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長唄の歌詞 [エッセー]

  大学時代に古典芸能を楽しむグループに参加していた。古典芸能といえば、能、狂言、歌舞伎、落語、文楽などである。この中で私は歌舞伎について研究していた。

 歌舞伎の音楽といえば、長唄である。三味線にのせて唄うのだが、これがなかなかむずかしい。私の長唄の師匠は、グループの先輩で、この方は学生時代から長唄と三味線を習っておられて、今ではプロである。教室を開いておられる。私は4年前まで、長唄を自分で唄おうという考えはなかったのだが、ある発表会で、先輩の教室の子供たち(小学生、中学生、大学生)が長唄と三味線を披露した。これを見たとき、子供たちでもできるんだから、私も唄ってもいいよね、と自分で気付いた。それから始めたので、まだ4年くらいしか経っていない。しかも仕事をしながらだから、なかなか練習にも行けず上達も遅い。けれども、思い切り声を出して唄うのは気持がよい。

 最初は正確に唄うことに精一杯で、なかなか楽しめなかったが、お稽古を続けているうちに、長唄の歌詞が美しい日本語であることに気付いた。今年の夏の「ゆかた会」でうたった唄は「新曲浦島」という坪内逍遥の作歌であった。

「錦繍(きんしゅう)の、帳(とばり)暮れ行く中空に、誰が釣り船の、琉璃(るり)の燈し火、白々と……」など。こんな美しい言葉は最近では小説などにも見つけられない。

 また、川端かあるいは屋形船の中での恋人たちの逢瀬を唄った「都鳥」は、ロマンティックでエロティックでさえある。

 「つばさかわしてぬるる夜は、いつしか更けて水の音。……早やきぬぎぬの鐘の音、憎やつれなく明くる夏の夜」など。

 日本語というのは、こんなにも美しく情緒豊かな言葉だったのかと、改めて思った。

 今、長唄教室には、小学生と中学生合わせて五人くらいが来ている。彼らは意味もわからず長唄を唄っているのだが、その美しい日本語は、自然と身体に沁みこんで行くのではないかと思ったりする。日本的な情緒が、知らず知らずのうちに蓄積されていくような気がする。それは自分にとっての財産であり、何物にも代えがたいすばらしいものなのだと思う。
 そういう人が増えれば、日本の良さも、もっと見直されるだろう。だが、今はそんなにたくさんの人が長唄を習うわけではない。だから、長唄の魅力に気付いた人だけが、その幸せな時間に浸れるのであるが、私はそのことを少し残念に思うのである。


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coco030705

xml_xslさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-09-14 15:00) 

gillman

ぼくは小学生の頃ずっと日本舞踊を習っていました。そのころ聞いた三味線の音や小唄、端唄の調べが今でも耳の底に残っています。今でも好きですね。
by gillman (2008-09-14 20:17) 

coco030705

gillmanさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
日本舞踊とは粋でいらっしゃいますね。
三味線の音色いいですよね。お稽古事というのは、一見何の意味も
ないようですが、実は積み重ねることによって、色々な影響を
その人に与えているものなのだと思います。
それは数字では表せないし、目に見えないものなんですけどね。
そういうものの中にこそ、人にとって本当に大切なものが
含まれているのかもしれませんね。
by coco030705 (2008-09-14 21:31) 

tap

こんにちは。
いいですね、古典芸能。
本当に、この言葉、この感性を持つ国に生まれて幸せだなぁって感じます。
三味線は、浄瑠璃を観た時に、太棹にすごく惹かれました。
長唄ひとつ、都々逸ひとつ。
昔はまったくその魅力がわからなかったけれど、本当に言葉と旋律で表現するってすごいことだなぁ、と、今は思いますね。
by tap (2008-09-15 00:12) 

coco030705

tapさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
浄瑠璃もいいですね。年をとるに連れて、学生時代から
古典に親しんでおいてよかったと思っています。
古典芸能のよさを知るのにも、時間がかかりますものね。
わかりやすいものもあるけれど、わかりにくいものもありますから。
何をするにも、始めるのは早いほうがいいかもしれませんね。
by coco030705 (2008-09-15 12:06) 

coco030705

そらまめさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-09-15 12:07) 

TaekoLovesParis

Cocoさんは、古典芸能のサークルにはいってらしたから、歌舞伎がお好きなんですね。新曲浦島の歌、ほんとに流れるようなきれいな歌詞ですね。誰が(たが)と読む音が好きです。誰が袖模様の着物とかありますね。
逢瀬、言外に余情があってすてきな言葉。
by TaekoLovesParis (2008-09-16 01:30) 

coco030705

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
はい、そうなんです。学生のころから、色々見ておりますが、見れば見るほど古典芸能というのはおもしろいものだと思います。
Taekoさんもご幼少のころからお父様とご一緒に、歌舞伎をご覧になっていたんですね。私などより、きっとお詳しいんだろうと思います。
「逢瀬」ってほんとにいい言葉ですね。「デート」ではあらわせない、「情」の世界を思い浮かべてしまいます。
by coco030705 (2008-09-16 21:21) 

coco030705

takemoviesさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-09-22 20:57) 

鯉三

gillmanさんは日本舞踊ですか...

わたしは子どもの頃、祖母に詩吟を習わされていました。美しい日本語とはちょっと違うものでしたが、子どもなりに言葉の意味やリズムや音などに興味をもったものです。長唄は艶があっていいですね。三味線との絡みがまた絶妙で、なんともいえないあの間の取り方が大好きです。
by 鯉三 (2008-09-26 00:24) 

coco030705

鯉三さんへ
nice&コメントありがとうございます♪
あら、皆さんとても粋でいらっしゃいますね。
鯉三さんは、詩吟ですか。かなり声量がいるんじゃないですか?
子供のころにやっておくというのは、本当にいいことだと思います。
今も詩吟はなさるんですか。
by coco030705 (2008-09-26 00:46) 

coco030705

aranjuesさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-09-26 23:35) 

coco030705

WIZARDさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-10-08 20:57) 

coco030705

Soraさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-10-11 00:53) 

coco030705

ピストンさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪
遠いところまで、恐れ入ります。

by coco030705 (2019-04-11 23:56) 

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