追憶と、踊りながら

　この映画の監督はホン・カウ。彼はカンボジア生まれでヴェトナムで育ち、後ロンドンへ移住したとのこと。中国語と英語のバイリンガルだそうだ。この作品は監督のパーソナルな経験から生まれた。ホン・カウは2006年のベルリン国際映画祭と2011年のサンダンス映画祭でいずれも短編で注目され、本作は初の長編である。　
　主役のベン・ウィショー（リチャード役）は今までそんなに注目したこともなかったが、この作品では彼の魅力がかなりよく出ていたと思う。繊細で優しい男性だった。



　ベン・ウィショー


　夫に先立たれ、ロンドンの介護ホームに一人で暮らす初老のカンボジア系中国人のジュン（チェン・ペイペイ)。英語もできず孤独と不安を抱える彼女にとって、息子のカイ（アンドリュー・レオン）との面会が唯一の楽しみ。一方のカイは、自分がゲイで恋人のリチャード（ベン・ウィショー）を深く愛していることを母に告白できずに悩んでいた。そんなある日、カイは交通事故で突然この世を去ってしまう。自らも深い悲しみに暮れるリチャードは、ジュンのことを気にかけ、カイの“友人”を装ったまま、彼女の面倒を見ようとするのだが…。（allcinema ONLINE)

　カイ（アンドリュー・レオン）の母ジュンはかなり頑な人に思えた。言葉が通じないせいもあるが、介護ホームのスッタフにもあまり笑顔を見せなかった。彼女は息子のカイにこんな面白くないところに私を閉じ込めないで一緒に暮らして、と泣きつく。優しいカイはそうしたいのだが、実は彼はゲイでそのことを母にカミングアウトできないでいた。そしてアパートには一緒に暮らす恋人のリチャード（ベン・ウィショー）もいることも言えなかった。ジュンにはホームにボーイフレンドのアラン（ピーター・ボウルズ）がいた。彼はいつもジュンに花束をくれるので、ジュンは嬉しそうだった。けれども言葉が通じない二人が本当はどう思っているのか……。



　ジュン役のチェン・ペイペイとリチャード役のベン・ウィショー


　それからまもなくカイは交通事故で亡くなってしまう。そして彼の恋人であるリチャード（ベン・ウィショー）がジュンに会いに行くのだ。それもリチャードはカイと自分はゲイの恋人同士だということを隠して、カイの親友として。
　ジュンとは言葉が通じないためリチャードは会話に苦労する。そして次の時には中国系の女の子を通訳として連れて行く。そしてジュンとボーイフレンドのアランためにリチャード自ら料理して、ディナーをご馳走することにし、ホームのキッチンを借りて、料理をふるまい二人を喜ばせる。それからリチャードは二人がいつもはお互いの言葉がわからないので、通訳の女の子を介してお互いどう思っているかをいわせる。それがやはり老人の男女のつきあいとはこんなものかと思うような会話が展開される。

ジュン：いつも私のお尻にさわるけど、あれはやめて。
アラン：でも私はいつも君を押し倒したい気持ちでいっぱいなんだ。君とキスをするといつもニンニクのニオイがするね。あれが嫌いなんだ。
ジュン：あら、あなただって、オシッコの匂いがするわよ！

　二人は喧嘩別れしてしまう。通訳してよかったのかどうか…。なるほどとリアルだったけれど。監督は自身の母親の通訳もよくしていたようで、通訳というコミュニケーションにも興味があったようだ。監督いわく「コミュニケーションはお互いを理解するものであるが、一方で違いをより強く感じさせるものでもあり、時に争いを導くものでもあると思う。」

　ジュンは息子の部屋が見たいのでリチャードのアパートに行くことにする。そしてそこで通訳の女の子を介して色々話をしているうちにリチャードと息子のカイが実はゲイで恋人同士だったと告げられる。ジュンはとてもショックを受けるが、最後はリチャードに笑顔を見せるのだった。

　この頑固な母親ジュンは印象としては良くないが、多分現実はある程度の年齢になってからの外国暮らしはとても大変で、語学の習得も難しいということで孤独なんだろうなと思えた。

　リチャードとカイのキスシーンなどはあったが、ふたりとも細くて大きくなくて繊細な感じの俳優なので、嫌な感じはしなかった。けれどもゲイという関係は理解できなかった。理解するというより受け止めることが大事なのだろうと感じた。　

　ジュンは最後はリチャードの懸命な様子に笑顔をみせる。言葉も大事だが、やはり究極は心なのだろう。
色々な問題を含んだ映画だが、深刻にならずにある種爽やかに終わるところがいいと思った。原題の「Lilting」とは「軽快に」という意味である。それでこのタイトルなのだと納得したのである。

原題：Lilting 　監督：ホン・カウ　　出演：ベン・ウィショー、　チェン・ペイペイ、　
アンドリュー・レオン、　モーヴェン・クリスティー、　ナオミ・クリスティー、　ピーター・ボウルズetc.
2014年　イギリス

コメント 32

AKIさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2015-06-18 20:30) 

アルファルハさんへ
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by coco030705 (2015-06-18 23:24) 

今の社会を象徴する映画ですね。
言葉の壁　
同性愛の方に対しての理解
身近な問題をテーマにしていると　思います。＾＾
by iruka (2015-06-19 07:03) 

irukaさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

ほんとにそうですね。言葉の壁は機械で翻訳ができる世の中になるとは思いますが、やっぱり自分が話すことが大事なので、難しい問題でしょうね。同性愛の方々への理解もなかなか一足飛びには進まないでしょうね。世代が変わらないとだめかもしれないですね。

makimakiさんへ
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bun-taさんへ
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sugoimonoさんへ
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by coco030705 (2015-06-19 20:43) 

追憶と踊りながら、ちょっといいタイトルですね。
ゲイはそれも一つの選択、っていう恋愛関係かな、って思います。絆の深さは普通の恋人より強いんでしょうね。でも、私は、ジュンのほうに、年老いた女性の生き方のほうに興味があるから、見たい映画です。
by TaekoLovesParis (2015-06-20 00:15) 

Taekoさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

ゲイのことはやっぱりよくわからないのですが、この作品ではベン・ウィショーとアンドリュー・レオンがどちらもハンサムで細い人だったので、嫌な感じはしませんでした。
ジュンは映画の中でも頑なな様子が印象を悪くしています。でも彼女は言葉も通じないのに老人ホームに入れられて、かわいそうといえばかわいそうです。それぞれの立場が問題を含んでいる作品ですね。
映画のタイトルをつけるのって難しいだろうなと思いました。


tai-zouさんへ
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by coco030705 (2015-06-20 00:51) 

ryo1216さんへ
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uminokajinさんへ
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gillmanさんへ
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ぼんぼちぼちぼちさんへ
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by coco030705 (2015-06-20 19:56) 

りんこうさんへ
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by coco030705 (2015-06-20 23:07) 

こんばんは。
cocoさんの記事で初めてこの作品のこと知りました。
とても興味深い作品ですね。
上映館が少ないですが（；；）出来たら劇場で観たいです。
ベン・ウィショーは「パフューム ある人殺しの物語」が印象的でしたが、繊細そうでいい俳優さんですね。
by Naka (2015-06-21 02:29) 

Nakaさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

ベン・ウィショー、なかなかいいですね。私は「パフューム…」を観ていなかったので、「ブライト・スター」でジョン・キーツを演じた彼が印象的でした。これも繊細な役でした。
今回の役も彼によく合っていたと思います。小作品ですが、最後がなかなかいい感じなので機会があればぜひ。
by coco030705 (2015-06-21 08:20) 

ネオ・アッキーさんへ
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シルフさんへ
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by coco030705 (2015-06-21 08:23) 

nonさんへ
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by coco030705 (2015-06-21 21:12) 

空の下さんへ
こんばんは、ご無沙汰です。nice!とご訪問ありがとうございます♪
by coco030705 (2015-06-22 00:44) 

言葉が通じないことから来る孤独感は分かる気がします＾＾；。
同時にジュンは常に不安を抱えてるんでしょうね。
私も、コミュニケーションのために言葉を覚えると、
今まで気がつかなかったアジア人に対する悪口なども耳に入ってきたりもして。
言葉がわからないままだったら、気にせずに済んだのになぁ・・・なんてね。
ゲイとかレズなどの関係は慣れたかも。アムステルダムのゲイパレードは有名だし。TVドラマでもよくある関係で、キスシーンもあるし、実際に俳優、コメンテーター、キャスターでもオープンにしてて、結婚式も挙げたというニュースもごく普通に報道されてるので＾＾。
by Inatimy (2015-06-22 17:19) 

Inatimyさんへ
こんばんは。nice!&コメントありがとうございます♪

言葉って通じないと孤独だし、わかると悩みの種になることもあるし、
なかなか厄介なものかもしれませんね。この映画ではそれがよく
表現されていたと思います。
ゲイは日本では芸能人の人たちがカミングアウトしてそうなのか、
なんて、やっとその程度ですよね。ヨーロッパではかなり普通な関係
で社会も受け入れているのでしょうね。そういう関係もあるということを
受け入れなくてはと思います。
by coco030705 (2015-06-22 21:07) 

azu-riさんへ
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by coco030705 (2015-06-26 15:01) 

prin4795さんへ
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by coco030705 (2015-06-27 08:38) 

さらまわしさんへ
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by coco030705 (2015-06-30 21:02) 

パパ太郎さんへ
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by coco030705 (2015-07-02 01:14) 

mozさんへ
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kontentenさんへ
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by coco030705 (2015-07-02 18:17) 

ケイトさんへ
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mayuさんへ
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by coco030705 (2015-07-02 21:57) 

okin-02さんへ
こんばんは、ようこそ。nice!とご訪問ありがとうございます♪


by coco030705 (2015-07-03 20:43) 

大和さんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2015-07-04 22:15) 

こんにちは。
素敵な俳優さんと思ったら「パフューム ある人殺しの物語」の俳優さんだったんですね。かなり前の映画ですがとても印象的でした。
今回もちょっと複雑そうな映画ですが面白そうですね。

by キキ (2015-07-05 11:20) 

キキさんへ
こんばんは。ご訪問とコメントありがとうございます♪

私は「パフューム…」を見逃してしまったんですよ。でもベン・ウィショーはこの頃よく脇役で出てますよね。いい俳優だと思います。「ブライト・スター」でジョン・キーツを演じてましたね。これも良かったので印象に残っています。今作は割合色々な問題は含んでいるのですが、結構サラリと描いてあるので、観やすいと思います。
by coco030705 (2015-07-05 21:06) 

月夜のうずのしゅげさんへ
こんばんは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2015-07-05 21:13) 

地味ですが、見た後に心に暖かい感情がじわっと広がるような作品なんですね。　^^
通訳しない方が良かったのかな? 言葉でなくて心でコミュニケーションが取れているといいと思うけれど・・・、でも、お年寄りの二人はきっとこの後も上手くやっていくのでしょうね。心でつながっていれば ^^v
良い映画をご紹介して下さってありがとうございました。　
by moz (2015-07-06 06:33) 

mozさんへ
こんにちは、ようこそ。ご訪問とコメントありがとうございます♪

そうですね、地味ですが色々な問題を含んでいて考えさせられる映画でした。人間は言葉も大事ですが、やはり最後は心だということを監督は言いたかったのだと思います。最後は重くならずにフッと温かさを感じるようなエンディングです。なかなかいい映画でした。
by coco030705 (2015-07-06 18:36) 

カメラde防犯さんへ
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by coco030705 (2015-07-07 19:27) 

(。・_・。)２ｋさんへ
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by coco030705 (2015-07-09 11:30) 

くらいふさんへ
こんにちは。nice!とご訪問ありがとうございます♪

by coco030705 (2015-07-12 08:25) 

キキさんへ
nice!もありがとうございます♪
by coco030705 (2015-07-20 18:55)