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岡本綺堂怪談コレクション「白髪鬼」 [本・雑誌]

 書店で平積みになっていた岡本綺堂の怪談コレクションを手に取った。あまり怪談は得意でなく、映画でもホラーなどはほとんど見ないのだが、夏にふさわしい読み物だと思って、読んでみた。

 綺堂は劇作家で小説家。「半七捕物帳」や歌舞伎の「鳥辺山心中(とりべやましんじゅう)」、「番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)」などの作家としても知られている。
 
 この怪談集は、ホラー小説のように心臓に悪いほど怖いというものではないが、ゾクッとさせられたり、あとで考えると怖くなってぶるっと震えたりするような類のものだ。クーラーほど涼しくはならないが、氷柱にちょいと触れたくらいの涼しさである。だから私にちょうどよかったようだ。

 小説の時代背景は、江戸時代、明治後半、そして昭和のはじめなどである。こういう古い時代の箱根、軽井沢、飛騨高山から眺めた関東大震災直後の混乱などを、小説から読み取ることができて興味深かった。

「西瓜」は、お使い物に持っていった西瓜が、風呂敷をあけてみると一体何に変わっているかがおもしろい話である。それを割ってみると、なかから何が飛び出すのだろうか。そして、西瓜を食べた友人が急死したのはなぜか・・・。西瓜にまつわる気味の悪い話である。

「停車場の少女」は、友人同士がお見舞いがてら湯河原へ出かける話である。お見舞いをすませて、友人と別れて1人で戻ってきた「私」は、乗換のため小田原の駅で列車待ちをしていた。そのとき、一人の少女が「私」にささやいた一言とは?そしてその少女は人ごみにまぎれてかき消すように姿を消した・・・。

「水鬼」は九州の不知火(しらぬい)に近い田舎の村の話である。その村には尾花川という川が流れていて、そこには幽霊藻という浮き草がただよっていた。ある日、「僕」は村へ向かう乗合馬車に兄妹らしき二人連れと乗り合わせた。兄のほうは一見して質朴な農家の青年であるが、妹はなまめかしい派手づくりで芸妓風であった。この兄妹の隠された事情とは?そして、幽霊藻はどんな因果関係があるのだろうか・・・。このコレクションのなかでは、一番おもしろい話であった。

「指輪一つ」は飛騨高山で夏を過ごしていた東京の私大生K君の体験談である。彼は高山で関東大震災の報を聞いて、急遽東京へ戻ろうとする。しかし、すし詰めの列車の中で体調を崩し、木曾の奈良井で列車をおり、古い宿屋にやむを得ず宿泊することとなった。列車の中でK君は西田さんという人に介抱してもらう。西田さんは、出張先で家族が震災にまきこまれたのを知り、家族の行方を捜して、親戚中を訪ねて回っているところだった。K君はその奈良井の宿の風呂場で不思議な体験をし、指輪を拾う。その指輪とは・・・。
関東大震災の一端を垣間見ることができる作品である。

「離魂病」は、嘉永初年の話である。その当時小石川の江戸川端に西岡鶴之助という幕臣が住んでいた。ある日西岡は親戚をたずねた帰り道、ふと前を見ると妹にそっくりな女が前を歩いていた。自分が留守の間に妹が外出することはめったにない。不思議に思った西岡が後をつけたが、見失ってしまう。同じことが3度あったのち、妹は亡くなってしまう。一体、その妹にそっくりな女とは・・・。本当にありそうな話である。

 これ以外にも8編の短編が揃っている。他の作品も一様に少々怖くておもしろい。この怪談コレクションは、怖がらせることが目的でかかれたものではなく、文章力で引きつけられて、おもしろく読める作品集だ。夏の時期は短い。精神的に涼しくなりたい方は夏の夜に読んで見られてはいかがでしょうか。

 


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TaekoLovesParis

Cocoさん、夏らしい一冊ですね。
岡本綺堂って、どこかで聞いたことのある名前と思ったら、「半七」や
「番町」の作家なんですね。今でも十分にあり得る怪談のようですね。
時代のようすが読み取れるとは、たしかにすごい文章力。
「天守物語」を劇団黒テント?で見る前に、本を買ったんだけど、
すぐ挫折。文語体に近いくらい感じられてだめでした。
岡本綺堂は泉鏡花よりずっと年代が新しいのかしら。
by TaekoLovesParis (2006-07-27 00:39) 

coco030705

Taekoさんへ
nice&コメントありがとうございます♪
岡本綺堂は明治5年10月15日に出生。かなり古い時代の人ですが、
文章は、泉鏡花のように読みにくくなく、いたって普通です。
もし怪談が大丈夫でしたら、お読みになってみてください。文章が
いいですよ。だから、怪談も安っぽくありません。ちょっと怖いですが。
by coco030705 (2006-07-27 01:34) 

gillman

子供のときに読んだ小泉八雲は本当に怖かったなぁ
岡本綺堂、読んでみようかな
by gillman (2006-07-27 17:27) 

coco030705

gillmanさんへ
暑中お見舞い申し上げます。
nice&コメントありがとうございます♪
レオちゃんはお元気ですか?
小泉八雲は確かにこわかったですね。岡本綺堂のも結構
怖いですけど、八雲のほうが怖いかも。綺堂は気味が悪いという
感じかもしれません。
by coco030705 (2006-07-27 20:55) 

non_0101

こんばんは。
昔、「小学○年生」の幽霊写真特集を見てうなされて以来、
幽霊とかの類の怖いものがまったくダメになりました!
文章だったら、もう大丈夫かなあ…
とりあえず、cocoさんのブログで今は満足しています(笑)
by non_0101 (2006-07-30 19:58) 

coco030705

nonさんへ
こんばんは~。関西は梅雨明けしてから、暑くて暑くて
死にそうです。関東はいかがでしょうか。
小学生のときのトラウマは強烈かもしれませんね。
想像して楽しんでくださいませ。(^^)
nice! ありがとうございます。
by coco030705 (2006-07-30 23:20) 

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