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百花(ひゃっか) [日本&アジア映画]

 始まりは、原田美枝子演じるピアノ教師百合子のピアノ演奏の場面。音楽は「トロイメライ」で、とてもゆったりとしたいい曲だなと改めて思った。「トロイメライ」は劇中、何度か演奏される。

 最初、原田美枝子さんのピアノ演奏がとても上手だったので、プロの奏者のものと勘違いしていました。調べてみると、原田さんは昨年からピアノを練習されて、この映画の中では原田さんが演奏されたものを流しているとのことでした。訂正してお詫びいたします。


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       百合子(原田美枝子)


 トロイメライ  演奏:フジコ・ヘミング(映画の演奏とは無関係)


 この作品の撮影は、1シーン1カットを採用している。その理由は「人間の脳の働きをそのまま映像化したかった。僕らの生きている実人生に当然ながらカットはかからないので、全て1シーン1カット」
と監督であり映画の原作者でもある川村元気さんは、いっている。


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 レコード会社に勤める青年・葛西泉(菅田将暉)と、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)は、過去に百合子が起こしたある行動により、親子の間には埋まらない溝があった。


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 ある日、百合子が認知症を発症する。冷蔵庫に何パックもの卵が入っていて、家族が気づくのだ。記憶が失われていくスピードは徐々に加速し、泉(菅田将暉)の妻・香織(長澤まさみ)の名前さえも分からなくなってしまう。


 泉は、これまでの親子の時間を取り戻すかのように献身的に母を支え続ける。そんなある日、泉は百合子の部屋で1冊のノートを発見する。そこには、泉が決して忘れることのできない出来事の真相がつづられていた。


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 百合子は、ある男性と恋に落ち、泉を置いて家を出てその男(永瀬正敏)と神戸の小さなマンションで暮らし始める。その男性は神戸の大学に勤める研究者だった。
 「一つ一つ、新しくそろえるのね。」と百合子はいって、普段使いの食器をそろえる。そのことが、嬉しかった。男性は寡黙で優しい人だった。
 しかし、二人の生活は、阪神大震災によって終わりを告げる。


 百合子は自分の家にもどって、また泉と暮らし始める。そして泉と嫁の香織(長澤まさみ)の間に子供ができたことを喜んで、香織のふくらんだお腹をさするのだった。


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      百合子と香織


 百合子は、いつも泉に「ごめんね」と謝る。香織は、ある日泉に向かって「あなたはお母さんが何度誤ったら、許すの」という。泉は子供のころ、母と色々なところへ出かけてかわいがられたことを、フラッシュバックのように思い出す。


 ある日母は、「私、半分の花火がみたいの」と泉に言う。泉は探して、半花火の大会は諏訪湖で夏行われることを知る。そして二人は諏訪湖にでかける。


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              諏訪湖

 そして、百合子の記憶がよみがえり、男性と暮らした神戸で、少し遠くに建っているマンションに阻まれて、半分しか見えない花火がよみがえるのだった。「私、後悔してない」と百合子はつぶやくのだ。

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            菅田将暉&原田美枝子


 なぜ、人は自分に嫌な思いをさせた相手を許すのだろうか。百合子も、恋人と神戸へ出奔して泉を悲しませた。例え、それこそが恋だといわれようと、人は自分に辛い思いをさせた相手を、なかなか許せない。相手が悪い、そう思うことが自分を苦しくさせる。それは、自分の感情との闘いである。

 泉も長い間、自分の感情と闘ってきた。しかし時間が経つにつれ、母、百合子の自分への愛情が思い出され、心が和むときが来る。そして、泉は母を許すことこそ、自分を悲しみや怒りから解放するのだと気づくのだ。

 人を許すことの難しさ、人間の優しさ、そして恋とは何かを、主人公たちの記憶をたどりながら美しい映像とともに綴っていく作品。昨日(9/25)にスペイン、サンセバスティアン映画祭で、川村元気さんが最優秀監督賞を受賞した映画です。ゆったりとした「トロイメライ」のピアノのメロディが、心に沁み込んできて、癒され優しい気持ちになりました。たくさんの人に観ていただきたい作品だと思います。


監督&脚本:川村元気  原作:「百花」川村元気著(文春文庫刊)  
出演:原田美枝子、 菅田将暉、 長澤まさみ、 永瀬正敏etc.
2022年製作/104分/G/日本




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