [外国映画]

 この映画の主役は、92歳の魅力的なマダムマドレーヌ(リーヌ・ルノー)でありまた、映画の随所に出てくるパリの美しい風景も名脇役といえるだろう。


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 住み慣れたパリの住居を離れ、老人ホームに向かうマダム(リーヌ・ルノー)を乗せたタクシー運転手シャルル(ダニー・ブーン)が、彼女の人生をめぐるパリ横断の小旅行に付き合ううちに、自分の生き方に対する考え方にも、影響をうけるというドラマ。


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     シャルル(ダニー・ブーン)とマダム(リーヌ・ルノー)

 無愛想なタクシー運転手シャルル(ダニー・ブーン)は、お金も休みもなく免停寸前で、家族関係もうまくいかず、人生最大の危機に陥っていた。そんな折、彼はタクシー会社からの依頼で、92歳の女性マドレーヌをパリの反対側の老人ホームまで送ることになる。


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               オペラ座


 マドレーヌは、シャルルに次々と寄り道を依頼する。彼女が人生を過ごしたパリの街には多くの秘密が隠されており、寄り道をするたびに、マドレーヌの意外な過去が明らかになる。

 車の中で語られる身の上話は壮絶そのもの。若いころに恋し、子どもを身籠るも、恋人は戦争終結とともに、故郷の国に帰ってしまい、彼女は1人で子供を育てた。その後、別の男性と結婚するが、夫がDV男だったので、その家庭内暴力を何年も受けてきたこと、そして夫への過激なリベンジ(夫を殺しはしなかった)が裁判沙汰となり、25年の刑が下った。

 マドレーヌは映画の中で、1950年代の社会は裁判官は全員男性で彼女の、夫の暴力に対する正当防衛の訴えは聞き入れられなかったと、シャルルに語るのだった。彼女は女性の権利獲得のための社会活動もしたという。


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若いころのマドレーヌ


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 そして、彼らは最後のディナーに向かう。マドレーヌの行きつけのレストランで。


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 この作品を観るとパリが好きになるような、素敵な風景やシーンがたくさん盛り込まれ、マドレーヌとシャルルの会話劇というべきストーリーです。

 けれどもマドレーヌが出所して、青年になった息子と会うと、彼はベトナム戦争に志願して出兵すると、久方ぶりにあった母に告げます。その後、1場面だけの展開で、この息子が戦死したと告げられます。これは、観客にとって、感情移入できないなと思いました。ただのセリフだけで済まされては。映画なので、やはりこの息子が戦死する場面を映像としてみせるべきだったと思います。

 この映画の中にはDVとか正当防衛とか、女性の権利主張とか、色々な問題がほんのちょっと描かれているのですが、これでよかったのかなとも思います。

 とにかく、美しいパリの場面がたくさん出てきて楽しかったです。またパリに行きたくなりました。

 ただし、この映画は最後にサプライズがあります。ただ楽しいだけの作品ではないのですよ。

 マドレーヌを演じるのは、女優、社会活動家としても知られる現在94歳の現役シャンソン歌手リーヌ・ルノー。タクシー運転手シャルルは大物コメディアンのダニー・ブーン。二人は実生活でも友達同士だそうです。


「パリタクシー予告編」



原題:Une belle course  監督:クリスチャン・カリオン  出演:リーヌ・ルノー、 
ダニー・ブーンetc,
2022年製作/91分/G/フランス



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生きる LIVING [外国映画]

 この映画は、黒澤明監督の名作映画「生きる」(主演:志村喬)を、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本により、イギリスでリメイクした作品です。私はビル・ナイのファンで、黒澤明監督の「生きる」もかなり前に観たので、ぜひという思いで観に行きました。


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 (アカデミー賞では、カズオ・イシグロさんが脚色賞、ビル・ナイが主演男優賞にノミネートされましたが、無冠に終わりました。残念!)


 1953年、第2次世界大戦後のロンドン。仕事一筋に生きてきた公務員ウィリアムズは、自分の人生を空虚で無意味なものと感じていた。


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 (余談ですが、これは1953年当時のイギリスのサラリーマンの出勤風景です。彼らは、山高帽をかぶり、ピンストライプのスーツやダークスーツを着て、汽車で都心の会社へ通勤していたのです)

 ウィリアムズは息子夫婦と同居していたが、息子とはあまり話すこともなかった。
 
 そんなある日、彼はガンに冒されていることがわかり、医師から余命半年と宣告される。手遅れになる前に充実した人生を過ごしたいと考えたウィリアムズは、仕事を放棄し、海辺のリゾート地のパブで酒を飲んで、スコットランド民謡の「ナナカマドの木」を歌うが、誰も聴いてくれないと彼は思った。(ビル・ナイの歌は、すごくハリがあって上手でした。歌手でもあるのかも最後に添付しています)そして、慣れないショウを観たりするが、まったく溶け込めなくて、満たされない。


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 ロンドンへ戻った彼は、部下の若い女性マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)と偶然道で会い、彼女が役所をやめて、カフェで働くことを知る。そして、マーガレットがウィリアムズに次の職場で雇ってもらうのに、推薦状がいると相談を持ち掛けてくるのを承諾し、彼女をフォートナム・アンド・メイソンのカフェに誘う。そこで推薦状を書くためだ。


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 ウィリアムズ(ビル・ナイ)&マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)
(フォートナム&メイソンはロンドンの老舗百貨店で、そのティールームは有名です。紅茶も有名)

 マーガレットは明るくて、よく話す楽しい女性だった。彼女は前の職場で密かにみんなにあだ名をつけて楽しんでいて、ウィリアムズのことは「ゾンビ」と呼んでいたと、悪気もなく打ち明ける。ウィリアムズはとても細くて静かだからとのこと。


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エイミー・ルー・ウッドは、とても明るく健康的で、お茶目で優しさもある女性、 マーガレットをうまく体現して演じていた。

 ウィリアムズは、元気でバイタリティーにあふれたマーガレットに好感を抱き、映画やパブに誘ったり、彼女の新しい職場であるカフェにも行ったりする。マーガレットはだんだん「え?」という気持ちになるが、親切にも彼につきあうのだった。そしてウィリアムズは、息子にも言っていない、自分がガンに侵されて、長くは生きられないことを、マーガレットにだけ、伝えるのだった。


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 若く明るいマーガレットとつきあうことによって、ウィリアムズは気持ちも明るくなり、自分もまだ残されたやるべきことがあると考え、新しい一歩を踏み出すことを決意し再び出勤する。彼は、部下に指図をして、棚上げになっていた案件を実行に移すことにする。


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 部下の中で、ピーター(アレックス・シャープ)は、ウィリアムズを慕っていて、彼がいないと職場は締まりがなくなると感じていた。


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ピーター(アレックス・シャープ)


 ウィリアムズは、以前から女性3人が再三、陳情に来ていた「子供たちのために公園をつくってほしい」という願いを実現させようと思った。その土地を下見に行くと、そこは大きな水たまりができていて、歩行も困難な場所だった。


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 彼は、この案件をまたしても後回しにしようとする上司に、この工事に必要な書類を入れた箱を持っていき、上司がそれに目を通すまでは、梃子でも動かないことをしめすのだった。


 こうして彼の努力によって、ようやく公園は造られた。そしてウィリアムズは雪の日に、公園のブランコを微笑みながら漕ぐのだった、「ナナカマドの歌」を歌いながら。


 場面は変わって、ウィリアムズの葬儀が行われている。陳情に来ていた女性達、マーガレットやピーターをはじめ、たくさんの会社の同僚や上司がその場に駆けつけて、ウィリアムズのことを思い出し、彼の最後の仕事を称えた。


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 本当に心を打たれる作品でした。ビル・ナイが武骨な紳士そのもので、すばらしかったです。「生きる」とはどういうことなのか、人は命が制限されるとき、何をなすべきなのか、その答えがこの作品にあると思いました。ぜひ、ご覧ください。



      「ナナカマドの木」

原題:Living 監督:オリバー・ハーマナス  出演:ビル・ナイ、 エイミー・ルー・ウッド、
          アレックス・シャープetc.

2022年製作/103分/G/イギリス
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映画 ホイットニー・ヒューストン [外国映画]

「ホイットニー・ヒューストン」を観てきました。とてもよかったです。ホイットニーの自伝的作品です。世紀の歌姫でしたが、その人生は、色々あって起伏の激しいものでした。

 「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」のナオミ・アッキーが主演を務め、ホイットニー・ヒューストンを見いだした伝説の音楽プロデューサー、クライブ・デイヴィスを「プラダを着た悪魔」のスタンリー・トゥッチが演じる。この二人、最高にいい演技だった。


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 クライブ・デイヴィス(スタンリー・トゥッチ)&ホイットニー・ヒューストン(ナオミ・アッキー)


 ホイットニー(ナオミ・アッキー)は、11歳の時にジュニア・ゴスペル・クワイアに入り、教会で歌い始めた。ニューヨークのナイトクラブで、母親とパフォーマンスをしていたところを、アリスタ・レコードの社長クライヴ・デイヴィス(スタンリー・トゥッチ)にスカウトされた。

 1985年のデビュー・アルバム「そよ風の贈りもの」(Saving All My Love for You)は大ヒットとなった。




 ホイットニーの母親シシー・ヒューストンは、スイート・インスピレーションズ のリード・ボーカルで、後にはエルヴィス・プレスリーやアレサ・フランクリンのツアーにバック・コーラスとしても参加していた。そして、ホイットニーにとっては、仕事をする上での大きな支えとなった。のちに夫(ホットニーの父親)とは離婚している。


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      シシー・ヒューストン(タマラ・チュニー)


 ホイットニーは、1991年の第25回スーパーボウルで試合前に国歌を斉唱。この斉唱は史上最高の国歌斉唱と絶賛された。後にシングルとしても発売され、またその10年後にアメリカ同時多発テロ事件のチャリティとして再リリースされ、ヒットしている。



    ホイットニーの国歌斉唱


 1992年には、初主演映画「ボディガード」が公開される。映画のサウンドトラックは1994年のグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞するなど、高い評価を受け、アルバムからのリカット・シングル「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は自身最大のヒットとなった。
 これはとてもおもしろい、いい映画でしたね。映画の中では、ホイットニーは最初「ボディーガード」に出演することには乗り気じゃなかったのに、相手役がケビン・コスナーと聞いて二つ返事でOKするという場面がでて来ます。お茶目ですね。





 ホイットニーは同年R&B歌手、ボビー・ブラウンと結婚。翌年には一人娘ボビー・クリスティーナ・ブラウンを出産した。


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       ホイットニー&ボビー・ブラウン(アシュトン・サンダース)


 1998年、オリジナルアルバムとしては実に7年ぶりとなる『マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ』をリリース。翌年にはVH1 Divas Live 99に出演して高評価を得るなど、再び歌手活動を本格化させた。



My Love Is Your Love


 2000年にベスト・アルバム『ザ・グレイテスト・ヒッツ』を発売したが、このころ、大麻所持で拘束された。健康を害し、その後大麻やコカイン等の常用を告白している。夫のボビー・ブラウンも暴行などで度々逮捕され、浮気も発覚。

 2004年から、クライブ・デイヴィスのアドバイスにより、リハビリ生活を続けた。娘とプールで楽しそうに泳いだり。けれども、2006年、ボビー・ブラウンとの結婚生活に終止符を打つ。

 2008年6月には年末にクライヴ・デイヴィスのプロデュースの元、ニュー・アルバムをリリースすると発表した。しかし、この発売は延期され、実際には8月31日、米国アルバム『アイ・ルック・トゥ・ユー(英語版)』が発売され、1週目で30万枚以上を売り上げビルボード200の初登場1位を獲得、復活を果たした。


2010年2月の東京公演を皮切りに11年ぶりのワールドツアーも実施した。 しかしコンサートで息が切れ
たり、呼吸器の感染症で入院するなど、トラブルが相次ぎ、2011年7月にアルコール・薬物依存からの復帰プログラムを再開した。

 2012年2月11日、ホイットニーは、カリフォルニア州のビバリーヒルトン・ホテル4階客室の浴槽の中に倒れていたところを発見され、死亡が確認された。48歳だった。彼女は、グラミー賞の授賞式を翌日に控え、クライヴ・デイヴィスが主催する恒例の前夜パーティに参加するために、同ホテルに滞在していた。死因は浴室での不慮の溺死であり、遺体からコカインが検出された。

 最後は悲しい死だった。これほどの声量と魅力的な歌声を持ちながら、その人生は決して平たんなものではなかった。実の父親がホイットニーの会社で働いていたが、彼女の稼ぎを使い込んでいたことがわかり、結婚したボビー・ブラウンは色々事件を起こしたり、浮気が発覚したり、ついには離婚に至った。
 そして、麻薬との闘いがあった。麻薬は一度使うと止められなくなるという。この映画とは関係ないが、現代の若者が、麻薬を断ち切るために過ごすリハビリ施設のドキュメントをみたことがあるが、麻薬を使わないで1日過ごすことが、ものすごく大変なのだそうだ。それほど薬の誘惑は激しいものがあるのだそうだ。

 ホイットニーが居た時代は、イギリス勢が席巻しミュージック・ビデオが隆盛を誇り、ハード・ロックが台頭しヒップホップの本格的胎動が始まる時代だった。
 クライヴ・デイヴィスは、ホイットニーを、ゴスペルのルーツを土台に、卓抜した技量と何よりも豊かな感情表現を持つ唯一無二のヴォーカリストに育て上げた。

 亡くなりかたこそかわいそうだったが、歌うことが生きることだったホットニーは、やはり幸せな人だったと思う。こんなにもすばらしい曲をたくさん残すことができて、私たちを感動させたり、喜ばせたりできるのは、やはり並大抵の人間ではないだろう。一般的な幸せの規準には当てはまらないけれど、私は彼女の歌を聴くと、感動するし楽しくなる。きっと天国でも、多くの仲間を歌で喜ばせていることだろう。もちろん、現代でもホイットニーからパワーをもらう人はたくさんいるに違いない。

 映画はホイットニー・ヒューストンの魅力やすばらしい歌声を感じることができるし、ドラマティックな人生も楽しめると思う。ぜひ映画の世界に浸ってほしいと思っている。

原題:Whitney Houston: I Wanna Dance with Somebody
監督:ケイシー・レモンズ   出演:ナオミ・アッキー、 スタンリー・トゥッチ、
アシュトン・サンダース、 タマラ・チュニー
2022年製作/144分/PG12/アメリカ



       Whitney Houston: I Wanna Dance with Somebodyのトレイラー   

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スペンサー ‐ダイアナの決意‐ [外国映画]

 ダイアナさんは、なぜ亡くなったのだろう、その疑問はいつまでも心の片隅にあります。


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 この作品は、「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」のパブロ・ラライン監督がメガホンをとり、ダイアナ妃が、その人生を変える決断をしたといわれる、1991年のエリザベス女王の私邸サンドリガム・ハウスでのクリスマス休暇の3日間を描く。


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 ラライン監督は「ダイアナ妃のキャラクターを作っていく上で常に心掛けていたことは、彼女がもつミステリアスな面と脆い面をバランスよく捉えて、彼女の内面的な世界を作り上げることだった」と言っている。ダイアナさんが美しく壊れていくシーンを切り取っていて、映像で描かれるのはすべてダイアナ妃の幻想であり、王室に閉じ込められていると感じるその心の中を映像化している。

 作品中、子どもから大人になるまでのダイアナさんが、力いっぱい、楽し気に人生を歩んでいる様子が描かれる場面がある。彼女はとても幸せな、子どもらしい子ども時代を過ごしていた。

 運命が一転したのは、ダイアナさんが英王室に嫁ぐことが決まってからである。絢爛豪華な結婚式の後に待っていたのは、王室のしきたりを重圧と感じ、それがストレスとなっていったこと。そして、チャールズ皇太子の愛人問題であった。


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 この作品は、ダイアナさんの心象風景を描いているので、かなり不思議な雰囲気があり、映像もミステリアスです。私は面白いと思いました。


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 ドキュメンタリーでは、彼女の結婚式風景やパパラッチに追いかけられているところなどが、繰り返し放映されますので、私は彼女の心の中は知るよしもなかったです。

 映画はダイアナさんが主人公で、しきたりの重圧や夫の不倫の発覚などによって、拒食症になり苦しむ様子が、つぶさに描かれます。どんなに苦しかったかがよくわかりました。


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 ダイアナ妃は幼い頃よりバレエを習っていて、ダンスを愛していたという事実もよく知られているそうです。人気ドラマ「ザ・クラウン」シーズン4でも、大勢の前でダンスを披露するシーンが登場し、そのシーンは実際にあった出来事となっており、2500人もの観客の前で、サプライズでダンスを披露したダイアナ妃に、チャールズ皇太子は苦虫を噛み潰したような顔をしていたという逸話もあります。


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 ダイアナさんにとっての唯一の救いは、二人の王子と過ごす時間だったようだ。だからこそ、かろうじて、自分を保っていたのだろう。

 よくぞ離婚したと思ったのに、若くして亡くなったのがとても残念です。映画では、最後までは描かれません。

 主演のクリステン・スチュワートは、ほんとうにダイアナ妃そのものだった。彼女はアメリカ人なので、ダイアナ妃のクイーンズイングリッシュをものにするのに、大変苦労したようだ。表情が本当によく似ていた。ラライン監督は、クリステンはダイアナ妃がもっていたミステリアスな雰囲気を持つ、数少ない女優だと言っている。クリステン・スチュワートは、第94回アカデミー賞(2022年)の主演女優賞にノミネートされています。

 この作品のダイアナ妃の衣装は、全て「シャネル」が手掛けました。すばらしい衣装でした。

 ダイアナさんが亡くなったとき、実兄のスペンサー氏が、「ダイアナは英王室に殺された」と、TVのインタビューで答えておられたのが、印象的でした。


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        本物のダイアナ妃


原題:Spencer 監督:パブロ・ラライン 出演:クリステン・スチュワート、サリー・ホーキンス、
ショーン・ハリスetc.
2021年製作/117分/G/ドイツ・イギリス合作





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エルヴィス [外国映画]

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「キング・オブ・ロックンロール」、エルヴィス・プレスリーの人生を、「ムーラン・ルージュ」「華麗なるギャツビー」のバズ・ラーマン監督のメガホンで映画化。


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 エルヴィス・プレスリーは知っていたが、太っていて、派手な衣装を着ていた歌手、ぐらいの印象だった。もちろん、「好きにならずにいられない」「Love Me Tender」という名曲は知っていたが、ほとんど関心がなかった。

 何年前か忘れたが、エルヴィスブームがまたやってきて、小泉元首相がエルヴィスファンで自分でセレクトしたアルバムを出したりして、すごく人気のあった人なんだなと感心したりしていた。


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エルヴィス・プレスリー(オースティン・バトラー)


 今回の映画は、主演がアメリカ人のオースティン・バトラー、30歳。歌もオースティンが歌っていて、腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルヴィスの姿を再現。


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 「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルヴィス・プレスリーに、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。


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      エルヴィスとマネージャーのトム・パーカー(トム・ハンクス)

 しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視された。


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     マネージャー、トム・パーカー(トム・ハンクス)

 エルヴィスのマネージャー、トム・パーカーを、トム・ハンクスが演じているが、強欲でエルヴィスを翻弄する悪人として登場。実物に似せるため激太りした。まったくトム・ハンクスとは思えなかった。役者魂というは、すごいものだ。


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    エルヴィス(オースティン・バトラー)とプリシラ(オリビア・デヨング)

 1958年1月20日に、プレスリーはアメリカ陸軍への徴兵通知を受けた。彼は西ドイツのアメリカ軍に入隊する。そこで、エルヴィスはプリシラ・アン・ボーリューと知り合う。プリシラは、エルヴィスの所属部隊の部隊長の継子だった。
 彼は1960年3月5日に満期除隊しアメリカに戻り、1968年にプリシラと結婚する。(しかし、4年後の1972年には離婚)

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本物のエルヴィスとプリシラ、そして娘のリサ(1986)(写真はウィキペディアより)

 エルヴィスは、ますますステージにエネルギーを注ぐようになるが、お金のことや仕事の方向性などは、すべてマネージャーのトム・パーカーに任せっきりだった。そしてトムは、エルヴィスの出演料の50%を自分のものとし、エルヴィスが体調が悪くても、専任の医者に注射をさせ、彼を休ませることはなかった。その薬は、違法なものは使っていなかったが、エルヴィスの身体には合っていないので、彼はいつも不調をかかえていたという。


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 エルヴィスは、ヨーロッパの国々や日本でツアーをしたいという希望を抱いていて、イギリス系のマネージングを手掛ける2人の男性に会い、そのことを彼らに語った。二人はぜひエルヴィスの望むところで、ツアーができるよう手を貸すといった。しかし彼らとの契約は、トム・パーカーによって阻止された。


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 トム・パーカーは、ラスベガスのホテルでエルヴィスのショーを行う契約を、本人の承諾を得ず更新し続けていて、もしその契約を破ったら、多額の違約金を支払わなくてはならない状態にしていた。
 映画では、トムがエルヴィスのことを心配するのではなく、どんなに体調が悪くてもステージに立たせるために、医者に投薬させたり注射させたりを繰り返していたように描かれていた。


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エルヴィスの自宅グレイスランド(テネシー州メンフィス)


 1977年、エルヴィスはテネシー州メンフィスの自宅グレイスランドで突如亡くなった。死因は、処方薬の極端な誤用による不整脈だったそうだ。スターとして人気絶頂のなかの死は、世界中に驚きを持って知らされた。
 
 彼の没後、遺族はトム・パーカーを訴え、トムは処分を受けたとのことである。


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 ビートルズやクイーンにも影響を与えたすばらしいロック歌手エルヴィス・プレスリー。そのお墓には、今もファンの人々が花を絶やすことがない。

 これは本当に悲しい映画だった。優れた才能がありながら、悪いマネージャーに操られて、非業の死を遂げたエルヴィスの孤独を思うと胸が痛む。

 比較するのもなんだが、クイーンのフレディ・マーキュリーも、悪いマネージャーに操られた時期もあり、エイズという不治の病に苦しんだが、紆余曲折はあったものの、信頼できる仲間に支えられて、最後までやりたい仕事を続けることができたのは、本当に幸せだったと思う。

 エルヴィスはやりたいことをやり切れずに亡くなったが、その魅力的な歌声とすばらしいメロディーは、これからも多くの人々に語り継がれることだろう。


映画のトレイラー。オースティン・バトラーのなりきり振りをご覧ください。



本物のエルヴィスの歌もどうぞ。
「好きにならずにいられない」




「監獄ロック」




「ラブ・ミー・テンダー」



原題:Elvis  監督:バズ・ラーマン  出演:オースティン・バトラー、 トム・ハンクス、
ヘレン・トムソン、 リチャード・ロクスバーグ、 オリビア・デヨングetc.
2022年製作/159分/G/アメリカ





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ハウス・オブ・グッチ (House of Gucci) [外国映画]

 ファッションの世界は、浮き沈みが激しいと思う。「Gucci」という高級ブランドを創業し、超一流ブランドに押し上げた一族だが、それを維持していくのは、親戚関係だけでは誠に難しいことなのだということがよく理解できた。といっても、この作品はサスペンスドラマで、キャスティングがすばらしく、しかもグッチのファッションを主演のレディ・ガガとアダム・ドライバー、そして他の俳優陣もが素敵に着こなしているので、とても楽しめた。

 
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この並びの俳優陣、誰が誰だかわかりますか?左から、
ジャレッド・レト、アル・パチーノ、レディー・ガガ、アダム・ドライバー、ジェレミー・アイアンズ 

 
 ファッションブランド「GUCCI(グッチ)」の創業者一族の崩壊を描いたサスペンスドラマです。監督はリドリー・スコット、原作はサラ・ゲイ・フォーデン。世界のトレンドを作り出すファッションブランドのファミリーヒストリー(実話)をもとに映画化された話題作です。


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 グッチ創業一族の三代目マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)は、パーティーで知り合った一般女性パトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)と結婚し、乗り気ではなかったファッションビジネスに乗り出した。彼は元々弁護士になりたかったが、妻パトリツィアの勧めもあって、家業に乗り出すことにした。


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アダム・ドライバーといえば、スター・ウォーズのカイロ・レンのイメージが強いと思いますが、
こんなファッショナブルな男性の役もこなせるなんて、ちょっと素敵ですね。


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    アダム・ドライバーとレディー・ガガ
 たぶん、撮影の合間のツーショットだとおもいます。レディー・ガガの黒の衣装がセンスいいですね。レディー・ガガは、撮影の間中、写真には笑顔で写らないと決めていたそうです。というのも、彼女は悪女を演じるので、笑顔は要らないと思っていたとのこと。それだけ徹底して役に打ち込んでいたのでしょうね。


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 映画のポスターやトレイラーを見ただけでは、レディー・ガガが演じるグッチ家に嫁ぐ女性(パトリツィア)のファッションのインパクトが強い。けれども話が進むにつれてグッチ家の人々のファッションが、それぞれの役柄を表現しているようだった。どの俳優さんもとてもおしゃれでよかった。


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  パトリツィア(レディ・ガガ)とパオロ・グッチ(ジャレッド・レト)

 このパオロを演じる俳優が、ジャレッド・レトとは誰も気づかないでしょうね。J・レトは役を創り込むので有名な人で、このパオロ役も特殊メイクをほどこしているそうです。毎日6時間もかけて、メイクしたとのこと、すごいですね。ちなみにパオロはグッチのデザイナーの1人です。

 ところで、次の人は誰でしょう。アル・パチーノです。最初はわからなかったのですが、アルド・グッチ(長男)を演じています。先ほどのパオロ・グッチの父親ですが、パオロとは衝突し、それがブランドに不協和音をもたらします。
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  アルド・グッチ(アル・パチーノ)


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  正真正銘のグッチブランドですね。


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 グッチ家は三代でイタリアのファッション業界のトップにのぼり詰めた。けれども、そのブランドが現在は創業家の人が一人もいないコングロマリット(企本来の業種とは関係のない業種の企業を買収合併して巨大化した複業企業)のなかの1ブランドになってしまった。それは、イタリア的な家族愛の二面性がかみ合った結果ともいえる。


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 家族を大事にして、株式を他の企業に売り渡すまいとするけれども、結局はお金に困った者が株式を他の業種に売り渡して、なしくずしに家族経営ができないようになってしまう。マウリツィオ・グッチもスキー場で知り合った女性と不倫関係に陥り、他に経営を任せて、大金がころがりこんだので、贅を極めた生活に没頭する。それを、そのときの経営者から指摘されても、一向に反省しようとしない。


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   マウリツィオの不倫相手のカミーユ(パオラ・フランキ)
      
 ブランドのデザインもだんだん人気がなくなって、買収企業からトム・フォードというアメリカのテキサス出身の新進気鋭のデザイナーを起用することを提案される。グッチ家は不満だったが、トム・フォードはグッチブランドのクリエイティブ・ディレクターとして、活躍する。

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   言い争いをするマウリツィオとパトリツィア

 こうして二人は悲劇的な最終章へと突入するのだった。こんな事実があったとは、つゆ知らずだった。人間の憎しみとは、本当に怖いものだ。


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 左から二人目(ブルーのスーツ)がジャレッド・レト、真ん中の紫の衣装がレディー・ガガ

 パトリツィアは、結婚当初グッチ家に入っていこうと努力したが、一族から無視されたりした。自分なりに、かなりがんばったのだろうが、最後はマウリツィオが不倫して捨てられそうになる。相当かわいそうな人ともいえるけれど、人間怒りをためこむと本当によくないことになる。気を付けなくては。

(映像は映画com.のサイトからお借りしました)
 
原題:House of Gucci 原作:「ハウス・オブ・グッチ」(ノンフィクション小説)
著者:サラ・ゲイ・フォーデン
監督:リドリー・スコット 出演:レディー・ガガ、 アダム・ドライバー、 アル・パチーノ、
ジェレミー・アイアンズ、 ジャレッド・レト、 パオラ・フランキetc.
2021年製作/159分/PG12/アメリカ



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