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ふしぎな岬の物語 [日本&アジア映画]

 吉永小百合さんが自身初となる企画を手がけた映画である。俳優さんそれぞれの個性が出ていて、よかったと思う。豪華なキャスティングだ。サユリストって本当に多いんだなと感心してしまった。


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 みさきカフェと吉永さん


 そこは、穏やかな時間が流れる岬村。その岬の先端に静かに佇む“岬カフェ”は、店主・柏木悦子(吉永小百合)が淹れる美味しいコーヒーが評判の小さな店。カフェの隣で“何でも屋”を営む甥の浩司(阿部寛)は、たびたびトラブルを起こす問題児ながら、悦子を守ることが自分の使命と信じ、彼女の役に立とうと心から尽くしていた。そんな2人を優しく見守るのが常連客のタニ(笑福亭鶴瓶)さん。悦子への淡い恋心をひた隠し、岬カフェに30年間も通い続けていた。もう一人の常連客は漁師の徳さん(笹野高史)。ある日、反対を押し切って結婚した娘のみどり(竹内結子)が、離婚して久々に戻ってきた。互いに素直になれない徳さんとみどりだったが…。(allcinema ONLINE)


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 吉永さんと笑福亭鶴瓶


 悦子(吉永小百合)自身の人生にも色々な出来事があった。夫を亡くし、姉の子浩司(阿部寛)を引き取ったものの、彼は問題ばかり起こす子だった。根はやさしいのだが。それでも浩司は悦子のそばに住み、彼女を見守っていた。二人の関係はなかなかいい感じだった。そこへ笑福亭鶴瓶のタニさんがからんでくる。鶴瓶は独特の持ち味で笑わせてくれるし、何とも言えない温かみもある。面白い役者といえるだろう。
 笹野高史と竹内結子が親子で、笹野さんは相変わらず達者で、竹内結子はいつもより抑えた演技だったがかえってうまさが目立ったように思う。


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 竹内結子と阿部寛


 吉永さんはいつも彼女自身であり続ける女優さんだと思う。きれいでしっかりした印象だ。けれども男性が支えなくてはと思わせる女性らしさを表現するのもうまいと思う。だからサユリストが多いのだろうか。
 阿部寛もよかった。割合ワイルドな若者の役だったが、ユーモラスな感じもうまく表現していて阿部寛らしさがよく出ていた。
 その他、最後に5人のおじさんバンドが登場するのだが、そのメンバーが、杉田次郎、堀内孝雄、ばんばひろふみ、高山厳、因幡晃というそうそうたるミュージシャン連だった。すごいことだ。


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 5人のおじさんバンド


 ストーリーは人情劇といった感じで、誰が観ても楽しめる作品だ。映画の中で吉永さんが経営する「みさき」というカフェは、実際に房総半島の明鐘岬にある「音楽と珈琲の店 岬」をモチーフにしたのだそうだ。この店に、小説「虹の岬の喫茶店」の原作者森沢明夫さんが常連客として通い、小説のイメージをふくらませたということだ。こんなカフェが近くにあったら、私も常連客になるだろう。そういう店を自分で探したいなと思った。

 たまにはこういう人情にあふれた作品を観て、心を和ませるのもいいのかもしれない。

原作:森沢明夫「虹の岬の喫茶店」  監督:成島出  出演: 吉永小百合、 阿部寛、 竹内結子
笑福亭鶴瓶、 笹野高史、 井浦新、 小池栄子、 吉幾三、 石橋蓮司、 米倉斉加年etc.
2014年 日本
 


 


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思い出のマーニー [日本&アジア映画]

 杏奈とマーニーの出会いが、美しい自然を背景に描かれ、二人の不思議な関係が心温まる物語へとつながっていく。いつもながら背景の絵のすばらしさに心癒された。


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 杏奈

 
 北海道の札幌に暮らす中学1年生の杏奈。辛い生い立ちから心を閉ざし、誰とも打ち解けることなく孤独な日々を送っていた。そんな中、持病の喘息が悪化し、転地療養のために海辺の村でひと夏を過ごすことに。そこで杏奈は、入江に建つ誰も住んでいない古い屋敷を目にする。地元の人が湿っ地(しめっち)屋敷と呼ぶその建物に、なぜか懐かしさを覚え惹かれていく杏奈。その屋敷は杏奈の夢の中にも現われるようになり、必ずそこには金髪の少女の姿があった。ところがある晩、湿っ地屋敷へとやって来た杏奈の前に、夢で見た金髪の少女が現われる。少女はマーニーと名乗り、“わたしたちのことは2人だけの秘密よ”と語る。そんなマーニーにだけは心を開き、いつしかかけがえのない友情を育んでいく杏奈だったが…。(allcinema ONLINE)


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 湿っ地屋敷


 「借り暮らしのアリエッティ」も米林監督の作品で、とても好きだった。この映画も風景や建物や家の中の様子の描き方もすばらしく、とりたての野菜のみずみずしさがまるで実写のようだった。

 杏奈は不幸な境遇に育つが、後に周りの人の愛情を信じることによって閉ざしていた自分の心を開き、成長するのだ。マーニーとは果たして誰なのか。これがミステリーでおもしろい。


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 私は原作をかなり前に岩波少年文庫で読んでいたが、松野正子さんの訳がとてもすばらしかった。松野さんは高名な児童文学作家でいらっしゃる。今、文庫で違う人の訳がでているが、ぜひ松野訳でお読みになることをお勧めする。原作はイギリスが舞台だが、この映画はその原作を土台にしてうまく別の話に創りあげている。これはこれで良いのでは。

 北海道の美しい風景や湿っ地屋敷の描写が観客をファンタジーの世界にいざなってくれる。物語も不思議だし、登場する人物たちも素敵だ。昨今はニュースを観ても嫌になるような事件ばかり。そういう現実を少し忘れて、このファンタスティックで美しい世界に浸るのもよい暑気払いになると思う。ぜひご覧ください。

原作:「思い出のマーニー」ジョーン・C・ロビンソン作 松野正子訳(岩波少年文庫) 監督:米林宏昌  
製作:鈴木敏夫、 制作:スタジオ・ジブリ、 声の出演:高槻彩良(杏奈)、 有村架純(マーニー)、
松島奈々子(頼子)、 寺島進(大岩清正)、 根岸季衣(大岩セツ)、 森山良子、黒木瞳、杉咲花etc.
2014年 日本  
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春を背負って [日本&アジア映画]

 標高3000メートル級の立山連峰を舞台に、温かい人間ドラマが繰り広げられる。そして立山の四季の美しさに息をのむほどだった。


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 日本を代表する名カメラマン、木村大作が監督をつとめた第2作目作品。立山連峰で山小屋“菫小屋”を営む厳格な父・長嶺勇夫(小林薫)に育てられた享(松山ケンイチ)は、社会人になってからはそんな父から距離を置き、東京でトレーダーとして忙しい毎日を送っていた。そんなある日、父の突然の訃報が届く。帰郷した享を母の菫(壇ふみ)や勇夫の山仲間たちが出迎える。その中に一人の見慣れない女性、高澤愛(蒼井優)がいた。彼女は心に深い傷を負い、山で遭難しかけたところを勇夫に助けられ、以来、勇夫と菫のもとで働いていた。勇夫がいなくなった今、誰もが菫小屋の存続を諦めかけていたとき、享が都会生活を捨てて小屋を引き継ぐと宣言する。こうして愛とともに菫小屋の経営に乗り出した享だったが、案の定、過酷な山での生活に悪戦苦闘の日々が続く。そんな彼の前に勇夫の友人だったという頼もしい山男のゴロさんこと多田悟郎(豊川悦司)が現われ、享を力強く支えていく。(allcinema ONLINE)


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 松山ケンイチ、 蒼井優、 豊川悦司

 ストーリーもよく、役者もそろっている映画だった。松山ケンイチは今まで観た中で一番自然体で演じていたと思う。とてもよかった。豊川悦司も自由人の勇夫という役がはまっていた。小林薫はどの映画に出ていても存在感がある。吉田栄作は救助隊のリーダーらしい生真面目さをうまく表現していたと思う。この人はこれが持ち味かもしれない。ちゃらちゃらした役は似合わない感じだ。壇ふみもうまいし、蒼井優ちゃんがとてもかわいくて、元気があって明るくてちょっと不思議なところもある女の子を好演していた。


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 蒼井優 

 その他、松山ケンイチが勤める会社の上司役に中村トオル。都会的な役が似合う。また山小屋にやってくる常連客に市毛良枝、この人は実生活でも山登りをしているようだ。ドキュメンタリーでみたことがある。その他、ちょっとした役で井川比佐志、石橋蓮司、でんでんなどもでていた。こういうベテラン勢が脇役で出ていると、作品が締まる感じがする。


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 チングルマ(高山植物)


 いわゆる温かみのあるホームドラマのような映画でいい感じだった。けれどもこの映画のもう一つの主役は自然そのものだと思う。木村大作監督の選んだ風景のすばらしさをとくとご覧あれという感じである。記事の写真では色彩がうまくでない。実際の映画館での映像は本当に美しい。この風景を観るだけでも値打ちがあると思う。そしてこういう過酷な山岳ロケに耐えて作品を創りあげた俳優さんたちの、映画に対する情熱に感動した。

 
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監督・脚本:木村大作  出演:松山ケンイチ、 蒼井優、 壇ふみ、 小林薫、 豊川悦司、 吉田栄作、
中村トオル、 市毛良枝、 井川比佐志、 石橋蓮司、 デンデン
2014年 日本

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永遠の0(ゼロ) [日本&アジア映画]

 岡田准一演ずる宮部久蔵の人物像がとてもすばらしかった。日本中が戦争という誤った道をひた走っているときに、自分の愛する家族のために命を粗末にするまいと、自分の考えを押し通そうとした姿が感動を呼ぶ物語だった。


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 2004年。佐伯健太郎(三浦春馬)司法試験に落ち失意の日々を過ごしていた。祖母・松乃が他界し葬儀に参列するが、そこで祖父・賢一郎(夏八木勲)とは血がつながっていないことを知る。血縁上の祖父は、松乃の最初の夫で、太平洋戦争時に零戦パイロットとして出撃、終戦間近に特攻隊員となり散った宮部久蔵(岡田准一)という人物だった。健太郎は久蔵がどんな人物だったか調べようと、彼のかつての戦友を訪ねてまわる。しかしその先々で、海軍一の臆病者といった手厳しい評判を聞く。類まれなる操縦センスを持ちあわせながらも、敵の駆逐よりも生還を第一に考えていた。それは、久蔵が妻・松乃(井上真央)と娘・清子とかわした、家族の元に生きて戻るという約束があったためだった。それならなぜ久蔵は特攻の道を選んだのか。やがて久蔵の最期を知る人物に行き着き、健太郎は久蔵の懸命な思いを知る……。(Goo映画より)


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 宮部久蔵のような生き方は、戦時中は皆に受け入れられないような生き方だった。けれども、家族との約束を必死で守ろうとしたのは大変なことだったと思う。皆が戦争は嫌だ、特攻隊は嫌だと思っても、国家権力に屈して動かされる時代、純粋で冷静な目線で何が正しいことなのかを見つめるのは、勇気と呼ぶにふさわしい行為ではないだろうか。だからこそ、宮部に救われ、名誉を守られた戦友たちは宮部をたたえるのだ。


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 この作品は今人気の高い若い俳優や中堅の俳優、そしてベテランの役者が出演して、すごく人間的なドラマを創りあげたと思う。主演の岡田准一が特にすばらしかった。いい俳優になったんだなと嬉しくなるような感じだった。そして、ベテランの俳優陣もたくさんの人が持てる力を出し尽くして演じていた。この中で、宮部の部下で彼に命を救われて戦後やくざの親分になり、宮部の残された妻を助ける景浦という男がいるのだが、それを演じたのが、舞踏家の田中泯である。この人のドキュメンタリーをTVで観て以来のファンなのだが、映画を観ている時は気が付かなかった。けれどもこの役がとても印象に残ったので、調べてみてそうか!という思いだった。こんな魅力的な人はなかなかいないと思っている。

 映画の話に戻って、この作品の主題である人間にとって本当に大切なものとは何か、ということ、私たちは戦争で貴い命を犠牲にした人々の魂のために、それをこれからも問い続けていくことを忘れてはならないと思いました。エンドロールに流れるサザン・オールスターズの「蛍」が、この映画の余韻を一層胸にしみるものにしています。ぜひご覧になってください。

監督:山崎貴  出演:岡田准一、 三浦春馬、 井上真央、 濱田岳、 吹石一恵、 田中泯、 山本学、 
風吹ジュン、 平幹二郎、 夏八木勲
主題歌:サザン・オールスターズ「蛍」
2013年 日本
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かぐや姫の物語 [日本&アジア映画]

 まるで水彩画のような日本的な風景の背景とその中で動き回る人物がとてもマッチして、美しくて原作に忠実なすばらしいアニメーションの世界に浸ることができました。


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 「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」の巨匠・高畑勲監督が、日本最古の物語文学『竹取物語』を、アニメーションの地平を切り開くべく野心的な映像表現を駆使して描き出す長編ファンタジー・アニメーション。声の出演は朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子。なお本作では、高畑作品ではお馴染みの画より先に声を録音するプレスコという手法が採用されているため、本作完成前の2012年6月に他界した地井武男も2011年夏には録音を終えていたとのこと。
 竹林にやって来た翁は、光る不思議な竹に気づき、近づくと小さな女の子が現われた。女の子を連れ帰った翁は、媼とともに自分たちの子として大切に育てる。女の子は捨丸ら村の子どもたちと元気に遊び回り、すくすくと成長。翁は娘を立派な女性に育てようと、都に移り住み、教育することに。そして美しく成長した娘は、かぐや姫と名付けられる。やがて姫の美しさを聞きつけ、5人の求婚者が現われるが…。(allcinema ONLINE)


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 子供のころ絵本で見たかぐや姫を思い出した。その絵本の絵は日本画的な例えば源氏物語絵巻のような絵だったが、すばらしい絵だったので未だに記憶に残っているのだろう。映画のストーリーはまさにその絵本をアニメーションにしたかのようなものだった。

 この一枚一枚の画面を作成するのにどれだけ多くの人がかかわったのだろうか。絵は淡く美しい色彩で細かい確かな筆で描かれている。この中の登場人物達の動きがすばらしく、特にかぐや姫が色々な動きをするのがおもしろかった。また赤ちゃんや子供や動物たちの素早い動きも十分に表現されていた。

 ストーリーは現実の中に夢が入り混じっていたりして、面白い構成になっている。しかもかぐや姫をはじめ登場人物のキャラクターがくっきりと描かれていて、リアル感がある。かぐやの明るく正直で一途な性格が魅力的だった。

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 田舎で育ち元気いっぱいだったかぐや姫は、翁が竹林に行ったときに再び、光る竹から金銀財宝を見つけたので、一家はそれを元手に、都の大きい屋敷に移り住んだ。そしてかぐやは姫君として色々な教養を身につけさせられる。美しいかぐや姫の人気はうなぎのぼりに高くなり、高貴な5人の男性からぜひにと求婚される。しかし姫には意中の人がいたので、この5人の男たちに無理難題をつきつけて、あきらめさせようとするのである。けれどもしばらくして男たちは、かぐやが所望した手に入るはずのない宝物を携えて再び屋敷を訪ねてくるのだった。

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 だが、それらの宝物は貴人たちが職人につくらせた偽物だったのがわかる。ところがその中の一人だけが、かぐやの言葉を真に受けて、嵐の海に船で漕ぎだし命を落としてしまうのである。姫はそのことを知って、自分のために人1人が亡くなってしまったことを重く受け止めるのである。そしてこのことこそが、かぐや姫の罪なのだ。姫はこの事件のゆえに月に帰ることになってしまう。


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 月の世界はどんな世界だろう。そこは苦しみも悲しみもない世界である。しかし、あふれる喜びの感情もない。穏やかだが、面白くもない世界であろう。姫は帰りたくないと泣き叫ぶが、月からのお迎えは容赦なくやってきて、月の羽衣を天女がかぐや姫に着せ掛けるのである。そのとたん今の世界の記憶はなくなってしまう。そうして姫は喜びも悲しみもない、感情のない月の世界に帰っていくのだった。それがかぐや姫への罰なのだ、と私は思ったのである。

 この世は苦しみや悲しみに満ちている、しかし、楽しいことや喜びもたくさんある。そういう混沌としたこの世こそ、人間の生きて行くべき世界なのかもしれない。これはかなり深いお話だったと観終わって思いました。エンドロールに流れる歌もとてもいい歌でした。そしてこの美しくすばらしい傑作を日本国内だけでなく、世界の人々にも広く見てもらいたいと思っています。

監督:高畑勲  音楽:久石 譲   2013年 日本(スタジオジブリ)
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そして父になる [日本&アジア映画]

 おそまきながら観てきましたが、とてもいい映画でした。是枝監督と福山雅治の力量を感じた作品でした。


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 これまで順調に勝ち組人生を歩んできた大手建設会社のエリート社員、野々宮良多(福山雅治)。妻みどり(尾野真千子)と6歳になる息子・慶多(二宮慶多)との3人で何不自由ない生活を送っていた。しかしこの頃、慶多の優しい性格に漠然とした違和感を覚え、不満を感じ始める。そんなある日、病院から連絡があり、その慶多が赤ん坊の時に取り違えられた他人の子だと告げられる。相手は群馬で小さな電器店を営む貧乏でがさつな夫婦、斎木雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木よう子)の息子、琉晴(黄升げん)。両夫婦は戸惑いつつも顔を合わせ、今後について話し合うことに。病院側の説明では、過去の取り違え事件では必ず血のつながりを優先していたという。みどりや斎木夫婦はためらいを見せるも、早ければ早いほうがいいという良多の意見により、両家族はお互いの息子を交換する方向で動き出すのだが…。(all cinema ONLINE)


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 こういう事件が起こったとき、最も傷つくのは子供なのだと感じた。子供は純粋になんの疑いもなく、育ててくれている人を親と思い育つ。彼らにはなんの罪もない。けれども現実は彼らに覆いかぶさってくる。大人の側の押しつけ。だが彼らは自分の信じていることを信じ、反発する。
 そして両親達も苦悩する。彼らはこれまで育ててきたという事実を重視するのか、それとも血を重視するのかで迷い、血のほうを選ぶのだが、いざ子供を交換してみると、子供たちになぜ両親が代わったのか答えることさえできないのである。特に野々宮夫妻(福山&尾野)と琉晴(黄升げん)のやりとりがとても心を打った。野々宮良多は自分のこれまでの子育ての方針を琉晴に押し付けようとする。しかし琉晴は「なんで、なんで?」と尋ねるばかりだった。そして琉晴は元の両親の絵を描いて怒られたりする。

 この作品では福山雅治が鼻持ちならないエリートサラリーマンを好演している。彼の芸域の広さに感心した。カッコいい役だけでなく、こういう嫌味な、それでいて一途な父親役ができるなんてすごいと思った。


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 対照的に、リリー・フランキーは下町のひとのいい親父がとても似合っていた。この人は根っからの人のいい役もできるし、最近では違う作品で、確かその風貌とは正反対の悪役を演じていたはずだ。かなり器用な役者なのだなと思った。妻役の尾野真千子や真木よう子もその立場の役をうまく表現していた。また風吹じゅん、 國村準、 樹木希林、 夏八木勲など、脇役も芸達者な俳優で固めた。子役たちも演技の域を越えて、非常に自然だった。だからこそ、私にとっては珍しいことにラスト近くの場面では少し涙が流れた。

 夫婦とは、子育てとはいったいなんだろう。そして家族とは……。色々な問題が投げかけられた作品である。カンヌ国際映画祭でみごと審査委員賞を受賞したが、こういう問題が国とか民族とかに関係のない人間の本質をつく作品だからこそ外国で評価されたのだと思った。とても嬉しいことである。

監督:是枝裕和  出演:福山雅治、 尾野真千子、 真木よう子、 リリー・フランキー、 
二宮慶多、 黄升げん、 風吹ジュン、 國村準、 樹木希林、 夏八木勲
2013年 日本

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夏の終り [日本&アジア映画]

 僧侶で作家の瀬戸内寂聴さんの自伝的小説「夏の終り」の映画化である。二人の男の間で揺れる女心を満島ひかりが趣味のいい着物姿とレトロな洋服姿で、美しく女っぽく演じている。


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綾野剛&満島ひかり

 長年にわたって妻子ある年上の作家・小杉慎吾(小林薫)との愛人生活を送る相澤知子(満島ひかり)。慎吾は妻のいる家と知子の家を、きっちり週に半分ずつ行き来しており、不倫でありながらも知子にとっては穏やかで安定した日々だった。
 ところがある日、帰宅した知子は、慎吾から木下涼太(綾野剛)という男の来訪があったことを告げられ、心のざわつきを覚える。涼太はかつて、結婚していた知子が恋に落ち、夫と子どもを捨てて駆け落ちした相手だった。年下で、知子に対して一途で情熱的な涼太。彼のことが忘れられず、慎吾との生活を続けながらも、いつしか涼太との関係も復活させてしまう知子だったが…。


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小林薫&満島ひかり

 満島ひかりに私が注目したのは、NHK朝の連続TV小説で、とても雰囲気のある女優さんだと思ったことだ。経歴をみてみると、色々な作品に出演し、様々な映画祭で賞をとっている人ということがわかった。この作品では染織作家で妻子ある男と暮らしながら、昔の恋人ともよりを戻すというむずかしい役を難なくこなしていた。

 二人の素敵な男に愛されるなんて女冥利につきるが、ストーリーが情熱的なのに、映画のほうは少し退屈な感じがした。テンポがゆっくりで小林薫演じる小杉慎吾がたいして魅力的ではなかったからだ。売れない小説家だし、妻と愛人の間を行き来する男ということだが、知子はきちんとした染織作家としての職業ももっている女性なのだから、小杉のなにがよくて8年間も愛人生活を送っているのか、そのあたりの描き方が足りなかったと思う。昔の恋人の涼太が、なぜ知子が慎吾との愛人生活を続けているのか尋ねると、「結局愛してるのよね」という言葉が返ってくるのだが、それが映画の中では映像で表現し足りなくて、私は理解に苦しんだ。情熱の量といい、若さといい、涼太のほうがいいに決まっているではないか。もっと慎吾を魅力的に描いてほしいと思った。セリフじゃなくて、映像でわからせてほしかった。

 瀬戸内さんは実際に慎吾のモデルの小田仁次郎という作家と同棲していた。彼は瀬戸内さんの文学の師で、売れない小説家だったが、瀬戸内さんは小田から色々な文学的なアドバイスや支えを得たと書いていらっしゃる。そういうことなら長く一緒にいらしたことも理解できる。

 小説「夏の終り」の一節はこういう感じだ。「無口で非社交的で経済力のない世間から見れば頼りない男の典型のような慎吾に、知子は全身の鍵をあずけたようなもたれかただった。」

 映像で小説を表現することは、なかなか困難なことだなと感じた作品である。

 
監督:熊切和嘉   原作:瀬戸内寂聴   出演:満島ひかり、 綾野剛、 小林薫etc.
2012年 日本
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少年H [日本&アジア映画]

 戦争というものについて考えさせられる良い映画だった。後半のH少年の「この戦争はなんやったんや!」という悲痛な叫びが胸に迫ってきた。


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 昭和初期、異国情緒あふれる神戸。胸に名前の頭文字“H”が大きく刺繍されたセーターを着る少年・妹尾肇(H)は、洋服の仕立屋を営む父・盛夫とクリスチャンの母・敏子、2歳下の妹・好子の家族4人で楽しく元気いっぱいの毎日を送っていた。仕事柄、外国人との付き合いも少なくない盛夫は偏見や周囲の空気に流されることなく、自分の目で見て考えることの大切さをHに教えていく。そんな中、時代は急速に軍国化の道を突き進み、次第にHの家族や周囲の人々にもその影響が及び始めるが…。(allcinema ONLINE)

 水谷豊と伊藤蘭という芸能界のおしどり夫婦が、映画でも夫婦役を演じるが、さすが二人ともプロだと思った。二人とも役者の才能があるので、役になりきっていい演技だったと思う。また、肇少年(少年H)を演じた吉田竜輝君が、戦争に対する少年の純粋な怒りをうまく表現していた。その他早乙女太一が女形で出兵直前に自殺してしまう悲劇の青年を演じ心に訴えかけてきた。またお笑い芸人の原田泰造がいかにも偉そうな軍人教官を演じ、誰だかわからないくらいだった。お笑いの人は時として、役者としても才能を発揮するものだと感心した。その他ベテランの俳優陣がそれぞれ個性を発揮して、面白い作品となった。


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 戦争とは何か。それは殺し合いである。どんな大義名分を持ってきても殺し合いに変わりはない。人間はなぜそんな馬鹿なことをするのだろうか。しかも強制的な上からの圧力によって、戦争に駆り立てられる人々。
 少年Hはそういう戦争の矛盾を感じそれに怒るのである。少年Hは鉄砲を使っての軍事訓練を一生懸命やらされる。母親たちは空爆で火事になったときのバケツリレーによる火消の訓練。けれども大空襲で焼夷弾が大量に降ってきたとき、それはなんの役にも立たなかった。
 何もかも丸焼けになった神戸の街で、妹尾一家の再生の生活が始まる。そして闇市で、偉そうにしていた軍事教官がただの商売人になってへらへらしているのをみて、少年Hはまたもや怒るのである。人間は変化する。その矛盾に満ちた様子が少年を傷つけ、成長させるのである。

 どうして特攻隊の人々は犬死しなければならなかったのか。考えれば考えるほど虚しい思いでいっぱいになる。私の知り合いの78歳の女性が、戦時中のことを色々話してくださった。女学校の時、まるで授業などはなくて、午前中は兵隊さんたちが使う薪ひろいをいつもさせられ、午後からは兵隊の食料となる「いなご」を一人百匹袋いっぱいに集めさせられたそうだ。それは人生においてまったくの無駄な時間であって、そのことに怒りを覚え、それは一生消え去らないとおっしゃっていた。

 戦争を知らない人々が増えていく現在、この「少年H」のような映画が、ドキュメンタリーフィルムとは違ってもっと誰にでも見やすくわかりやすく、戦争というものの一端を伝える役割は大変大きいものと思っている。

監督:降旗康男  原作:妹尾河童「少年H」  出演:水谷豊、 伊藤蘭、 吉田竜輝、 花田優里音、
小栗旬、 早乙女太一、 原田泰造、 佐々木蔵之助、 国村準、 岸部一徳etc.
2012年 日本
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舟を編む [日本&アジア映画]

 ある出版会社の辞書編集部で新しい辞書を編纂することになった。その主人公馬締(まじめ)光也(松田龍平)と周りの個性豊かな人々が織りなす人間模様を描いた作品である。人間真面目で真剣なことが、こんなに人を感動させるのかと思った映画である。


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 1995年。玄武書房に勤める青年・馬締光也(松田龍平)は、真面目すぎる性格ゆえに営業部で浮いた存在。そんなある日、彼は言葉に対するセンスを買われて辞書編集部に異動となる。迎えたのは、定年間近のベテラン編集者・荒木(小林薫)やお調子者の西岡(オダギリジョー)ら個性あふれる面々。辞書編集部では現在、新しい辞書『大渡海』の編纂に取り組んでいた。馬締は彼らを通して辞書の世界の奥深さに触れ、辞書作りに没頭していく。そんな馬締がある夜、下宿先の大家と同居することになった板前修行中の孫娘・林香具矢(宮崎あおい)と出会い、一目惚れしてしまう。言葉を扱う仕事をしていながら、彼女にうまく自分の思いを伝えられず苦悶する馬締だったが…。(allcinema ONLINE)

 松田龍平は相変わらず飄々とした雰囲気で、真面目で人が良く仕事一筋の青年を非常に自然に演じていた。なんともいえずユーモラスだった。オダギリジョーは編集者仲間でお調子者の西岡という人物の役。とてもうまいのだが、彼にはこんな役もったいないなと思ってしまった。もっと主役級の役ができる役者なのに、なぜかそういう作品にめぐまれないのが残念だ。宮崎あおいは修行中の女板前の香具矢という女の子の役だが、板前としての修業の場面などはまったく描かれていなかったので、ちょっと現実味に欠ける感じがした。松田の恋人役だが、この二人の関係がもう少し突っ込んで描かれていたら、もっとよかったのにという感じだ。でも辞書づくりの大変さを描くだけで目いっぱいだったのかもしれない。
 脇役陣が豪華で、加藤剛、八千草薫、小林薫、渡辺美佐子、伊佐山ひろ子、池脇千鶴など、ベテランと芸達者勢が脇を固めた。この俳優さんたちは申し分なかった。さすがである。

 それにしても、辞書というのはやはり言葉に対するセンスがないとできないものなのだなと感心した。例えば、作品中に出てくる「右」という言葉の語釈だが、辞書によってちがうのだ。ひとつは馬締が考えた語釈で
(実は学研の現代新国語辞典のもの)「北を向いたとき東にあたる方角」。すごいと思いませんか。そして加藤剛扮する編集長の語釈は「数字の10のゼロにあたる方」。おもしろいですね。また私が個人的に調べた、新明解国語辞典によると「アナログ式時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示のある側」となっている。これを一から考えるのが、辞書をつくるということなのだ。なんと奥深く時間のかかる作業だろう。今後、辞書をもっと丁寧に読んだら、時間を忘れるくらい面白いかもしれない。

 馬締光也の真面目な人物像が、辞書編纂という地味で根気のいる作業とリンクして、なかなか面白い映画に仕上がっていると思ったのである。

監督:石井裕也  原作:三浦しをん「舟を編む」  出演:松田龍平、 宮崎あおい、 オダギリジョー、
渡辺美佐子、 池脇千鶴、 鶴見辰吾、 伊佐山ひろ子、 小林薫、 加藤剛
2013年 日本
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北のカナリアたち [日本&アジア映画]

 吉永小百合の演じる教師「川島はる」は、女性として完璧だった。先生として、妻として、恋人として。北の大地に繰り広げられる物語は、美しく悲しく温かかった。


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 夫(柴田恭平)と共に北海道の離島に降り立った小学校教師の川島はる(吉永小百合)。この島の小さな分校で6人の生徒を受け持つことになった彼女は、合唱を通じて生徒たちと心を通わせていく。合唱によって自信が芽生えた生徒たちも、以前とは見違えるように明るく楽しい学校生活を送るようになった。そんなある日、海辺でバーベキューを楽しんでいたはると生徒たちを思わぬ悲劇が襲う。これが原因で、はるは島を追われるように去っていき、生徒たちからも歌声は聞かれなくなってしまう。20年後、東京で暮らすはるのもとにその時の教え子の一人が事件を起こしたとの知らせが。はるは真相を知るため、成長した教え子たちとの再会を決意し、北へと向かう。(allcinema ONLINE)

 吉永小百合は美しかった。この人は若い時から現在まで自分のイメージを保ち続けている。それはすごいことだと思う。彼女は水泳が趣味のようだ。ほかにも色々なスポーツをしているのだろう。そうやって体型を保っている。チョコレートやナッツは絶対食べないそうだ。(これは本人がインタビューで言っていた。)その他にも色々な食事制限をしているかもしれない。どんな悪環境の撮影にも絶対文句はいわないらしい。根性の人といえるだろう。それなのに画面に現れる彼女は、女らしく美しい。まさに大女優の名にふさわしい人だと思う。

 作品のほうは、美しく厳しい北海道の大自然を背景に、6人の生徒たちと教師の心温まるストーリーが展開する。ある事件の犯人が生徒のうちの一人で、なぜ彼が事件を起こしたのかを確かめるために、はるは北海道に向かう。そこはかつて、はるにとっても色々な出来事があったところであった。
 昔の生徒たちも成長して、それぞれの場で働いている。そしてはるは、彼らに会って昔を思い出し自分にとっての悲しい思い出に対する心の決着をつけるのだった。
 そして今は廃校となった小学校の教室で、果たせなかった約束の歌を6人の生徒に指揮するのだった。この場面では、吉永の手ぶりに合わせて、今もっとも活躍している中堅俳優たち6人がコーラスするシーンがあったが、これは大女優が若手を引っ張って作品を創りあげていくという象徴的なシーンのように思えた。

 ストーリーもおもしろく、北海道の様々な自然の風景も感動的な映画であった。


原作:湊かなえ「往復書簡」   監督:坂本順治   出演:吉永小百合、 柴田恭平、 仲村トオル、
里見浩太朗、 森山未來、 満島ひかり、 宮崎あおい、 勝地涼、 松田龍平、 小池栄子etc.
2012年 日本
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