パリよ、永遠に

　第二次世界大戦末期に、ヒトラーはパリ壊滅作戦を計画していた。連合軍に敗れることは目に見えていたが、最後の悪あがきとしてそれが実行されようとしていた。だが、中立国スウェーデンの外交官ラウル・ソルドリック（アンドレ・デュソリエ）はドイツ人のディートリヒ・ファン・コルティッツ将軍（ニエル・アレストリュプ）にその作戦をやめるように説得するのだった。これは実話に基づいた作品である。





　1944年8月25日未明、ナチス・ドイツ占領下のパリで、ドイツ駐留軍が陣を構える高級ホテル“ル・ムーリス”では、ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍（ニエル・アレストリュプ）を中心にしたドイツ軍が、ヒトラーが命じた“パリ壊滅作戦”を進める会議していた。それを終え、一人部屋に残ったコルティッツの前にどこからともなく現われたのは、中立国スウェーデンの総領事ラウル・ノルドリンク（アンドレ・デュソリエ）であった。パリ生まれのノルドリンクは、愛するパリを守るため、作戦の中止をコルティッツに迫るのだったが…。





　ノルドリンクは今から5年後の現在のままのパリを想像してみろ、そうすれば将軍、あなたはパリを守った英雄となると、コルティッツを説得しようとする。しかし、二人の言い分は平行線をたどった。だがコルティッツ将軍は突然部屋の中で持病の発作で倒れ、ノルドリンクに介抱される。危ないところを助かった将軍は、ノルドリンクに心を開いて、実はドイツではヒトラーの命令に従わない場合、家族を殺すという法律ができたので、自分はどうしても作戦を敢行しなくてはならないのだと打ち明ける。愛する家族を見殺しにはできないと。
　ノルドリンクは、家族を極めて安全にスイスに逃亡させ、コルティッツ自身も逃亡させると確約する。その言葉を信じた将軍は結婚指輪を妻に渡してくれとノルドリンクに託し、すんでのところで、作戦を延長させる。そして連合軍がパリになだれ込み、将軍は連合軍に連行されるのだった。

　戦争という狂気を支配しているのは権力者なのだということが改めてわかった。彼らは安全な場所に居て、人を動かして戦争をさせるのだ。そして部下の最も大事なものを奪うとか、本人自身を殺すとかいって脅すのである。大概の人はそんなことをされたら、自分が望んでいなくても戦うだろうと思う。ヒトラーも家族をたてにとって、人々を戦争に駆り立てたのだ。なんという卑劣な行為だろう。

　しかし人が心を動かされるのは、自分を本当に助けてくれる人間的な行為になのだ。それは信条でも説得でもない。人の心の温かさに傾いていくのだと思う。

　もしこの作戦が実行されて、今の世にルーブル美術館もノートルダム寺院も、ベルサイユ宮もなかったとしたら、なんとつまらないことだろう。そしてフランス料理も消えてしまったとしたら、ヴィンテージもののワインが無くなってしまったとしたら……。やはりパリは魅力的な都市だと思う。たくさんの芸術家がパリを愛するのも分かる。

　戦争という狂気をある側面から浮かび上がらせた佳作である。どちらかというと地味な作品だとは思う。これは戯曲を映画にした作品で、ほとんどの場面が、ニエル・アレストリュプ（ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍役）とアンドレ・デュソリエ（ラウル・ノルドリンク役）という二人の年配の男優なのだから。けれども二人の緊迫したやりとりは少しも退屈を感じさせなかった。色々な戦争映画があるが、セリフ劇の作品は珍しいと思った。

　最後に、コルティッツ将軍とその家族は無事スイスに逃亡し、ノルドリンクとも再会したのだそうだ。

原題：Diplomatie　　監督：フォルカー・シュレンドルフ　　出演：ニエル・アレストリュプ、
アンドレ・デュソリエetc.

　

コメント 24

こんな実話があったんですね。シャイヨ宮で、昔のその場所やエッフェル塔付近に
ドイツの駐留軍がいる写真を何枚か見たことがあるので、この映画の紹介、
とても興味深く拝読し、予告編も探して観ました。
５年後のパリを想像してみろ、の言葉、ずっしり響きますね。
つい目の前のことに捕われがちなので、私の日々の暮らしでも通用しそうです。
パリだから守られた一方で、壊滅的な打撃を受けた町や村があるのだと思うと、
そこに息づいていた文化が失われてしまったことがとても残念でなりません。
機会があればぜひ観てみたい映画だと思いました＾＾。
by Inatimy (2015-04-08 06:09) 

ハワイに住む　日系アメリカ人
夫は白人　妻は日本人
どちらも　アメリカも日本も愛してしる。
友達も多い
真珠湾攻撃により、深く傷つく
戦争が終わり、日米親善に尽くす夫婦
日系人から見た戦争って　また　違うんだと
思いました。＾＾

by iruka (2015-04-08 07:28) 

Inatimyさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

Inatimyさんは今オランダにお住まいなので、ヨーロッパ文化のすばらしさを日々目にしていらっしゃるんですよね。だからよくお分かりになると思います。
パリが守られてよかったと思う一方で、他にもすばらしい文化があった街が破壊されたことへの憤りを感じますね。
この作品は戦争映画ですが、この頃のハードな作品とは違って、セリフ劇なので、落ち着いて鑑賞できると思います。ぜひご覧になってくださいませ。



by coco030705 (2015-04-08 12:04) 

irukaさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

国際結婚をした人々にとって、戦争って本当に残酷ですね。
先日ハワイで日本人捕虜収容所跡が葬り去れようとしていたのを日系の人が中心になって、後世に残すことになったとＴＶのニュースで出ていました。世界各国どこにおいても、戦争の傷跡はなかなか癒えないですね。

by coco030705 (2015-04-08 12:10) 

kaminews100さんへ
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ネオ・アッキーさんへ
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怪しい探麺隊さんへ
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sugoimonoさんへ
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by coco030705 (2015-04-08 12:16) 

さらまわしさんへ
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(。・_・。)２ｋさんへ
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アルファルハさんへ
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by coco030705 (2015-04-08 16:51) 

makimakiさんへ
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by coco030705 (2015-04-08 17:52) 

prin4795さんへ
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one_and_onlyさんへ
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by coco030705 (2015-04-08 21:54) 

コザックさんへ
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by coco030705 (2015-04-08 22:24) 

予告を見てよさそうだなーと思ってました。
俳優さん、ふたりともが渋くて演技で魅せそうな感じだったけど、やはり、そうだったのですね。パリの景色はたくさんでてきますか？
by TaekoLovesParis (2015-04-09 18:18) 

Taekoさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

もちろんパリの風景も出てくるのですが、なにしろ戦争映画
なので、美しい風景は少しだけですね。あとは瓦礫とか
戦車もでてきます。でもほとんどの場面は年配の男優の演技で
みせる映画です。最後に救われたパリの風景が映し出され、
それが格別美しく思えました。映画好きの友人2人もよかったと
言っていました。
by coco030705 (2015-04-09 21:13) 

tweet_2さんへ
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kontentenさんへ
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by coco030705 (2015-04-09 21:17) 

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shin.sionさんへ
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by coco030705 (2015-04-10 21:02) 

月夜のうずのしゅげさんへ
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by coco030705 (2015-04-10 21:50) 

ryo1216さんへ
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by coco030705 (2015-04-11 17:45) 

ケイトさんへ
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by coco030705 (2015-04-11 21:14) 

デジカメさんへ
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by coco030705 (2015-04-12 12:34) 

面白い作品でしたね～
ほとんど二人の会話で進んでいく物語なのですけど、
二人のやり取りにすっかり引き込まれてしまいました。
最後の字幕でほっとしました(^^ゞ
by non_0101 (2015-04-14 00:17) 

nonさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

なかなか見応えのある作品でしたね。ベテランのうまさというのはこういう映画のことをいうのでしょうね。経験のたまものでしょうか。
最後、コルティッツ将軍とその家族が約束通りの逃亡ができてよかったですね。いい映画でした。
by coco030705 (2015-04-14 09:28) 

観たいと思っていた作品ですが、見応えありそうですね。
基が実話とは驚きです。
名優二人の共演もとても興味深いです。
cocoさんのレビューを読んで、ますます観たい！と思いました。
by Naka (2015-04-16 01:00) 

Nakaさんへ
こんばんは。nice!＆コメントありがとうございます♪

話もおもしろいのですが、やっぱり演技力でしょうね。大部分は
2人の名優の演技ですからね。退屈させずに観客を惹きつける力は
やはり大したものだと思います。機会があれば是非。
by coco030705 (2015-04-16 01:24) 

こんにちは。
観たいと思っていました。＾＾
by キキ (2015-04-19 22:20) 

キキさんへ
こんにちは。nice!&コメントありがとうございます♪

私はテアトル梅田で観ました。もしまだ上映していたなら、お勧めです。ヒトラーの怖さがわかりますし、人間は一体何で心を動かされるのかというのもよくわかりました。
by coco030705 (2015-04-20 14:58) 

uminokajinさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪


by coco030705 (2015-05-03 21:52)