SSブログ
日本&アジア映画 ブログトップ
前の10件 | 次の10件

アキレスと亀 [日本&アジア映画]

 北野武監督の映画は、まったく見たことがなかった。なんとなくバイオレンスや荒唐無稽な作品というイメージがあって、映画館に足が向かなかった。でも、本作は夫婦愛を描いたヒューマン・ドラマということなので、見に行くことにした。

 倉持真知寿(くらもち まちす:吉岡澪皇)は、裕福な家庭に生まれ、幼いときから学校の授業中でも線路の上でもどこでも誰にも邪魔されることなく、好きな絵を描いて過ごしていた。そして、社長である父親のとりまきの画家にほめられ、画家になろうという夢を抱き続ける少年だった。しかし、父親(中尾彬)の会社が突然倒産し、さらに両親が相次いで自殺するという憂き目にあう。真知寿の環境は激変し、田舎の芸術に無理解な叔父(大杉漣)のもとに預けられ、辛く悲しい時をしばらくすごした後、施設に預けられる。彼にとっては画家になるという信念だけが、生きる支えだった。
 しかし、成人してからも絵はまったく売れず、アルバイトをしながら、絵を描き続ける毎日。だが、真知寿にも幸子というよき理解者が現れる。その後二人は結婚し、真知寿は色々な作品に挑戦していくのだった……。

アキレスと亀1.jpg
吉岡澪皇と筒井真理子

 最近よくTVで見かける「たけし」は、穏やかな、いい顔になってきたと思う。毒気が抜けてきたのだろうか。この作品もまさに昔の「たけし」とはちがう、やさしさのある作品だった。

 倉持真知寿の幼少のころを演じた吉岡澪皇君が、とてもけなげでかわいかった。真知寿の幼少の場面はセットがレトロで、バスやパトカーなども一時代昔のものを使っていた。女性の着物の柄も、現代の着物とは違ったセンスがある。こういう大道具小道具を使うことにより、その時代の雰囲気を再現しているのが見所のひとつだ。

 ベテランでクセのある俳優もうまく使っていた。中尾彬(真知寿の父親役)、伊武雅刀(悪徳画商)、大杉漣(真知寿の叔父)が本当にすばらしかった。中尾彬は、このごろバラエティーへの出番が多いので、うまい役者だということを知らなかったが、いい演技だった。他の二人もとてもよかった。こういう人達の存在は貴重なものだと思う。

 女性はあまり活躍していなかったが、樋口可南子、麻生久美子、筒井真理子など、きれいな人をうまい配置で使っていたようだ。

アキレスと亀2.jpg
 樋口可南子とビートたけし

 たけしは、映画の中で出てくる真知寿が描く絵を、ほとんど自分で描いたのだそうだ。ものすごくうまいわけではないが、どことなくユーモラスで味のある絵ばかりだった。色々才能のある人なんだなと思った。

 前半はコメディー色はほとんどないが、後半、真知寿をたけしが演じ始めると、コメディー色が強くなってくる。なんとなくおかしくて、ペーソスある作品として締めくくった。やはりたけしは、一流のコメディアンなのだなと改めて思った。


監督:北野武    出演:ビートたけし、 中尾彬、 伊武雅刀、 大杉漣、 吉岡澪皇、 柳優怜、 筒井真理子、
樋口可南子、  麻生久美子etc.
2008年   日本           ワーナーマイカルシネマズ

nice!(13)  コメント(21)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

ラスト、コーション(色・戒) [日本&アジア映画]

 アン・リーは「ブロークバック・マウンテン」に引き続き、愛の問題作を創りあげた。愛とは一体なんなのだろうか。男女の本当の結びつきとは……。この作品は2007年ヴェネツィア国際映画祭でグランプリ(金獅子賞)と撮影賞(オッゼラ賞)を受賞している。

 1942年の上海は日本軍の占領下にあった。そのときの中国政権のスパイのトップであるイー(トニー・レオン)は、抗日運動を企てる自国民に厳しい弾圧を加えていた。
 香港大学の学生だったワン(タン・ウェイ)は、抗日に燃える演劇仲間たちとイーの暗殺計画に加わっていた。そして彼らは香港のイーの近辺にワンを潜り込ませ、誘惑してイーを殺すという目標にむかって準備していた。ワンはうまくマイ夫人という裕福な女性に化けて、イーの家に出入りすることができるようになった。そしてイーへ一歩近づくのだが、イーは突然上海に帰り計画は頓挫する。失望したワンは上海の親戚の家にもどり、貧しい生活のなかで勉学に励んでいた。しかし、レジスタンス活動を行う組織は、上海に戻っていたワンに再びイーの暗殺計画への協力を求める。ワンはもう一度イーに近づき、彼の愛人になることに成功するが……。

 ある大きな目的のために誘惑したつもりが、女は男の本気の愛に気付く。そして男は、自分のものにした女に次第に心を許し警戒をとき、心から愛するようになる。だが所詮2人は敵同士として、任務を全うしなければならないのだ。

ラスト、コーション1.jpg

 ワンがイーに近づくまでの部分がかなり長くて、少し退屈な感じがした。しかしこの部分を丁寧に描くことによって、後半のストーリーに意味を持たせることができたのだろう。

 話題に上っているスリリングで危険に満ちた禁断の愛の場面だが、アン・リー監督は、はっきりと映像として見せる。「ブロークバック・マウンテン」の時もそうだったように。セリフや雰囲気でごまかすことなく、ここまで見せるというのは、やはり映画は映像で語るべきだという監督の考え方なのだと思う。アン・リー独特の表現で愛というものの激しさ、ほとばしる情熱を描いたのだと思う。それを視覚化したらこういう表現になったということなのではないだろうか。

ラスト、コーション.jpg

 トニー・レオンはアン・リーから、辛いほどの演技指導を受けたそうだ。彼の母国語は北京語ではないので、完璧な北京語を話すように言われた。トニーは今までどちらかというと柔らかい役が多かったが、今回は強い男のイメージ、軍人の動作、作法、声の出し方などの指示があったということだ。彼ほどのベテランでも、今までとまったく違う役に取り組むときは、非常に苦労するのだということがよくわかった。

 一方のタン・ウェイは、大学生の化粧っけがなく少女のような女の子から、化粧を施し美しいチャイナドレスを着こなす妖艶ともいえる女への変身がみごとだった。彼女は普段Tシャツ、ジーンズ、スニーカーという格好しかしたことがなかったそうだが、アン・リーにいわれて初めてチャイナドレスとハイヒールを身につけた。彼女は当時の上海について、全てアン・リーから教わった。そして本を読んだり、映画、新聞、ドキュメンタリーなどをたくさん見て勉強したということだ。大変な努力家である。

ラスト、コーション2.jpg

 トニー・レオンは最初の軍人の硬いこわばった表情から、だんだんとマイ夫人(タン・ウェイ)を愛するようになるにつれ、表情がやさしくなってくる。非常に色気のある俳優だと思う。だから彼がマイ夫人に「君の事だけを考えていて、部下に『なんだかうわの空ですね。』といわれてしまったよ。」とか、「このレストランの料理はまずいんだ。それで人がいない。だから君とゆっくりはなせるのさ。」などという愛の告白も、少しもおかしくなかった。ほんとうに素敵な男優だと思う。

 この作品でアン・リーが描きたかったのは、戦争によって破壊されるものは、物質的なものだけではない、人間にとって最も大事な「愛」という感情も打ち砕かれるのだ、ということなのだと思った。

 最後にマイ夫人を失ったイー(トニー・レオン)が見せる孤独で寂しげな表情が心に残る。いわゆるビターテイストの、究極のラブストーリーである。


監督:アン・リー           出演:トニー・レオン、 タン・ウェイ、 ワン・リーホン、 
中国/アメリカ  2007年    TOHOシネマズ梅田

nice!(13)  コメント(24)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

母べえ [日本&アジア映画]

監督:山田洋次    出演:吉永小百合、 浅野忠信、 壇れい、 坂東三津五郎、 志田未来
2007年 日本  スクリーン

 人間とはなんとおろかな存在なのだろう。今までの戦争体験によって、これだけ戦争というものの残酷さ、悲劇を学んでおきながら、今でも世界中で戦争が絶えることがない。一体人間とはなんなのだろう。なぜ人間は戦争をするのだろう。

 これは黒澤監督のスクリプターとして活躍した、野上照子さん原作の自叙伝「父へのレクイエム」を映画化したものだ。戦時中の貧しく困難な時代が良く描かれている。昭和初期の町並みを再現したオープンセットが見所の1つだ。

 昭和15年、日露戦争が激しさを増していたとき、野上家では4人家族が仲良く平凡に暮らしていた。野上家ではユーモアを好む滋(坂東三津五郎)の発案で、おたがいに「~べえ」をつけて呼び合っていた。母佳代(吉永小百合)は「かあべえ」、長女の初子は「初べえ」、次女の照美は「照べえ」、そして父は「とうべえ」だった。しかし、まもなく「とうべえ」ことドイツ文学者の滋が、治安維持法違反で検挙された。佳代はか細い身体に鞭打って、小学校の代用教員の仕事をして、夫の代わりに一家を支えていくのだった。しかし、そんな時、滋の教え子の山崎徹(浅野忠信)が訪ねてくる。彼は夫を尊敬しており、野上家の面倒をなにくれとなくみてくれるのだった。そんな山崎は野上家にとってなくてはならない存在になっていった。しかし戦局は激しさを増すばかりだった。山崎にとって佳代は尊敬する恩師の奥さんという以上の存在になりつつあった。だが、みんなのささやかな幸せもそう長くは続かなかった……。

 吉永小百合演ずる佳代は、見かけは奥ゆかしい女性だが、夫を批判する人に毅然とした態度をとったり、海水浴に行ったときに、カナヅチでおぼれそうになった山崎を素晴らしい泳ぎで助けたり、弱々しいだけの女性のようには見えなかった。実際吉永さんは、泳ぎが得意で性格は男っぽいそうだ。これは本人が言っていたので間違いないだろう。だが役では、やさしく貞淑な母をうまく演じていた。

 その佳代を想う、朴訥な青年野上を浅野忠信が好演。彼を最初に見たのが、大島渚監督の「御法度(ごはっと)」(1999年)という映画だった。かっこいい俳優だなあと思った。今回の役は、かっこよさはまったく影を潜め、どちらかというと不器用で心の優しい青年を演じている。この人は役によって感じが変わる。素晴らしい俳優だと思う。今度の米国アカデミー賞でも、「モンゴル」の主役で外国語映画賞にノミネートされている。これは浅野さんが自分でオーディションを受けて獲得した役なのだそうだ。これからも世界的に活躍できる俳優の一人になっていくだろう。


 浅野忠信と壇れい

 壇れいは「武士の一分」に引き続き、2度目の山田監督との仕事だが、今回はすっきりとした明るい女性の役(佳代の義理の妹)で、良かったと思う。美しい人だ。子役の女の子達もかわいかった。

 戦争はささやかな庶民の幸せを踏みにじり、人間的な感情を枯渇させてしまう。そのことをこの映画はよく伝えていると思う。戦争映画で戦いの場面を主に描いた映画もたくさんあるが、こうして普通の生活を描きながら、こちらの心に訴えかける反戦映画が私は好きだ。例えば黒木和雄の「父と暮せば」やチャップリンの「独裁者」など。

 戦争をおこさないようにするために、また戦争を終わらせるために、私は一体何ができるのか。自分の立場で、自分の場所で考えていきたいと思った。


nice!(9)  コメント(16)  トラックバック(3) 
共通テーマ:映画

もがりの森 [日本&アジア映画]

監督:河瀬直美        キャスト:うだしげき、 尾野真千子
2007年 日本/フランス

 今日BSで「もがりの森」をやっていた。河瀬さんは「萌の朱雀」(1997年)が結構良かったので、これも見たいと思っていた。この作品はカンヌ国際映画祭でカメラドールを受賞している。

 奈良は田舎の田園風景や茶畑が美しい。そこに民家を改築したグループホームがあって、介護スッタフとともに共同生活を送る認知症の老人しげき(うだしげき)がいた。このホームに新しく介護福祉士として、真千子(尾野真千子)がやってくる。しげきは妻を亡くし、真千子は子供を亡くしていた。ある日真千子は、しげきを乗せた車で遠出したときに脱輪事故を起こし、助けを呼びに行った。その間にしげきは車から逃げ出し、田畑をどんどんかき分けて逃げて行き、森の中へと入っていく。真千子はしげきを追いかけて、自分も森の中をさまようことになるが……。

 私は大阪生まれなので、奈良はよく知っているのだが、こんなに奈良の田園風景が美しいとは思わなかった。緑の美しさが圧倒的だった。自分が普段感じている風景とプロが撮影した風景に対する感じ方は違うと思った。

 この映画の主題である「もがり」とは、「敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間、またはその場所」の意味なのだそうだ。この言葉の説明は映画が終わった後に出てくる。なぜ最初に説明をださなかったのだろうか。というのも、この言葉を知らないものにとっては、言葉のイメージとしてなにか「おどろおどろしいもの」を連想してしまうからだ。たとえ初めに言葉の意味を説明しても、映画の内容に影響はないと思ったが。

 河瀬監督はインタビューで、「今回の映画を製作するにあたり、どうしたら遺されるもの、逝ってしまうもののあいだにある結び目のようなあわいを描く物語へ昇華できるだろうと考えました。」といっている。果たして、この映画はそういう死者と生きているものの交流、接点(今はやりのスピリチャルなものではなく)を描くことに成功したのだろうか。
 
 私自身の考え方を言えば、亡くなった人は暗いところに居るわけではなく、安らかなところにいると思っている。これは仏教的な考え方であるのだけれど。だからこの作品の最後がもう少し明るく描かれても良かったように思った。亡くなった人のことは時々忘れたり、時々思い出したりすることで充分なのだと思う。私たちは現実の生活を生きていくことに専念すればよいのではないだろうか。


nice!(12)  コメント(20)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

傷だらけの男たち  [日本&アジア映画]

残暑お見舞い申し上げます。

酷暑が続いておりますが、皆さんお元気ですか。
涼しげな花の写真をお届けします。少しでも涼を感じていただけたら幸いです。

監督:アンドリュー・ラウ、 アラン・マック   出演:トニー・レオン、 金城武、 スー・チー、 シュー・ジンレイ、
チャップマン・トー、 ユエ・ホアetc.
2006年  香港  (梅田OS劇場)

 久しぶりの劇場映画だった。トニー・レオンと金城武の競演なので見たくてたまらなかった。ようやく見れて嬉しい。

 ベテラン刑事のヘイ(トニー・レオン)とポン(金城武)はかつては上司と部下の関係だった。だが、ある事件をきっかけにポンの恋人が自殺、その時からポンの生活は一変、警察を辞職し私立探偵になり、酒びたりで自堕落な日々を送っていた。一方のヘイは億万長者チャウの娘スクツァンと結婚し、キャリアもプライベートも順風満帆だった。そんなある日、チャウが自宅で惨殺される事件が起きる。父の死に不審を抱いたスクツァンは、ポンに捜査を依頼するのだが…。(gooムービーより)

 トニー・レオンは日本のTV番組(英語でしゃべらナイト)に出ていたことがあって、そのときはとっても愛想のいい普通の人という印象だった。でも、映画の中のトニーは、どの作品を見ても、少し暗い表情で哀愁が漂っている。それがなんともいえない色気を感じさせる俳優だと思う。

 対する金城武は、清潔で明るくて本当に素敵な人だ。この人の笑顔を見ると、そばにいてずっとその笑顔を眺めていたい気にさせられる。容姿のせいか、今まではきれいな役が多かったが、今回はアルコール依存症の男の役で少しイメージチェンジしたかなと思った。でもまだまだこの程度のイメチェンでは、金城武の本当の魅力は引き出されていないと思う。もっと個性的な役が与えられたらなあと思った。

 映画のほうは、撮影の仕方が少し変わっている。犯人がスクツァンの父チャウを殺す場面では、デジャブのように、現在の映像と少し前の殺しの場面の映像が重なって見えるようになっていて、おもしろかった。

 ストーリーのほうもおもしろくて、謎解きではないのだが、犯人がわかっていても充分楽しめる展開になっている。最後まで、どうなるのかドキドキしながら見てしまった。

 この映画は『インファナル・アフェア』のアンドリュー・ラウとアラン・マックのチームが創りあげた新作である。原題は「傷城」。つまり“傷ついた街”なのだそうだ。この作品もハリウッド・リメイクが決定しており、レオナルド・ディカプリオが出演するらしい……。ええ~!またですか~。ハリウッドはもうアイデアが枯渇してしまったのかしら。リメイクばかりしているのは、あまりかっこよくないと思う。オリジナルでおもしろいものを創りましょう。『インファナル・アフェア』の時の二の舞にならないように祈るばかりだ。ただし、ディカプリオとジョニー・デップの競演なら見てみたい気がするけど。

 


nice!(7)  コメント(12)  トラックバック(1) 
共通テーマ:映画

花よりもなほ [日本&アジア映画]

監督:是枝裕和         出演:岡田准一、 宮沢りえ、 古田新太、 浅野忠信、 原田芳雄、 國村準、 香川照之、 夏川結衣etc.
2006年 日本   DVD

 仇討ちの話なのであるが、仇討ちをしない話なのである。そこが、私は好きだ。

 時代は元禄15年、信州松本の田舎侍、青木宗左衛門(岡田准一)は、父の仇討ちのために江戸に出て来た。宗左衛門は貧乏長屋で、生活のため寺子屋を開きながら、仇である金沢十兵衛を捜していた。しかし十兵衛は一向に見つけられず、いまだ使命を果たせずにいた。ところがこの宗左、武士とは名ばかりで、剣術はまったくだめだった。

 この青木宗左衛門をV6の岡田准一が演じているのだが、それがなかなかよかったのだ。そして宗左がほれるのが、向かいに住む子持ちの美しい未亡人、おさえで宮沢りえが演じている。このところ、宮沢りえは映画もコマーシャルも和風が多いが、相変わらず美しい人である。りえちゃんは、女優をやめないで本当に良かったと思う。これからもますます楽しみな人である。

 そうこうしているうちに、宗左はとうとう、仇である金沢十兵衛(浅野忠信)を見つけ出す。宗左は、十兵衛が普段は妻と子を大事にする一家庭人であることを知る。宗左はその後何度も、果し合いを申し込もうとするが……。

 この映画は脇役が大変豪華である。浅野忠信、原田芳雄、香川照之、國村準などの芸達者をそろえている。時代背景的には、赤穂浪士が、切腹させられた浅野内匠頭の仇を討つために、吉良上野介の屋敷に討ち入りを果たしたときであった。世間は赤穂浪士をあぱっれとたたえ、彼らの切腹を心から悲しんでいた。しかし、貧乏長屋の連中にとって、この討ち入りは「隠居した老人を、大勢でよってたかって殺した。」という解釈だった。この客観的で冷静な考え方には驚いた。
 
 映画では、日本人の「潔さ」というものがよく描かれると思う。映画的には、赤穂浪士の討ち入りのほうが、かっこいいし、絵になると思う。敵討ちをするつもりが、人間的なやさしさが邪魔をして敵討ちを断念してしまうのは、かっこ悪いように思える。だが、人の命を、そしてその人を愛する家族を見殺しにするのこそ、本当はかっこ悪いことなのだ。

 強烈なメッセージ性などはないのだが、貧乏長屋の人々が助け合って楽しく暮らしている様子や、ユーモラスな出来事の数々が、見る人にやさしさと温かさを与えてくれる。

 最後の岡田准一の笑顔が、特に素敵ないい作品だった。

花よりもなほ 通常版

花よりもなほ 通常版

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2006/11/24
  • メディア: DVD


nice!(9)  コメント(14)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

非情城市 [日本&アジア映画]

監督:ホウ・シャオシェン    出演:トニー・レオン、 シン・シューフェン、
リー・ティエンルー、 チェン・ソンヨン、 カオ・ジエ
1989年  台湾    新開地神戸アートビレッジ
1989年ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞

 トニー・レオンが世界的に有名になった映画である。彼のファンとしては必見だったのだが、なかなか見る機会がなくて、友人に誘われて、神戸でやっと見ることができた。

 少し筋や人間関係が入り組んでいて、また台湾の政治的背景をよく知らないので、判りづらいところはあったが、音楽や台湾の風景が大変美しく、なんともいえないレトロないい雰囲気と懐かしさを感じた。

 映画は1945年の日本敗戦から1949年の国民党政府の樹立までの四年間を背景に、林家の長老・阿禄(季天祿)の四人の息子たちの生き様を描いていく。
 この作品は、長らく政治的タブーだった2・28事件をはじめて描いた映画としても、有名なのだそうだ。日本の敗戦直後の台湾の田舎町「九扮」が舞台である。林家の4人兄弟にからむ人々は、帰国してゆく日本人植民者、大陸から来た抗日派の知識人、大儲けをねらってやって来た上海やくざなどである。
 長男の文雄は、粗野な性格で、台北では顔的存在のやくざである。次男は戦争中出兵していて、行方不明である。三男は解放後、活動家として色々やっているうちに、権力に捕らえられ、拷問されて家に戻ってきたが、発狂してしまう。四男の文清はトニー・レオンが演じているのだが、幼いときから耳が聞こえず、言葉もしゃべれない。しかしおとなしい性格で、写真屋を営んでいる。

 文清(トニー・レオン)は友人で政治活動家の妹 寛美とお互い惹かれあっているが、なかなか結婚をいいだせない。寛美の兄が権力の目を逃れて、山奥で生活しているところに文清は訪ねていく。そこで、兄から妹の気持ちを汲んで結婚してやってくれといわれる。
 そして、文清と寛美は夫婦になる。この2人のなんともスローな恋の描かれ方が、大変純粋で美しく、色々と事件が起こる中で、この映画の清涼剤となっていると思った。

 しかし、物語は平凡には終わらず、長男は出入りしていた賭博場で、喧嘩に巻き込まれて刺されて死んでしまう。それに文清は、何の理由もなく権力によって拘束され、消息がわからなくなってしまう。残された家族は、文清を心配しながらも、いつもの通りの大家族の日常生活を続けていくのだった。

 この映画ですばらしいのは、何気ない日常生活が自然に描かれているところだ。家の中で子供が遊んでいたり、老人がすわっていたり、精神がおかしくなって子供のようになっている三男がいたり、食事を作ったり食べたり洗濯したり、そんなごく日常的な生活が淡々と描かれている。この作品には強烈なメッセージ性はない。「生きている」ということに、幸福も悲劇もすでに組み込まれている。普通の生活をしていくことこそ、生きるということなのだ。

 映画の始まりが、昭和天皇の玉音放送であり、最後が美しい台湾の風景の中に流れるゆったりとした台湾の音楽だった。外国人がどんなに他国を支配しようとしても、その文化や愛国心は決して支配できないということを、最後の台湾の音楽が教えてくれたような気がした。

悲情城市

悲情城市

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2003/04/25
  • メディア: DVD


うつせみ [日本&アジア映画]

監督:キム・ギドク     出演:ジェヒ、 イ・スンヨン、 クオン・ヒヨゴ
2004年 韓国/日本   DVD

 「うつせみ」は、ソネブロ以外でも去年のベスト10に選んでいる人が多かった。それにいつもソネブロのkenさんのブログで、キム・ギドク監督作品の紹介を読んでいて、いつか見たいと思っていた。

 まずは、この映画の発想の新鮮さに驚いた。今までこんな映画みたことがない。主役の2人がほとんどセリフをしゃべらないで表情としぐさだけで演技するのだ。それなのに、退屈なところは全然なく、次第に映画に引き込まれていく。

 主役の男優はジェヒ。若くてハンサムでかわいい。彼はまったくセリフをしゃべらない。しかしその自然な演技と魅力的な眼光が観客を惹きつける。
 ジェヒ演ずるテソクは、変わった男だ。住宅街の留守宅を物色して、器用な手つきで鍵を開けて侵入し、住民が戻るまでの間そこで暮らすのだ。彼は風呂場で洗濯し、ベランダに洗濯物を干し、観葉植物に水をやり、台所でおいしそうな料理をつくって食べ、そこの住民の服を着て、ベッドで休む。CDプレイヤーが壊れていたら、修理し音楽を楽しむのだ。

 ある日、テソクはいつものように、ある家に忍び込んだ。そこは大きな家で人の気配がなかった。テソクはその家でくつろぐ。それを物陰からそっと見ていた女性がいた。彼女はこの家の奥様でソナ(イ・スンヨン)だった。美しい人である。彼女は夫から暴力を受け、顔が腫上がっていた。そして2人は出会い、帰ってきた夫を振り切って、バイクで逃避行を続けるのだった。ソナは最初死んだように精気がなかったが、テソクのやさしさに次第にひかれ、心を開いていく。

 テソクとソナは色々な留守宅を転々としながら、そこの住民と心ならずもかかわりを持っていき、二人の心がだんだん寄り添っていくのが丁寧に描かれる。テソクのやさしく魅力的な人柄も追々わかってくる。

 しかし、彼らはあることがきっかけで、テソクは警察に連行されて留置所に入れられ、ソナは帰宅させられる。だから、これは悲劇で終わるのかと思っていた。だが、ここからファンタスティックな世界が広がっていく。非常におもしろい発想である。結局、一番かわいそうなのは、ソナの夫なのかもしれない。

 この映画で、韓国のモダンなマンションや豪華な朝鮮家屋を見ることができる。日本の家と似ているところもあるが、朝鮮家屋のインテリアは本当にすばらしい。映画とは関係がないのだが、韓国のお金持ちの人は、寝具やパジャマは絹のようだ。日本人だったら、お金持ちでも、高級エジプト綿のブランド物のパジャマを着るんじゃないのかなと思ったりした。たぶん、気候の違いなのだろう。

 キム・ギドク監督は、本作で2004年度のヴェネチア映画祭最優秀監督賞に輝き、同年「サマリア」で、ベルリン映画祭最優秀監督賞を獲得するという快挙をなしとげた。これからも、キム・ギドクの作品を続けて見て行こうと思った。

 

うつせみ

うつせみ

  • 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
  • 発売日: 2006/08/25
  • メディア: DVD

nice!(1)  コメント(7)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

ウィンターソング [日本&アジア映画]

監督:ピーター・チャン  出演:金城武、 ジョウ・シュン、 ジャッキー・チュン、 チ・ジニ

 試写会というものにはめったに当選しないのに、珍しく当たったのである。私の好きな俳優、金城武が出演しているのだから、絶対見なきゃ!ということで、次の日の仕事の準備もそこそこに、試写会に駆けつけた。

 映画監督を夢見る貧乏な青年リン・ジェントン(金城武)と女優を夢見る女性スン・ナー(ジョウ・シュン)が北京で出会い、恋に落ちる。しかしその恋愛は突然のスン・ナーの失踪で終わりになる。10年後、リン・ジョントンは俳優として成功、スン・ナーも女優として活躍していた。この2人が映画で共演することになる。しかし、スン・ナーはすでに監督ニエ・ウェン(ジャッキー・チュン)の恋人となっていた。10年前の記憶と愛を取り戻すかのように、2人は厳寒の北京へ向かうが・・・。

 リン・ジョントンとスン・ナーが上海のスタジオで共演するのはミュージカルである。その筋書きは、記憶を無くしてサーカス団のブランコ乗りになった女と、彼女を捜していた男の物語。このミュージカルシーンが非常に華やかである。色とりどりの雨傘が舞うシーンは、「シェルブールの雨傘」のパクリかなと思ったが。ダンスもハリウッドには及ばないがかなりのものである。しかし、私が気になったのは、その色彩感覚である。いわゆる満艦飾。すごくごちゃごちゃしていた。中国の感覚だなと思った。
 建物や町の色彩はレトロな雰囲気でとてもよかったのだが、このミュージカルシーンの色は、私にはちょっと満腹すぎる色彩だった。

 金城武演ずる男リン・ジョントンは、恋人スン・ナー(ジョウ・シュン)に去られてからも、10年もの間彼女をひたすら思い続ける。しかし、スン・ナーは今は監督の恋人になっている。だが2人は思い出をよみがえらせるかのように、北京へ逃避行する。この厳寒の北京の撮影が、とってもすっきりしていてよかった。それもそのはず、北京は撮影がクリストファー・ドイルだったのだ。(恋する惑星、花様年華、HERO,2046、レディ・イン・ザ・ウォーターetc.)
 この映画では北京でのシーンが秀逸だった。ただ、ジョウ・シュンがメイクを落とすと子供みたいな顔になってしまうので、金城武との釣り合いがとれなかったのが残念だ。

 リンとスンは映画の最後のシーンを撮影するために、俳優として再び上海に戻る。そこで女の今の恋人で映画の監督のニエ・ウェン(ジャッキー・チュン)が、自ら映画出演してスン・ナーとの空中ブランコのシーンを撮影する。この人、ジャッキー・チュンは香港の歌手なのだそうだ。ミュージカルで脚光をあびるのは、やはり歌のうまい人だろう。この映画でも金城武とジュウ・シュンを争うのだが、やっぱり歌のうまいほうに分があるのが当然の成り行きだ。

 ピーター・チャンはなぜ、全編をミュージカル仕立てにしたのだろう。ミュージカルは、この劇中劇である上海のシーンだけでよかったのにと思う。
 せっかく金城武を起用しながら、ミュージカル仕立てにしてしまったがために、金城の歌う部分に無理があったように感じた。普通の恋愛映画だったら、金城武の魅力がもっと発揮されて、気持ちを揺さぶられる作品になっていたはずだ。北京での逃避行も、感動が薄められていまひとつ消化不良で終わってしまった。

 この映画で一番得をしたのは、香港の歌手、ジャッキー・チュンではないだろうか。役柄の設定もよかったし、最後の映画を撮るシーンで自分の女に対する気持ちをはっきりと見せ付ける場面があったので、ここで完全に勝負ありという感じだった。

 リン・ジョントンのスン・ナーに対する気持ちの描き方がよくなかった。10年間も思い続けてきたのに、最後にもっとしっかりと女を自分に引きつけなくては。あるいは、2人が別れるにしても、もっと心に沁みるような別れ方があったはずだ。主役の金城武より、ジャッキー・チュンのほうがよく見えてしまう脚本は納得できなかった。辛口のコメントになったが、色々不満の残る作品だった。
 


nice!(3)  コメント(9)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

黒澤明監督の常宿「京の宿 石原」 [日本&アジア映画]

 友達と京都へ泊まりに行ってきた。京都には「片泊まり(かたどまり)」といって、朝食のみの宿泊スタイルがある。このお宿もそうである。
 これは「京の宿 石原」のエントランスである。玄関には黒澤さんの絵がかかげられている。

 お部屋は、お風呂付朝食付きで13650円(税・サ込み)であった。こじんまりとした和室である。お風呂は一般家庭によくある感じのもので少し狭く、トイレは和式だった。その他、洗面台があり、テレビも小さかった。でも、なんとなく感じのいいところだった。それはやはり、女将さんの笑顔が素敵だったからだろう。それに、他に家族風呂もあり、こちらは少し大きめのお風呂場で2~3人で入れる。だからお部屋はお風呂付きでなくていいと思った。それだともう少し安くなる。
 お布団はお宿の人が敷いてくれるし、寝巻きのゆかたも糊が効いていてきもちよかった。

 これは、朝食をとった部屋に置いてあった、黒澤さんの自筆サイン入りの写真集である。
 
 ここの朝食が素晴らしかった。焼き鮭、加茂茄子の田楽、ゴマ豆腐、菊菜の胡麻和え、目玉焼き、蜆のお味噌汁、ご飯、お漬物、お海苔など。どれもこれもとてもいいお味だった。特に蜆のお味噌汁が、しょうががきいていてほんとにおいしかった。

 女将さんに、黒澤監督のことを伺うと、「とてもやさしい、穏やかな人です。」とおっしゃっていた。「お孫さんのお話をなさるときなどは、すごくニコニコして話されましたよ。」とのこと。このお宿でシナリオを執筆なさっていたそうだ。私たちが朝食をいただいたお部屋には、いつも映画関係者がつめかけて、にぎやかだったようだ。
 黒澤さんは、ちまちましたお料理は嫌いで、いわゆる京の会席料理には興味がなかったようだ。おいしい肉をどーんと買い込んできて、みんなですき焼きとか、そういう素材そのものを楽しむ豪快なお料理がお好きだったようだ。監督の性格とも通ずるような気がした。アルバムもみせていただいた。いかにもリラックスした黒澤さんが写っていた。

 素敵な家具があったので、写真を載せておきます。

 今は、小泉監督(「博士の愛した数式」「阿弥陀堂便り」「雨あがる」)が常宿とされているようである。小泉さんも謙虚で素晴らしいお人柄の方らしい。

 友達は、贅沢好きなので宿の設備が気に入らなかったようだが、私は女将さんもご主人もいいかたで、ホテルにはない温かい雰囲気が好きである。また泊まりに来たいと思った。

 次の写真は、夕方夕食をとる前に入った喫茶店である。エントランスの大きな観葉植物が目に付いて入ってみたのだが、壁面に天井までの大きな本棚があって、とてもいい感じの店だった。何時間いても追い出されないような雰囲気だった。 

 カフェ・ビブリオティック  ℡:075-231-0625
                住所: 京都市中京区柳馬場二条せいめいちょう650

 「京の宿 石原」は京都文化博物館のすぐ近くなので、翌日は今公開中の「マリア・テレジアとシェ-ンブルン宮殿展」を見た。なかなか興味深い催しだった。

 もし、ホテルのようになにもかも設備が整っていなくてもいいと思われるなら、一度こんなところに泊まってみるのもおもしろいと思う。親戚のうちへ泊まりに来たようなかんじで、京都で秋の一日を楽しんでみるのもいいかもしれない。

 京の宿 石原   ℡:075-221-5612
            住所: 京都市中京区柳馬場(やなぎのばんば)
                 姉小路上ル(あねやこうじあがる)76


nice!(7)  コメント(12)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画
前の10件 | 次の10件 日本&アジア映画 ブログトップ