グレース・オブ・モナコ

　ニコール・キッドマンの目の演技がすばらしいと思った。目に感情を込めるのは、難しいと思う。強い光を放っているかのような視線で、相手を射抜くようだった。目で演技するとはこのことかと思った。彼女は見事にそれをやってのけた。




　
　　1956年、人気絶頂の中、26歳という若さで突然ハリウッドから引退し、モナコ大公レーニエ３世（ティム・ロス）の妻、モナコ公妃となる道を選んだグレース・ケリー（ニコール・キッドマン）。その“世紀の結婚”から６年、彼女はいまだに宮中のしきたりに馴染めず、孤立感を募らせる息苦しい毎日を送っていた。そんな時、ヒッチコック監督から次回作「マーニー」のヒロイン役を直々にオファーされ、心ゆれるグレース。ところが折しも、モナコが国家存亡の危機に直面してしまう。フランスのド・ゴール大統領がモナコに過酷な課税を強要し、一触即発の緊張状態に陥ってしまったのだ。大国フランスを相手にやがて万策尽きるレーニエ。そんな夫を支え、愛する家族と国家を守るため、グレースはある覚悟を胸に行動を開始する。 (allcinema ONLINE)





　この映画を観る前は、グレース・ケリーのシンデレラストーリーの映画化と思っていた。しかし映画はグレースが結婚して6年後の場面から始まり、いまだ宮中に馴染めず苦悩する公妃が現れる。折しもヒッチコックから新作「マーニー」へのオファーが来て、グレースの心は揺れ動くのだ。だが、そのとき（1950年代）モナコは国政を揺るがす大問題にぶつかっていた。
　フランスがアルジェリアの独立戦争で戦費が不足し、「無税の国」モナコに対し、フランスからモナコに移転した企業への課税を強要してきたのだ。万策つきて悩む夫レーニエ大公を救うため、グレースは国際赤十字の舞踏会をモナコで開催することを決定し、各国の要人を招待する。そして、自らがその舞踏会でモナコを守るためのスピーチをすることを決意したのだった。


　グレース・ケリーとレーニエ大公（ティム・ロス）


　この場面でのスピーチがすばらしかった。歴史上本当にこういう場面があったのだろうか、それは謎だがニコール・キッドマン演ずるグレース・ケリーのスピーチは本当にすばらしく、愛を持って国と家族を守る熱意にあふれていた。ここはニコールならではの演技力と美しさがなければ、観客を感動させることはできなかっただろう。

　この映画でニコールが身に着けているジュエリーはカルティエが本物を忠実に複製したものだし、衣装も何着かはディオールがグレース・ケリーのドレスを再現したものだそうだ。それは44着にものぼったのである。その豪華さとニコールの美しさに酔いしれながら、衣装も映画にとって非常に重要な要素だと改めて思った。


　
　
　作品中ではレーニエ大公がグレース・ケリーの陰に隠れて、頼りない人物のように描かれているが、実際はなかなかの政治家でもある。レーニエ大公がグレース・ケリーとの結婚に期待したことが2つある。1つはアメリカ人観光客の増加。もう一つは世継ぎを得ることだった。当時は1918年にモナコとフランスが交わした条約によって、後継ぎがいない場合モナコ公国はフランスに併合されることになっていたそうだ。（今は条約が変わっている。）　そして、アメリカ人観光客の増加をねらい、海岸を埋立し、ホテルを建設した。これはモンテカルロのカジノが、当時はギリシャの大富豪オナシスの私有財産だったため、利益は全てオナシスが独り占めしていたからである。レーニエ公の思惑通り、アメリカ人観光客が急増し、ついにはカジノをオナシスから奪い返したとのことだ。そしてグレース・ケリーとの間に一男二女をもうけてモナコ公国存続の危機も脱したのである。





　グレースは映画界に復帰するという願望を捨て、完璧な公妃となるためにモナコの歴史や宮中のしきたりの勉強、また公用語のフランス語をマスターするべく奮闘する。そしてレーニエ公と二人三脚で公妃としての道を歩み、モナコの危機をも救ったのである。実際にもグレース・ケリーは、色々な団体を設立したり、社会貢献活動に勤しんだりして、すばらしい公妃だったとのことだ。

　私が以前コートダジュールの小さい美術館を巡る旅をしたとき、モンテカルロのホテルに連泊し、グレース・ケリーのお墓にも参った。周りにもたくさんお墓があったが、彼女のお墓だけにたくさんの花束が供えられていたのが印象的だった。グレース・ケリーはモナコ公妃として、そして女優として今でもたくさんの人々に愛される存在なのだなと感動したことを覚えている。

　ニコール・キッドマンというすぐれた女優によって、グレース・ケリーの生きざまをありありと観ることができたのは、とても楽しく心躍る体験だったと思う。ただ、もしグレースがヒッチコックの「マーニー」に出演していたら、このヒッチコック作品がもっと面白い映画になっていたに違いないと思うと、ファンとしては少し残念なような、複雑な気もするのである。

原題：Grace of Monaco　監督：オリヴィエ・ダアン　出演：ニコール・キッドマン、　ティム・ロス、
フランク・ランジェラ、　パス・ベガ、　ロバート・リンゼイetc.
2014年　仏／米／ベルギー／伊　

コメント 37

キッドマンはグレース・ケリーにはあまり似ていませんが、やはりきれいですし、衣装やセットが豪華ですね。
キッドマンのファンにはお勧め。
ティム・ロス演じるレーニエ3世もいいですが、グレースに助言をするフランク・ランジェラの神父役の演技が良かったです。
モナコ公国とフランスとの軋轢をグレース・ケリーが一世一代の演技で撤回させるというお話はあまり現実味がないかな。
by きさ (2014-11-02 22:03) 

勉強になりました。　＜(_ _)＞
by 怪しい探麺隊 (2014-11-03 00:29) 

sugoimonoさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2014-11-03 00:32) 

きささんへ
こんばんは。nice!＆コメントありがとうございます♪

ニコール・キッドマンは輝いてましたね。すばらしかったです。ティム・ロスとフランク・ランジェラもよかったです。うまいですね。
とにかくニコールのための、そしてグレース・ケリーをほめたたえる映画って感じでしたね。フランスがモナコを併合しようとしたのは史実としても、
グレースが本当にあのスピーチを行ったのかはちょっと疑問が残ります。
ただ監督も言うとおり、この作品は伝記映画ではないので、フィクションかもしれないけれど面白かったのは確かです。満足のいく出来だったと思います。
by coco030705 (2014-11-03 00:33) 

怪しい探麺隊さんへ
こんばんは。nice!＆コメントありがとうございます♪

私もモナコといえば、グレース・ケリーとカジノくらいしか知らなかったので、今回ネットで調べてみて、モナコについて色々なことを知りました。映画は何かに興味を持たせて伝えるという意味でも、大きな役割をになっていますね。
by coco030705 (2014-11-03 00:57) 

cocoさん、こんにちは。
公妃のお墓参りをされたなんて、素敵ですね。
キッドマン本当に美しかったです。そして、
公妃として生きるグレース・ケリーの覚悟の凄さに感動しました。

by Naka (2014-11-03 10:06) 

uminokajinさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

makimakiさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2014-11-03 10:06) 

Nakaさんへ
こんにちは。nice!＆コメントありがとうございます♪

そうなんです。行ったのはツアー旅行だったんですが、グレース公妃のお墓参りが組み込まれていて、ラッキーでした。花々がとても美しかったです。ニコールがグレース公妃に似ているとか似ていないとか、そんなこと問題じゃないですよね。これは史実をベースにしたフィクションなんだから面白くできているかどうかが、ポイントだと思います。とてもすばらしい作品だったと思います。
by coco030705 (2014-11-03 11:54) 

こんにちは。
二コールの美しさと豪華な衣装に魅せられました。
あの愛のあるスピーチには邪な策略など太刀打ちできませんよね。
今でも愛されているのも納得です。
お墓参りされていたのですね。素敵ですね☆
by non_0101 (2014-11-03 15:36) 

nonさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

本当にニコールは素敵でしたね～☆　スピーチもとてもすばらしかったです。やはり愛は何物にも勝つということでしょうね。
そうなんです、ツアーでいったのですがグレース・ケリーのお墓参りができてよかったです。お花がとてもきれいで、グレースらしいお墓って感じでした。彼女の作品をゆっくり再見してみようと思っています。
by coco030705 (2014-11-03 16:06) 

gillmanさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2014-11-03 16:19) 

こんにちは。
観に行かねばと思いつつまだ行けてません。
ニコール綺麗ですね。
by キキ (2014-11-03 19:12) 

キキさんへ
こんばんは。nice!＆コメントありがとうございます♪

11/1の映画の日に行ったら満員でしたよ。ニコールの美しさときりっとした強さが素敵でした。こういう本物のジュエリーとか、一流デザイナーの衣装を着こなすのには、美しいだけじゃだめでしょうね。芯の強さというのか、プライドの高さのようなものがいると思います。ちょうど歌舞伎の玉三郎が豪華な重い衣装をつけるようにね。
人間としての、役者としてのプライドがなければこういう役はこなせないでしょうね。その点、ニコールとグレース公妃は共通のものを持っている人たちではないでしょうか。ぜひご覧くださいね。
by coco030705 (2014-11-03 20:00) 

GONさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-03 22:27) 

cocoさん、グレースケリーのお墓参りにもいらしたんですね！
ニコール・キッドマンは、女王らしい凛とした美しさでしたね。立ち居振る舞いも綺麗でした。衣装、宝石、すばらしいですよね。カルティエから出てくる場面では、帽子を目深にかぶっていたので、本当のグレースに似ていました。結婚式の場面をグレースがビデオで見るという形で見せるのは上手いなと思いました。黒白だから過去のことってはっきりわかりますものね。
フランス語の特訓場面はモナコだから当然、公用語のお勉強が必要なのね、と思いました。
マリアカラス役の女優さん、似てましたね。
カジノをオナシスから奪い返した経緯、そうだったのねと感心して読みました。cocoさんが書いてらっしゃるように、レニエ大公は政治的手腕に優れていたんですね。ここを読んで、可愛かったアンドレア王子を思い出し、調べてみました。容貌は変わったものの、立派になられ、いろいろあったけれど、美しい王妃を迎え、赤ちゃんも生まれる予定なんですね。

by TaekoLovesParis (2014-11-03 22:49) 

こんばんは
素敵な作品でした。ニコール・キッドマンはグレースには似ていないけど、彼女の美しさと気品から最後の演説が素晴らしいものになったと思います。
たしかにどこまで実話かは興味深いですが、あの長回しの演説を聞けただけでも作品として観てよかったと思いました。
cocoさんの記事で、私の知らないモナコとグレースを知ることできてよかったです(^^)
by コザック (2014-11-03 22:49) 

Taekoさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

旅行はツアーだったんですが、グレース・ケリーのお墓参りが組み込まれていて、ラッキーでした。花々が美しかったです。
モンテカルロはとってもいい街ですね。美しいし安全な感じがします。ここの結構いいホテルに7日間連泊しました。主に印象派の画家たちがたくさん住んでいたんですね。毎日バスで色々な美術館へ連れて行ってもらっておもしろかったです。ピカソのお城の美術館で彼の陶器のお皿のコレクションをみたのが興味深かったです。確かTaekoさんがいらっしゃったときは、この美術館は閉館していたんですよね？
映画の方、マリア・カラスを演じた女優さんきれいな人でしたね。メイクがそっくりでした。歌はカラスの声ですよね？すばらしい歌だったと思います。
映画の中でレーニエ公が影が薄かったので、アンドレア王子はこの作品が気に入らず、上映中止を申し出ているとのことです。
まぁ伝記映画ではないので、私は映画として面白ければいいと思っております。

by coco030705 (2014-11-03 23:39) 

コザックさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

ほんとにあのスピーチの場面はすごく長かったですね。でもニコールが非常に自然に演じていたので、惹きつけられ感動しました。ニコールの女優としての魅力が前面に押し出され、しかもグレース公妃をほめたたえる作品になっていたので、すばらしかったと思います。映画としてもドラマもあり、面白い作品でしたね。
by coco030705 (2014-11-03 23:46) 

アルファルハさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-04 17:16) 

りんこうさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-04 20:06) 

siroyagi2さんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2014-11-05 01:28) 

yukkoさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-06 01:02) 

ネオ・アッキーさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-06 10:02) 

(。・_・。)２さんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-06 18:11) 

kaminews100さんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2014-11-07 19:49) 

ryo1216さんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-09 15:16) 

こんばんは。
コートダジュールの美術館巡りの旅！なんて素敵な響き＾＾
この映画の紹介をTVで見ましたが、監督の注文がとても細かくて二コールの瞳の動きにまで指示があったそうでした。監督の厳しい要求に応えた二コールもすごい女優さんですよね。グレース・ケリーのことも良く知りませんけど、この映画は観てみたいですね～。
by ＥＲＵＮ (2014-11-09 19:35) 

ERUNさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

監督さんの注文、わかります。文章の冒頭に書いたのですが、ニコールの目の演技がすごかったんです。強い光を放っているかのような視線で、相手を射抜くようでした。目で演技するとはこのことかと思いました。
お時間ございましたら、ぜひご覧くださいませ。
by coco030705 (2014-11-09 21:17) 

カメラde防犯さんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2014-11-12 23:32) 

人気女優か公妃か、結婚するときもスゴい決断だったのだろうけれど、
その後うまくいかなくても、その国のために映画の話を断って公妃として
生き続ける決意も大変なものだったのでしょうね。
この役はニコール・キッドマン以外には考えられませんね＾＾。
気品と芯の強さ、表情がとってもいいです。
いつか機会があったら観たい映画になりました。
by Inatimy (2014-11-14 23:19) 

Inatimyさんへ
こんばんは。nice!＆コメントありがとうございます♪

やはりグレース・ケリーはすごい人だったと思いますね。
それを演じたニコール・キッドマンも本当に素敵でした。
モナコという国のことを色々と知ることができ、大国と小国の
関係などを考えるいい機会になって、とても興味深く感じました。
機会がありましたら、ぜひご覧くださいませ。
by coco030705 (2014-11-14 23:35) 

月夜のうずのしゅげさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2014-11-15 23:59) 

さすがさすがの映画評

見337に行ったのですが
じかん合わなくて、泣く泣く変更、絶対見なきゃ！映画館で。
by prin4795 (2014-11-17 00:05) 

prin4795さんへ
こんばんは。こんばんは。nice!＆コメントありがとうございます♪

お元気ですか。いつも褒めていただき嬉しく思います。
この作品はぜひ映画館でご覧くださいませ。
by coco030705 (2014-11-17 00:59) 

絶対観に行きたいと、思ってます。
by prin4795 (2014-12-04 01:05) 

prin4795さんへ
こんばんは。ぜひぜひ、ご覧くださいね☆
by coco030705 (2014-12-04 23:31) 

さらまわしさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2015-04-06 22:27)