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パリタクシー [外国映画]

 この映画の主役は、92歳の魅力的なマダムマドレーヌ(リーヌ・ルノー)でありまた、映画の随所に出てくるパリの美しい風景も名脇役といえるだろう。


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 住み慣れたパリの住居を離れ、老人ホームに向かうマダム(リーヌ・ルノー)を乗せたタクシー運転手シャルル(ダニー・ブーン)が、彼女の人生をめぐるパリ横断の小旅行に付き合ううちに、自分の生き方に対する考え方にも、影響をうけるというドラマ。


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     シャルル(ダニー・ブーン)とマダム(リーヌ・ルノー)

 無愛想なタクシー運転手シャルル(ダニー・ブーン)は、お金も休みもなく免停寸前で、家族関係もうまくいかず、人生最大の危機に陥っていた。そんな折、彼はタクシー会社からの依頼で、92歳の女性マドレーヌをパリの反対側の老人ホームまで送ることになる。


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               オペラ座


 マドレーヌは、シャルルに次々と寄り道を依頼する。彼女が人生を過ごしたパリの街には多くの秘密が隠されており、寄り道をするたびに、マドレーヌの意外な過去が明らかになる。

 車の中で語られる身の上話は壮絶そのもの。若いころに恋し、子どもを身籠るも、恋人は戦争終結とともに、故郷の国に帰ってしまい、彼女は1人で子供を育てた。その後、別の男性と結婚するが、夫がDV男だったので、その家庭内暴力を何年も受けてきたこと、そして夫への過激なリベンジ(夫を殺しはしなかった)が裁判沙汰となり、25年の刑が下った。

 マドレーヌは映画の中で、1950年代の社会は裁判官は全員男性で彼女の、夫の暴力に対する正当防衛の訴えは聞き入れられなかったと、シャルルに語るのだった。彼女は女性の権利獲得のための社会活動もしたという。


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若いころのマドレーヌ


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 そして、彼らは最後のディナーに向かう。マドレーヌの行きつけのレストランで。


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 この作品を観るとパリが好きになるような、素敵な風景やシーンがたくさん盛り込まれ、マドレーヌとシャルルの会話劇というべきストーリーです。

 けれどもマドレーヌが出所して、青年になった息子と会うと、彼はベトナム戦争に志願して出兵すると、久方ぶりにあった母に告げます。その後、1場面だけの展開で、この息子が戦死したと告げられます。これは、観客にとって、感情移入できないなと思いました。ただのセリフだけで済まされては。映画なので、やはりこの息子が戦死する場面を映像としてみせるべきだったと思います。

 この映画の中にはDVとか正当防衛とか、女性の権利主張とか、色々な問題がほんのちょっと描かれているのですが、これでよかったのかなとも思います。

 とにかく、美しいパリの場面がたくさん出てきて楽しかったです。またパリに行きたくなりました。

 ただし、この映画は最後にサプライズがあります。ただ楽しいだけの作品ではないのですよ。

 マドレーヌを演じるのは、女優、社会活動家としても知られる現在94歳の現役シャンソン歌手リーヌ・ルノー。タクシー運転手シャルルは大物コメディアンのダニー・ブーン。二人は実生活でも友達同士だそうです。


「パリタクシー予告編」



原題:Une belle course  監督:クリスチャン・カリオン  出演:リーヌ・ルノー、 
ダニー・ブーンetc,
2022年製作/91分/G/フランス



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生きる LIVING [外国映画]

 この映画は、黒澤明監督の名作映画「生きる」(主演:志村喬)を、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本により、イギリスでリメイクした作品です。私はビル・ナイのファンで、黒澤明監督の「生きる」もかなり前に観たので、ぜひという思いで観に行きました。


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 (アカデミー賞では、カズオ・イシグロさんが脚色賞、ビル・ナイが主演男優賞にノミネートされましたが、無冠に終わりました。残念!)


 1953年、第2次世界大戦後のロンドン。仕事一筋に生きてきた公務員ウィリアムズは、自分の人生を空虚で無意味なものと感じていた。


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 (余談ですが、これは1953年当時のイギリスのサラリーマンの出勤風景です。彼らは、山高帽をかぶり、ピンストライプのスーツやダークスーツを着て、汽車で都心の会社へ通勤していたのです)

 ウィリアムズは息子夫婦と同居していたが、息子とはあまり話すこともなかった。
 
 そんなある日、彼はガンに冒されていることがわかり、医師から余命半年と宣告される。手遅れになる前に充実した人生を過ごしたいと考えたウィリアムズは、仕事を放棄し、海辺のリゾート地のパブで酒を飲んで、スコットランド民謡の「ナナカマドの木」を歌うが、誰も聴いてくれないと彼は思った。(ビル・ナイの歌は、すごくハリがあって上手でした。歌手でもあるのかも最後に添付しています)そして、慣れないショウを観たりするが、まったく溶け込めなくて、満たされない。


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 ロンドンへ戻った彼は、部下の若い女性マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)と偶然道で会い、彼女が役所をやめて、カフェで働くことを知る。そして、マーガレットがウィリアムズに次の職場で雇ってもらうのに、推薦状がいると相談を持ち掛けてくるのを承諾し、彼女をフォートナム・アンド・メイソンのカフェに誘う。そこで推薦状を書くためだ。


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 ウィリアムズ(ビル・ナイ)&マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)
(フォートナム&メイソンはロンドンの老舗百貨店で、そのティールームは有名です。紅茶も有名)

 マーガレットは明るくて、よく話す楽しい女性だった。彼女は前の職場で密かにみんなにあだ名をつけて楽しんでいて、ウィリアムズのことは「ゾンビ」と呼んでいたと、悪気もなく打ち明ける。ウィリアムズはとても細くて静かだからとのこと。


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エイミー・ルー・ウッドは、とても明るく健康的で、お茶目で優しさもある女性、 マーガレットをうまく体現して演じていた。

 ウィリアムズは、元気でバイタリティーにあふれたマーガレットに好感を抱き、映画やパブに誘ったり、彼女の新しい職場であるカフェにも行ったりする。マーガレットはだんだん「え?」という気持ちになるが、親切にも彼につきあうのだった。そしてウィリアムズは、息子にも言っていない、自分がガンに侵されて、長くは生きられないことを、マーガレットにだけ、伝えるのだった。


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 若く明るいマーガレットとつきあうことによって、ウィリアムズは気持ちも明るくなり、自分もまだ残されたやるべきことがあると考え、新しい一歩を踏み出すことを決意し再び出勤する。彼は、部下に指図をして、棚上げになっていた案件を実行に移すことにする。


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 部下の中で、ピーター(アレックス・シャープ)は、ウィリアムズを慕っていて、彼がいないと職場は締まりがなくなると感じていた。


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ピーター(アレックス・シャープ)


 ウィリアムズは、以前から女性3人が再三、陳情に来ていた「子供たちのために公園をつくってほしい」という願いを実現させようと思った。その土地を下見に行くと、そこは大きな水たまりができていて、歩行も困難な場所だった。


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 彼は、この案件をまたしても後回しにしようとする上司に、この工事に必要な書類を入れた箱を持っていき、上司がそれに目を通すまでは、梃子でも動かないことをしめすのだった。


 こうして彼の努力によって、ようやく公園は造られた。そしてウィリアムズは雪の日に、公園のブランコを微笑みながら漕ぐのだった、「ナナカマドの歌」を歌いながら。


 場面は変わって、ウィリアムズの葬儀が行われている。陳情に来ていた女性達、マーガレットやピーターをはじめ、たくさんの会社の同僚や上司がその場に駆けつけて、ウィリアムズのことを思い出し、彼の最後の仕事を称えた。


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 本当に心を打たれる作品でした。ビル・ナイが武骨な紳士そのもので、すばらしかったです。「生きる」とはどういうことなのか、人は命が制限されるとき、何をなすべきなのか、その答えがこの作品にあると思いました。ぜひ、ご覧ください。



      「ナナカマドの木」

原題:Living 監督:オリバー・ハーマナス  出演:ビル・ナイ、 エイミー・ルー・ウッド、
          アレックス・シャープetc.

2022年製作/103分/G/イギリス
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