アキレスと亀

　北野武監督の映画は、まったく見たことがなかった。なんとなくバイオレンスや荒唐無稽な作品というイメージがあって、映画館に足が向かなかった。でも、本作は夫婦愛を描いたヒューマン・ドラマということなので、見に行くことにした。

　倉持真知寿（くらもち　まちす：吉岡澪皇）は、裕福な家庭に生まれ、幼いときから学校の授業中でも線路の上でもどこでも誰にも邪魔されることなく、好きな絵を描いて過ごしていた。そして、社長である父親のとりまきの画家にほめられ、画家になろうという夢を抱き続ける少年だった。しかし、父親（中尾彬）の会社が突然倒産し、さらに両親が相次いで自殺するという憂き目にあう。真知寿の環境は激変し、田舎の芸術に無理解な叔父（大杉漣）のもとに預けられ、辛く悲しい時をしばらくすごした後、施設に預けられる。彼にとっては画家になるという信念だけが、生きる支えだった。
　しかし、成人してからも絵はまったく売れず、アルバイトをしながら、絵を描き続ける毎日。だが、真知寿にも幸子というよき理解者が現れる。その後二人は結婚し、真知寿は色々な作品に挑戦していくのだった……。


吉岡澪皇と筒井真理子

　最近よくＴＶで見かける「たけし」は、穏やかな、いい顔になってきたと思う。毒気が抜けてきたのだろうか。この作品もまさに昔の「たけし」とはちがう、やさしさのある作品だった。

　倉持真知寿の幼少のころを演じた吉岡澪皇君が、とてもけなげでかわいかった。真知寿の幼少の場面はセットがレトロで、バスやパトカーなども一時代昔のものを使っていた。女性の着物の柄も、現代の着物とは違ったセンスがある。こういう大道具小道具を使うことにより、その時代の雰囲気を再現しているのが見所のひとつだ。

　ベテランでクセのある俳優もうまく使っていた。中尾彬（真知寿の父親役）、伊武雅刀（悪徳画商）、大杉漣（真知寿の叔父）が本当にすばらしかった。中尾彬は、このごろバラエティーへの出番が多いので、うまい役者だということを知らなかったが、いい演技だった。他の二人もとてもよかった。こういう人達の存在は貴重なものだと思う。

　女性はあまり活躍していなかったが、樋口可南子、麻生久美子、筒井真理子など、きれいな人をうまい配置で使っていたようだ。


　樋口可南子とビートたけし

　たけしは、映画の中で出てくる真知寿が描く絵を、ほとんど自分で描いたのだそうだ。ものすごくうまいわけではないが、どことなくユーモラスで味のある絵ばかりだった。色々才能のある人なんだなと思った。

　前半はコメディー色はほとんどないが、後半、真知寿をたけしが演じ始めると、コメディー色が強くなってくる。なんとなくおかしくて、ペーソスある作品として締めくくった。やはりたけしは、一流のコメディアンなのだなと改めて思った。


監督：北野武　　　　出演：ビートたけし、 中尾彬、 伊武雅刀、 大杉漣、 吉岡澪皇、 柳優怜、 筒井真理子、
樋口可南子、　　麻生久美子etc.
2008年　　　日本　　　　　　　　　　　ワーナーマイカルシネマズ

コメント 21

xml_xslさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-09-25 13:52) 

たけしの作品は、バイオレンスはわりに少なくて、人情がからんで「ほろり」っていう場面が結構あるんですよ。やっぱり、東京の下町育ちだなって、思います。
そうですね、Cocoさんがおっしゃるように最近は、上の写真でもそうだけど、顔が柔和になってきましたね。
マチスをもじった名前なのがおかしいですね。小学生のまちすくんの制服が
私のよく知っている小学校の制服に似ていて、なつかしいです。襟の毛皮が
笑えて。。たしかに、おかあさんの羽織の柄が時代をあらわしていますね。
ワキを上手い俳優が固めていると、映画全体が、しまりますね。
私も見に行ってみます。
前に「母べえ」をCocoさんのおすすめで見て、よかったから。
by TaekoLovesParis (2008-09-25 22:31) 

僕は現代アートに心酔しているので、最後のコーラの缶がツボでした。
しかもラストショットで、真知寿が投げた缶が奥さんの足もとに転がりますよね。
あれって完全に神が降りたワンショットだったと思います。
映画の神様っているんだなあ、としみじみ思いました。
by ken (2008-09-25 22:40) 

Taekoさんへ
nice!＆コメントありがとうございます♪
そうですか。もっとたけしの他の作品を見てみる必要がありますね。
他の監督にないセンスを持った人だと思います。
お時間が許せばご覧になってみてください。
by coco030705 (2008-09-26 00:00) 

kenさんへ
最後のコーラの缶、結構いいなと思いました。
私も「映画の神様」は本当にいるような気がします。
kenさんは、映画関係のお仕事なので、そういう機会に
出会うこともおありなんでしょうね。
ほかの北野作品も見てみたいと思います。
by coco030705 (2008-09-26 00:06) 

たけしの映画はどうにもだめなんです。
作品として優れていることはわかるんだけど、それ以前に受け入れられなくて。タランティーノのバイオレンスは大丈夫なのに、たけしのそれは痛くて痛くてしようがないというか．．．

でも、これは見てみたい。
独自の孤独の掘り下げ方が、これまでとはちょっと違うような気がしてます。
by 鯉三 (2008-09-26 00:38) 

kenさんへ
nice!＆コメントありがとうございます♪
（書き忘れ。ごめんなさーい）

by coco030705 (2008-09-26 00:51) 

鯉三さんへ
nice!＆コメントありがとうございます♪
そうですよね。以前はかなりこわかったように思います。（見てませんが、
友達から聞いて……）
これも幼少時代はちょっとかわいそうな場面もありましたが、最後がいいですよ。
やはり、映画はラストが大事ですね。
by coco030705 (2008-09-26 00:55) 

たけし映画は座頭市しか見たことありませんが、
この記事読んだりコメント読むとこりゃ見ないわけには行きませんね。
多分、1年後にＷＯＷＯＷかな～～(^_^)。
by ａｒａｎｊｕｅｓ (2008-09-26 00:58) 

内緒ですけど、僕は映画関係の仕事じゃないんですよ～w
by ken (2008-09-26 01:57) 

aranjuesさんへ
nice!＆コメントありがとうございます♪
wowowですか！それじゃ北野監督、商売あがったりですわ～。（＾＾）


kenさんへ
ええっ！ほんとですか！わたしはてっきり映画関係者の方と
思ってました。>(@_@)vv
by coco030705 (2008-09-26 20:56) 

DSilberlingさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-09-29 01:10) 

こんにちは。
私も今までたけしの映画には
食指が動かなかったのですが、
ココさんの記事を読んで、
この作品は観たいなぁと思いました。（＾＾
by Naka (2008-09-29 09:49) 

Nakaさんへ
こんにちは。nice!＆コメントありがとうございます♪
前半はちょっと、真知寿がかわいそうなんですが、描き方はひどくはないです。
青年の真知寿は、柳優怜なんですが、まあまあかな。私は、たけしの真知寿が
一番好きです。お時間があったら、ご覧になってみてください。
by coco030705 (2008-09-29 11:59) 

sakikopさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-10-03 19:39) 

ビートたけしのこの映画の宣伝活動が面白かったかな〜


by WIZARD (2008-10-04 22:49) 

WIZARDさんへ
nice!＆コメントありがとうございます♪
そういえば、ＴＶでなんかやってたような・・・。
やっぱりたけしは、芸人ですよね。これからもおもしろい
たけしがいいな。
by coco030705 (2008-10-05 02:13) 

くらいふさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-10-09 21:17) 

Soraさんへ
nice! ありがとうございます♪
by coco030705 (2008-10-11 00:52) 

おはようございます＾＾
真知寿の少年時代の雰囲気、
懐かしさが出ていてとても良かったですね。
芸者遊びをする中尾さん、ピッタリでした。
確かにあまり最近、演技をしているのを観てなかったですが、
やっぱり上手いですよね～。
北野作品は食わず嫌いな感がありましたが、
ちょっと印象が変わったかもしれないです＾＾
by てくてく (2008-10-13 08:11) 

てくてくさんへ
nice!＆コメントありがとうございます♪
そうですね、あの昔の雰囲気を演出したセットがよかったです！
あの男の子もかわいかったですね。
過去の北野作品で、見れそうなものを見たいなと思っています。
by coco030705 (2008-10-13 11:05)