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パンズ・ラビリンズ [外国映画]

監督:ギレルモ・デルトロ    出演:イバナ・バケロ、 セルジ・ロペス、 マリベル・ベルドゥ
2007年 メキシコ/スペイン/アメリカ     スクリーン

 少女オフェリアのけなげさ、迷宮の美術の美しさが心を捉える作品だ。これはソネブロの色々な方のレビューを読んで、とても評判がよかったので、ぜひスクリーンで見ようと思っていた。今の時期は毎年「朝日ベストテン映画祭」というのを大阪のリサイタルホールでやっている。公開は昨年だったのでかなり遅くなってしまったが、スクリーンで見てよかったと思う。

 1944年のスペインは、内戦は終結していたがゲリラ達はフランコ将軍の圧政に反発し、山奥にこもって抵抗活動を繰り広げていた。そのゲリラを制圧するために、フランス軍のビダル大尉はこの山間の地に駐屯していた。その彼のもとに妻のカルメンと連れ子のオフェリアがやってくる。カルメンはビダル大尉の子供を身籠っていた。カルメンは前夫が病死し、現実の生活を生きていくことを考えてビダル大尉と結婚したのだった。しかしビダルは実は非常に残忍で冷酷な性格の男だった。
 オフェリアはどうしてもこの新しい父を好きになれなかった。彼女はビダルのもとへ来る旅の途中、森で不思議な昆虫と出会う。そして新しい住まいで夜母と眠っているときに、再びその昆虫が部屋に飛び込んできて、オフェリアを森の中の迷宮へいざなう。そこにはヤギの頭と身体をしたパン(牧神)がいて、オフェリアが地底の魔法の大国のプリンセス、モアナの生まれ変わりだと告げる。彼女の左肩にある三日月のようなアザがその証拠だった。
 パンは満月の夜までに3つの試練を乗り越えれば、彼女が魔法の国に帰ることが出来ると告げる。オフェリアはその言葉を信じて、彼にもらった「道を標す本」を開き、与えられた3つの試練に立ち向かう決意を固めるのだったが…。

 オフェリアを巡る現実は非常に困難なものだった。母カルメンは現実を生き抜くために、ビダル大尉と結婚した。「世の中は残酷よ。人生はおとぎ話じゃないのよ。」とカルメンはオフェリアに叫ぶ。この母は非常に現実的な人間である。だが、オフェリアの言葉を信じなかったがために、自分の身体を治してくれる不思議な植物の根マンドラゴラを火の中に投げ込んでしまい、挙句の果てに出産で死んでしまうのだった。

 オフェリアは想像力豊かな女の子だ。そして、ビダル大尉の冷酷さを敏感に感じ、自分を助けてくれる妖精たちを信じて、彼らの言うとおりにしようと行動するのだった。

 ここには二人の女性の姿が描かれていると思った。母カルメンは現実の厳しさから目をそむけ、それから逃れるために男に頼る道を選ぶ。そのため、ビダルの冷酷で残忍な性格に気付かなかったのだ。オフェリアは自分を助けてくれるものをしっかりと認識し、仲間を信じ彼らの世界に入るためにどんな試練にもトライしようとする。オフェリアは賢く純粋な人間だ。
 
 ビダルの残忍さがかなり克明に描かれ、それに抵抗するゲリラのスパイの女性、小間使いのメルセデスとのやりとりにどきどきさせられる。このメルセデスを演じた女優、マリベル・ベルドゥがとてもよかった。

 こうして、この物語は現実とファンタジーが交錯するつくりになっており、非常におもしろいと思った。だが、単なるファンタジーではなく現実をきちんと描いているので、最後になんでもかんでも魔法の力でうまくいくというような、軽々しい作品にならなかったのがすばらしい。

 だれかに頼って生きていこうとすると、その人の本当の姿が見えなくなるのかもしれない。そして、ひとたびこの人は信じられると思ったなら、とことんその人を信じるべきなのだ。そんなことをこの映画を見て感じたのである。


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tomoart

予告通りにご覧になったんですねw きっとcocoさんにも面白いだろうと思いましたが、気に入ってもらえたようで良かったです。
この作品は単独で見ても充分面白かったですが、スペイン内戦の推移をWikiで読んだらこの作品の史実の中での時間軸上の位置付けがわかって、いっそう興味深かったです。単純に「ずいぶん昔の物語」と割り切れない恐ろしさを感じました。

てことでwTBさせていただきますm(_ _)m
by tomoart (2008-02-05 02:48) 

aranjues

パンズ・ラビリンズ、昨年のアカデミー賞の授賞式でハイライトシーンを
やってて面白そうだな~~と思いました。何かの候補作品だったのですが、
詳しいことは忘れました。WOWOWでやるまで待ってます(^。^)
by aranjues (2008-02-05 08:56) 

coco030705

tomoartさんへ
nice&コメント&TBありがとうございます♪
とってもいい映画でした。スペインは一度行ったことがありますが、人々が温かくていい国でした。でも政治的には色々あって大変なんですよね。この映画はその部分も描かれていて、単なるファンタジーを超えた作品になっていましたね。
tomoartさんのレビューをこれから見に行きまーす。


aranjuesさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
この映画はアカデミー賞の撮影、美術、メーキャップ賞を受賞しています。面白い映画ですので、ぜひご覧くださいませ。
by coco030705 (2008-02-05 11:00) 

coco030705

xml_xslさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-02-05 17:06) 

キキ

こんばんは。
少女の幻想だったのか、本当に起こったことなのか。
悲しいけど美しい物語でしたね。
by キキ (2008-02-05 19:02) 

coco030705

キキさんへ
nice&コメント&TBありがとうございました♪
最後が夢か現実かあいまいなままで終わったのがよかったですね。
夢と現実は本来境界があいまいなものだとおもいますので。
単なるファンタジーで終わらせなかったギレルモ・デルトロ監督はすごい☆
by coco030705 (2008-02-05 19:43) 

TaekoLovesParis

私も昨秋、これを見逃していたのですが、今Cocoさんの記事を読んで、
調べてみたら、うちのすぐ近くでやっているんですよ。行ってから、もう一度
丁寧に記事を読んでコメントしますね。
by TaekoLovesParis (2008-02-05 21:33) 

coco030705

Taekoさんへ
nice!&コメントありがとうございます♪
お近くで上映していたとは、よかったですね。
この作品は、「ビダル大尉」が残酷すぎるという意見と、
いやこのくらいはっきりとキャラクター設定しないと物語に
インパクトがなくなるという意見にわかれているようです。
私は後者の意見に賛成です。
Taekoさんはどうご覧になるでしょうか。楽しみです。
by coco030705 (2008-02-05 21:40) 

こんばんは(^^)
パンズ・ラビリンズは悲しくもあり幸せでも有りまた残酷な話でしたね
やはり名作は映画館で見るのが一番ですねo(^-^)o
by (2008-02-05 21:49) 

coco030705

WIZARDさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
ほんとに、いい映画はぜひスクリーンで見たほうがいいですね。
悲しく残酷でしかし夢もある……。パンズ・ラビリンスはまさに
現実世界そのものですね。
by coco030705 (2008-02-05 21:58) 

こんばんわ。前から気になってるんですけど、この美しい写真はどうやって入手してるんですか?
by (2008-02-05 23:14) 

ジジョ

こんにちは☆
現実感のあるファンタジー♪おもしろくて残酷で美しいお話でした☆
スクリーンで観てどっぷり世界観に浸かってほしい作品ですよね〜。
TBさせていただきますね☆
by ジジョ (2008-02-06 00:38) 

丹下段平

ファンタジーってどこか醒めて観てしまいがちですが、この作品のように現実世界をきっちり描いてくれると距離感がぐっと縮まります。素晴らしい作品でした。
by 丹下段平 (2008-02-06 02:30) 

coco030705

Sparkyさんへ
これはおもしろい作品ですよ。ぜひご覧になってください。
写真は、gooやYahooなどの映画記事に載っているフォトギャラリーから選んで、それをいったん自分のフォトフォルダーにコピーし、それからブログのほうに取り込みます。簡単ですよ。
by coco030705 (2008-02-06 20:13) 

coco030705

ジジョさんへ
nice&コメント&TBありがとうございます♪
やはり映画はできるだけスクリーンで見たいものですね。
本来そのように創っているので、DVDだと細かい点や色などが
見えなかったり違ってきたりしますね。それに、皆で暗闇の中で
映画の時間を共有する楽しみもありますものね。


丹下段平さんへ
nice&コメント&TBありがとうございます♪
ごまかしがなく、面白い作品でしたね。私も見てよかったとおもいました。
これからも、丹下さんはじめ皆さんのレビューを参考に、いい映画を見逃さないようにしたいと思います。
by coco030705 (2008-02-06 20:46) 

non_0101

こんばんは。
スクリーンで観られて良かったですね!
美しい森と残酷な戦争の世界と、不思議で不気味なファンタジーの世界は
やっぱりスクリーンで観ると迫力でした。
この物語、私にはかなり怖かったです~
でも、ドキドキしながら惹かれてしまいました(^^ゞ
by non_0101 (2008-02-10 01:01) 

coco030705

nonさんへ
寒いですね。お元気ですか?今日は大阪も珍しく雪が積もったんですよ。
nice&コメント&TBありがとうございます♪
いやあ、ほんとにビダル大尉はめっちゃ怖かったですね~。
イバナちゃんがかわいくて好きでした。最後の魔法の国の映像がすごく
美しくて、効果的でしたね。
by coco030705 (2008-02-10 01:44) 

coco030705

Soraさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-02-12 00:09) 

TaekoLovesParis

Cocoさん、見てきました。
残虐な場面が結構あるんですね。数日前、見たのが、「スウニートッド」で、血の映画続きになってしまいました。
<この作品は、「ビダル大尉」が残酷すぎるという意見と、
いやこのくらいはっきりとキャラクター設定しないと>
→ビダル大尉が残虐とは思いませんでした。職務に忠実で勇敢な軍人なんですよ。軍人としての誇りをもっているから、部下に率先してゲリラ退治のために森の中を進んでいく姿はりりしいのでは。男の子は父親の元で生まなければいけない、と信じているから臨月の奥さんなのに旅をさせる。いいと信じていることをまっすぐ実行する人物。常に自分の死と向かいあっているわけだから、よほど器用でない限り、義理の娘にまで気配りや優しさは出せないでしょう。
非常時にある人間心理や行動パターンだと思います。特にスペインは戦いの歴史が長い国で、南米を征服したときは先住民を全部殺してしまったという話もあるほどです。ゲリラ封じのためだったとか。
この話だけだったら、救いようがない暗さになってしまうところに、少女のファンタジーの世界を挿入させての展開が、うまいですね。この女の子がかわいいし!
暗い時代でも、この少女のように、希望や目標を持っていれば何とか過ごせる、そんなメッセージを感じました。
私もCocoさんと同じく、メルセデス役の女優さん、うまいなぁと思いました。
by TaekoLovesParis (2008-02-14 00:31) 

coco030705

Taekoさんへ
寒いですね~。お元気そうで何よりです。大阪はあしたまた雪がちらつくとか。
でも来週の半ばごろには寒さがいったん緩むのだそうですよ。風邪を引かないように気をつけなくっちゃ。

ところで映画、見てこられたんですね。コメントありがとうございます♪
ビダル大尉に対する解釈、なるほどと思いました。他の方の記事を読んでも、
ビダルは嫌いじゃないといっている人が結構居たんですよ。
この映画をみたあと、ウィキペディアでスペイン内戦の記事を読みました。
スペインも色々複雑な歴史を持った国なんですね。特にヨーロッパは地続きだから、お互い侵略したりされたりの繰り返しですね。日本は外国からの侵略という歴史がないだけに、少し考え方が違うのかもしれないと思ったりしました。
それにしてもこの映画のファンタジーの世界は、それほど場面が多くなかったので、かえって際立っていましたね。監督の映像使いのうまさを感じました。

メルセデス役のマリベル・ベルドゥですが、カルロス・サウラ監督の「ゴヤ」や、
アルフォンソ・キュアロン監督の「天国の口、終わりの楽園」に出演しています。スペイン系映画中心に活躍している女優さんのようですね。
by coco030705 (2008-02-14 22:27) 

coco030705

plotさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-02-15 21:11) 

coco030705

gillmanさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-02-16 21:56) 

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