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ツナグ [日本&アジア映画]

 珍しく3本続けて邦画作品を観た。この「ツナグ」という題の意味は、死者と生者を会わせる使者の役目をするという意味である。死者と生者を「つなぐ(ツナグ)」のだ。これを演じるのが松坂桃李である。彼はなかなか良かった。松坂のマスクはアクの強さがないし、久々の若手正統派俳優である。 

 死者との再会を一度だけ叶えてくれる“使者(ツナグ)”の役割を祖母(樹木希林)から引き継いだ青年(松坂桃李)の葛藤と、ツナグの仲介を願う3組の男女の切なくも感動的な再会の物語を描く。
 “使者(ツナグ)”とは、たった一人と一度だけ、死者との再会を叶えてくれる案内人。そんな都市伝説のような噂にすがって依頼に訪れたのは、癌で亡くなった母との再会を願う中年男性、畠田(遠藤憲一)。しかし彼の前に現われたのは、一見ごく普通の高校生、渋谷歩美(松坂桃李)だった。その歩美のもとにはさらに、喧嘩別れしたまま事故死してしまった親友・奈津(大野いと)に会いたいという女子高生、嵐(橋本愛)7年前に突然失踪してしまった恋人・キラリ(桐谷美鈴)の消息を知りたいサラリーマン土谷(佐藤隆太)が依頼を持ち込んでくる。しかし当の歩美は、ツナグを祖母(樹木希林)から引き継ぐ見習いの身だった。やがて、死者との再会を仲介するという行為に疑問を感じ始める歩美だったが…。(allcinema ONLINE)


ツナグ1.jpg


 誰でも死んでしまった人ともう一度会えたらと思うことがあるだろう。そしてその人の本当の気持ちを聞きたいと願うだろう。その願いをかなえてくれるのが、「ツナグ」である。しかもその亡くなった人は、生前と全く同じ様子で現れ、触れると温かみを感じることもできるのだ。もしこんなことがかなえられるのなら、ぜひツナグにコンタクトをとってみたいと思わずにいられなかった。

 3組の男女がツナグのお蔭で亡くなった大事な人と再会を果たす。この中でよかったのは、遠藤憲一と八千草薫の親子である。遠藤健一は頑固でおこりっぽくて一直線な息子であるが、本当はどの兄弟よりも母親を愛していた。そのことが母親の八千草薫はよくわかっていて、「私に会いたいがために、貴重な機会を使ってしまうなんて馬鹿な子だね。」と笑うのだった。八千草さんがあまりに若いので、親子というのも一見「え?」という感じだったが、やはり母親と息子に通じ合う情感を二人の演技が見事に表現していたと思う。

 それから親友を突然亡くした女の子の話。この子たちはツナグの渋谷歩美(松坂桃李)と同じ学校の同級生という設定だった。青年期にありがちな親友同士の目に見えない反目を描いている。ここにでていた女子学生を演じた女の子たち(橋本愛・大野いと)はほとんど知らない女優さんだったが、若さの持つ美しさに輝いている感じがした。主演の松坂君ともども将来が楽しみである。

 そして最後は事故で死んでしまった恋人キラリ(桐谷美鈴)を思いきれない男の話。佐藤隆太が演じたサラリーマンが彼の新しい面を引き出していた。佐藤隆太といえば、熱血サラリーマンというイメージだったが、突然去ってしまった若い恋人を思い続ける静かな男を演じてなかなか良かったと思う。女優さんもこれまた知らない若い人だったが、かわいかった。


ツナグ2.jpg


 だがこの作品で特筆すべきは松坂桃李の祖母役の樹木希林の演じたツナグである。このおばあさんは長くツナグをやってきて、それを孫に継がせるべく色々なことを教えていくのだった。樹木希林の独特の不思議な雰囲気が、ベテランのツナグのイメージにぴったりだった。樹木希林は色々な役をやるが、どの役にも非常に入れ込んでやるタイプの役者だと思う。だから、役によっては私は受け付けないところがあったのだが、この人は演じるということを本当に愛している役者なのだと感じたのである。

 もし現実に「ツナグ」という人が存在したなら、それは都市伝説では終わらず人々はツナグに殺到して、予約で満席になることだろう。やはり亡くなった人との対話は生きている私たちの記憶の中でのみ、繰り広げられるべきものなのかもしれない。


原作:辻村深月   監督:平川雄一朗  出演:松坂桃李、樹木希林、佐藤隆太、桐谷美玲、橋本愛、
遠藤憲一、八千草薫、仲代達矢
2012年 日本
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くろねこルーシー [日本&アジア映画]

 猫好きの私としてはやはり観たかった一作だ。可愛い黒猫たちと売れない人の好い占い師かもしだ(お笑いコンビ“ドランクドラゴン”の塚地武雅)の織り成すドラマに心がほっこりした。 


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 迷信を必要以上に気にする売れない占い師かもしだ賢。妻子とは別居中でわびしい一人暮らしの身。そんなある日、軒下で親猫に置き去りにされた生後間もない2匹の黒猫を発見する。縁起が悪いと困惑しながらも、そのまま放っておけずに渋々ながらも飼うことに。ところが仕事場に子猫を連れて行ったところ、“くろねこ占い”として評判となり…。(allcinema ONLINEより)

 塚地武雄の売れない占い師がとにかくおかしかった。やはり芸人さんは独特の間というのか、にじみ出るおもしろさをもっていて、いい味がでるものだ。黒猫の親子(あとで二匹の子猫の親猫も登場)もとってもかわいくて、ほほえましかった。 

 つぶれかけのゲームセンター(?)の片隅に占いコーナーがあって、そこに「占いのかもしだ」のコーナーがあるのだが、客はほとんど来ず、かもしだは手持無沙汰な毎日をすごしていた。隣はガリシャという水晶玉占いの派手な女性占い師がいる。濱田マリが演じているのだが、これが最高におもしろくてうまかった。この人は普通のバラエティーやドラマでいい人をやっているときは、あまり良いと思わないのだが、こういうアクが強くユーモラスな役がうまいと思った。

 塚地武雄はお金も稼げない男の裏寂しさをみごとに表現していた。けれども人が良くやさしいので、別居中の奥さん(安めぐみ)もほっておけなくて、ときどき子供と一緒に訪れてご飯をつくっていってくれるのだ。だがなついていない子供にはすごく丁寧な言葉で話される始末である。

 ところがひょんなことで拾った黒猫の親子に助けられ、商売繁盛となり、転職をすすめていた奥さんにも占いで食べていくことを認められ、めでたく再び一緒に暮らせることになるのである。
 
 このかもしだを取り巻く人々も個性的で、人生を上手に生きられないけれども人がいい人物ばかりなので、観ているものはリラックスでき温かい気持ちになれる。

 なんとなく自分がぎすぎすしていると思うとき、また無類の猫好きの人にはおすすめの作品である。

監督:亀井亮   出演:塚地武雄、 安めぐみ、 大政洵、 濱田マリ、 生瀬勝久etc.
2012年 日本
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BUNGO~ささやかな欲望~見つめられる淑女たち [日本&アジア映画]

 久しぶりに日本映画を観た。チラシをみて興味が湧いて行ってみた。若手とこれから活躍するであろう俳優たちの競演でなかなか面白く観ることができた。

 文豪たちによる短編小説を注目のスタッフ、キャストで映画化したオムニバス。宮沢賢治の「注文の多い料理店」を『乱暴と待機』の冨永昌敬が恋愛物語へとアレンジしたほか、三浦哲郎、永井荷風の原作を基に『戦国番長 ガチザムライ』の西海謙一郎と前作の『BUNGO』シリーズでも監督を務めた熊切和嘉がそれぞれメガホンを取った。出演は、石原さとみや宮迫博之、谷村美月など。昭和の女を演じる女優たちの美しさと、長い間人々を魅了してきた名作を大胆な映像へと昇華させた個性派監督の手腕に注目。(Yahoo!ムービーより)


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  石原さとみと宮迫博之 

 一作目は私の好きな宮沢賢治の原作「注文の多い料理店」をうまく”料理”した作品である。石原さとみと宮迫博之が不倫カップルで、山奥に狩猟に来て道に迷い、夕やみ迫る中一軒の料理店にたどりつく。そこはレトロな雰囲気のなかなか洒落たレストランだった。そこには「どなたもどうかお越しください。決して遠慮はいりません。」「ことに肥った方や若い方は大歓迎いたします。」というおかしな看板がかかげてあった。空腹の二人は喜んでレストランの奥へと進むが、扉をあけるたびに、奇妙な注文を載せたメニューが置いてあり、そのとおりにして進んで行くと、ますます怪しい雰囲気になっていくのだ。最後は二人はどうなるのだろうか。
 石原さとみは、なかなかうまかった。いつもTVなどでは割合あっさりしたかわいさを出しているのだが、この作品では思いのほかしたたかで、計算高い女をうまく演じていたと思う。宮迫博之は関西の芸人であるが、時々映画に出演している。決してうまい役者というわけではないと思うが、芸人独特の間が面白い雰囲気をかもしだしているかもしれない。

 二作目「乳房」は中学生の男の子(影山樹生弥)が自分の乳房が膨らむ夢に悩まされている。彼は町の夜間巡回中に理髪店の女主人(水崎綾女)の豊かな乳房をみてしまう。そのことが頭から離れなくなった男の子は翌日、女主人の店へいくのだが……。
 女優さんはほとんど知らない人だったが、かなりきれいな人だった。これからが楽しみだ。男の子はあまりに子供っぽ過ぎたような気がした。少し眠くなった。


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 谷村美月 

 三作目「人妻」は町はずれの家を間借りした男(大西信満)が新生活をはじめるが、快活で親切で魅力的な家主の妻(谷村美月)に悶々とする。この気の弱い男と、男の本音を体現化した男(一人二役)が色々やりとりするのが、とてもおもしろかった。そんなある日、事件が起こる。家主が留守の晩、男が帰宅すると空き巣に入られ縄で縛られた家主の妻が……。
 かなり色っぽさが漂う作品だった。谷村美月もきれいでうまかったし、男を演じた大西信満もよかった。こういう気が弱くて手を伸ばせば届く女性にも、手出しができない男って私は好きだ。三作の中では一番気に入った作品である。

 この「BUNGO」は私が観た「見つめられる淑女たち」編と「告白する紳士たち」編の2作に分かれていて、それぞれオムニバスで3作のショートストーリーで構成されている。もう一つの作品もぜひ観に行くつもりである。

1「注文の多い料理店」 原作:宮沢賢治   監督:富永昌敬   出演:石原さとみ、 宮迫博之
2「乳房」 原作:三浦哲郎   監督:西海謙一郎   出演:水崎綾女、 影山樹生弥
3「人妻」 原作:永井荷風   監督:熊切和嘉     出演:谷村美月、 大西信満
2012年 日本   



  

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阪急電車ー片道15分の奇跡ー [日本&アジア映画]

 阪急電車は関西ローカルの鉄道で、京都や神戸、宝塚へ行くのに便利である。この物語は阪急今津線を舞台に、そこに乗り合わせた人々の悲喜こもごもの人間模様を描いた作品である。

 宝塚から西宮北口までのレトロな雰囲気の阪急今津線。そこには、様々な事情を抱えた男女が、束の間乗り合わせていた──。純白のドレスに身を包んだOL翔子(中谷美紀)。彼女は、婚約者を後輩に寝取られてしまい、復讐のため結婚式にウェディングドレス姿で乗り込む。かわいい孫を連れた老婦人の時江(宮本信子)は、息子夫婦との関係に悩む日々…。彼氏のDVに悩む女子大生のミサ(戸田恵梨香)。ふとしたことから車内で口論となり…。庶民的な主婦、康江(南果歩)は、肌の合わないPTAの奥様グループの誘いを断ることができず…。地方出身の大学生の権田原美帆(谷村美月)と小坂圭一(勝地涼)は、おしゃれな大学に馴染めず…。年上の会社員(玉山鉄二)と付き合う女子高生の悦子。大学受験を控え、成績が思うように上がらず…。


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  中谷美紀

 中谷美紀のOL翔子がとてもよかった。婚約していたのにマリッジブルーになっていた間に、婚約者が後輩の女性と浮気し子供ができてしまう。その結婚式に乗り込む姿がなんとも美しく勇ましかった。


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  勝地涼と谷村美月

 地方出身で野草に興味のある冴えない女子大生権田原美帆を演じた谷村美月と、軍オタ(軍隊オタク)の小坂圭一を演じた勝地涼のキャラクター設定がおもしろく、彼らは関西の有名校関西学院大学(かんせいがくいんだいがく)の同級生という役どころである。二人の息もあっていて色々なエピソードがすごくおもしろかった。


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  玉山鉄二と有村架純

 そしてあの玉山鉄二が、かわいい女子高生と付き合う会社員役で登場!しかもいわゆる人のよすぎる、ちょっと間抜けた男として。彼の関西弁はほんものだったので、関西出身の人だと思う。いつもシリアスで陰のある役が多いように思うが、こんな笑えるような役ができるというのも、役者の幅が広い人なんだなと思った。どんな役でもやっぱりかっこいい人はかっこいい。


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  宮本信子

 それから人生を知り尽くしている老婦人役の宮本信子も、いい役だったと思う。彼女はOL翔子や、彼氏のDVに悩んでいるミサ(戸田恵梨香)に的確なアドバイスをするのだった。そして態度の悪い大阪のおばちゃんにお説教するところがおもしろかった。この、電車の中で態度が悪く服装からして下品な大阪のおばちゃんたちは、関西以外の人が見たらこれが典型的な関西人と勘違いされるのではないかと心配になった。いわゆる吉本新喜劇の影響である。こういう人はごくごく一部の人たちなので、そこのところをお間違いなくといっておきたい。

 こうして色々な人物が登場し、子役達も活躍している。その登場人物が交差するところがうまく話が出来ているなと思う。

 東日本大震災で、関西に住む私もなんだか精神的に疲れてきた今日この頃だが、こんな優しさのある映画を観て、少しは元気がでてきたかもしれない。ちょっと温かい気持ちになりたい人におすすめの作品である。原作(有川浩著)もぜひ読んでみたいと思っている。

監督:三宅喜重     出演:中谷美帆、 戸田恵梨香、 南果歩、 谷村美月、 玉山鉄二、
宮本信子、 勝地涼、 小柳友etc.
2011年 日本  TOHOシネマズ梅田

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武士の家計簿 [日本&アジア映画]

 実在の下級武士の家計簿をもとに磯田道史が「武士の家計簿」というベストセラーを書き、森田芳光が面白い映画を創った。堺雅人が実直でプライドのある人物を好演していた。脇役も皆とてもよかったと思う。


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 江戸時代後半。御算用者として代々加賀藩に仕える猪山家。その八代目、直之(堺雅人)もまた幼い頃より算術を仕込まれ、そろばんの腕を磨いてきた。そして、いつしか“そろばんバカ”と揶揄されながらもその実直な働きぶりが周囲に認められていく。やがて、町同心の娘お駒(仲間由紀恵)を嫁にもらい、めでたく出世も果たした直之。しかし昇進に伴って出費も膨らみ、家計は苦しくなる一方。そこで直之が父母に代わり猪山家の財政状況を調べ直してみると、なんと借金の総額は年収の2倍にも膨れあがっていた。お家存亡の危機と悟った直之は、家財一式を売り払い借金返済に充てることを決断する。そして、自らこまかく家計簿をつけるとともに、世間体を顧みることなく創意工夫を凝らしながら倹約生活を実践していくのだった。(allcinema on lineより)


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 御算用者としての代々の仕事に誇りを持ち、まじめに勤める直之がとてもかっこよく見えた。猪山家が借金返済のため、倹約生活になったとき、お祝いの膳の上のにらみ鯛がフナのような小さい魚に代わり、その皿の前に鯛の絵が並べられるシーンがとてもユーモラスだった。森田監督はユーモアのセンスがある人なのだと思った。

 子供の教育をする場面も印象的だった。こういう風に親子が親密に過ごせたなら、心を通わせることができるのだろうと感じた。夫婦が心を合わせ、3世代が仲良く暮らす生活は家族の温かさに満ちていた。


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 今の家庭は、父親と子供の接触時間が少ないため、子供が父親を理解し尊敬することができにくくなっていると思うが、それをつなぐのはやはり母親の役目なのかもしれない。

 映画として面白い作品であり、古きよき日本の情景もきれいだし、しかも倹約とか親子の情とか、現代の自分達の生活をもう一度考えさせるようなところもあった。いい映画だった。

 堺雅人の「ゴールデンスランバー」が観たくなったし、森田監督のほかの作品もぜひチェックしたいと思った。

監督:森田芳光   出演:堺雅人、 仲間由紀恵、 松坂慶子、 草笛光子、 西村雅彦、
中村雅俊、 大八木凱 etc.
2010年 日本   梅田ガーデンシネマ

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借りぐらしのアリエッティ [日本&アジア映画]

 スタジオジブリの2年ぶりの新作である。予告編を観たとき、音楽がとてもすばらしくて心に残り、また作品の風景描写が美しかったので観にいってみた。


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 アリエッテイ

 アリエッティは小人一家の少女で14歳である。彼らは古いお屋敷の台所の下に住み、自分たちに必要なものを必要なだけ人間の世界から借りてきて、生活している。例えば角砂糖1個とか、ティッシュ1枚とか。父親は、それらのものがなくなったら、夜中に人間の住居に忍び込み、調達してくるのだった。決して人間には見られないように。
 ある日、アリエッティは父に連れられて、初めての「借り」にでる。その「借り」の最中に病気の静養でこの祖母の屋敷にやってきた少年翔に姿を見られてしまう。人間に姿を見られたら、小人たちは引っ越さなくてはならない。さてアリエッティ一家の運命はいかに?


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 アリエッティの住まいとお母さん

 お屋敷の周りの緑あふれる庭や小川の風景描写がすばらしく美しかった。アリエッティ一家の住まいも植物がたくさんあって、インテリアが素敵だった。
 アリエッティの家族の仲の良い様子が、とてもいい感じに描かれていた。小人にとって、人間の世界へ侵入するのは、至難の技なのである。何もかもが自分たちの数十倍の大きさなので、父親はロープや色々な道具を駆使して、家具を登り生活必需品をゲットするのだった。それはまさに冒険と呼ぶにふさわしい行為であった。父は勇気があって頼れる存在なのだ。そして母親は明るくて、お料理が上手でちょっとおっちょこちょいの楽しい存在だ。そして、当のアリエッティは元気で快活な女の子である。冒険心がいっぱいで、賢くかわいい少女なのである。アリエッティが出会った翔は心臓が悪く、手術に備えてこの祖母の家にやってきた。静かで沈みがちなハンサムボーイである。


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 翔

 映画のクライマックスは、屋敷のお手伝いのおばさんが台所の床下の小人たちの住まいを見つけて、アリエッティのおかあさんを捕まえ、それを瓶の中に捕獲する場面である。そこからの救出劇が、少しドキドキするが、案外簡単に終わってしまうのが、物足りなさを感じさせた。

 またアリエッティと翔との心を通わせる出来事が少なすぎて、翔の魅力がいまひとつアピールされていなかったと思う。もう少しアリエッティと翔の物語をみたかった。

 とはいえ、美しい緑の風景と懐かしさを感じさせる音楽が、ぎすぎすした日常を忘れさせてくれ、決して子供に媚びていず、大人も子供も楽しめる夏にふさわしい作品になっていたと思う。


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 最後にこの映画の主題歌「Arrietty’s Song」を歌っているセシル・コルベルについて少しふれておく。彼女は、フランス人で歌手でありハープ奏者である。思春期にケルト音楽に傾倒しハープをひきながら歌い始める。昨年、彼女自らがジブリの鈴木プロデューサーに送ったCDがきっかけとなり、「借りぐらしのアリエッティ」の音楽に携わることになった。作品の風景に溶け込むような、静かで美しい歌である。

原作:メアリー・ノートン「床下の小人たち」   監督:米林宏昌   企画・脚本:宮崎駿
音楽:セシル・コルベル「Arrietty’s Song」
声の出演:志田未来、 神木隆之介、 大竹しのぶ、 竹下景子、 三浦友和、 樹木希林
2010年 日本

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空気人形 [日本&アジア映画]

 ペ・ドゥナが本当に人形のようだった。肌がきれいで儚げで、かわいかった。


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 東京の安アパートで暮らすファミレス勤めの中年男、秀雄(板尾創路)は等身大の空気人形を恋人としていた。女性にはもてない、さえない男なのである。
 ある日その空気人形(ペ・ドゥナ)がどうしたことか、心を持ってしまう。そして彼女は秀雄が出勤したあと、アパートにあったメイド服を着て、町へと出かけていく。何も知らない無垢な彼女は流行らないレンタルビデオ屋でアルバイトすることになる。そこには寡黙で親切な店員の純一(ARATA)がいた。空気人形はそこで色々なことをひとつひとつ学んでいく……。


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 東京の街の風景がなんだか外国の景色のように見えた。町のレンタルビデオ屋や、安アパートや、そして高層マンションが向こう岸に見える川沿いの公園も、東京なのによその土地のようだった。それもそのはず、撮影がリー・ピンビンだったのだ。この人は、「花様年華」(監督:ウォン・カーウァイ)や「夏至」(トライ・アン・ユン)を撮影した人である。人形が心を持つという非現実的なストーリーにはぴったりな風景だった。

 ペ・ドゥナはほとんど完璧な日本語を話すのだが、ほんの少し韓国訛りが混じっていた。それが人間離れした作り物のようなペ・ドゥナの容姿に似合っていた。


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  ARATAとペ・ドゥナ

 他の登場人物もそれぞれにおもしろかった。ARATAは、なにを考えているのかわからない、寂しげな優しい男を好演していたし、元教師の老人高橋昌也や変な未亡人富司純子も上手かったし、板井創路もそれなりにいい演技をしていた。それに、とうの立った受付嬢、余貴美子はさすがだった。この人はどの役を見てもそれにはまり込んで演じることができる、すばらしい役者だと思う。
 私が一番好きだったのは、オダギリジョーの人形師だ。空気人形が、自分の出所を求めてたどりついた人形工場の主で、彼は空気人形に「おかえり」といってやるのだった。あまりセリフは多くなかったが、出てくるだけで素敵だった。

 ストーリーの最後は、ちょっと予想外の出来事が起こる。空気人形がとてもかわいそうだった。最後の場所があそこでよかったのだろうか。もっといい場所がなかったのかと思わずにいられなかった。

 原作がコミックなのでストーリーに深みがなかったが、人間の寂しさや、ダメな部分や、弱さを上手く描いていて、おもしろい話だったかもしれない。

監督:是枝裕和    撮影:リー・ピンビン   原作:短編コミック「ゴーダ哲学堂空気人形」
出演:ペ・ドゥナ、 ARATA、 板尾創路、 高橋昌也、 余貴美子、 富士純子、 オダギリジョー
2009年 日本

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ゼロの焦点 [日本&アジア映画]

 「ゼロの焦点」は、昨年12月にみたのだが、レビューが今になってしまった。久々にみた邦画としては、かなり出来がよく、面白い作品だったと思う。特に、街中のセットが時代の雰囲気をよく映し出していて、すばらしかった。これは韓国でロケされたものだそうだ。

 この映画は、日本ミステリー会を牽引してきた第一人者松本清張の、生誕100年を記念した作品である。今までも、1961年に松竹で映画化されている。また何度かテレビドラマ化もされている名作である。


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 見合い結婚で夫・憲一(西島秀俊)と結婚した禎子(広末涼子)。しかし結婚式から七日後に、夫は仕事の引継で勤務地だった金沢に出かけ、そのまま行方不明となる。夫の過去をほとんど知らない禎子は、憲一の足跡をたどって金沢へ。憲一のかつての得意先の社長夫人・室田佐知子(中谷美紀)、そして社長のコネで入社し受付嬢をしている田沼久子(木村多江)。2人の女性との出会いが事件のさらなる謎を呼ぶ。夫には自分の知らない別の顔があったのだ。やがて新たな殺人事件が起きる。(Goo映画より)


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 広末涼子の結婚式のシーンは、とても初々しくきれいだった。しかしドラマは急展開を見せ、謎が謎を呼ぶつくりになっている。一体だれが殺人事件の犯人なのか、それを推理する楽しみとともに、その殺人事件を起こした犯人の過去が、もうひとつの壮大なドラマとして、みるものの胸に迫ってくる。なぜ夫(西島)は妻(広末)の知らない別の顔をもっていたのか、そして真犯人はどうして人を殺さなければならなかったのか。そこには、戦争の犠牲になった女性達の悲しい過去があった。


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 単なる推理ドラマとしてだけでなく、それを裏付けるもう一つのドラマがよく描かれていた。主演の広末涼子は、その持ち味の初々しさをよく表現していたし、木村多江も薄幸の女性を好演。また中谷美紀は、激しい気性の魅力的な女性室田佐知子のはまり役といってもいいくらいの体当たり演技であった。

 戦後の日本にはこんなに悲しい出来事がたくさんあった。松本清張作品の多くは日本の暗い過去と切り離して語ることがでない。現代はまた違った意味で、暗い時代に突入しているかもしれないが、昔の貧しい時代のほうが、少なくとも「情」というものがあったように思う。

 脇役の男性陣の演技もすばらしく、映画のストーリーもおもしろいので、お薦めの一作品である。

監督:犬童一心    原作:松本清張    出演:広末涼子、 中谷美紀、 木村多江、 西島秀俊、
鹿賀丈史、 杉本哲太
2009年  日本

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ディア・ドクター [日本&アジア映画]

 「鶴瓶」といえば関西で昔、アフロヘアでおもしろいTV番組をやっていたのを思い出す。人気が出て落語家よりタレント稼業が忙しくなった。鶴瓶の師匠は松福亭松鶴(しょうふくていしょかく)」という、関西では大物の落語家で、この人の落語は味があっておもしろかった。この松鶴が鶴瓶の才能を見抜いて、落語家の枠を超えて活躍することを認めたのだった。
 彼は結構色々な映画に出演しているが、私は鶴瓶を俳優として見たことはなかった。しかし今回「ディア・ドクター」を見て、俳優としてもなかなかすばらしい人だと思った。

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 山あいの小さな村。数年前、長らく無医村だったこの地に着任して以来、村人から絶大な信頼を寄せられている医師、伊野治(笑福亭鶴瓶)。そんな彼のもとに、東京の医大を卒業した青年・相馬(瑛太)が研修医としてやって来る。最初はへき地の厳しい現実に戸惑い、困惑する相馬だったが、村の人々に親身になって献身的に接する伊野の姿に次第に共感を覚え、日々の生活にも充実感を抱き始めていく。そんなある日、一人暮らしの未亡人かづ子(八千草薫)を診療することになった伊野。病気のことを都会で医師をしている娘に知られたくないからと、かづ子から一緒に嘘をついてほしいと頼まれる。しかし、それを引き受けたばかりに、伊野は次第に追い込まれていくことになり…。

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 西川美和監督の映画は、前作の「ゆれる」も見たが、風景が美しいのが特徴的だ。しかし「ゆれる」の場合はストーリーがかなり複雑で、人間の心の闇を垣間見せていた。見ていたときはオダジョーがいいと思っていたのだが、今、目に浮かぶのは香川照之の、なんともいえない不思議な人物像を描き出す演技かもしれない。

 今作は鶴瓶と八千草薫がよかった。二人とも演技がすごく自然だった。患者と医者という関係を越えて、二人の気持ちの間には通じ合うものがあったと思う。伊野(鶴瓶)がかづ子(八千草薫)に接するとき、ある必死さが表現されていた。それで伊野はかづ子に惚れているんだなと思った。かづ子も伊野を頼りにしていた。だからこそ、映画のラストの場面が活きてきたのだと思う。


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 他の俳優もうまい人ばかりそろえていて、それぞれの役を見事にこなしていた。西川さんのキャスティングはすばらしいと思った。

 これから西川さんはどんな作品を創っていくのだろうか。楽しみである。近頃、小説も出されたとのこと、それも読んでみたいものである。

原作・脚本・監督:西川美和    出演:笑福亭鶴瓶、 八千草薫、  瑛太、 余 貴美子、 香川照之、
井川遥、 中村勘三郎、 笹野高史 etc.
2009年 日本

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レッドクリフPartⅡ [日本&アジア映画]

 先日見た「レッドクリフPartⅡ」は予想以上の面白さだった。まったく時間が気にならず、2時間24分があっという間だった。「PartⅠ」をテレビで見て、映像も見事でストーリーもおもしろかったので、ぜひ「PartⅡ」も、と思って行ってみたのである。

 なんといっても、キャストが豪華だ。トニー・レオン、金城武、チャン・チェンという、人気実力とも兼ね備えた中堅の俳優を、中心にもってきたのが作品を華やかにした。加えて、リン・チーリンという魅力的な美人を、トニー・レオンの妻としてキャスティングしたのがすばらしい。中国、台湾、香港、日本にはこんなにいい俳優がひしめいているのかと、嬉しくなった。

 西暦208年、魏呉蜀が争う中国・三国時代。諸葛孔明(金城武)の奇策で曹操軍を撤退させた孫権・劉備連合軍だったが、食料不足と疫病のために戦意も尽きようとしていた。そこに、曹操軍の2000隻の戦艦と80万の兵士が逆襲。司令官の周瑜(トニー・レオン)と孔明が作戦を仕掛けようとする中、周瑜の妻・小喬(リン・チーリン)が1人である行動に出るのだった。(シネマトゥデイ)

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 やはりヒーロー周瑜役のトニー・レオンはすばらしかった。冷静で戦略家であり、武将としての勇気もあって、人間としても温かみがある人物を、よく表現していた。また、絶世の美女、妻の小喬を愛する夫としての魅力もちゃんと伝わってきた。こういうアクションものの場合、うまく男女間の情愛を表現できない俳優が多いが、さすがトニー・レオンである。(女性の)胸を打つシーンになっていたと思う。


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 また諸葛孔明を演じた金城武も、物静かな天才軍師としての人物像を魅力的に創りあげていたと思う。アクションシーンこそなかったが、色々な秘策を次々に繰り出すおもしろい人物だった。矢を一斉に放つことが出来る武器を発明し、また一夜にして10万本の矢を調達するアイデアには感心した。それに、周瑜が曹操軍を火攻めにする際、逆風で悩んでいたとき、孔明が東南の風を呼ぶのがおもしろかった。映画の中では、呪術的な能力を使って呼んだのではなく、気候を観察して風が起こる場所を予測したと描かれている。だが、私は孔明はやはり風を「呼んだ」のだと思った。
 今までどちらかというと、イケメンぶりが目立った金城武だったが、この役は金城武の新しい魅力を発掘したといってもいいような気がする。


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 もうひとりの注目俳優は、チャン・チェンである。彼は孫権という若き君主を演じた。臣下から曹操への降伏を提案されるが、父と兄の遺志を継ぎ、周瑜、孔明とともに戦うことを決意し自ら戦地へとおもむくのであった。
 私がチャン・チェンに初めて出会ったのは、ウォン・カーウァイの「若き仕立屋の恋」(2004年)という映画だった。チャン・チェンは高級娼婦に惚れてしまう若い仕立屋を演じていて、その寡黙な純情さが好きだった。


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 それから、周瑜の妻、小喬を演じたリン・チーリンもとてもよかった。やさしさの中に心の強さを持っている女性で、大変魅力的だった。日本人に居そうでなかなか居ないタイプの女優である。

 この映画は5カ国が協力して製作した作品だが、やはりいい大作が出来るのだなと思った。これからも、アジアの各国が協力して面白い大作映画をどんどん創って欲しいものだ。

 この映画の最初に、ジョン・ウーからのメッセージが字幕で、「親愛なる日本の皆様」という呼びかけとともに流れるのだが、これには感動した。「Imagine Future(未来に勇気を!)」 というメッセージだ。なにかと大変な時世だが、
たとえ映画の時間だけでも、嫌なことを忘れられるのはすばらしいことではないだろうか。
  

監督:ジョン・ウー  キャスト:トニー・レオン、 金城武、 チャン・ファン・イー、 チャン・チェン、 中村獅童、 
リン・チーリン、 ヴィッキー・チャオetc.
2009年 アメリカ、中国、日本、台湾、韓国

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