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イノセント(ルキノ・ヴィスコンティ) [外国映画]

 ヴィスコンティの作品は、ワンショット、ワンショットが、さながら古典絵画のようである。道具立ての豪華さ、本物のアンティークレースを使った衣裳のすばらしさ、それはヴィスコンティが貴族出身だったから実現できた映像である。淀川長治さんがおっしゃっていたが、ヴィスコンティのセットは、自分が幼少のころから生活してきた屋敷のインテリアをそのまま再現したものが多いのだそうだ。この点を見ても、ヴィスコンティが特異な監督であることがわかると思う。

イノセント1.jpg

 「イノセント」はヴィスコンティの遺作である。19世紀のローマが舞台で、ある裕福な貴族トゥリオ・エルミルとその妻ジュリアーナの物語である。
 このトゥリオ・エルミルを演ずるのが、ジャン・カルロ・ジャンニーニ。ちょっと濃いめだが非常にハンサムな俳優だ。特に目の演技がすばらしかった。妻のジュリアーナにはラウラ・アントネッリが起用されている。彼女は「青い体験」という映画で一躍有名になった人である。一見大人しげで地味な印象だが、色っぽさも持ち合わせている。

 トゥリオはテレーザ・ラッツォ(ジェニファー・オニール)という伯爵夫人と知り合う。彼女は未亡人でその美貌は光り輝いていた。彼はすっかりテレーザの虜になってしまう。そして、妻ジュリアーナに、自分がテレーザに夢中になっていて、彼女と旅行に行くことを許して欲しいと告白する。というのも、トゥリオはジュリアーナの事をかわいい妹のように思っていたからだった。ジュリアーナは特に言い争うわけでもなく、トゥリオの行動を許してしまう。
 しかしこのトゥリオの、自分本位で女性の気持に鈍感なところが、だんだんとジュリアーナをよからぬ方向へと追い立てていく。
 寂しさを感じていたジュリアーナは、弟の友人で有名な作家のフィリップ・ダルポリオに心惹かれ、関係を持ち、あろうことか彼の子供を妊娠してしまう。それを知ったトゥリオは、ジュリアーナに中絶を勧めるが、彼女は頑として承知せず、出産してしまう。それは、ジュリアーナの夫への復讐かとも思えた。

 このトゥリオを演じた、ジャン・カルロ・ジャンニーニはかなりアップの演技が多かった。だから、目で自分の感情を表現しなければならなかった。これは大変な演技だったかもしれない。
 ジュリアーナを演じたラウラ・アントネッリは、貴族の人妻という役だったが、それほど品のある顔ではなかった。それもそのはず、彼女はイタリアの肉体派女優だった。だがこの映画では、おとなしく従順な人妻を見事に演じきっていた。ヴィスコンティの演出の手腕のゆえだろう。
 トゥリオが恋する未亡人役のジェニファー・オニールは、すばらしく美しかった。こんな美人がいるのかと思うくらいだった。まさに絵になる女優である。
 また、脇役の男優はハンサムぞろいだった。ヴィスコンティの美しいものを愛する趣味が発揮されていた。彼の作品を見る楽しみの一つである。

 この作品でヴィスコンティが描きたかったものはなにか。贅沢と暇とお金がありあまっている暮らしの中で、一見誰もがうらやむような貴族の生活なのに、主人公は退廃と破滅への運命をたどっていく。だからストーリーとしては、かなり重い気持ちにさせられる。
 ヴィスコンティは、自分の愛する美術的で絢爛豪華な世界を描くと共に、この作品の題名にもなっているイノセント、人間のどうしようもない愚かさを描きたかったのではないだろうか。
 
監督:ルキノ・ヴィスコンティ  出演:ジャン・カルロ・ジャンニーニ、ラウラ・アントネッリ
ジェニファー・オニール
1975年 イタリア・フランス    兵庫県立美術館KEN-Vi名画サロン


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コメント 8

鯉三

まだ見ていない映画ですが、ヴィスコンティの作品に共通する退廃的な美しさが楽しめそうですね。おっしゃるとおり、貴族出身という特殊な生い立ちが、没落する身の最後の輝きというか、はかなさに似た美しさを監督に追い求めさせるのでしょうね。ヴィスコンティでしか表せない美の世界だと思います。
by 鯉三 (2008-04-26 01:06) 

coco030705

鯉三さんへ
こちらにも、nice&コメントありがとうございます♪
おっしゃるとおり、ヴィスコンティ独特の美の世界が展開されています。
ヴィスコンティの作品は、ただストーリーを楽しむという映画ではなく、
映像や美術を楽しむ作品だと思います。まさに映画でしか表現できない、
映画的な映画といえるのではないでしょうか。
by coco030705 (2008-04-26 18:14) 

TaekoLovesParis

Cocoさん、おはようございます。
この映画は、若い頃、映画館で見ました。
ジャン・カルロ・ジャンニーニ、いい俳優ですね。「流されて」という映画がこれの前にあって、彼は召使なんです。「はい、奥様」しか言わないような。
ところが、ある日、奥様とボートで出かけ遭難。無人島で2人だけの生活に。サバイバル生活に強い彼が今度は主導権を握る。奥様の方が召使に
なっちゃう。逆転です。
つまり、まったく別の2役を演じるのですから、実に芸達者。
ぴょん、ぴょん、身軽に船の上を飛び回る姿が印象的でした。


by TaekoLovesParis (2008-04-27 11:03) 

gillman

今はヴィスコンテのように見えない細部までこだわって絵作りをする監督は見当たりませんね
何かというとCGに頼ってしまう、絵を見るとやはり何かがちがう
by gillman (2008-04-27 16:23) 

coco030705

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
ヴィスコンティの作品は、スクリーンで見るのに限りますね。
ジャン・カルロ・ジャンニーニは、検索してみたら結構たくさんの
作品にでている俳優さんなんですね。かっこいいイタリア男性という
感じです。「流されて」も見てみたいものです。
by coco030705 (2008-04-27 18:15) 

coco030705

gillmanさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
本当にそうですね。観客から見えないところは、適当でいいと
考えている人が多いように思います。
CGではつくりえない、本物の持つ色とか質感、品のよさなどは
もう二度と創りえないのでしょうか。残念ですね。
せめてヴィスコンティの作品を大切に保存して、後世に残してほしい
と思います。
by coco030705 (2008-04-27 18:27) 

coco030705

aranjuesさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-05-03 23:03) 

coco030705

Soraさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-05-06 01:45) 

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