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春の雪 [日本&アジア映画]

原作:三島由紀夫  監督:行定勲  撮影:Lee Ping bin  出演:妻夫木聡、竹内結子、
高倉蒼佑、及川光博、岸田今日子、榎本孝明、大楠道代、若尾文子etc.
2005年  日本   スクリーン

 なんときれいな映画だろう。今年の春にクランクアップしてから公開まで、7,8カ月待ったが、その甲斐があった。

 主演の二人がほんとうにきれいだった。妻夫木聡は、屈折したところのある、純粋な清顕(きよあき)という、まだ少年っぽさの残るお坊ちゃまの役がぴったりだった。こんなにきれいな妻夫木を見たのは初めてだ。今が美しさのピークなのかもしれない。白いシャツにサスペンダーという格好や、黒い詰襟の学生服がとてもよく似合っていた。

 竹内結子も、大正時代の貴族の、深窓のお姫様聡子(さとこ)という役柄の雰囲気を、よくかもし出していたと思う。顔のつくりも、目などもあまり大きくなくて、古風な感じだと思った。
 とにかく、竹内結子の衣装が全てすばらしかった。最初の鮮やかな水色の着物や、バラの花の帽子とドレスもよかった。どれもこれもほんとうにセンスがよく、大正時代の和洋折衷の感じがよくわかった。衣装の担当は伊藤佐智子という人で、「オペレッタ狸御殿」等を手がけた人だそうだ。

 ストーリーは、松枝(まつがえ)侯爵の1人息子で、屈折したところのある青年、清顕(きよあき)が主人公だ。彼は自分の気持ちをストレートに表現できなくて、もともと幼馴染で、密かに恋心を抱いていた、公家の血を引く深窓の令嬢、聡子とうまくいかなくなってしまう。そして、聡子が宮家の王子のところへ嫁ぐことが決まると、急に惜しくなってまた恋が再燃するという話だ。しかも許されざる恋だからこそ、燃えあがるのだ。
 ストーリーそのものは、よくある悲恋であるが、そのなかに色々な場面がでてきて、脇の役者の演技が光っていた。

 まずは、清顕の親友本多に、高倉蒼佑。彼は「パッチギ」で朝鮮高校の番長の役で出ていた人だ。パッチギでは、けんかが強くてやんちゃもんの男の子を好演していた。今回は、剣道部に所属する硬派のさわやかな男子の役が、はまっていたと思う。

 次に、聡子の侍女蓼科(たでしな)に大楠道代。彼女の、酸いも甘いも噛み分けた、したたかな女の演技は迫力があり、たいへんおもしろい役だと思った。

 それから、岸田今日子。彼女は清顕のおばあさんの役だった。しかし、ただのおばあさんではなく、凛としたところがあり、自分のしっかりとした信念をもっていて一家を取り仕切っている人なのだ。それを岸田があの独特の雰囲気で演じていた。

 そして若尾文子を久しぶりにスクリーンで見た。若尾は京都の尼寺の住職の役だった。このひとのもっているやわらかな雰囲気が、京言葉とマッチしていた。きれいだった。

 そのほか、清顕の父親役の榎本孝明や、執事の寡黙な男、田口トモロヲもとてもよかった。やはり、行定さんは役者を適材適所で使うのが上手だなと思った。

 美術もすばらしかった。セットやロケなど、色々なものを組み合わせていい雰囲気がでていた。特に、清顕と聡子が逢引する下町の隠微な下宿屋が面白かったと思う。

 撮影が、Lee Ping binという人で、台湾生まれで、台湾、香港の映画を40本以上も撮影監督をしている人らしい。このひとは、「花様年華」や「夏至」などを手がけている。この2本の映画は、私の好きな映画なので、「春の雪」のできあがりもなるほどと思った。大正時代のレトロな雰囲気がよくでていた。

 そして、監督。エンドクレジットの一番最後に、「監督 行定勲」と出てくる。監督というのは映画全体を取り仕切って、思うがままに自分の世界を創りあげることができる。やはり一番かっこいいのは、行定さんなのだと思った。

 原作は、今読んでいるところだが、三島の流麗な文学の世界を、目で見ることができたのは幸せなことだ。

 お酒を飲むとき、酔わないともったいないと、友人がいっていたが、映画もまたそうではないだろうか。「春の雪」で私は大正時代を背景にした美しい悲恋の世界に浸って、酔うことができた。美しいものを見るのは、楽しいことだ。それがたとえひと時の夢でも・・・・・・。


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コメント 20

佐藤秀

TB有難うございました。
直接関係ないですけど、最新の、三島に関連した記事TBさせていただきました。
by 佐藤秀 (2005-11-28 22:04) 

coco030705

佐藤さんへ
なかなか目にすることのできない記事を読ませていただき、
ありがとうございました。
by coco030705 (2005-11-28 22:08) 

ちびにーママ

ココさんの感想は上手にまとめてあって読みやすいですね。
いろんな事に視点を置かれていて凄くいいです。
監督あっての作品。原作が良くても映画にすると伝え切れていない
ものも数多くみられますが、この作品は原作にかなり忠実だった気がします。
またキレイなものをキレイに撮るという気持ちが伝わってきました。
by ちびにーママ (2005-11-28 23:42) 

tuki-to-kyabetu

TB&コメントありがとうございました^^
まさに、この映画は酔ったもん勝ちですよね!
私もこの映画を観て、雑念が一切入ってきませんでした。
大正時代という背景だったので、感情移入こそできませんでしたが、
「三島文学」を映画で堪能できたのは、とても幸せでした^^
TBさせて頂きますね^^
by tuki-to-kyabetu (2005-11-29 01:13) 

coco030705

ちびにーママさんへ
コメント&TBありがとうございます♪
ほんとにおっしゃるとおり、監督がよくなければいい映画は
生まれませんよね。その点、行定さんは実力のある人だと
思います。続編も創るといううわさがありますが、ぜひ創って
ほしいですね。
by coco030705 (2005-11-29 09:26) 

coco030705

tuki-to-kyabetuさんへ
TB&コメントありがとうございました♪
映画には色々な要素があるんですね。「照明」という分野は、
今まで考えたことがありませんでした。そういえば、お部屋のなかの
ライトもほの暗くて、いかにも大正時代の明かりの雰囲気がでていたの
かもしれません。それに、夢日記の幻想的な部分も、照明の力で実現
したのでしょうね。勉強になりました。また、時々お邪魔します。
by coco030705 (2005-11-29 09:34) 

gillman

初めまして
今日、韓国人の女の子と話していたら「春の雪」を見て、良かったと言ってました
彼女は原作も読んでいました
by gillman (2005-11-29 22:25) 

TB&コメントありがとうございました。

主人公の二人にはあんまり共感ができなかったので、そこがどうしても気になってしまいましたが映像の美しさが印象に残った映画でした。脇役の方々がしっかりしてたので引き締まった感じでしたね。
原作は難しそうなので読んでないのですが、やっぱり映画みたいな美しい作品なんでしょうか?
こちらからもTBさせていただきました。よろしくお願いします。
by TB&コメントありがとうございました。 (2005-11-30 01:03) 

coco030705

gilmanさんへ
コメントありがとうございました♪
妻夫木聡は、韓国でも人気があるそうですね。韓流ブームですが、
そろそろ、韓国でも日本ブームがおこってほしいものです。
by coco030705 (2005-11-30 17:43) 

coco030705

gopatsさんへ
コメント&TBありがとうございました♪
原作も文章が美しく、すばらしい作品だと思います。でも、今の小説のように
場面がパッパと変わったりはしないし、ゆったりしているので、読みづらい所はあると思います。それに、むずかしい漢字や、語句が多い!
私も今挑戦していますが、なかなか進みません(笑)
by coco030705 (2005-11-30 17:48) 

三島由紀夫は、今、ちょっとしたはやりですね。メディア恐るべし。
これって原作あるのですね。
美しいと称される文をまた読むかな~。

ところで、また変わりましたね~。
by (2005-12-01 01:50) 

coco030705

bikさんへ
そうなんですよ、クリスマスなので、雰囲気を味わおうと思って・・・♪

三島作品は好きで、今年はたくさん読もうと思っていたのですが、
5~6冊しか読めませんでした。「春の雪」も途中で止まったまま
なので、今年中には読むつもりです。
私は、「潮騒」が好きです。でもこの作品は、三島文学の中では
異端なのだそうです。bikさんもお読よみになってみてください。
by coco030705 (2005-12-01 15:03) 

きのこスパ

TB&コメント、サンキューです。

観ながらワイフはオイオイ号泣してましたが、
ボクの方は言うと…、実はあまり泣けませんでした。
むしろ、ボクは“ストーリー”よりも“カメラワーク”の方に
衝撃を受けました。
聞けば、今作は『花様年華』と同じ撮影監督さんだそうで、
単に美しい景色を撮るだけじゃなく、ゆったりとしたカメラの動きの中に、
哀しくも切ない心情を映し出すあたりはさすが。
ちなみに、その後ワイフは早速、本屋に寄って、
三島由紀夫の『春の雪』をゲットしておりました(笑)。
by きのこスパ (2005-12-01 20:00) 

coco030705

きのこスパさんへ
コメントありがとうございます♪
本当に大正時代の雰囲気がよくでていて、いい映画だったと思います。
この作品は、色々なものがひとつひとつすばらしくて、楽しめた作品でした。
行定さんが、外国のカメラマンを起用したというのも、成功した秘訣かもしれませんね。私も今、「春の雪」を読んでいます☆
by coco030705 (2005-12-01 22:05) 

サラ

これも見てみたいのですが、まだ見ていないのです・・・。
本も読んでみようかなぁ、映画が先かしら、と思ううちに
上映期間が終わってしまいそうです・・・^^;
先日ようやく「スイミング・プール」を見たところです。
by サラ (2005-12-01 22:38) 

coco030705

サラさんへ
大阪の梅田では、2館で上映していたんですよ。わたしは、祝日に見に行ったのですがどちらも満杯でした。
きれいな映画だし、悲恋なのでどちらかというと、女性好みかもしれませんね。
機会があったら、ぜひ☆
by coco030705 (2005-12-01 23:26) 

コザック

こんばんは。
私も映画観てから原作を読んだのですが、どちらもよかったです。ということは作品が意外に忠実に三島の美しい情景を映し出す文体を再現していたということなのかな・・と思ってます。
妻夫木くんの背伸びの演技も終わってみればよかったと感じちゃいますネ。
by コザック (2005-12-05 00:09) 

coco030705

コザックさんへ
TB&コメントありがとうございます♪
私も、コザックさんがおっしゃるように、三島作品の視覚化に成功した映画だと
思っています。行定さんは、力のある監督ですね。この続きもぜひ創ってほしいものです。
でも、大阪梅田ではこの映画は2館で上映されていて、満員でしたよ。東京は観客動員がもうひとつだったようですね。
by coco030705 (2005-12-05 00:22) 

DSilberling

映像と脚本がとても素晴らしかったですね。
by DSilberling (2005-12-07 11:19) 

coco030705

Dsilberlingさんへ
nice&コメントありがとうございました♪
ほんとうに大正時代の雰囲気をよく伝えていましたね。そして、三島の
美しい世界も。色々な要素がひとつひとつすばらしかったと思います。
by coco030705 (2005-12-07 14:03) 

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