SSブログ

2021年度の好きな映画5本

 昨年は、コロナのせいであまり映画館へ足を運ぶことができませんでした。観た本数は少なかったのですが、良い映画がありましたので、5本だけ挙げておきます。


1 MINAMATA(ミナマタ)


m31.jpg


 ジョニー・デップが製作・主演を務めた作品です。水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミス(ジョニー・デップ)とアイリーン・美緒子・スミス(美波)の写真集「MINAMATA」を題材に描いています。キャスティングがよく、出演した俳優たちの総てが、熱のこもったいい演技だった。

 この水俣病の事件を映画にすることで、皆がよりわかりやすく、そして見やすくこの戦いを理解できると感じた。そして人間の温かさや狡さ、親子の愛、男女の心が通じ合う瞬間などを、映像は自然にみせてくれたと思います。

 エンドロールでは、MAN-MADE DISASTERS(人為的な事件)として、世界各地で起こった(起こっている)公害などが一覧表として流された。今も様々な国で色々な人々が苦しみ闘っているのだということを知り、愕然としました。

 今作で、映画の力というものを、改めて感じました。本当にいい映画でした。音楽は坂本龍一さんで、彼は産業公害に強い関心を抱いている方なのだそうです。人の心を癒してくれるような美しい曲です。

原題:MINAMAYA  監督:アンドリュー・レヴィタス  出演:ジョニー・デップ、
真田広之、 美波、 加瀬亮、 浅野忠信、 岩瀬昌子、 青木柚、and ビル・ナイetc.
音楽:坂本龍一
2020年 アメリカ


2 劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き(2021年)


640.jpg


 動物写真家の岩合光昭さんが、まったくのネコの目線で、ミャンマーと北海道の2つの土地を舞台に、ネコたちの家族愛を描きます。

 ミャンマーのインレー湖では、湖上に建つ小さな高床式家屋で暮らすネコの家族とヒトの家族が、一緒に生きる様子を記録。猫って泳ぐんですよ。寝食を共にしていてまさに家族ですね。

 北海道の牧場では、たくさんの母ネコ、オスネコ、子ネコたちが牛舎に暮らしていて、まっすぐに生きる姿を映しています。牛との共同生活で牛のミルクがご馳走。そして色々な猫の性格が浮き彫りになっていて、楽しいです。

 この映画を観て、猫たちの「あるがまま」に生きる姿にとても癒されました。けれども、ミャンマーの家族のことはちょっと心配しています。今、ミャンマーは非常事態ですものね。どうか皆が無事でありますように。まだご覧になっていない猫好きの方、必見ですよ。

原題:劇場版 岩合光昭の世界のネコ歩きーあるがままに、水と大地のネコ家族
監督:岩合光昭  出演:岩合光昭、北海道とミャンマーの猫たちとヒト家族
2021年 日本


3 ブータン 山の教室

 ブータン王国の、ヒマラヤ山脈標高4800メートルにある実在の村ルナナを舞台に、都会から来た若い教師と村の子どもたちの交流を描いたブータン映画です。出演の村人と子どもたちは、ほとんどが地元の人たちです。こんなに爽やかな気持ちにさせてくれる映画があったでしょうか。

 本当に物質的には何もない村。だがそこには、山の精霊を敬い、また子供たちに教育を授けてくれる教師を敬う村人たちがいた。そしてブータンの大自然と純粋な子供たちの笑顔があり、ヤクを慈しみその恩恵を理解し暮らす人々がいる。豊かさとは何かを考えさせられる映画でした。

 今のコロナ禍で疲れ果てた私たちの心にしみいる映画だと思います。「ヤクにささげる歌」を歌うセデュを演じたケルドン・ハモ・グルンは、ブータンのカレッジの学生で音楽家。多くの歌をプロデュースしている人だそうです。彼女の歌声を聴いたら、きっと心が澄み渡っていくような気持になるでしょう。

予告編



 原題:Lunana: A Yak in the Classroom  監督:パオ・チョニン・ドルジ  出演:ぺム・ザムちゃん、 シェラップ・ドルジ、 ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ、 ケルドン・ハモ・グルン、 ルナナ村の住人の方々
2019年製作 ブータン


4 キネマの神様


k1.jpg


 この作品全体を通して、暖かい雰囲気が漂っていました。それは最初、主人公ゴウを演じるはずだった亡き志村けんさんへの、出演者全員の想いであり、山田監督の人柄なのだと思いました。

「映画の神様」を信じ続ける男ゴウ(沢田研二/菅田将暉)の波乱万丈の人生と、彼を取り巻く人々との愛や友情、家族の物語。

 映画は若いころのゴウを菅田将暉、その恋人役を永野芽都、ゴウが憧れる女優を北川景子が演じます。そして、かなり年取ったゴウは沢田研二、奥さんは宮本信子、その娘は寺島しのぶです。この3人がケンカする場面の面白いこと!さすがベテランの上手さは違います。

 映画は、原田マハさんの原作とはかなり違っていて、ファンタスティックな終わり方になっています。日本映画の小津安二郎へのオマージュ的なシーンもありました。山田洋次組の映画です。
 沢田研二、宮本信子、寺島しのぶが特にうまかったです。若い菅田将暉、永野芽都、北川景子は次世代を担う俳優陣で、これからが楽しみです。

題名:キネマの神様  原作:原田マハ「キネマの神様」 監督:山田洋次  出演:沢田研二、 
菅田将暉、 永野芽都、 野田洋次郎、 北川景子、 寺島しのぶ、 宮本信子、 
リリー・フランキー、 小林稔侍etc.
2021年 日本


5 007 ノータイム・トゥ・ダイ 2021


d15.jpg


 6代目ジェームス・ボンドをを15年間、5作演じてきたダニエル・クレイグが、いよいよ見納めとなります。

 ダニエル・クレイグのジェームス・ボンドとこれでお別れかと思うと寂しい気がします。それほど、彼のボンドはカッコよく、不死身の男を体現していました。

 やはり007シリーズはおもしろいですね。色々な要素が入っている玉手箱のような映画ではないでしょうか。風光明媚な風景、カッコいいアクション、最新のスタイリッシュな車、女性との恋の駆け引きなど、ワクワク感と、ストーリーも予想できないような展開で、他の映画ではなかなか見られないほどよくできていると思います。

 ダニエル・クレイグはアクションが得意なので、かなりシリアスな作品になりましたが、意外と女性との恋愛もちゃんと描かれていますよね。そういうところが楽しいです。ただのアクションだけではない、娯楽映画としての面白さです。

 また数年後に新しい007が登場するでしょう。いったい誰が新しいジェームス・ボンドを演じるのでしょうか。私は相当若い人だと期待しています。皆さんは誰が、新ボンドにふさわしいと思いますか。今人気が出てきている若い人か、それとも全くの新人か。色々考えながら楽しみに待ちたいと思っています。

原題:No Time to Die  監督:キャリー・ジョージ・フクナガ(「ビースト・オブ・ノー・ネーション」の日系アメリカ人)
出演:ダニエル・クレイグ、 ラミ・マレック、 レア・セドゥー、 ベン・ウィショー、 
ナオミ・ハリス、 ロリー・キニア、 レイフ・ファインズ、 アナ・デ・アルマス、 
ラシャーナ・リンチetc.
2021年製 アメリカ

nice!(38)  コメント(39) 
共通テーマ:映画

明けましておめでとうございます。

t1.jpg  


皆さまへ

 昨年はお世話になりました。コロナ禍のなか色々大変でしたね。ブログを見ている限り、皆さまそれぞれにうまくこの状況を乗り越えられていたように思います。でも、心情的には色々おありだったかもしれませんね。

 私はやはりコロナの影響を受けてあまり積極的ではなく、映画館に行く回数も減り、旅行は友達が誘ってくれたのですが、行く気になれませんでした。
 私がライフワークとしている子供図書室のボランティア活動も、「大人のためのおはなし会」はいつもは、2月、6月、クリスマスと3回あるのですが、すべてキャンセルになりました。クリスマスは会場を皆できれいに飾り付けて、クリスマスを題材にしたお話を語る(ストーリーテリングをする)のですが、それができなかったのが、大変残念でした。
 子供たちのために、小学校や公共図書館へお話(ストーリーテリング)と絵本の読み聞かせに行くのも、全面的にストップになってしまいました。
 それでも、図書のリーダーの先生(児童文学翻訳家)や、友達で長年大学で児童文学や児童文化を教えていた方が、児童文学に関するレクチャーをしてくださったので、それを聴きに行ったりはしていました。
 そしてようやく私たちの活動も、10月ごろから、ぼちぼち始まってきました。今は、勉強会が中心ですが、来年から公共図書館で「おはなしと絵本」の時間を再開することになり、ホッとしているところです。

 今年はいったいどんな年になるのでしょうか。3回目のワクチン接種で乗り切れるのか心配ですが、感染対策を怠らず、できることをやっていくしかないですね。

 今年も皆さまのブログを楽しみにしております。皆さまにとりまして、幸多きお年となりますよう、お祈りもうしあげます。

                     ココより

P.S.  新年は、2日の夜からブログ再開します。これからもよろしくお願い致します。


nice!(36)  コメント(56) 
共通テーマ:映画

クリスマスソング (2021.12.24) [音楽]

A MERRY CHRISTMAS TO YOU ALL!


_20211224_004750.JPG


ジョン・レノン&ヨーコ・オノ
HAPPY CHRISTMAS (WAR IS OVER)




山下達郎
ラスト・クリスマス




ジャスティン・ビーバー
Mistletoe




DSC_1598.JPG



ジョージ・マイケル
December Song (I Dreamed of Christmas)



マンハッタン・トランスファー
Silent Night, Holy Night



nice!(33)  コメント(33) 
共通テーマ:映画

ディア・エヴァン・ハンセン(Dear Evan Hansen ) [外国映画]

 このミュージカル映画のテーマは「心の病」です。これは数々の賞を受賞したブロードウェイミュージカルを映画化したものです。一昔前のミュージカルだったら、心の病をテーマにしたものは考えられなかったと思います。恋愛や文芸作品やファンタスティックなものがテーマでした。「ディア・エヴァン・ハンセン」は、とても現代的なテーマの作品です。


e10.jpg


 学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいる少年エヴァン(ベン・プラット)は孤独だった。彼は、カウンセラーから自分自身に手紙を書くようにと勧められる。「Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を自分に書いて、自身を見つめなおすのだ。


e2.jpg
  コナー・マーフィー(コントン・ライアン)&エヴァン・ハンセン(ベン・プラット)


 ある日エヴァンは、自分宛てに書いた手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。この手紙は、エヴァンの心の声が書かれた、誰にも見られたくないものだった。コナーは、友人や家族に対して、大声で威喝したり、怒鳴ったりする性質をもっていて、いつも感情が安定しない若者だった。
 エヴァンは手紙を取り返すことができなくて、困っていた。ところが後日、エヴァンは校長から呼び出され、コナーが自ら命を絶った事を知らされる。

 悲しみに暮れるコナーの両親は、息子が持っていたエヴァンの手紙を見つけ、彼とエヴァンが親友だったと思い込む。

e4.jpg
コナーの家族 義父ラリー(ダニ・ピノ)母シンシア(エイミー・アダムス)、妹ゾーイ(エイトリン・デバー)

 エヴァンはコナーの家族をこれ以上苦しめたくなくて、思わず話を合わせてしまう。そして促されるままに語った「想像上のコナーとの思い出」は学校の同級生や先生などの心を打ち勇気を与え、SNSを通じて世界中に広がっていく。


e6.jpg
e9.jpg
 エヴァンの嘘の話に感動して、心の病を抱えた人を助ける色々なプロジェクトを、立ち上げる同級生たち

 思いがけず人気者になったエヴァンは心の底では良くないと思いながらも、コナーの妹ゾーイ(ケイトリン・デバー)とも仲良くなり、充実した学校生活を送るが、思いやりでついた嘘は彼の人生を大きく動かし、やがて事態は思いもよらぬ方向に進む。


e5.jpg
 コナーの妹ゾーイ(ケイトリン・デバー)&エヴァン(ベン・プラット)
(ゾーイはかわいいので、エヴァンは気に入っていたのだが、やはりエヴァンが嘘をついていたのがあだとなって、別れてしまう。まぁ、嘘から出たまこと的なことがあったのですが……。)

 映画化にあたり、主演のエヴァン・ハンセン役を、ミュージカル版と同じくベン・プラットが務めた。劇中曲で唯一ステージ上でライブ演奏された「ユー・ウィル・ビー・ファウンド」の歌唱シーンが収められている。この曲がすばらしいし、ベン・プラットの歌声も本当に美しい。
 これは、エヴァンが多くの学生らが集まる講堂で行われたコナーの追悼式の舞台上で、「ユー・ウィル・ビー・ファウンド」をささやき声で歌い始めるシーン。同曲は、グラミー賞を獲得したミュージカルアルバムの代表曲だ。歌詞にもあるように「どんなに孤独だと感じても、決して見捨てられたわけじゃない」というメッセージを届ける重要な場面となっている。

 今までなら、こういうテーマの作品は普通の映画にしかなりえなかったと思う。しかしミュージカルに仕立てて、セリフの途中で歌いだすのが、少しも不自然ではなかったのが、すごいと思った。

 さて、エヴァンはその後どうなったのか。彼はコナーの両親に気に入られ、大学入学の資金を出すといわれるが、エヴァンの母親でシングルマザーのハイディ(ジュリアン・ムーア)が自分のプライドにかけても、それはできないと断る。
 個人的には、シングルマザーのハイディの気持ちはわかる気がします。自分の息子のことは自分が責任をもって解決してやりたいという思いでしょう。


e3.jpg
    ベン・プラット&エヴァンの母親ハイディ役のジュリアン・ムーア

 それで一時彼ら二家族は、ちょっと嫌なムードになるが、SNSでエヴァンの話が拡散したことによってSNS上に、コナーが診療所のグループワークで静かにギターを弾く動画が誰かから挙げられ、コナーが感情の激しい性格を、何とかしようと努力していたことがわかる。二家族は和解し、事態は良い方向へと向かうのだった。

 この映画がミュージカルではなくて、普通の作品になっていたら、かなり深刻なものになるだろうと思う。それをミュージカルにしたので、歌のお蔭でシビアな作品にはならなかった。観客にとっては観やすいものになっているのではないだろうか。
 そして劇中で歌われる孤独な人々への応援歌「ユー・ウィル・ビー・ファウンド」はとても心にしみる歌詞とメロディーでした。歌の力を感じるいい映画でした。
  
「YOU WILL BE FOUND」

 (歌の埋め込みが遅れてすみませんでした。 ココより)

原題:Dear Evan Hansen  監督:スティーブン・チョボスキー  出演:ベン・プラット、
ケイトリン・デバー、 ジュリアン・ムーア、 エイミー・アダムス、 ダン・ピノ、
コントン・ライアンetc.
2021年製作/アメリカ

  

nice!(21)  コメント(15) 
共通テーマ:映画

007 ノータイム・トゥ・ダイ 2021 [外国映画]

 ようやく日の目をみた「007ノータイム・トゥ・ダイ」ですが、6代目ジェームス・ボンドをを15年間演じてきたダニエル・クレイグが、いよいよ見納めとなります。


d15.jpg
 このポスターの、ジェームス・ボンドの背景にあるロケ地は、イタリア南部バジリカータ州に位置する「マテーラ」で、石器時代から人が暮らす洞窟住居が建ち並ぶ風光明媚な世界遺産の街。もちろん、ボンドはバイクで縦横無尽にこの美しい街を走り回ります。


 前作「スペクター」では、孤児のジェームズと兄弟として育てられた男が黒幕だったことが判明したが、そこに殺人ウィルスを操る新たなる敵サフィン(ラミ・マレック)との因縁も絡みあい、物語の展開は、観客の予想をはるかにこえるものとなる。


d1.jpg


 現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドだが、CIA出身の旧友フィリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が助けを求めにやってきたことから、またもや平穏な日常は終わりを告げ、新たな敵と対決することとなる。


d7.jpg


 ボンドの使命は、誘拐された科学者の救出で、新たな最新技術を有した黒幕を追うことになる。その前に「カジノ・ロワイヤル」でボンドと愛し合ったが、最後に亡くなってしまう恋人ヴェスパー(エヴァ・グリーン)のお墓参りをするシーンが出てくる。こういう感傷的なシーンは、今までになかったが、ここからが007アクションの始まりだった。


d8.jpg


 今回の007の恋人は、マドレーヌ(レア・セドゥー)。彼女は「007 スペクター」で初お目見えした。007の仇敵Mr.ホワイトの娘だが、ボンドに危ういところを助けられる。それから彼女の心には007が住み着いてしまうのだった。

 レア・セドゥ―は、前回はモデルっぽい美しさだったが、今回はかわいい女の子のお母さんとして登場する。ジェームス・ボンドにまたもや危ないところを助けられるのだが、彼女は母親であり、彼の恋人であり、1人の女性であり、その表情も色々な風に変わるのが、とても魅力的だったと思う。

d16.jpg

d17.jpg

d18.jpg


 他のボンド・ガールもこの作品では、添え物的ではなく、大いに活躍していた。この中でも一番目立っていたのが、パロマという役を演じたアナ・デ・アルマス。

d5.jpg
   ジェームス・ボンドとパロマ(アナ・デ・アルマス)

 パロマはジェームスと同じM16に属する諜報部員。イブニングドレス姿で、機関銃をぶっ放すのがとてもカッコよかった。


d13.jpg

            アナ・デ・アルマス

 パロマ役のアナ・デ・アルマス以外にも、ナオミ・ハリスやラシャーナ・リンチなどの女優たちも活躍していた。007に最新の武器を提供したり、コンピューターを駆使してジェームスを手助けする「Q」のベン・ウィショーも健在だった。そして、007のボス「M」のレイフ・ファインズも。

 そして後半に、あのクイーンの映画「ボヘミアン・ラプソディー」でフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックが、殺人ウィルスを操る新たなる敵サフィン役で登場する。


d12.jpg
          サフィン(ラミ・マレック)

 見るからに不気味な人物で、ちょっとゾッとするような役柄だった。フレディ・マーキュリー役とのギャップが大きすぎな感じ。

 そしてマドレーヌ(レア・セドゥ)とその娘が、サフィン(ラミ・マレック)の囚われの身となり、
007がサフィンと対決し、ものすごい戦いが繰り広げられるのだった。007はいったいどうなるのか、そしてマドレーヌと幼い娘の運命は……。ブルーアイを持つ女の子はいったい誰の子なのだろうか。


d14.jpg


 ダニエル・クレイグのジェームス・ボンドとこれでお別れかと思うと寂しい気がします。それほど、彼のボンドはカッコよく、不死身の男を体現していました。

 やはり007シリーズはおもしろいですね。色々な要素が入っている玉手箱のような映画ではないでしょうか。風光明媚な風景、カッコいいアクション、最新のスタイリッシュな車、女性との恋の駆け引きなど、ワクワク感と、ストーリーも予想できないような展開で、他の映画ではなかなか見られないほどよくできていると思います。

 ダニエル・クレイグはアクションが得意なので、かなりシリアスな作品になりましたが、意外と女性との恋愛もちゃんと描かれていますよね。そういうところが楽しいです。ただのアクションだけではない、娯楽映画としての面白さです。

 また数年後に新しい007が登場するでしょう。いったい誰が新しいジェームス・ボンドを演じるのでしょうか。私は相当若い人だと期待しています。皆さんは誰が、新ボンドにふさわしいと思いますか。今人気が出てきている若い人か、それとも全くの新人か。色々考えながら楽しみに待ちたいと思っています。


原題:No Time to Die  監督:キャリー・ジョージ・フクナガ(「ビースト・オブ・ノー・ネーション」の日系アメリカ人)
出演:ダニエル・クレイグ、 ラミ・マレック、 レア・セドゥー、 ベン・ウィショー、 
ナオミ・ハリス、 ロリー・キニア、 レイフ・ファインズ、 アナ・デ・アルマス、 
ラシャーナ・リンチetc.
2021年製 アメリカ




nice!(40)  コメント(66) 
共通テーマ:映画

MINAMATA (ミナマタ) [外国映画]

 ジョニー・デップが製作・主演を務めた作品です。水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」を題材に描いています。

 私はずいぶん前にTVの水俣病のドキュメンタリー番組で、苦しむ人々や動物をの姿を延々と流しているのを観て、みるに忍びない気持ちになりました。

 この作品はジョニー・デップの主演なので、行かないといけない、行きたいという想いから、ある程度覚悟していったのですが、映像がとても美しく、水俣病の人々や動物のシーンはパッパッと瞬間的に映しているので、思っていたよりイヤな感じはしませんでした。


m31.jpg


 1970年代のニューヨーク。かつてアメリカを代表する写真家と称えられたフォト・ジャーナリストのユージン・スミス(ジョニー・デップ)が「LIFE」の編集長ボブ(ビル・ナイ)に、自分の回顧展のオープニング・スピーチで、最高の写真家だとスピーチしてくれと頼んでいる。だが、ボブは断る。というのも、スミスの最盛期は終わり、今はお金もなく、酒に溺れる日々を送っていたからだった。

 そんなある日、日本のカメラマンと通訳のアイリーン[美波(みなみ)]がCM撮影のためユージンのスタジオにやってくる。

 ユージンはアイリーンから、日本の大企業チッソが、熊本県水俣市の海に流す工場排水が原因で、病に苦しんでいる人々を撮影してほしいと頼まれる。


m23.jpg
         アイリーン(美波)とジョニー・デップ

 しかしユージンは第二次世界大戦のとき、沖縄戦の撮影のため来日し、大けがを負ったので、二度と日本には行かないと拒絶する。
 けれどもユージンは、アイリーンが置いていった水俣の写真を見て言葉も出ないくらい驚いた。そして翌日「LIFE」の編集長ボブに水俣の写真を見せ「特集記事」をと迫る。最初はユージンを拒んでいたボブも事の深刻さに気付き、ユージンの申し出を受けるのだった。


m3.jpg
       ビル・ナイとジョニー・デップ

 水俣市に到着したユージンとアイリーンを、松村夫妻(浅野忠信・岩瀬晶子)が自宅で温かく迎えた。


m32.jpg
       浅野忠信、 美波、 ジョニー・デップ

 松村夫妻の長女のアキコも、胎児性水俣病で、夫妻はチッソを訴え出ていたが、チッソ側は「脳性マヒだ」と主張して、何の保証もしていない。松村は胸の内を語ってくれた。でもユージンがアキコの写真を撮りたいと願いでたとき、松村は頭をさげるのみだった。


m27.jpg
    加瀬亮

 次の日、ユージンはチッソ闘争の中心メンバーの一人、キヨシ(加瀬亮)を紹介される。彼の息子シゲル(青木柚)も胎児性水俣病で、手足が不自由だった。しかし、シゲルはユージンのカメラに興味を示し、ユージンから貸してもらったカメラを手に、曲がった指先を駆使して、ユージンや海の風景を撮り始めるのだった。


m20.jpg
         ジョニー・デップ & 青木柚

 チッソ工場の前では、キヨシ(加瀬亮)と一緒に闘争の先頭に立つ山崎(真田広之)が演説していた。彼は同志たちに、「声をあげて世界に訴えよう」と呼びかけるのだった。


m26.jpg
      真田広之

 ユージンはアイリーンの協力で、海岸沿いに写真を現像するための小屋(暗室)を建てる。そして、二人はキヨシ(加瀬亮)とともに、チッソ水俣工場附属病院へ潜入し、水俣病ということで入院している、身体の変形やけいれんに苦しむ人々を撮影。さらに、ラボで動物実験レポートを発見し、チッソが15年前から廃水が水銀中毒を引き起こすと知っていたことを突き止める。


m2.jpg


 あるとき、チッソ工場の前で山崎(真田広之)の演説を取材していたユージンは、会社の職員に強引に社長(國村隼)の所へ連れていかれる。社長はユージンに5万ドルの札束と引き換えに、ネガを渡すように偉そうな態度で迫る。しかし彼は、その申し出を受けることは決してなかった。


m33.jpg
    ジョニー・デップ、 國村隼


 ユージンは買収されそうになったことに怒りが爆発し、自分の暗室小屋で、身を粉にして写真のネガを引き延ばして、水俣病の現実を写真に焼き付ける作業に没頭する。


m15.jpg
暗室での作業に没頭するユージン(ジョニー・デップ)とアイリーン(美波)

 ようやくネガも写真の現像も整い、作品の出来栄えにも確信を持ったユージン。しかしその夜、何者かが暗室小屋に火を放ち、全てのものが焼き尽くされてしまう。


m11.jpg


 ユージンの落胆は大きく、一度は帰国も考えるが、振り返ってみると今やユージンは、水俣の人々の苦しみを自分のこととして感じていたのだった。そのとき、何者かがユージンに封筒を渡しに来て、走り去っていった。封筒の中身は、焼けたはずのネガフィルムだった。

 ユージンは、最初に合った松村夫妻の長女のアキコを被写体とした写真を撮る決心をしていた。その写真は、後の世にも語り継がれる作品になった……。


m34.jpg


 本当にすばらしい映画だった。この映画については、水俣市は後援しないとか、熊本県は後援したとか色々な噂が流れていたので、水俣市で撮影できたのかなと疑問に思っていたところ、ロケ地は水俣ではなくセルビアとモンテネグロに70年代の水俣を再現したとのことだった。理由は、水俣の街そのものが、1970年代以降に大きく変化したためだった。

 このロケ地の映像がとても美しく、日本としか思えなかった。そして、水俣病の人々の映像を見せつけるようなことはせず、ほんの瞬間をつなぎ合わせたような映像を何度か見せただけだった。こういう見せ方は、さすが映画だなと思った。

 キャスティングが最高で、ジョニー・デップのうまさはもちろんのこと、ビル・ナイの編集長もよかったし(ジョニデとビル・ナイは「パイレーツ・オブ・カリビアン」で共演)、闘争のリーダーの真田広之の迫力ある演技、アイリーン役の美波も魅力的だった。その他の俳優たちも、誰もかれもが熱のこもったいい演技だった。

 この水俣病の事件を映画にすることで、皆がよりわかりやすく、そして見やすくこの戦いを理解できると感じました。

 そして人間の温かさや狡さ、親子の愛、男女の心が通じ合う瞬間などを映像は自然にみせてくれたと思います。

 エンドロールでは、MAN-MADE DISASTERS(人為的な事件)として、世界各地で起こった(起こっている)公害などが一覧表として流されます。今も様々な国で色々な人々が苦しみ闘っているのだということを知り、愕然としました。

 今作で、映画の力というものを、改めて感じました。本当にいい映画でした。音楽は坂本龍一さんで、彼は産業公害に強い関心を抱いている方なのだそうです。人の心を癒してくれるような美しい曲です。

(写真は「映画com.」からお借りしました)

原題:MINAMAYA  監督:アンドリュー・レヴィタス  出演:ジョニー・デップ、
真田広之、 美波、 加瀬亮、 浅野忠信、 岩瀬昌子、 青木柚、and ビル・ナイetc.
音楽:坂本龍一
2020年 アメリカ

 

nice!(40)  コメント(65) 
共通テーマ:映画

坂東玉三郎特別舞踏公演感想文(2021.8.24) [演劇]

b2.jpg 
 坂東玉三郎「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」の岩長姫(実はヤマタノオロチ)

 先日、久しぶりに南座で玉三郎の舞踏公演を観ました。「鶴亀(つるかめ)」と「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」でした。

b7.jpg
     坂東玉三郎 女帝

b1.jpg
     女帝と鶴と亀

 「鶴亀」は、能の「鶴亀」の詞章をそのまま長唄に移した舞踏です。歌舞伎の中では祝儀物の代表作です。私は長唄を習っておりますので、耳慣れた曲でしたが、舞台は初めて見ました。

 女帝(玉三郎)にお目にかかれること喜び、万民が喜びの声をあげる中、金銀の砂が敷き詰められた宮中の庭に、鶴(中村歌之助)と亀(中村福之助)が現れる。そして女帝は、鶴と亀に吉例の舞を舞うように命ずる。
 女帝も、唐の玄宗皇帝が夢にみた、月にある月宮殿で天人が舞うという舞を舞い始める。更に、国土安穏・五穀豊穣を願って、めでたく舞い納めた女帝は、廷臣や従者を伴って、長生殿へと戻るのであった。能楽も演奏され、格調高く典雅な舞踏です。

 久しぶりに玉三郎丈の舞台を観ることができ、嬉しく思いました。相変わらずきれいです。ただ、この舞踏は女帝役の踊りはあまり動きがなく上品に、ゆっくりと動くだけだったので、玉三郎さんの踊りを観に来た者としては、ちょっと物足りなかったです。

 次の「日本振袖始」は、近松門左衛門による神代物の作品。私は文楽で観ましたが、歌舞伎は初めてでした。

 出雲の国では、簸(ひ)の川に住みついた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)(玉三郎)に毎年人身御供をさしだしていた。今年は美しい稲田姫(河合雪之丞)が選ばれた。夜も更けたころ、姿を現したのは、大蛇の化身である岩長姫(玉三郎)。彼女は醜く生まれたが、綺麗な女性を人身御供にしていく。(舞台上の玉三郎は美しい。最初の公演チラシ写真参考)女が女の姫を食べるという実に退廃的な作風であるが、これはまあ、神話やおとぎ話のようなものである。

b3.jpg
ヤマタノオロチに変身した岩長姫

b6.jpg
ヤマタノオロチの八つの頭を表現するために、玉三郎さんと分身の役者がそろっているところだが、これは写真なので、交代の役者が入っているため9名になっている。

 ヤマタノオロチの踊りは、オロチが8頭の身体を持っているので、それを表すために玉三郎さんと他の7人の役者が連なって踊るので、迫力があった。

 岩長姫はお供えの好物の酒を飲んで酩酊し、ついに稲田姫をも飲み込む。実は、この酒は、素戔嗚尊(スサノオノミコト)(中村橋之助)が用意した毒酒だった。
 スサノオノミコトは、大蛇に奪われた十握の宝剣と稲田姫を、取り戻すために策を練ったのだ。そしてスサノオと大蛇の一騎打ちが繰り広げられるのであった。

 オロチは、文楽では大蛇の人形だったが、歌舞伎では玉三郎丈と、中村福之助、歌之助、その他の役者で大蛇の分身を演じていた。揃いの衣装、顔の隈取も同じだった。なかなか面白い演出だなと思いました。けれど、顔が隈取で怖いオロチになっているので、玉三郎丈の美しい顔が拝めず、これも残念だった。踊りは申し分なしだったが。幕が引けてから、カーテンコールが二度あった。

 今、玉三郎さんは若手歌舞伎俳優に芸を伝えることに一生懸命取り組んでいる。今回も、芝翫の息子の橋之助、福之助、歌之助と共演した。これまでも、海老蔵、菊之助、壱太郎(かずたろう)などたくさんの若手を指導してきた。
 「芸は自分の肉体が滅んだ時にきえてしまう」ということを自覚して、歌舞伎界のために、年齢と闘いながら、生きている役者なのである。これからも、玉三郎丈を応援していくつもりです。

b5.jpg 
        坂東玉三郎丈


b4.jpg
芝翫の三兄弟[(橋之助、福之助、歌之助)順不同]

 
nice!(38)  コメント(41) 
共通テーマ:映画

キネマの神様 [日本&アジア映画]

 この作品は、原田マハの同名小説を山田洋次監督が映画化。松竹映画の100周年を記念した作品です。私は原田マハさんのファンで、たくさん作品を読んでいます。原作も読みました。とにかく出演者が沢田研二をはじめ、すごく豪華なので役者さんそれぞれの演技も楽しめます。


k1.jpg


 「映画の神様」を信じ続ける男ゴウ(沢田研二/菅田将暉)の人生と、彼を取り巻く人々との愛や友情、家族の物語。

 映画監督を目指し、助監督として撮影現場で働く若きゴウ(菅田将暉)は、仲間で同じ年ごろの映写技師テラシン(野田洋次郎)とともに夢を語らい、撮影所近くの食堂のかわいい淑子(永野芽都)と親しくなり、青春の日々を謳歌していた。


k5.jpg
     左端、菅田将暉、 リリー・フランキー


k3.jpg
      左端、野田洋次郎、 長野芽都、 北川景子、 菅田将暉 


 ゴウは今を時めく女優、桂園子(北川景子)に気に入られ、園子の高級車に乗り込み、仲間で楽しいドライブに出かけたりしていた。


k4.jpg
      菅田将暉、 野田洋次郎、 永野芽都、 北川景子


k6.jpg
           菅田将暉、 北川景子


 しかしゴウは、初監督作「キネマの神様」の撮影初日に転落事故で大きなケガを負い、作品は幻となってしまう。大きな挫折を味わったゴウは夢を追うことを諦めてしまい、撮影所を辞めて田舎へと帰っていった。


k7.jpg
       沢田研二、 寺島しのぶ、 宮本のぶこ

 それからゴウ(沢田研二)は淑子(宮本信子)と結婚するが、彼の人生は転落の一途をたどり、博打と酒浸りの日々が続く。一家は淑子の稼ぎだけで生活し、いつも娘の歩(寺島しのぶ)に文句を言われ、ケンカになるといった、典型的なダメ人間になり果てていたのだった。

 そんな中でも、かつての同僚で今は町の小さな映画館を経営しているテラシン(小林稔侍)だけは、変わらずゴウの味方でいてくれるのだった。

 ゴウが助監督を辞め、田舎に戻ってから約50年がたっていた。そんなある日、かつて自身が手がけた「キネマの神様」の脚本が出てきたことで、ゴウの中で止まっていた夢が再び動き始める。


k2.jpg
         宮本信子   沢田研二

 ゴウは「キネマの神様」の脚本で、再び小規模なコンテストに応募する。そしてそれは最優秀賞を取り、100万円の賞金が手に入るが、ゴウは今まで本当にゴウのことを思ってくれたテラシンに、賞金を贈るのだった。

 しかし、ゴウの愛するテラシンの映画館はまもなく閉館することとなった。その最後の日、ゴウは映画館に駆けつけるが……。

 この作品全体を通して、暖かい雰囲気が漂っていた。それは、最初ゴウを演じるはずだった亡き志村けんさんへの、出演者全員の想いであり、山田監督の人柄なのかなと思った。

 主演の沢田研二は、中年太りしていたが、それがスマートなジュリーよりもゴウというどうしようもない男のイメージに合っていたと思う。沢田研二は、中年になってからは非常に自然な生活をしてるのだと思う。無理をして体形を保つこともなく、知り合いが大阪梅田の小さい中華料理店で、ジュリーをみかけたが、普通の小太りの中年おじさんだったといっていたことがある。

 けれども沢田研二の演技はとてもよかったと思う。奥さん役の宮本信子と娘役の寺島しのぶとのケンカのシーンは3人のうまさが上手にからみあっていた。

 映画は、原田マハさんの原作とはかなり違っていて、ファンタスティックな終わり方になっている。
日本映画の小津安二郎へのオマージュ的なシーンもあった。山田洋次組の映画である。
 もしよかったら、原田マハさんの原作も読んでいただきたい。こちらはかなり現代的な内容の作品で、原田さんの映画の趣味の良さもわかり、この作品とは違った面白さがあるので、お気に入りです。


題名:キネマの神様  原作:原田マハ「キネマの神様」 監督:山田洋次  出演:沢田研二、 
菅田将暉、 永野芽都、 野田洋次郎、 北川景子、 寺島しのぶ、 宮本信子、 
リリー・フランキー、 小林稔侍etc.
2021年 日本



nice!(43)  コメント(63) 
共通テーマ:映画

ブータン 山の教室 [日本&アジア映画]

 ブータンは、国王夫妻が来日されているご様子を、TVで観て知った国である。

 王国の、ヒマラヤ山脈標高4800メートルにある実在の村ルナナを舞台に、都会から来た若い教師と村の子どもたちの交流を描いたブータン映画です。出演の村人と子どもたちは、ほとんどが地元の人たちです。こんなに爽やかな気持ちにさせてくれる映画があったでしょうか。ぜひ、多くの人に見ていただきたい作品です。


b11.jpg
   主演のかわいい女の子、ぺム・ザムちゃん(ルナナ村の住人でしろうと)とヒマラヤ山脈


 ウゲン(シェラップ・ドルジ)は若い教師。彼はオーストラリアへ行くことが決まっていた。ミュージシャンになるのが夢だ。しかしある日、上司から呼び出され、ブータンで最も僻地にあるルナナ村の学校へ赴任するよう言い渡される。ウゲンは全くやる気がなかったが、あと1年間は教職を続けなくてはいけないので、仕方なく村の青年のミチュン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)に案内されて、登山のような険しい山道を登って、1週間以上かけて、ようやく村にたどり着いた。そこには勉強したいという子どもたちが、新しい先生の到着を心待ちにしていた。


b2.jpg


 最初ウゲンは、電気も紙もない土地での生活に戸惑い、現代的な暮らしから完全に切り離されたことを痛感する。持参したスマホも使えず、学校には黒板もなく、あるのは前任の教師がおいていったボロの教科書と、ちびた鉛筆だけだった。
 やっと授業を始めることにしたウゲン。しかし子供たちはノートがないので、ウゲンは自分の小屋に寒さ除けとして貼ってあった紙をはずして、生徒たちにノートとして配る。子供たちは大喜びで、熱心に先生の言葉を、与えられた紙に書くのだった。


b10.jpg


 村長はそんなウゲンを歓迎し、先生として敬う。そしてお酒をすすめて、この村では最高の料理をふるまってくれる。ウゲンをこの村まで案内してくれた青年ミチュンは、村にあるものを駆使して黒板を手作りしてくれるのだった。


b7.jpg
   ミチュン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)とウゲン(シェラップ・ドルジ)

b3.jpg


 最初はここでの生活は自分には無理だ、帰りたいと村長に訴えるようなウゲンだったが、明るく純粋な子供たちの笑顔にだんだんと彼も、子供たちに勉強を教えることの喜びを感じるようになる。


b8.jpg


 そしてこのルナナの人々になくてはならないのが、ヤクという動物だ。ヤクは長い体毛を持つウシ科の動物で、標高の高い寒冷地でしか生きられない。高地牧畜民(ハイランダー)にとって、ヤクはとても大切な動物で、家族であり財産でもある。人々は、ヤクの乳でチーズを作り、正月のようなハレの日には肉を食べ、その毛でテントを織り、その糞は乾燥させて、ストーブなどの着火剤として用いる。なにしろ、紙のない所なので。

 そしてもう一人の重要な登場人物が、セデュ(ケルドン・ハモ・グルン)という女性。彼女が美しい声で歌う「ヤクにささげる歌」は、ルナナの谷と山々に、響き渡るのだった。


b9.jpg


 ウゲンもセデュのこの歌が気に入り、彼女と言葉を交わすようになる。セデュはウゲンに大事なヤクを1頭くれて、ウゲンはその面倒を見て、乾燥したヤクの糞で火をつけることができた。二人の心は次第に近づいていくが、くしくもウゲンの教師としての1年が終わろうとしていた。


b6.jpg


 ウゲンは、セデュに一緒にオーストラリアへ行かないかと誘うが、彼女は「私の生きていくところはここしかない」といって、ウゲンの申し出を断る。ウゲンは村長やミチュン、そして学校で教えた生徒たちに見送られ、村を去る。

 数か月後、ウゲンはオーストラリアのパブで、ギター片手に騒がしい客たちの前で英語のポピュラーソングを歌っていた。各テーブルごとにお酒を飲みながら座って談笑している客たちは、まったくウゲンのほうを向いていなかった。がっかりして演奏の手を止めたその時、ウゲンの心に響いてきたのは、あの「ヤクにささげる歌」なのだった。


b4.jpgb5.jpg


 本当に物質的には何もない村。だがそこには、山の精霊を敬い、また子供たちに教育を授けてくれる教師を敬う村人たちがいた。そしてブータンの大自然と純粋な子供たちの笑顔があり、ヤクを慈しみその恩恵を理解し暮らす人々がいる。

 今のコロナ禍で疲れ果てた私たちの心にしみいる映画だと思う。「ヤクにささげる歌」を歌うセデュを演じたケルドン・ハモ・グルンは、ブータンのカレッジの学生で音楽家。多くの歌をプロデュースしている人だそうだ。彼女の歌声を聴いたら、きっと心が澄み渡っていくような気持になるだろう。

 今、私は色々なものに囲まれて暮らしていて、それなのにまだ新しいもの便利なものが欲しくなる。この映画のルナナ村には何もない。けれども人々は山の精霊を敬い、年上の人を尊敬する。そんな人間の、最も基本的な心の美しさと欲のなさに気持ちがホッとした。都会に暮らす人間にはないものを、ルナナ村の住民は持っていて、彼らの暮らしを豊かなものにしているのかもしれないと思った。

 ブータン出身のパオ・チョニン・ドルジ監督は、本作が初メガホンとなる。この作品は、世界中たくさんの映画祭で上映され、様々な賞を受賞している。


「ブータン山の教室」予告編



原題:Lunana: A Yak in the Classroom  監督:パオ・チョニン・ドルジ  出演:ぺム・ザムちゃん、 シェラップ・ドルジ、 ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ、 ケルドン・ハモ・グルン、 ルナナ村の住人の方々
2019年製作 ブータン



nice!(46)  コメント(74) 
共通テーマ:映画

るろうに剣心 2012年版(地上波) [日本&アジア映画]

 佐藤建の「るろうに剣心 2012年版」を地上波でみました。原作は「少年ジャンプ」に掲載された漫画「るろうに剣心 明治健脚浪譚」で、それを実写映画化したものです。劇場版の1作目です。


r5.jpg


 緋村剣心(佐藤建)は、伝説の「人斬り抜刀斎(ばっとうさい)」と呼ばれていた男だが、明治維新以後「不殺(ころさず))の誓い」をたて、決して人を斬ることのできない「逆刃刀(さかばとう)」を携えて、町から町へ流浪の旅に出る。そして様々な出会いを重ねる中で陰謀に巻き込まれ、大切な人を守るために新たな戦いへと臨む姿を描くアクション・エンタメです。


r2.jpg
左、ピンクの着物姿が薫(武井咲)、右が恵(蒼井優)(アニメの恵に似せたメイクです)。

 明治になって10年、流浪の旅を続ける伝説の男、緋村剣心(佐藤建)は東京で、“人斬り抜刀斎”を名乗る浪人(吉川晃司)が現われ、無差別な人斬りを繰り返していることを知る。

 亡き父の道場を引き継ぐ女剣士・神谷薫(武井咲)は、ある場所で抜刀斎を名乗る浪人の、人切りの現場に居合わせる。そして薫は市井の人を助けるために、1人でその浪人(吉川晃司)に立ち向かい、あわやというところを、通りかかった剣心に助けられる。


r12.jpg


 薫の道場に居候することになった剣心。そこに武田観柳(香川照之)の愛人、恵(蒼井優)が男の屋敷からのがれて、道場へ駆け込んでくる。武田は傲慢、狡猾な男で今は中国からアヘンを輸入しそれで莫大な財産を築いているのだった。恵は武田に耐えられなくなって、道場へと駆け込んできた。

 剣心は道場主の薫と、恵を守る立場となった。しかし武田(香川照之)は、恵が逃げ出したことに腹を立て、つれもどそうと部下を薫の道場を荒らすため差し向けるのだった。

 道場を荒らされた恵の無念を晴らすため、剣心は武田の屋敷に乗り込む。そこには凶暴な部下がせいぞろいし、しかも武田は鉄砲や、機関銃のようなものまで駆使して、剣心を殺そうとする。

 剣心はひらりひらりと身をかわし、ついに武田をやっつけるのだが、初めに出会ったニセ抜刀斉の
鵜盗刃衛(吉川晃司)が出現する。彼は、武田の用心棒だったのだ。こうして、因縁の一騎打ちが幕をあけるのだが……。


r3.jpg


 剣心の佐藤健は、本当にカッコよく、身軽で強い。申し分ない主役だと思った。佐藤健は、監督の大友啓史に、大河ドラマの「龍馬伝」で岡田伊蔵役でキャスティングされて、すごく演技がよかったとのこと。私自身は大河ドラマをあまり観ないので、知りませんでした。大河で、佐藤健と大友監督は出会った。
 「るろうに剣心」はベテランから若い世代まで、たくさんの俳優さんがでていて、いいキャスティングだなと思う。 

 とにかく、悪徳商人武田を演じた香川照之が最高におもしろかった。この人は芝居の虫であり、天才だと思う。そして特筆すべきは、ニセ抜刀斉の鵜盗刃衛を演じた吉川晃司である。非常に迫力があり、すごみがあり、上手い。剣心と鵜盗の一騎打ちのときも、どちらが勝つのかとハラハラさせられた。
 吉川晃司は、ドラマなどにはよく出ているみたいだが、こんなに迫力がある人物を演じるのは観たことがなかった。佐藤健は柔らかさがあるのだが、吉川晃司はその反対で剛の印象。

 ほかに、奥田英二、江口洋介、綾野剛などおなじみの芸達者がでているので面白い作品になっている。

 佐藤健と大友啓史監督は、ジョニー・デップとティム・バートンのタッグのように、これからどんな面白い作品を創っていってくれるかと思うと心がおどります。

 「るろう」の他の作品も観て、それから劇場版「るろうに剣心」を観たいのですが、また宣言が延長されてどうなることやら。

 たくさんの名作がコロナのために埋もれてしまわないように、心から願っています。

原題:「るろうに剣心」 監督:大友啓史  出演:佐藤健、 武井咲、 吉川晃司、 蒼井優、
江口洋介、 綾野剛、 奥田英二etc.
2012年 日本




nice!(45)  コメント(75) 
共通テーマ:映画